北陸の書店

No.74 紀伊國屋書店 福井店(福井県福井市)

Img_1112 さて、福井駅前でもう1軒。おなじみ、紀伊國屋書店だ。和歌山にはなかったけれど、福井にはちゃんとある。もはやこちらのロゴを見ると、親しみさえ感じる。知らない土地でも、このロゴさえ出ていれば大丈夫、というような。ここ福井でも、見掛けたからには素通りするわけにはいくまい。

で、こちら、予想どおり、飛び込みでいってもちゃんと迎えていただきました。
Img_1118 文芸担当の若い山本友里さん。まだ入社して10ヶ月目の初々しい新人。かつてはテレビ局でADをしていたというが、それが合わずに転職をした。
「本を出したり、注文したり、接客したり、そういうことが自分に合っていると思います。いろいろ任せてもらえるし、やりがいがあります」
とのこと。まだフェアとかの経験はないが、
Img_1113 「江國香織さんの『真昼なのに昏い部屋』(講談社)にPOPを書いてつけたら売れて、うれしくて」
と、おっしゃる。それに気をよくして、今は川上弘美さんの「パスタマシーンの悪魔」(マガジンハウス)にPOPをつけて、展開中だ。
こちらのお店らしい売れ筋としたら、現在展開中の、福井県の古絵葉書やポスターのフェア。それに、文庫では門井慶喜さんの「天才たちの値段」(文春文庫)やクリスティの「そして誰もいなくなっ Img_1114 た」(ハヤカワ文庫)を大きく展開中。そのほか高村薫さんの「レディ・ジョーカー」(新潮文庫)や米澤穂信さんの「ボトルネック」(新潮文庫)など、ミステリ系に力を入れているようである。
さて、こちら、文芸売り場に小さいが宮下奈都コーナーもちゃんとあった。さすがだ。
「宮下さんは地元の方なので、係長がコーナーを作りました。私も新聞の切り抜きを貼っておきました」
Img_1110_2 山本さんにも、「スコーレNo.4」祭りの宣伝をする。
「そうなんですか。文庫担当の者に伝えておきますね」
山本さんは真面目な方なので、ちゃんと伝えてくださるでしょう。
ところで、山本さん、生粋の福井県人ではないのだそうな。以前は新潟にいたという。山本さんに、福井県人の県民性を尋ねると、
「しゃきしゃきして、さっぱりしている。それに共働きが多いせいか、女性が強いですね。言いたいことはびしっと言うけど、根に持たない。さばっとしている。だから、気が楽です。雪も新潟に比べると少ないですし、町もこじんImg_1103 まりとしていて住みやすいところだと思います」
すっかり福井に根を下ろした感じの山本さん、これからやってみたいことは、と尋ねると、
「自分で自分の好きな本を飾って、自分でPOPつけて、全部自分発信でフェアをやってみたいです」
そう言って目を輝かせる。その前向きさで続けていけば、そのうちきっといいフェアが組めるに違いない。山本さんの初々しい情熱に触れて、ほのぼのとした気持ちになって、福井営業を終了した。

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No73 勝木書店(福井県福井市)

Img_1099 さて、宮下さんと別れた足で向かったのが、この勝木書店。福井、石川で展開している書店チェーンで、福井の一番店。地元の人には「書店なら勝木書店」という認識が定着している。言ってみれば、うつのみやの福井版、といったところだろうか。やはり外商が充実しており、小・中・高校を中心に周っているそうだ。
確かに、店の中には老舗独特の空気感がある。堅実な、どことなくアカデミックな雰囲気。それは什器とか、木の手すりのある階段とか、建物自体の持つ感じもそうだが、品揃えのためかもしれない。2階で目に付いたのが、ずらりと並ぶ岩波文庫、岩波新書。圧巻だ。書店規模は全部で200坪ないくらいだと思うのだが、この岩波比率の高さは老舗の面目躍如といったところである。

Img_1085 お話を伺ったのは、店舗統括部の書籍バイヤーの木戸恵理子さん。話題書を仕入れたり、お店に配分したり、フェアの取りまとめをする、というのが主な仕事だ。
「福井は車社会なんですが、こちらの店は駅前にあるため、バスを使って来るお年寄りや、夕方以降は通学途中で立ち寄る学生のお客様が多いです」
郊外の支店はやはり大きな駐車場があり、車で来るお客様がほとんどだという。
Img_1091 「福井は教育熱心な県なので、教育本とか子育て本、学習参考書がよく売れます」
こちらの店でも、そのあたりが売れ筋で、3階はまるまる学参、コミック、教育書の売り場。とくに学参は平台で大きく展開している。
「あと、2階の専門書売り場も充実しているので、県庁や市役所の方がよくいらっしゃいます」
専門書。そうか、岩波書店の本が置いてあったのも、そちらのフロImg_1094 アだった。なるほど、全体にアカデミックな感じがするのは、娯楽系の本の比率が少ないからなのかもしれない。文庫・雑誌・文芸書のある1階と、3階の一部にコミックがあるだけなのだ。
さて、木戸さんは入社4年目。学生時代のアルバイトがきっかけで、書店に就職することにした。だが、売り場経験がなく、すぐに本部の仕事だったので、売り場の人と感覚がずれていないか、を常に気にしているという。
「この仕事をやっていて楽しいと思うのは、在庫が少ないけどこれは売れ始めているな、と思って一括で注文を出し、それが予想どおりに売れて追加を掛けよう、と思うときはうれしいですね」
売り場にいればお客様からいろんな情報が入ってくるが、本部にいるので数字がすべて。微妙な動きを見逃さないのが、この仕事の大事なところだ。
「心掛けているのは、ミスをしないように、ということです。性格がもImg_1092 ともは大雑把なので、気をつけないと、とんでもないミスをしてしまうんです(笑)。とくに、本部にいるので、よく電話が掛かってくるのですが、あわてないで話を聞く、ということを気をつけています」
仕事柄、営業マンと接することも多いそうだが、印象に残る営業マンは、と聞くと、
「児童書のフレーベル館の森田さんですね。頻繁に来てくださいます。データを送ると、『前に入れたあの本が売れてますね』と連絡してきてくださったり、『アンパンマン・ミュージアム』に行ってきました、と報告してくださったり。とにかく熱心な方なんです」
Img_1096 勝木書店以外によく行くお店、好きな店は、
「近所にあるポピーという本屋さんです。近所にあるので、昔から行きなれているということもありますし、店の雰囲気が明るいんですね。いつも活気があるんです。そこがいいな、と思います」
若い木戸さん、これから仕事でやってみたいと思うことは?
「今、学参のマニュアルを作っているところなんです。今あるのは情報が古いので、作り直しているんです。この時期はこれ、と仕入れのタイミングがわかるようにしたり、特殊な返品のもの、この時期を過ぎると返品がきかなくなるとかいった注意点を書いています。学参の担当は新人が多いので、手助けになれば、と思って」

Img_1098 お話が終わったあと、売り場を見せていただいた。地元作家ということで、白川静さんのコーナーは大きくとってあった。宮下奈都さんのものも、新刊が出たときは面陳したりするそうだが、その時点では「スコーレNo.4」のコーナーはなかった。
「今、ツイッターで秘密結社の運動が起こっているんですよ」
と私が言うと、
「ええ、知っています。先日、支店の人から電話が掛かってきました」
Img_1097 なるほど、やはり宮下さんの地元。情報は伝わっているらしい。だが、まだ本が入荷されていないのか、コーナーはできていなかった。あるいは、福井県人はシャイなのか、慎重なのか、地元作家だ、ということでわっとお祭り騒ぎをするような感じではないのかもしれない。おそらく状況を見ているのだろう。
「やっぱり、宮下さんの地元だし、『スコーレNO.4』祭り、参加した方がいいんじゃないでしょうか」
Img_1090_2 お節介ながら、木戸さんに言っておきました。木戸さんはにこやかに聞いていらっしゃいましたが、いったい、なんの営業に来たんだろう、と内心、思われたかも。
まあ、いいや。どうせ、おばさんだし。旅の恥はかき捨てだし。それに、よそ者が言った方が印象に残るかもしれないし。
そんなわけで、お節介をやきつつ、福井1軒目を終えた。

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No.72 紀伊國屋書店 金沢大和店

Img_1079 この日は、お昼に福井で宮下奈都さんにお会いする日。昼に福井駅で待ち合わせなので、金沢は10時50分に経つ。なので、朝は書店は周れないと思っていたのだが、やっぱり「心の持ち方」をヒットさせたこちらのお店には行きたい。ぎりぎりのところで予定を変え、この店のある香林房まで行く。
こちら、大和というデパートの中にある。広さは200坪とかそれくらいだろうか。店に入ってやはり目立つのは「心の持ち方」の展開。「こImg_1077 の本が20万部を超えるヒットになったのは、ここ大和香林坊が始まりでしたー。発売から5年、売れ続けてます」というパネルの下にこの本がワゴンで詰まれ「1000冊突破」というポスターが貼られている。
うーむ、素晴らしい。
都心の駅前店とかなら、1000冊突破は珍しいことじゃない。「1Q84」なら2,3日でそれくらい売った店もあるだろう。だが、地方Img_1075 のデパートの中という場所で、知名度のなかったこの商品を売るのは、そんなに簡単なことじゃない。この作品を拾い上げ、丹念に売った書店員はえらいと思う。

飛び込みだったが、幸い、店長の矢野淳一さんにお話を伺うことができた。矢野さんは関西の店から3月にこちらに移ったばかり。そのすでに「心の持ち方」がブレイクしていたが、矢野さんとしてはさImg_1069 らに「POPをつけた展開を推し進めるように」と考え、スタッフにもそう言っているそうだ。前に在籍した店では白石一文さんの「私という運命について」(角川文庫)を、POP展開によって日本一の売り上げを出した。その経験から、POPの力ということを矢野さんは実感したという。こちらの売り場にも、前の店で使っていたPOPを借りてレジ前で「私という運命」を展開していた。POPを作ったのはアルバイトの女性だったらしいが、可愛いイラストつきの大型なもので、とても印象的だ。
Img_1071 そうした店長の方針を受けて、この店独自のPOP展開も始まっている。目だったのは「天地明察」の売り場。本屋大賞発表直後なので、どこの書店でもこれを展開しているが、「天地明察」のディスプレイコンテストがあったとしたら、私の見た書店の中ではこの店がダントツでナンバー1(福島のみなさん、ごめんなさい)。「天地明察」の並びやパネルもいいが、既刊作品のPOPもいい。売り場に冲方丁ファンが絶対、いるだろうという愛にあふれた展開。それImg_1074 に、効いているのは旗。黒地に白抜きで「天地明察」。これがなんともかっこいい。
「あれは、私が作ったんですよ」
と、矢野店長。え、ほんとに?
「パソコンでデザインして、紙で打ち出しました」
そうだったのか。とても素人が作ったようには見えない。すんげえ、かっこいい。こんなふうに飾ってもらったら、きっと作家も嬉しいだろ Img_1072 うな。これは冲方丁本人に届いているのかしら、と思ったりして。いえ、余計なお世話ですね、すみません。

ほかにも、文芸を中心にPOP展開が始まっている。老舗のデパートの中にあって、どちらかといえば保守的な、お堅い雰囲気だっただろうこの店に、少しづつ新風が吹いているような感じがする。そのうちこの店は、「POP展開で有名な店」ということになるかもしれない。時間がなくて駆け足の営業&取材だったが、いいものを見せてもらった。無理に時間を作ってここに来てよかった。そんなふうに、気持ちが上向きになったところで、金沢営業を終了。

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No.71 金沢ビーンズ 明文堂書店 金沢県庁前本店

さて、金沢。思った以上に電車の便が悪い。地方都市はたいていそうなのだろうが、車社会なので、街中よりもむしろ郊外に大型の書店があるという。だが、そこに行くためにはバスを使うしかない。バスもひとつの路線に複数の書店があるわけでなく、あちこちに点在しているので、バスステーションのある駅前までいちいち戻らなければならない。車がないとはなはだ効率が悪い。
ここ、金沢ビーンズは、そのなかでは便利な方だが、基本はやはり車で来るところでした。県庁前といいつつ、県庁から歩くと10分弱。広い通りはあるのだが、周りは桑畑で、県庁とか、病院がぽつん、ぽつんとあるばかり。
だけど、建物をひと目見て、これは遠くから来る甲斐のある店だと思いました。都会ではちょっとお目にかからないデザインの建物。大きくて、なだらかな曲線を描く外壁。斜めに掛かった外階段が白壁のアクセントになっている。看板の形もかわいらしい。
中に入ると、壁も什器も床も白。天井が高く、天井近くには窓もあり、明るく、ゆったりした雰囲気。壁は曲線を描き、それに沿ってかなり高いところにまで本が並べられている。白い移動式の梯子があり、それで上の方の本を探すようになっている。
素敵だ。
まるで海外の図書館のようだが、それでいてインテリアのお洒落な感じが、堅苦しい雰囲気になるのを防いでいる。この建物を見るだけでも楽しい。それに広いので、本の種類も多い。文芸書だけでも、棚何列にもわたって飾られている。フェア台も、面陳になっている本も、ゆったり置かれているので、ひとつひとつ見栄えがする。
空間として楽しい場所だと思う。

さて、飛び込みでしたが、こちらは版元の営業さんからの紹介もあったので、取材OKをいただきました。相手をしてくださったのは、文芸書担当の松林麻耶さん。
「こちら、今年の6月30日で3周年になります。ビーンズという愛称は、公募で選ばれました。建物のデザインが、豆のような形をしている、というところからつけられたものです」
なんだ、角川ビーンズ文庫ゆかりの本屋かと思ったのに、というのは冗談ですが。
「1階が雑誌や文芸書や実用書、2階は専門書、ビジネス書関係、3階が児童書になっています。ですから、フロアごとに客層が違うんですよ」
各フロア、200坪から300坪くらいはあるだろう。1階は女性、2階は男性、3階は子供連れのファミリーや学生が多いのだそうだ。
「2階の専門書関係は、洋書もあって充実しているので、それ目当てに遠くから来るお客様もいらっしゃいます。病院が近いこともあって、看護関係の本がよく動いています。3階はコミックもたくさん売れているのですが、これだけ児童書が充実している店は近隣にないので、それがうちの特徴になっています。ことに大型絵本や紙芝居を置いている店は、ほかにはあまりないと思います」
ほかのフロアは白を基調としたシンプルなイメージだが、3階は子供を意識して、赤や黄色、オレンジなどの暖色系の色を取り入れ、カラフルだ。子供がはだしになって遊べるスペースや、読み聞かせを出来るスペースなどもあって、見るからに楽しいフロアになっている。ここには会議室のスペースもあるので、そこでイベントを開催することもある。店内にあるタリーズコーヒー主催のコーヒー教室が開かれたり、石川県出身のパティシエ辻口博啓さんのケーキ&紅茶つきのトークショーをしたり、地元石川テレビのゆるキャラ、”石川さん”が来て、カルタやゲームをやったりしたこともある。
松林さん担当の1階については、
「基本、オールマイティな品揃えを目指していますが、やはり女性ウケするものが強いと思います。でも、意外なことにホラー系が売れるんですよ。店内、柱がちょこちょこあるので、そこを展示に使うのですが、以前、京極夏彦さんの「厭な小説」(祥伝社)を柱の螺旋に沿って並べたところ、そこだけ異様な雰囲気になりました。場所もちょっと奥まったところにあったので、余計、効果があったみたい。そのせいか、本もよく動きましたよ」
場所が広いだけに、仕掛けるゆとりもある。それを工夫するのが楽しいという松林さん。
さて、そんな松林さんが書店員をしていてよかった思うのは、
「自分でも本を読むのが好きなので、本に触れていられるのは楽しいですね。それに、問い合わせを受けて、『あそこにあります』と、すぐにそちらにご案内すると、お客様がすごい笑顔になってくださったりして。それを見るのは楽しいですね。それに、プレゼントをお探しのお客様に本をご紹介して、それを喜んで買っていただけたりすると、やっててよかった、と思います」
卒業式シーズンに、一人暮らしをする孫のための本を探していたお客様に、実用的な本ではなく、あえて自分が読んでおもしろかった三浦しをんさんの『神去なあなあ日常』(徳間書店)を薦めて喜ばれたことが、最近では印象深い出来事だという。
お客様のほか、営業マンも日常的に接する機会が多いが、印象に残る営業マンは、と聞いてみると、
「版元それぞれやり方が違いますし、ユニークな方も多いですね。以前、編集者の経験がある方だと、この作家はこういう人だとか、この作品にはこういう思いがこめられている、とか、作品の裏話的なことを話してくださるので、楽しいですね。そういう話を伺うと、その本を売りたいと思いますし」
なるほど。営業のやり方は人それぞれ。そういうアピールの仕方もあるんですね。
「それから、皆さん、遠くからやって来られるので、食事のお店を教えてほしい、と尋ねられることも多いですね。金沢だから、という期待もあるみたい。それで、こちらもノリノリで教えたりします。せっかくいらっしゃったのだから、金沢にいい印象を持っていただきたいし」
お話を聞いていると、松林さんと営業さんたちのいい関係が、なんとなく伝わってくる。
さて、最後に松林さんにこれからやってみたいことを尋ねてみた。
「いままでずっと文芸だったのですが、違うジャンルもやってみたいですね。実用とかも、すごく楽しそう。自転車とか、山登りとか、料理とか、お酒とか、フェアにしたら面白そうだと思います」
楽しそうに答えてくださる松林さん。そのうち、できるといいですね。こちらも、楽しい気持ちになりました。

郊外型というと、ベストセラーばかりをそろえた紋切り型の店、というイメージが強いが、ここはまったく違う。大きくて、品揃えがよくて、専門書も充実している。何より空間として楽しい。イベントもあるし、喫茶コーナーもあるから、家族連れでゆったり半日過ごせそうだ。
私の中の「郊外型書店」のイメージを覆すような店だった。こんな店ばっかりだったら郊外に住むのも楽しいけど、東京でも郊外にはこんな店はない(と思う)。これが成り立つのは、やっぱり金沢の文化レベルの高さゆえ、なのだろうか。
少しばかりショックを受けながら、白い本のお城、金沢ビーンズを後にした。

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No.70 うつのみや 柿木畠本店(金沢市広坂)

Img_1034 うつのみや。
うつのみや書店ではない。うつのみやはうつのみや。
たとえば、セロテープが商品名ではなくセロハンテープ全般を指すように、ある時代、金沢ではうつのみやというのが本屋の代名詞だったという。昨年で創業130周年。徳田秋聲、泉鏡花、室生犀星という金沢の誇る三文豪も、ここで立ち読みをした。古都金沢では創業100年以上の60社ほどの老舗が参加する「老舗100年会」という組織があるそうだが、その中で書店としては唯一名前を連ねているのが、このうつのみやなのである。

Img_1035 とまあ、これだけでうつのみやの老舗ぶりがなんとなく伝わってくる。石川県官報販売所と名刺にもうたっており、官公庁との繋がりも深い。当然、外商員も多い。公立の小中高大学、県内の私立大学全部、官公庁、それに個人のお宅にも届けている。派手目のロゴを入れた外商の自動車は、金沢の街中ではおなじみだ。
また、官公庁や企業などでの職場で注文いただいた本には、うつのみやのカバーを必ずつけるという。これは宣伝になると同時に「何を読んでいるか知られたくない」という、お客様のプライバシーに配慮しているからである。

Img_1037 お話をしてくださったのは、うつのみやの営業本部副部長であり、卸事業部の部長でもある渡辺好一さん。渡辺さんも外商を15年経験したという。昔は個人のおたくにお邪魔して、学校にあがるときには学年誌を、高校に入る頃には辞書を奨める、といった細やかな営業をしていた。だから、その家の家族構成とか好みとかも全部、把握していた。だから、自分が結婚するときにお客様にお祝いを戴いたり、入院したときはお見舞いをもらったりしたという。
Img_1036 「いまはそういう売り方はできませんね。個人情報の問題もありますから、たとえば職場でもオフィスの中には入れないようになった。受付で商品を引き渡すだけですからね」
いまでも印象的に覚えているのは、北國新聞社の編集長のこと。月に10万以上も本を買うような読書家で、手帳にはうつのみやの棚の本の名前がびっしり書かれている。それで、「明日これを届けてほしい」と電話が入ったのだそうだ。
渡辺さんが「どうしてその場で本を買わないのですか?」と尋ねると、
「一週間手帳に本の名前を書いておくと、いるかいらないかがわかる。読書を趣味という人がいるが、それはおかしい。読書することは空気を吸うことと同じだ。生きてて、目が開いているなら、人としてすべき行為だ」
と、おっしゃったという。
Img_1038 「そういうことを聞けたのも、外商ならでは、だと思いますねえ」
そういった人との繋がりもさることながら、うつのみやは県内のほかの書店との繋がりも大事にしてきた。それは、終戦後の混乱が落ち着き始めた頃に始まる。石川県も奥能登の方は交通事情も悪く、なかなか本が届かなかった。人々は活字に飢えている。うつのみやの先代が、それではいけない、と地元の雑貨屋などに頼んで本を置かせてもらったという。そこから始まって、後にはそうした地域の本屋のために、トーハンの二次卸をやるようになった。
トーハンの二次卸。
Img_1039 不勉強にして私は初めて耳にした。つまりは、トーハンの代行ということだそうだ。資金がなく、直接、トーハンと取引できない小さな書店に対して、うつのみやが取引関係を結ぶ。そして、トーハンに替わって本を届けたり、集金をしたりといった中継ぎをする、ということなのだ。
「いまは流通事情がよくなったので、商品は東販から直接送られるようになりましたが、集金はいまでもうちが代行しています」
交通事情がよくなったとはいえ、奥能登の先の方まで数万円の集金のために人を派遣していては効率が悪い。うつのみやの外商と協力することで、トーハンとしても助かることになる。一方で辺鄙な場所にあり、売り上げがさほど大きくない書店も、うつのみやと契約することで、流通の保障を得ることになる。

Img_1041 その話を聞いて、納得した。私は昔から地方を旅行するたび「この辺の人たちは、どうやって本を手に入れているのだろう。本屋はあるのだろうか」と考える子供だった(ネット書店の前の時代です、もちろん)。名古屋市内ですら、子供の頃は近所に本屋がなかった。まして辺鄙な山中とかはどうなっているのだろう、と。
だが、「不便な地域にも本を届けよう」という熱意が、そういうやり方を生む。もちろん、うつのみやも仲介手数料を取っているだろうし、それがビジネスとしての利益をもたらしてもいるだろうが、最初にあったのは文化を守ろう、文化を届けようという本屋魂みたいなものだったのではないか。

Img_1044 金沢は文化都市といわれる。前述の三文豪をはじめ、多くの文化人を輩出しているし、小説や芝居の舞台にもなっている。
また、区市町村別書店売場面積上位表(宮脇書店の熊坂さん、資料提供ありがとうございます)その4位に金沢市がきている。大型書店の進出でトップを狙えそうな我が新宿区(全国6位)を上回る成績だ。このリストは人口比などは関係なく、単純に売り場面積の合計。つまり金沢は全国有数の本屋(の売り場面積)の多い町だということなのだ。
Img_1045 加えて金沢市は泉鏡花賞を主催している。ローカルな賞でありながら、これは版元主催の文学賞並の権威がある。そうした文学賞の存在も、文化 レベルの高さを示すバロメーターのひとつ、といえよう。ちなみに、同じ石川県には白川市主催の島清恋愛文学賞もある。こちらも知名度は高い。
こうした文学を愛する風土を形成するのに、うつのみやの果たした役割は小さくないだろう。戦後のもののない時期にも、県の奥地まで本を届けてきた。人々が本を読むことを可能にした。本が文化の中心、書店が地域の文化の拠点だった時代というのは確かにあったし、この店はその一翼を担ってきたのだ。
「うちは古くからのお客様が多く、こちらが何かミスをすると『天下のうつのみやが何をやっている』と怒られます」
それだけ、地元の人々のこの店に対する期待も大きいのだろう。「天下のうつのみや」そうお客は呼ぶし、そう呼ばれることを、うつのみやの人は誇りにもしている。

Img_1043 近年、ネット書店や大型書店の進出で外商も押され気味だが、それでも年に一度、その力が如実にわかることがある。婦人雑誌の年に一度の拡販期、正月号の販売時期のことだ。家計簿などの付録がついて販売拡大を狙うこの時期、かつては「主婦の友」単体を、うつのみやグループで4万冊売ったこともあるという。毎年、それで版元に盛大な慰労会をしてもらったのだそうだ。今年も「すてきな奥さん」や「婦人画報」などをあわせて万単位の冊数を売ったという。なかなかのものだ。本気を出せば、まだまだうつのみやグループの協力体制は強いということだろう。

Img_1040 時代は変わって、本屋の役割も変わりつつある。昔のような商売ではだめだ、と言われている。老舗といえど、名前に胡坐をかいていられないし、新しい商売のやり方をみつけていかなければならないだろう。
しかし、伝統とか歴史とかいうものも、決して馬鹿にならない。ネット書店では決して育てられない何かを、ここうつのみやは育ててきたはずだ。100年以上かかって、この地に根付き、この地の文化に貢献してきた。それを喪うことは、大げさにいえば、地域の文化とか独自性を失うことに等しいのではないか。便利ということが、人の繋がりや、そこから生まれる何かに勝るものなのだろうか。
そんなことを思いながら、この店をあとにした。

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No.69 うつのみや 金沢百番街店(金沢市木の新保町)

Img_1022 さて、ここから北陸の旅。北陸といっても、金沢と福井だけだがな。
金沢はいとこが住んでいるから。福井は宮下奈都さんにお会いするため、というテーマがある。なので、営業半分、旅行半分な気分。
金沢は、最初は駅ビルのうつのみやさんに飛び込み営業。いきなりだったので、店長大田伸一さんがレジに入る直前。それまでの10分弱だったら、ということでお話してくださった。

Img_1030 こちら、金沢駅1階の、百番街というショッピングモールの一角にある。文芸ベストセラーのほか、雑誌、コミック、文庫、実用書が売れ筋。この日は洋書のバーゲンもやっていました。
でも、この店で驚くのは、POPの充実ぶり。誰か絵のうまい書店員さんがいるんですね。コミックタッチのイラストが売り場に飾られている。壁の目立つところにあったのは「魔法のiランド文庫」の告Img_1025 知。キャラを6人ほど描いて、切り抜きで貼ってある。絵もうまいが、描き文字もうまい。こういう書店員さんがいたら、お店は助かるだろう。
「うちはジャンルの担当はないのですが、POPの担当がいるんです。彼女がPOPや帯をいろいろ描いています」
Img_1027 平台で金沢小説を集めた文庫フェアをやっている。そこでも、イラストつきの大きなPOPを発見。恩田陸さんの「ユージニア」のPOPだ。恩田さん自身は金沢出身ではないが、この作品の舞台が金沢なのだ。ほかにも「十津川警部捜査行 北陸事件簿」(西村京太郎・双葉文庫)とか「金沢殺人事件」(内田康夫・講談社文庫)とか。
「金沢では地元の本が売れるんですよ」
と、大田さん。やはり古都金沢、地元愛も強いのだろう。にしても、Img_1026 金沢は殺人事件の舞台になりやすいんだな、と思ってよく見たら「古都・金沢ミステリーフェア」でした。手作りの帯も巻かれている。そういえば、米澤穂信さんの「ボトルネック」もある。舞台が金沢というだけでなく、米澤さん、金沢大学の出身だそうで。なるほど、このフェアの核は「ボトルネック」と「ユージニア」なんだな、と勝手に思いました。
さらに、金沢らしいといえば「心の持ち方」(ジェリー・ミンチントン、Img_1033 ディスカヴァー・トゥエンティワン)というヒットがあるのだそうだ。この書名、私は初耳だったのだが、
「最初、紀伊國屋さんで仕掛けたら動いたんです。それで、これを金沢発の全国的なヒットにしようということで、いくつかの書店が協力してそれぞれの店で展開しました」
それでこの本は金沢から火がついて、全国区になった。こちらの店でも、昨年、500冊売ったそうだ。なるほど、金沢発か。地域の書店で協力して、という話は初めて聞いた。たぶん、地元本ならほかでもあるかもしれないが。ツイッター上に、広島発のヒットを作る運動が広島の書店で始まったという書き込みがあったが、金沢に先例があったんだな、と思いました。

Img_1024 ところで、こちらは場所もいいし、文庫の売り上げは金沢でも1,2位を争う実力店なので、イベントやサイン会も時々、仕掛けるのだそうだ。
「とくに印象に残るのは、室井滋さんのサイン会。『平凡キング~ニャンちゃって漫画』(ネコパブリッシング)の時だったのですが、室井さんはひとりひとりに丁寧に対応されるので、全部で3時間くらい掛かりました」
ほかにも、「食堂かたつむり」(ポプラ社)の小川糸さんが、ほかのお店のサイン会のついでに挨拶に来られて、サイン本を作ってくださったのが記憶に新しいそうだ。

Img_1029 ところで、ベテラン書店員の大田さんに、書店員になってよかったと思うことを聞いてみた。
「毎日、違う情報が入ってくることですね。いろんな作家さんのことを知ることができるし、常になにか新しい発見がある。だから、飽きずに35年やってこられたんだと思います。それに、この仕事、最後まで行き着くということがない。常に追いかけているのがいい。まだまだやるべき仕事がある、というのがいいですね」
常に追いかけている。いい言葉だ。まだまだ飽きない、というのもすごいことだと思う。
Img_1031 しかし、そんな話をしているうちに、そろそろレジの時間だ。最後に、大田さんが書店員としてやり残していることを聞いてみた。
「できれば一度、大きな書店をやってみたいですね。400坪までは経験したことがあるのですが、1000坪を超えるような大型店はやったことがない。もしやったら、どうなるか、楽しみですね。それにスペースが広いと、いろんな仕掛けが出来るんじゃないか、と思います」
と、ベテランながら、まだまだ守りに入っていない。そんな大田さんの力強い言葉を聞いて、1軒目の営業は上り調子な気分で終了した。

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