関東の書店

144.くまざわ書店イトーヨーカドー武蔵小金井店(東京都小金井市)

イトーヨーカドーの三階にある地元のこの店を訪ねようと思ったのは、ここが高村薫さんの「我らが少女A」を大きく扱っている、と聞いたからだ。同じ小金井市を舞台にしたこの本を、「日本一売りたい」と頑張っている書店員がいる。地元民としてこれは応援せねばなるまい。
その書店員は文芸書担当の田村秀美さん。
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「我らが少女A」についてはご存じの方も多いと思うが、事件の舞台となる野川公園や小金井市東町などが、高村薫さんの綿密な取材力と圧倒的な筆力によってリアルに描き出されている。そのため、地元のよさを広めようと活動している人々の心を大いに動かした。物語の舞台になった地図を作ったり、その場所を訪ねるツアーが企画されたりしている。
田村さん自身も小金井のフィルム・コミッションなどの活動に参加していることから、この本をぜひ売りたい、と考えた。地元本と並べて大きくコーナーを作り、市民の作った地図をフリーペーパーとして配った。
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「読んで終りというのでなく、物語の場所を歩くことにつなげられるような告知にしました」
というところが、地元を愛する田村さんらしい。さらに、イトーヨーカドーに掛け合って、入口二か所にパネルを設置したりもした。その甲斐あって、くまざわ書店チェーンとしては日本一この本を売ったという。それほど広いわけではなく、スーパーの中にある店として、これは画期的なことだ。
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「フリーペーパーを持って行く人は多かったですし、『これ、小金井が舞台なんですよね』と、話し掛けてくれるお客さまが多くて、とても嬉しかったです」

その「少女A」と地元本が飾られているのは、店の外側に面した地元コーナー。遠くからでも目立つ場所である。もともとこの店に地元コーナーはなかったのだが、田村さんが提案して昨年末から始めたものだ。大岡昇平が小金井滞在中に執筆した「武蔵野夫人」や写真集「昭和の小金井」といった定番はもちろん、小金井にスタジオがあるスタジオジブリの関連本や、地元NPO法人の代表である著者による「後悔しないための介護ハンドブック」などもある。地元ネットワークの強い田村さんならでは、の選書である。
「ここは常にアップデートし、お客さまに新鮮に感じてもらえるコーナーにするよう心がけています。そうすれば来店されるたびにチェックしていただけますから」
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あるイベントで「地域と映像」という活動をしている佐藤洋輔さんと田村さんが会った時、佐藤さんがこの棚のことを知っていて「めちゃめちゃ感動した」と言ってもらえたそうだ。初対面なのに、棚を通じて田村さんのことを知っていたのである。『書店員は棚を通じて会話する』というが、まさにその通りだ、と思う。

田村さんの担当はほかに新刊・話題の本の棚も担当している。スーパーの中にある本屋なので、お客の主流は家族連れ、もしくは高年齢層。だからいちばん売れるのはテレビで話題の健康本だが、そういう本屋にしてはこの棚のラインナップは渋い。
「各ジャンルで、硬いけどいい本はここに置く、というきまりになっています。それ以外に、これはいいんじゃないか、と私が思う本をほかの棚から移したり、注文して取り寄せたりしています」
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ここがなかなか面白い。経済金融とか歴史とか人文、芸術と棚ごとにざっくりテーマが決まっているが、たとえば芸術の棚。「現代日本のブックデザイン史1996-2020」「バンクシー 壊れかけた世界に愛を」という専門的な本の横に諸星大二郎のコミックが2冊並んでいるし、サイエンスの棚がミニ恐竜フェアになっていたり。
ここは注目のコーナーで、チェックされる常連さんも多い。
「こんな本、売れるの?と思うような硬い本でも、いい本なら売れます」
先ほどの「現代日本のブックデザイン史1996-2020」は4320円もする。それでも面陳で置かれているのは、それでも売れるからだ。平積みになっていた「日本国の正体」なども、置いた途端、売れていったという。
ほかにも、印象に残る売れ方をしたのが、『気づけない毒親』。
「話題になっている本ではないですけど、試しに置いたら売れました。悲しいことですが、こういう需要はあるんですね。そういう本をなるべく目立たせたいと思っています」
平積みになっている「トーシツ・ライフ」もそんな一冊だ。トーシツは糖質ではなく統合失調症のこと。統合失調症の母親を持つ娘の立場から、その病気とのつきあい方を描いたエッセイコミックである。声高に主張はしないけど、切実に求めている人がいる。田村さんはそうした本を探して置きたいと思っている。

ほかにも、書評コーナーが日経と朝日のものだったり、教養、ノンフィクション、政治・経済で縦一列づつ取っていたり、新書と岩波文庫だけで手前から奥までずらっと横一列棚に並んでいたりと、スーパーの中にある庶民的な本屋とは思えない充実ぶり。書店の棚は地域の文化度を測るバロメーターだと私は思っているが、小金井はなかなかのものだ、と嬉しくなった。
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もうひとつ、この本屋で特徴的なのは、児童書のコーナーが充実していること。子どもの数が減っているので、ほとんどの本屋が縮小傾向にあるのだが、ここでは逆に昨年末のリニューアルに伴ってスペースが増えたという。小金井は新築マンションの増加などで子育て世代の人口が増えている。それを反映しているのだろう。売り場は年代別の絵本で棚の横二列全部、雑誌やキャラクターもので横一列、読みもので横一列、それからライトノベルやコミックの棚へと続く。赤ちゃんから高校生くらいまで、どの世代でも対応できる売り場だ。もちろん、参考書なども奥のコーナーに常備されている。
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その量だけでもたいしたものだと思うが、並べ方や飾り付けも工夫されている。天井から旗を下げ、キャラクターの切り抜きが随所に踊る。「おしりたんてい」など、こどもに人気の本がひとめでわかるように面陳されている。児童書だけの週間ベストセラーを紹介したり、「すみっこぐらし」関連本でフェアもやっている。回転棟やパズルブロックLaQのコーナーもあり、実に楽しそうな売り場なのだ。この辺りは児童書担当の鈴木雅子さんの仕事。
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「土日になると、お子さんが常設している椅子を自分で出してきて、棚の前でずらっと並んで本を読んでいるんですよ」
なるほど、ここの売り場なら毎週でも来たくなる。子どもの本離れなどというが、ちゃんと面白い本がそこにあるなら、子どもも興味を示す。
そして、ここに通う子どもは将来きっと本好きになる。こんなにたくさんの楽しい本に触れられるのだから。読書の楽しみ方が自然に身に着くだろうから。
本屋が本好きを育てる、それは確かにある。そして、この店は確実にそれに貢献している。

地元とはいえ、ちょっと外れに住んでいるので、ここに来るのは久しぶり。
ちょっと見ない間に、ますますいい本屋に進化している、と感心した。しかし、本屋がいくら頑張っても、それを必要とする地元民がいなければ成り立たない(売れない本は淘汰されるので、いつのまにかベストセラー中心の棚になってしまいがちだ)。このレベルを維持できるのは、地元の需要があるからだ。
小金井市民、なかなかやるじゃん、と嬉しくなった。
(*注 「少女A」の展開は取材当時のもの。現在は別のフェアが展開されています)                                                                                  (2019年9月24日訪問)

 

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No,143 大盛堂書店

渋谷駅のスクランブル交差点に面し、センター街入口脇にある大盛堂書店。渋谷の町にすっかり溶け込んでいるこのお店、実は1912年創業の老舗である。一時期西武百貨店前に場所を映していたこともあるが、この店は長年渋谷の変遷を見守ってきた。ここ数年でスクランブル交差点が観光名所として定着し、ハロウィンの時は大騒ぎになるし、自撮りをする外国人観光客に会わない時はない。
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そうした場所柄、
「最近は外国人のお客さまが増えましたね」
と、文芸担当の山本亮さん。「韓国や中国のお客さまは、好きな日本人タレントの写真集や雑誌をまとめ買いされたりしますし、ファッション誌もよく売れます。母語で馴染んでいる『どらえもん』や『ポケモン』の漫画(日本語)を、記念に1冊だけ買って行かれる方もいます」欧州系のお客さまには、なぜか「星の王子さま」の評判がいいらしい。それに、「近所の本屋が無くなったから」と、バスや電車でわざわざ来る高齢者の方も目だつようになってきたが、やはり中心は20代、30代。それも、女性の比率が高い店のようだ。
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フロアの構造は、地下1階がコミック売り場、1階は雑誌、2階は文芸と実用書、3階はイベントフロアになっている。売り場の総面積は60坪ほど。決して広いスペースとはいえないので、セレクトされた売り場になっている。
2階に上がると、すぐ正面に話題の新刊。それも、平積みではなく、立てて表紙が見えるように面陳している。階段から上がってくるお客さまの目に飛び込んでくるような配置だ。
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そこには男女問わず人気の池井戸潤「ノーサイド・ゲーム」や東野圭吾「希望の糸」などはもちろん、チョ・ナムジュ「82年生まれ、キム・ジヨン」、レティシア・コロンバニ「三つ編み」、ブレイデイみかこ「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」が並んでいるのがいい。本読みの女性に向けた並びだと思う。
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同じことは壁面のフェアを見ても思う。伊藤朱里著「きみはだれかのどうでもいい人」が、各5冊面陳で3段に並んでいる。この本、まだ一般にはそれほど多くは知られていない。それをあえてフロアでいちばん大きく展開するところに、この書店の気概を感じる。
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「こうした本はお客さまにすぐ響くというものではありません。(手に取りやすい本と比べて)間に1つ2つ挟んでステップアップして読む本だと思います。売れ筋をしっかり売るのは大事なことですが、こういうじわじわ売れる本もちゃんと売っていかないと、これからの時代は難しいと思うんです。量だけじゃない、質も求めていかないと」
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すごくとがっているわけではない。だが、フロアの隅々まで神経が行き届いている。売れ筋と定番と押したい本がバランスよく置かれているし、表紙で見せるか背で置くかも考えられている。ポスターの貼り方ひとつとっても棚の隙間に長く貼ったり、天井からつるして大きく見せたり、と工夫がある。
「あえてとがった感じにはしていません。(それぞれの本を)店の空気になじませる、というか。場所が狭いのでできることは限られるんですが、面陳で横並びにする時には順番に紐付して、たとえ右端と左端が違うジャンルでも、棚の流れを見ればなんとなく統一感があるというようにしたいと思っています」
そして、心掛けていることは、
「押しつけがましくならないように、ということ。昔はPOPに細かいコメントをつけたりしていたのですが、熱量がこもり過ぎても、本や著者の邪魔をするような気がするんです。本の下に手を添えて、支えていくのが僕の仕事かな、と思うんです」
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書店員としてのこだわりが出過ぎると、エゴが出る。本と著者とお客さまと併走して行きたい、と山本さんは言うのだ。
なるほど、以前からこの店は「品がいい」と思っていた。
その印象はどこからくるのか。若草色の什器や本の見せ方のうまさなどもあるが、若い女性にも好まれる選書、そして山本さんをはじめとするフロア担当者の姿勢にもあるだろう、と思った。

 また、この店はイベントが多いことでも知られている。月に3~5回程度開催されるイベントの割くらいは山本さんが仕切っている。ここは大型店ではないので、そのほとんどは版元からの持ち込みではなく、店の独自企画。山本さんは企画を立て、著者や版元に交渉し、告知し、お客さまに対応し、当日は司会も担当する。本業以外にこうした仕事を抱えるのはたいへんではないか、と尋ねると、
「たいへんだと思ったら負けですから。そもそも、著者の方や版元、お客さまに失礼ですし」
と、山本さんは受け流す。
「イベントをすることで、著者の方やお客さまともっと繋がりたい、店頭にもっとスパイスを加えたい」
と思って企画しているのだ 。

山本さんは他店の書店員と繋がることも厭わない。他店の方と組んでフリーペーパーを作ったこともあるし、この店で他書店の書店員とトークイベントをすることもある。927日には丸善ジュンク堂渋谷店と紀伊國屋書店渋谷店の文芸書担当を招き、今年上半期の文芸書ベスト3と下半期の展望について語り合った。
「他書店の人と話をするのは趣味みたいな、井戸端会議的な感じですね。一店舗だけでは煮詰まりますし」
学生時代からアルバイトをしていたので、山本さんは出版のいちばんよかった90年代半ばも知っている。そういう時代は何もしなくても本が売れたし、アルバイトでも(少額だが)ボーナスが出たという。
だが、いまは何か仕掛けないと本が売れない。皮肉にも、こういう時代になって本屋を語る本や雑誌が増えたし、カリスマ書店員という存在もクローズアップされるようになった。
「僕は違いますが、前に出られる書店員は出た方がいい。書店員が何もしなかったら、本の売り上げはもっと下がっている。本屋大賞が押し戻した部分は確実にあると思うんですよ」
自分で本を書いたり、マスコミで語ったりできる書店員は、野球に例えればエース・ピッチャー。
「自分はエースを支えるリリーフ・ピッチャーかな。あとの世代にバトンタッチするのが役割と思っています」
いままでいろんな試みをしたし、実績も上げている。雑誌担当の頃にはアイドル情報を地道にチェックし、その情報を売り場に反映させて売り上げを伸ばし、ある雑誌のある号単体で1700冊ほど売ったこともある。
「仕掛けて売る経験は、できるならした方がいいですね。それが自信になりますから」
文芸書の売れない現在でも、イベントを仕掛けたりすれば単独で200冊越えすることもある。にも関わらず、山本さんは現在の状況について、
「やりたいことはだいたいやりましたから、いまは地ならしをする時期かな、と思っています。棚を見直したり、自分自身の仕事を見直しつつ、インプットする時期じゃないか、と」
あくまで謙虚に、時代の変化がダイレクトに感じられる渋谷の街のど真ん中の店で、山本さんは今日も売り場に立ち続ける。
                                                      (2019年9月23日訪問)

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No.141.山下書店大塚店

山手線大塚駅北口を降りてすぐの場所にこの店はある。24時間営業、コンビニエンスな本屋だ。

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入口のところにはガチャポンや印鑑のケースが見える。入口入ってすぐのところにレジがあるが、レジ前にはガーゼのハンカチ、その手前の柱の周囲にはポテトチップなどのお菓子、そしてアイスクリームのボックスもある。レジ奥の一面は文房具売り場だ。
80坪の店の入り口近く10坪ほどは、本以外の品々であふれている。そこだけ見ていると、お洒落な雑貨屋か何かに迷い込んだようだ。
左手の本売場に続くところにTシャツが。絵柄はボネガット。早川書房の出したオリジナルTシャツだ。ここに至って、本屋としての片鱗が現れる。そこから奥は女性誌売り場、そして実用書、一般書、文芸書と続き、一番奥に文庫やコミック売り場が現れる。いつもの、すっきりした山下書店だ。
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かつては遊興地として栄えた大塚の地域柄、やはり男性客が多い、と店長の出沖慶太さん。それも40代~60代の男性が多い。なので文庫の平台も、「不信の鎖」「危険なビーナス」「ブラッドライン」「炎の放浪者」それに時代小説など、男性客が好みそうなラインナップを目立つところに置いているし、ビジネス書の棚も充実している。実は、コミックの棚もなかなかのものだが、学生が少ないため、売れるのは年齢層が高いものが多いらしい。
特徴的なのは、裏社会的な本、任侠系がよく売れるということ。

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「上野の明正堂や浅草のリブロの売れ方と似ていると思います。下町気質というか、青山のような上品な地域とは全然違いますね」
しかも、どういうネットワークか、それを好む方々は情報をキャッチするのも早い。強面の方が発売日当日に来店されて、
「『稼業』はどこにあるの?」
と、尋ねられたりする。なので、通路脇のちょうど目線の高さのところに、そういったノンフィクション関係を置いている。
そこから、中高年男性に人気の高い「日本国紀」関係などの置かれたコーナー。それに続いて人文科学関係の棚がある。出沖さんがことさら強調された訳ではないが、ここは必見だと思った。
宮下常一や柳田邦夫のインデックスがついている! この規模の店で見るとは思わなかったので、テンションが上がる。そして、平台には「奉納百景」や「月と蛇と縄文人」などの本が手書きPOPつきで目立たせてある。ほかの店では平で置かれているのをあまり見ない本だ。あきらかに、この辺りは書店の主張がある。

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「この棚の担当は?」
と尋ねると、やはり出沖さん自身とのこと。
「売り場の8割くらいはしっかり売れ筋を置きますが、あとの2割くらいは好きなものを置ければ、と思っています。ネットショップで何か本を検索すると、関連本がずらっと出てくるでしょ? そういうリストに出て来ない本を紹介したい。そういう本と出会える、それが、リアル書店のよさだと思うんです」
なるほど、その2割の多くはこの棚に割かれているとみた。
「民俗学の本が多いのは、大学時代に勉強されたのですか?」
と、聞いてみる。あきらかに、民俗学系が好きな人が作った棚だと思ったからだ。
「いえ、民俗学に興味を持ったのは書店員になってから。この本を読んだからなんです」
と、売り場の平台にあった文庫を取り上げる。上原善広著「日本の路地を旅する」。
大宅壮一ノンフィクション賞を取った本なので、私も名前くらいは知っている。路地という言葉が示すように、被差別民の痕跡を辿ったノンフィクションだ。

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「もちろん、エタとか非人という存在は知っていました。でも、それが現代も続いている問題だと意識していなくて、これを読んだ時は衝撃を受けました」
そこから興味を持ち、民俗学関係の本をいろいろ並べている。
平積みになっている「奉納百景」については、
「この版元の駒草出版は、面白い本を出すんですよね。とくに、編集者の杉山茂勲さんが作った本は面白い。私、ファンなんです」
編集者の名前を知ってるというのは、個人的に会ったことがあるんだろうか?
「いえ、営業の人に聞いたんです。杉山はぶっ飛んでいるって」
奥付を見ると、駒草出版の本には担当編集者の名前も書かれている。確かに、ノンフィクション系の本は、題材の選び方も切り口も担当編集者に依るところが大きいので、編集者の個性が出やすい。だけど、そんな風にチェックしてくれる読者がいるというのは驚きだ。自分が編集者だったからわかるが、編集者はあくまで黒子で、表に出ることはよしとされない。読者に気づかれることもほとんどない。だから、杉山さん本人が知っていたら喜ぶだろうと思うが、まだ気づかれてはいないらしい。
そして、そんな風に、一冊の本がその人の興味を広げ、仕事にも影響を与えるというのはとても素敵だ。

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そのきっかけになった「日本の路地を旅する」は、だからこの店では常に平積みになっているが、その横には同じ著者の話題作である「被差別の食卓」や「被差別のグルメ」なども並べてある。
これについても、出沖さんが内容を語ってくれた。曰く、ケンタッキー・フライド・チキンは、元々は黒人奴隷の食べ物から始まった。つまり、白人が食べない手羽先や首などを美味しく食べられるようにするために長時間揚げた、というところから始まっている、ソウル・ミュージックと同様ソウル・フードとは差別された黒人の食を言う……というところから始まって、被差別身特有の食が書かれた本だという。
そんな話を聞くのはとても面白い。さすが書店員だ。本の良さを語らせたら、説得力が違う。
結局、私も「日本の路地を旅する」と「被差別の食卓」を購入することにした。そういう想いで置かれた本だと知ったら、買わないわけにはいかない。
加えて、アイスクリームを買おうかどうかと迷う。本屋でアイスを売ってるのを見たのは初めてだし、話のタネになる。しかし、食べる場所がないし、どうしよう。キャビア味のポテトチップも捨てがたい。だが、カロリー高いしな、などと考えて、結局ハンカチを買うにとどめたけど。可愛いグッズも多いし、本だけでなく、そちらを見るのも楽しい。

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この店を紹介してくださったのは、あおい書店春日店の並木さん。
「並木さんは、本の力だけで売り上げを伸ばすべきと考えていて、僕とはそこで意見が異なるんです」
5年後10年後、本はますます売り上げが落ちるだろう。そうなった時、どうやって生き残るか、それをいまから考えて実行すべきだ、というのが出沖さんの考えだ。実際、店頭に置かれているお菓子やグッズなども、ほかではあまり置いてないもの、ちょっとお洒落なものを選んでいることがわかる。本目当てでなくても、そうしたものを買うためだけに、この店を訪れる人がいてもいいのだ。


「ほかの小売でも、たとえばドン・キホーテのように、とにかくいろんなものを並べてその中から選択する、というタイプの店の方が、すっきりした内装で観葉植物を置いているようなお洒落な店より、売り上げを伸ばしているんです。書店も、そういう店の方がいいんじゃないか、と思うんです」
それは、大塚という土地柄、24時間営業という業態を考えたうえでの出沖さんの選択なのだろう。そして春日という、都内きっての文京地区にあるあおい書店では、また別の選択がある。
それぞれの書店が、それぞれの場所での正解を探して戦っている。
それはとても頼もしい。
生き残ること、それがいちばん大事なことだから。(2019年8月13日訪問)


 

 

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No.140.ときわ書房志津ステーションビル店

この店を紹介してくださったのは、静岡のイベントで知り合った元書店員の方。ときわ書店志津ステーション店の日野剛広店長は、いろいろ面白い仕掛けをしたり、あちこち書店を訪問したり、SNSでもさかんに発信されているとのこと。元書店員の方に「ちょっと遠いですけど、いいお店ですからぜひ行ってみてください」と言われたら、行かないわけにはいかない。幸い、隆文堂の元書店員Uさんもこちらの店を前から見たかった、とおっしゃるので、同行してくださることに。道連れがいれば遠距離も苦にならない。旅は道連れ、です。そして、実は前回の本屋lighthouseは、ほかならぬこちらの日野店長のご紹介。ときわ書房では日野店長の部下にあたる関口竜平さんの、もうひとつの仕事を教えてくださったのだ。その日、本屋lighthouseで我々は閉店まで粘り、その後ときわ書房へ通勤する関口さんに、我々も同行した。

こちらの店、京成本線志津駅に隣接するビルの中にある。京成本線の改札を出てそのまま歩くと本屋に出るが、ビルの中では3階にあたる。1階はパチンコ屋、そして、同じフロアには生鮮食品などを売るスーパーや千葉の名産品を扱う店などもある。外から見ると、本屋が入っているようには見えないビルだ。

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だが、ぱっと本屋のフロアを見れば、気合が入っている本屋であることがすぐわかる。
お客さまが見やすいように、細かくインデックスで仕切られた実用書コーナー。まるまる一冊試し読みできるコミックが集められたコミック売り場のワゴン、さまざまなPOPが並ぶ文芸売り場。地元紹介本も、廊下に面したところに目立つように置かれている。

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廊下との仕切りの壁を使ったフェアコーナーもいい。展示されていたのは「ビールの本集めました。」加えて「ちょっとカレーも……」。夏らしいお酒とカレーの本という親しみやすいフェアだが、左端の方に並ぶのは「自殺会議」のフェアだ。くまざわ書店小金井北口店でも展開されていたが、これは末井昭さんの「自殺会議」観光を記念して、生き抜くための参考書18冊を、末井さん自身が選んだものだ。

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「これは結構売れています。こういう本を必要としている人は確かにいるんですね。とくに夏休み明けはこういうことを考える人も多いかもしれない、と心配なので、ちょっと長くなりますが9月上旬までここに飾っておこうと思うんですよ」
そういうことを考えてくれる本屋はいい本屋だ。以前、ある本屋で「本屋に来るお客さんの中には、悩み事があって、その解決方法を探しにくる人が少なからずいる」
と、聞いたことがある。
確かに、私も読みたい小説を探すだけでなく、悩みごとの解決のヒントを与えてくれるような本を、漠然と探していることも多い。私の場合は、健康のことや子育てのことだったりするが、毎日がつらい、生きていくのがしんどい、と思っているような人は、このコーナーの本が確実に響くだろう。
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そして、そのフェアコーナーの右端には、いま話題の愛知トリエンナーレの表現の不自由展についてコメントが書かれたボードもあった。A3くらいのスペースでは足りずに、もう一枚紙を追加して書かれている。「いつもは、『#最近志津で売れた本』ということで、前の週に売れた本とその解説が書かれているんですけど、今回は大きな事件があったので、書かずにはいられなかったんでしょうね」
と、日野店長は言う。ちなみに、その掲示板にコメントを書いているのは関口さん。文芸書のあちこちに書かれた熱いPOPも関口さんの仕事だ。
「彼は宇宙人ですね。従来のスタイルにとらわれない。何かを改革するのは、彼のような人だと思いますよ」
と、賞賛する。確かに海外文芸などこの規模の店としては充実しており、関口さんの活力が随所に生きているのを感じる。
「『たかがマンガ』と大人になると思ってしまいがちだけど、ぜんぜんそんなことなかったです。大人になったからこそわかる大切なこと。子どものうちに知っておけばよかったと思うこと。たくさんありました。今からでも遅くないです」とでかでかと書かれたPOPが廊下からも目立つところに置かれていたり、「志津にお住まいの奥様方へ、健康診断のお知らせです」というタイトルでチェックリストをいくつか設け、処方箋として森美樹「主婦病」や山内マリコ「パリ行ったことないの」に誘導する。本屋lighthouseで感じた新しさが随所に垣間見える。
しかし、スタッフの力量を十分に発揮させられるかどうかは、やはり店長の力量次第だ。店長がそれを良しとしなければ、スタッフのやる気もつぶしてしまうこともある。
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その日野さん自身も、あとで書くように「ときわ志津佐倉文庫」をはじめ、いろいろ取組をしている。だが、日野さんによれば、いろいろ仕掛けをするようになったのは、ここ3年ほどのことだと言う。
日野さんは、もともとは本好きではなかった。たまたま学生時代に短期留学したアメリカのワシントンで知り合った方に、シルヴァスタインの「おおきな木」という本を教えられた。それで「本っていいな」と思い、帰国して本屋でアルバイトを始めた。その後、目指していた公務員試験に落ち、当時の店長に誘われるままときわ書房に入社した。
そんな成り行きで書店員になったので、しばらくは淡々と仕事をしていた。しかし3年ほど前、この店に赴任してきて2年目に入った頃、将来に不安を覚えるようになったという。
「この国がどんどん悪くなっているような気がして、自分が本屋をやっている理由とか、ここ(志津)にいる意味を考えるようになったんです」
そうして、ただ悩むだけでなく、日野さんはその答えを探すためにほかの本屋を見て回ったのだ。首都圏はもちろん神戸や京都、大阪にも精力的に足を伸ばした。
「こういうことをやってもいいんだとか、こういう品揃えがあるんだとか、うちにない本がいっぱいあるとか、いろいろ目が開かれる想いでした」
ツイッターをはじめ、ほかの書店員たちとの交流も始めた。そこでまたほかの書店員たちの取り組みを知って、刺激を受けた。
そして、彼らにならって本の置き方を変えてみたり、独自のフェアを開催したり、トランスビューを通じてそれまで置かなかった専門書なども置くようになった。本の売り場に、自分の問題意識を反映させたのである。とくに人文社会系やノンフィクションの棚については「社会を考える時のヒントになるような本が多いので」力を入れている。「薔薇マークキャンペーン」すなわち「人々の生活を良くするための経済政策こそ最優先」と銘打った経済書のフェアが大きく展開されていたし、ちょうどノミネートが発表された「本屋大賞ノンフィクション本大賞」のノミネート作も、もちろん並んでいた。
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また、ツイッターを通じて地元の人、作家や版元の人と縁ができ、それが独自の展開やフェアに繋がって行く。「歩いてみよう志津」という本を大きく仕掛け、その著者の宮武孝吉さんの詩集や、版元の大空社出版の本を大きく展開する。そして、
「(志津のある)佐倉市で一箱古本市をやることになり、その誘いを受けて、個人で参加しました」
そこから、佐倉という土地柄、本や文化を盛り上げて行こうという気運があることを知った。それで初めて佐倉という土地に愛着がわいたという。

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そうして始めたのが「ときわ志津佐倉文庫」だ。佐倉ゆかりの人たちが夏にお薦めしたい本を選び、コメントつきで紹介する、というもの。選書するのは、お店のスタッフはもちろん同じビルで働く人、版元関係者、図書館司書、学校関係者などさまざま。
この店独自の夏の文庫フェアだ。こうした手間の掛かる取り組みをやっている書店は全国でも珍しい。地元の人と結びつこうという姿勢も素晴らしい。これは地元だけでなく、業界全体の注目を浴びることとなった。残念ながら今年は事情があってお休みしているが、2年に一度でもいいから、復活してほしい試みだ。
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こうした精力的な活動でこの店は多くの人に知られるようになったが、年々本屋を取り巻く状況は厳しくなっている。だから、日野さんのやってるような手間の掛かることをするより、もっと売れ筋だけ並べればいい、という意見もあるという。
「だけど、それは志津の人たちをバカにしていないか?と思うんです」
売れ筋だけ並べるというのは、この地域の人たちはこの程度の知的レベルだと決めつけるのに等しい。
「西荻窪の今野書店の社長さんがおっしゃっていたのですが、『地元のお客さまを信じること』が大事だと思うんです」
この程度と決めつけず、いろんな方向性の本を受け入れてくださる度量がある、と信じなければ、いろんなフェアでお客さまを刺激する意味がない。
もちろん売れ筋は大事だ。多くのお客さまが求める本は、書店にとっても置くべき大事な本である。
だけど、それだけでは全国どの本屋でも同じものになる。その土地その土地で売れる本はあるし、それを探り、そのニーズを掘り起こすのも本屋の役割だろう。それが本屋の個性にもなるし、「行ってみたい」と思わせるきっかけにもなる。
「でも、現実にはなかかな思うようにいかない。本屋をつぶすわけにはいきませんから」
と、日野さんは言う。手間をかければそれだけ現場の負担も増える。業界を取り巻く状況は厳しく、人件費はどんどん減っているし、在庫を減らさなければならない、というプレッシャーもある。
その中で何ができるか、どこまで頑張れるか。
手探りの戦いは続いている。         (2019年8月9日訪問)                        

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No.139本屋lighthouse

幕張本郷駅から徒歩15分、この5月1日に開店したばかりの、若い書店員が手作りした本屋、と話題になっているお店に行ってきました。
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目的の場所は、ごくふつうの住宅街に溶け込むように建っている小さな白い小屋。店主の祖父の農地の中に建てたと聞いていたが、細長い庭くらいの広さで、手前に小屋が建っている。畑はその裏手にあるので、道路の方からは見えない。
壁は引っ越しの時、養生のために壁に張るプラスチック。そこに似顔絵のようなものがいくつか。これは、近所の子どもに落書きしてもらったものだそうだ。いっぱいになったら、また張り替えるという。また、ここの庭で採れた野菜の人気投票である野菜選手権募集の貼り紙も。なるほど、こうして近所の子どもを巻き込む工夫をしているんだな、と感心する。
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小屋の中に入ってみる。
広さは建築物としての許可を取らなくていい10平米という小ぶりなサイズなので、5人も入ったらいっぱいになる。そして暑い。この日は35℃を超える猛暑で、しかも時間は午後3時頃。外は緑が多く、風も通るので意外と気持ちいいのだが、中はとにかく暑い。
だが、入った瞬間、ぱっと目に入って来たのは、「メタモルフォーゼの縁側」「どうせカラダが目当てでしょ」「夏物語」「お砂糖とスパイスと爆発的な何か」「差別はいけないとみんないうけれど。」「三体」といった話題の本の表紙。それを見ただけで、ここはただものではない、と思う。通販でも人気のこだまさんZIN「寝ないと病気になる」も目立つところにある。
だが、エッジの効いた本だけでなく、ナンバーのイチロー特集や花とゆめ、「子供はわかってあげない」「スキップとローファー」「うたかたダイアログ」などのコミックも目に飛び込んでくる。すのこに小さな棚をつけた手作りの什器も素敵だし、それ以外のスペースも、ぎちぎちに本棚を並べてはいない。小ぶりのユーズドの本棚やカラーボックスを組み合わせ、面陳と棚差しをほどよく配分するセンスもいい。
「ここ好き」と、直感的に思う。そう、とっておきの本ばかり集めた秘密基地をみつけたような感覚だ。
たちまちテンションが上がり、暑さも忘れて本棚に見入ってしまう。
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無造作に本が並べてあるようで、実はざっくりとセクションごとにわかれている。最初に目についた面陳棚は新しく仕入れたもの。その右手は古本の入ったカラーボックス、そしてしおりやブックカバーなどのグッズもある。
左手前は、文芸・コミックなどのいわゆるフィクション系。その奥は人文科学、実用書。その上に一段だけ作りつけられた棚は、店名の灯台にちなんだ本が置かれたコーナーだ。
右手奥は児童書のコーナー。新刊だけでなく、近所の子供たちが遊びに来た時にみられるように、閲覧専用の古本も引き出しに入れてある。その前には小さな椅子もあるから、子供たちの格好のたまり場になりそうだ。

そして、小屋の真ん中の小さなタワーと右手前の引き出しの中は数か月ごとに入れ替えるテーマにちなんだ本。いわゆるフェア台だ。3ヵ月周期でテーマが変わる。現在のタワーのテーマは「自由研究」。「人間をお休みしてヤギになってみた結果」とか「鹿男あをによし」とか「読む科学事典」とか。
引き出しの方は六つあるが、一つづつテーマを変えている。たとえば、ある棚は「知的好奇心」と銘打って「はじめアルゴリズム」「人間はなぜ歌うのか?」「全ロック史」「雨の科学」などの本が並ぶ。ほかのテーマは「愛のカタチもいろいろ」とか「現実がフィクションの追いついた時代」とか。開けてみないと何かわからない。それがわくわくする。
この仕掛けは、関口さんが以前六本木の文喫の雑誌棚を見て、「扉を開ける」という動作がひとつあるだけで、本を選ぶ感覚が違う、と思ったこと。小さな本屋だから、本の数でなく見せ方で飽きさせないようにしたい、と思って考えたことだ。なるほど、つい引き出しを開けて確認したくなる。関口さんの試みは成功している。
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そして、嬉しいのは書店員有志が選ぶ「ナツヨム」フェアの本が、フェア帯つきでほぼ全点展開(売り切れたものもある)していること。私はこの第一回で一位になったことがあるので、このフェアは他人事とは思えない。まさか、ここでもナツヨムを開催しているとは思わなかったので、嬉しい不意打ちだった。

手作り感あふれる外観から、古本を集めた趣味的な店を想像してしまうが、ここは立派な新刊書店だ(販売用の古本も置いてあるが、レジ前のカラーボックスひとつ分だけ。全体の一割にも満たない)。仕入れ先は八木書店やトランスビューの取次代行、直販などを利用。小さいながらもしっかりした品揃えであるのはそのため。趣味や道楽ではない。ぴかぴかの、時代を切り裂くような本が並んでいる。
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店主の関口竜平さんは、まだ26歳。ときわ書房志津ステーション店と人形町の出版社トランスビュー(取次代行も兼ねる)のバイトを掛け持ちしている。ここはだから、その合間をぬった金曜日と土曜日のみ開いている週末書店なのだ。
書店員が自分で本屋をオープンするのは、ある程度キャリアを積んで、その仕事に飽きたらなくなって自分で店を開くというケースが多いと思っていた。荻窪の本屋titleや駒込のBOOKS青いカバなどはそうだ。
しかし、関口さんは違う。もともと大学院で英米文学を専攻、とくにジョージ・オーウェルが好きで、ディストピア文学の研究をしていた。その当時から、本が好きで将来は本屋を開きたい、と思っていたそうなのだ。院を卒業後は、その夢の実現のための足掛かりになるだろう、と取次会社に就職するが、畑違いの関連会社に配属されたため、2ヶ月で退社。そして、バイトをしながら、本屋を作ることにする。まず、本屋開業ありきなのだ。
現在の場所に決めたのは、自宅から自転車で15分ほどのところに祖父の土地があったから。本屋でいちばん経費の掛かる家賃が、ここならただになるから。建物も自力で一から建てることにした。そして、その過程をブログで公開して話題になり、完成前から「本の雑誌」などで取り上げられる。私が訪ねた日も、「本の雑誌」がオープン後の様子を取材に来ていた。また、もう一件取材が入っており、業界的にはなかなかの注目度だ。
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なので、開店当初はやはり業界関係者の来店が主流。最近では地元の人も増えてきた。ここは近所に子守神社という大きな神社があり、散歩コースにもなっている。それで散歩のついでに気になったから覗いてみたという人や、ツイッターなどで知って、2,3駅離れたところから来たという人も。
金曜日は10時から16時、土曜日は10時から18時まで開けていても、訪れる客は1日2~3組(毎日のように遊びに来る子供もいるが、それは例外)。だが、客単価は高い。8日間店を開けて、7~8万が月の売り上げ目標である(それ以外にHPを使った通販でも収入がある)。その売り上げを次の月の仕入れに回しているので、赤字にはならない、という。バイト代などは生活費その他に充てることができる。
仕入れる本の基準は「自分が読みたい本」もしくは「誰かが読みたいだろうと思う本」。バイト先の新刊書店での選書よりも範囲を狭め、ここを気に入ってくれる人が気に入ればいい、と思っている。それに近所にあるくまざわ書店とバッティングしないラインナップ、ということも考えている。
共栄共存。
ふつうの本屋がちゃんとあるから、こういう店も存在できるのだ、というのが関口さんの考えだ。
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イベントなども、いずれはもっと積極的に取り組みたいという。すでにヴァージニア・ウルフについての同人誌「かわいいウルフ」の読書会を定員7名で開催した。場所も小さいので、これくらいの規模がふさわしい。そして、いずれ大みそかやお祭りの時期は、前の道が神社に行く人で賑わうので、夜の営業をすることも考えている。
そうして知名度を高め、30歳までにフルタイムで営業する本屋を開くことが関口さんの目標だ。
それまでバイトを二つ掛け持ちし、それ以外の日はこの本屋で働く。
その熱意と軽やかさに驚く。我々世代なら、まずちゃんと本業でキャリアを積んでとか、そんな道楽のような商売がほんとに成り立つのか、みたいな観念でがんじがらめになって、なかなか踏み出せないのだが、関口さんの場合は恐れず足を踏み出した。
それも、やみくもにやるのではなく、ちゃんと戦略を立て、SNSで発信し、バイトにしても自分の本屋にプラスになるようなものを選んでいる。
新しい世代だな、と思う。
とかく最近では出版書店関係では暗い話が多い。これからの先行きを嘆く声も多い。
だが、嘆いてばかりいて、何も行動していない人も多いのではないか。
自分はどうなのか。
そんなことを考えさせられる関口さんとの出会いだった。
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うちからはとても遠いし、暑くて行くのはしんどかったけど、それだけの甲斐のある店だった。
これからこの店はどう進化していくのだろう。
機会があれば、その後のこの店を見るために、また来たいと思う。

                                                     (2019年8月9日訪問)

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No.137 くまざわ書店武蔵小金井北口店

武蔵小金井駅の北口にはドン・キホーテのビルがある。1階から3階までがドンキのフロア、いわゆるMEGAドンキなのだが、そのビルの地下全部がくまざわ書店である。

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坪数はバックヤードなども合わせると470坪。なので、思いのほか広い。エスカレーターを降りて左手は児童書や学術参考書のコーナー。正面は文庫、右手に新刊のスペースや書評紹介のコーナーがあって、その奥にいろんなジャンルの本が置かれている。だが、新刊のコーナーからして、一味違う。いわゆるベストセラーだけでなく、時事ノンフィクション話題コーナーが表裏両面展開している。文芸書より目立つくらいだ。

そして、新聞書評コーナーは、朝日、日経、東京新聞の三紙を扱う。この辺も土地柄だろう。

「この店は教養のあるお客さまが多いので、ベストセラーではない教養書でも、並べておくと、2冊3冊と売れていくんてす」

と、店長の中原高見さん。ベストセラーだけでなく、その周辺に置かれた本もきちんとチェックしてくださるお客さまが多いので、いろいろと教えられることも多いそうだ。

また、店内をざっと見回して気づくのは、フェアが多いこと。

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いまの季節どこでもやってる新潮角川集英社の文庫フェアはもちろんだが、有志書店員が企画したナツヨムを始め、平野隆大「毎日写真」刊行記念選書フェアだとか、「自殺会議」刊行記念フェア、松村圭一郎選書による「あたりまえを突破する人類学フェア」などなど、マニアックなものを含めるとあちこちで10くらいはあるだろうか。 

「こういうフェアをやると、日頃は扱わない版元を知ったり、作家による選書も置くこともできます。それに、新しい本が次々と刊行されるので、定番を平台に置くのはなかなかできないのですが、フェアだとそれができるのがいいですね」

と、中原店長。平台も多いので、いろいろ変化をつけたり、ちょっとした仕掛けをして注目を集めることを心掛けているそうだが、フェアというのはより効果的にそれを仕掛けられる、ということなのだろう。

「自分で選書してフェアをやるというより、版元さんと話し合って決めることの方が多いです。スペースもあるし、最近ではフェアに積極的な店として認識されてきたのか、版元さんから依頼されることも増えてきました」

だが、最初からフェアの多い店というわけではなかった。開店してまだ1年目か2年目か、翻訳者たちが勧める書店縦断フェア「はじめての海外文学」に、この店も参加していることを知って、ちょっと驚いた覚えがある。ほかの参加書店は、いわばこの手のフェアの常連というような書店ばかりで、この店だけ異質に思えたので。

「文芸担当の女性からの提案でやってみたのですが、結構売れました。彼女からも刺激を受けましたね」

中原店長によれば、この店は本好きのアルバイトが多いという。いい本屋には、本好きも集まるということか。本好きなので、いろんなアイデアも浮かぶ。それが、いい形でフェアなどに反映するらしい。

また、この店で圧巻なのは、芸術書のスペースが広いこと。美術、音楽、映画、書道など、棚が奥に向かって10以上、ズラッと並んでいる。そこにも、ミュッシャ展を記念してパンフや関連書を並べるフェアをやるなど、工夫が凝らされている。

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コミックは一番奥。やはり学生も多いため、100本くらい棚がある。売り上げでも、20%程度を占めるという。コミック専門店でもないのに、これだけ並んでいるのはなかなか見ごたえがある。

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また、小金井市にはスタジオジブリがあるということもあって、レジの奥の壁際一面はジブリコーナー。作品紹介本だけでなく、高畑勲さんの反戦本など硬い本も置かれていて、そういう本もちゃんと売れている。また、ここはジブリ出版の雑誌「熱風」の数少ない配布店でもある。人気のある雑誌のため、店に届くと1週間ほどで配布終了するらしい。

店の真ん中には、椅子とテーブルが置かれていて、ゆっくり本が読めるようになっている。

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スペースも広いので、イベントも行ないやすそうだが、それについては、これからの課題。

「今月27日に、はじめて本格的に手掛けるイベントをやります」

それは「書店の未来、そして読書の未来」がテーマのトークショーで、出版ニュース社代表の清田義照さんと月曜社取締役の小林浩さんが登壇する。なかなか渋いイベントだが、この店にはこういう催しが似合っているのだろう。イベントは人手も必要なので仕掛けるのはなかなか難しいそうだが、これが成功すればまた次に繋がるので、私も成功を祈っている。

この店を取り上げた理由は、大洋堂の次にどこを訪ねようか、とSNSで問いかけたところ、この店の名前が本屋好きから上がったからだ。地元なので、もちろん開店当初からこの店を知っていた。開店して5年弱、じっくり見てみると、ほんとうにいい本屋になってきた。本好きから名前が上がるのも当然のことかもしれない。

そして、この店のいいところは、今でも少しずつ進化をしているところだ。行くたびに小さな発見がある。地元民として、これからの進化を楽しみにしている。(2019年7月16日訪問)

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No.136 大洋堂書店

久しぶりにココログにログインしたら、リニューアルされていた。なので、私の方も、これからはスマホで書いて投稿してみようと思う。そちらの方が、写真をアップしやすいからね。

さて、大洋堂。

1fd944a490214e2d92dd6223307ba45dこうして見ると、普通の町の本屋さん。実際、中央線の東小金井駅北口から徒歩3分くらいのところにあり、この地で50年以上の長きにわたって頑張ってきた町の本屋さんである。

しかし、この書店、入り口を別の角度から見ると、こんな風。

03acb85e0f46466a9984e4e1efb31877先ほどの入り口の左側を見ると、こんな風になっているのだ。

つまり、ここ、ひとつの店舗で本屋だけではなく、カフェとタイ式マッサージやオイルトリートメントなどのヒーリングスペース、それにカフェの三つの役割を持つお店なのだ(ヒーリングサロンとカフェはocioという)。

カフェを併設しているお店は増えてきたが、こんな風にヒーリングサロンも兼ねているお店は全国的にも珍しい。

そして、そのカフェの部分も、コーヒーは一杯ずつドリップする本格派だし、焼き菓子のレベルも高い。片手間で、流行りだからカフェをやっています、という店とは一線を画している。どうしてこういうお店になったかを知りたくて、訪ねることにした。

入り口を入ると、右手に本屋のレジカウンターがあるが、その奥がカフェスペース。さらに奥がマッサージルームになっている。

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本屋部分は入って左側の方。本屋部分はだいたい20坪くらいか。半分近くは雑誌。そして、残りはコミック、文庫、単行本に絵本もあるという展開的な町の本屋さん。いちばん目立つ平台に、小金井市の写真集があったり、タウン情報誌があるところに、地域性を感じる。

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平台にこの日いたのは、店のオーナーの弟さんの一色義人さん。もともとこの店は義人さんと現オーナー清志さんのお父様の明さんが創始者である。参考書で知られる旺文社に勤めていらしたのだが、脱サラして始めたのがこのお店。名前も、旺文社時代お世話になった品川の書店の名前をもらったのだそうである。明さんのあとを義人さん清志さんご兄弟が継ぎ、この店を盛り立てきた。今も昔も、この店は外商が主力。昭和の頃は小学校で学研の科学と学習を売っていたし(かつてこの二誌は、月に一度学校内で販売があった。事前に金額を書いた封筒を先生が配り、希望者は当日売りに来た雑誌を並んで購入する、という方式を取っていた)。亜細亜大の教科書販売も行っていた(現在では、美容院や個人野お宅に定期購読を届けることが中心である)。

店売りの方では、子どもがよく買いに来てくれたし、銭湯帰りの人や、かつて近隣にあったマルイの独身寮の人たちが仕事帰りに立ち寄ってくれたりもしたという。

「その当時は、黙っていても本が売れた時代。それに比べると、いまの売り上げは半分以下、かなり落ちましたねえ」

と、義人さん。

「ネットショップもあるけど、昔は本が娯楽の王様だった。いまはいろいろ楽しいものが増えましたからね」

そんな時代の変化を受けて、何か新しいことをやらなければ、と考えたオーナーの清志さん。息子さんの淳さんに

「ブックカフェをやらないか?」

と、持ちかけたことが、この店の改革の始まりだった。

実はその当時、淳さんはマッサージサロンで働いており、独立を考えていた。カフェというのは想定外だったが、本屋にカフェだけでなくマッサージサロンも併設してしまえば、店舗としてうまくまとまるのではないか、と考えた。

そして、実際にカフェを開く前に、まずは東京で勉強し、さらにワーキングホリデーを利用してカナダにカフェ修行に行った。運良く知り合った日本人のカリスマコーヒー職人のもとでコーヒーの淹れ方をみっちり鍛えられ、東京に戻ってくる(この辺のお話はドラマチックで面白いのだが、詳細はいつか別の機会に)。東京でまた焙煎についても学び、晴れて店のリニューアルに取り掛かる。

カナダ時代の上司から、「出来るだけ店は自分自身で作った方がいい」と、アドバイスされ、感性のあう大工さんに手伝ってもらいながら、出来るところは自分たちの手で仕上げた。カフェのタイルを張ったり、建具を葉山まで買いに行ったり。一部テーブルも自作している。

そうして、2016年の10月21日にリニューアルオープンにこぎつけた。

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現在はパートナーで、セラピストでもある真未さんが、カフェの焼き菓子も担当している。この焼き菓子もカナダ仕込みのレシピを使いつつ、真未さんが研究を重ねたもの。甘すぎず、上品な味わい。一口サイズの焼き菓子もあるのが嬉しい。

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カフェだけ、あるいはマッサージとカフェを利用する人で店に人が戻ってきた。また、焼き菓子目当てで訪れる人もいる。

本屋としての売り上げはどうか、と義人さんに尋ねると、

「売り場面積は減ったのに、売り上げは下がってはいません。何より、お客さんが増えて店が賑やかになったのが嬉しいですね」

店はまだまだ手を入れているところ。淳さんと真未さんの2人でカフェとマッサージの両方をオペレーションするのは大変で、

「まだocioの方は看板も作ってないんですよ」

このスペースを使ってイベントや瞑想会を行うなど、新しい試みにトライしている。

「いずれテーマを決めて本棚を作ってみたい」

と、淳さんは言う。そうなれば、もっと本屋との連動がうまくいくだろうし、ブックカフェとしての役割もさらに深まるだろう。

家族で50年以上支えてきた本屋。こういう形で進化し、また未来へと繋がっていく。本屋というスペース、地域との繋がりをうまく活かせば、まだまだ可能性はある。

実は、拙著「書店ガール」シリーズで、登場人物の1人彩加が沼津に開こうとしていたお店は、こういう形を想定していた。現実の、私の身近なところにもこういうお店が出来ているというのはとても嬉しいし、肩肘張らずにそれを実現している一色さんご一家がとても頼もしい。

地域の新しい、くつろげる場所としてこの店が発展していくことを、心から願っている。

(訪問日2019.7.10)












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NO134.BOOKS ORION nonowa西国分寺店

西国分寺駅を利用している人でも、「西国分寺駅構内の店」と聞いてぴんと来ない人もいるかもしれない。その駅を日常的に利用する人ほど、乗るのはどの車両のどの辺で、降りたらどういうルートで乗り換えの電車や改札まで向うかというルートが決まっているので、それ以外の場所の変化に気づかないことがある。
「9月で3周年だったんですけど、いまでも『こんなところに本屋があったっけ』と言われることもあるんです」
と、 ブックマイスターの高野大輔さんは苦笑する。こちらの本屋は改札から武蔵野線に向かうエスカレーターの上にあるnonowaという商業スペースに出来たお店。中央線しか利用しない人にとっては死角になり、気づかないこともあるかもしれない。でも、それではちょっともったいない。お洒落でなかなか素敵な本屋なのだ。

nonowa西国分寺のこのフロアは、噴水を模したオブジェを中心にした小さな広場を取り囲むように、書店、カフェ、眼鏡ショップ、スイーツの店が並ぶ。このスペースのテーマは「ウエスタンジャンクション」。つまり、「人が集まって、そこを通過して旅立っていく」西部の町というイメージ。言われてみれば、看板の文字も、ダークブラウンを基調とした渋めの什器も、看板のロコも、ウエスタンっぽい。
本屋の坪数はわずか十坪だが、店の前の広場のようなスペースにも什器を点在させているので、坪数よりも広く、ゆったりとした印象。
「乗り換えのわずかな時間に買いに来られる方が多いので、お客さまの動線がすっきりしていること、商品がぱっとわかるように置くことに気をつけています」
と、 高野さん。レジ見ないでの方をまったく見ないで、目の前の武蔵野線のホームを気にしながらお会計をするお客さんも少なくない。注目の新刊を大きなパネルに 貼り出したり、コミックや文庫でも面陳が多いのは、そうしたお客さんにもわかりやすくするため。また、お問い合わせの応対もできるだけ迅速にやることを心掛け、次の電車が来るまでの短い時間に書名を調べ、店内になければデータをプリントアウトして渡すようにしている。
「うちの店でお渡しできないのは残念ですが、それを持って、ほかのお店で購入いただければ」
自分の店の利益に直接繋がらなくても、そうすることで書店のよさをお客さんに感じてもらいたい、というのが高野さんの願いだ。確かに、そうした小さなサービスが、リアル書店の信用を上げていく一助になるのだろう。

店舗が小さい分、置かれているジャンルは限られている。雑誌、文庫、コミック、文芸、実用書といった売れ筋がメイン。ベストセラーが多くそろってはいるが、 そればかりではない。ぽつぽつと人文や社会なども混じっていたり、棚ごとにたとえば「猫」とか「印刷」とか、小さなテーマを設けていたり。よく見ると、そのなかに「狼」の本を集めた棚がある。高野さんはSNSのアイコンでも狼を使うほど狼好き。物語などでは悪役のイメージが強い狼だが、実は仲間思いのこころ優しい、賢い生き物なのだ。そうした正しい狼像を伝える本でひとコーナー。わずか十坪の店なのに、その遊びごころが楽しい。そうしてそこから3000円もする「オオカミたちの隠された生活」なんて高額本がたまに売れたりもするから面白い。
ちなみにこの店は(この規模にも関わらず!)独自のゆるキャラを持っている。スタッフみんなで話し合って決めたゆるキャラは「狼」。もちろんブックマイスター高野さんの趣味を尊重してのこと。絵の得意なスタッフが描いたゆるキャラは、そのまま商品化してもいいんじゃないか、というくらいかわいらしい。これは、この店オリジナルのフリーペーパーなどで使われているので、要チェックだ。

また、この店独自と思われるのはコミックのPOP。なんと、切り絵で作られているのだ。この店は、若いお客も多いのでコミックにも力を入れている。奥の棚だけでなく、手前の広場に張り出した部分にはその月の話題作を置いてあるが、そこにいくつか切り絵POPが飾られている。切り絵が得意なスタッフの手によるもので、細工が細かく、キャラクターも似ていて、そのレベルの高さに感心させられる。月ごとに新作が飾られるので、それを見るのもこの店の楽しみのひとつだ。

フェアについていちばん目立つのは、広場の一番前、nonowaに入ったすぐのところにある特設台で月替わりで行うもの。今月のテーマは「わたしたち、この本が欲しいんです!!」。クリスマスの季節とあって、プレゼントされると嬉しい本を集めている。フェアに関してはスタッフ全員参加が高野さんの方針なので、漫画や小説、それに「文字のデザイン・書体のフシギ」といった専門的な本など、スタッフのイチオシ本がいろいろ並んでいる。オオカミが表紙のフリーペーパーとあわせてチェックすると楽しい。
また、店内奥、目の高さの棚を横に2列使ったところでも、テーマを持たせたフェアを毎回行っている。今回のフェアは年間売り上げベスト10の紹介。この店の2015年の売り上げ1位は、大ベストセラー「火花」を抜いて「「ゆっくり、いそげ ~カフェからはじめる人を手段化しない経済~」(大和書房)だ。一般にはあまり聞きなれないタイトルかもしれないが、西国分寺界隈に詳しい人にとっては注目の本。西国分寺駅南口の人気カフェ、クルミドコーヒーの店主影山知明さんが自らのビジネスについて記した本なのだ。この店の年間ナンバー1というだけでなく、この本を日本で一番売ったお店となっている。
そうなった要因のひとつは、発売当日に著者の影山さんがこの店を訪れ、自ら手売りをしたこと。SNS等でそれを知ったクルミドファンが訪れ、かなりの賑わいだったそうだ。
こういうイベントを行うくらい、この店とクルミドコーヒーとの繋がりは深い。きっかけは影山さんのインタビューが載った雑誌を、店頭でPOP付きで紹介したこと。それをツイッターで知った影山さんが店にお礼に訪れたところからつきあいが始まり、高野さん自身もクルミド主催のイベントに顔を出したりするようになった。そうして、クルミドコーヒーが手掛けるクルミド出版の本を店で扱うように頼まれ、お店の地元本コーナーで売るようになった。そうした蓄積があっての、売り上げナンバー1なのだ。
ちなみに、こちらでは私も関わっている地域雑誌「き・まま」も取り扱っていただいている。こちらの販売成績もなかなかのもの。
「この辺りの人たちは地元意識が強いし、いろいろイベントも多いですね。それも(企業やお役所主導でなく)市民が中心になってやるイベントが多いことがすばらしいと思います。本についても、西国図書室とか、国分寺ブックフェスティバルとかありますし」
住んでる場所は神奈川で、この店に配属されるまでは国分寺のことはまったく知らなかった高野さんだが、クルミドとの繋がりをきっかけに、いまでは地元のブックイベントの一箱古本市で個人的に出店するほど。地元との繋がりを楽しんでいる。そうして繋がった人たちが店を訪れるなど、よい形でビジネスにも循環している。そして、そうしたゆるやかな姿勢が、駅中にありながら売れ筋が並んでいるだけでない、楽しさや奥行きのある店にしているのだろう。
お店は人。
チェーン店でも駅中店でもできることはある、とこの店を見ると思うのだ。

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No.132 伊野尾書店(東京都新宿区)

ドラマ放映中なので、ちょこちょこ営業に行きます。版元営業の方とごいっしょする場合が多いし、ブログに載せるほどお話を聞ける機会はなかなかないのですが、なかにはゆっくり訪問できる店もありますので、それを紹介していきたいと思います。

まずは新宿区中井にある伊野尾書店。
実はこの店、四年前の全国書店営業中に「ぜひ行ってみてください」と、本の雑誌社の杉江さんに奨められたお店。なのに、なんとなく行きそびれていたので、今回の訪問は四年越しの宿題を果たした気分です。

西武新宿線と大江戸線の停まる中井駅。駅前の細い通りに「中井商店街」というアーチが掛かり、その両側に個人商店が建ち並ぶ。人通りも多く、商店街もちゃんと機能している。
伊野尾書店は、中井商店街の一角、大江戸線の駅のすぐ隣りにある。
店舗面積は17坪。雑誌やコミック、文庫の新刊が一通り揃い、文芸書やビジネス書や児童書などもちゃんと置かれている。
いわゆる町の書店だ。常連客が8割、雑誌の定期購読や取り置きが気軽に頼める店。自分たちの生活圏にふつうにあるお店、だ。

そうした基本を押さえつつ、この店の品揃えはこの規模にしてはちょっと珍しい。
入り口入ってすぐのところで、店オリジナルの「とにかく笑えればフェア」をやっていた。この規模でこういうフェアをやっていること自体珍しい。並んでいる本は「試験に出ない英単語」とか「おかんメール」とか「インドなんて二度と行くか!ボケ!!ーーでもまた行きたいかも」とか綾小路きみまろの本とか。サブカルからノンフィクション、エッセイまで、さまざま。
「バイトの子に『何かやって』と頼んでやってもらったんですよ。動きは、まあまあってとこかな」
飄々と語る伊野尾宏之店長。
レジ前の目立つエンド台は文芸が置かれているが、「火花」とか「ナイルパーチの女子会」とかどこの書店でも推してる本もあるが、エンド台の特等席(手前の角の部分)には筒井康隆「世界はご冗談」と麻耶雄嵩の「あぶない叔父さん」。うーむ、どういう基準なんだろう。この規模のお店でこういう平積は見たことがない。
「棚の作り方は、趣味ですね」
あっさり伊野尾店長は言う。
趣味ですか、そうですか。
まあ、そう言いながらも売れないものは置けないので、そういう在り方を支持する常連が多いということだとは思いますが。
店の真ん中の棚にはビジネス書や社会関係の本。ここでもミニフェア状態。たとえば田房永子とか北原みのりとか、タイトルつけて括るのはちょっと難しいが、伊野尾さんに言わせると、
「ちょっと前から増えている新しいタイプのジェンダー論、世間一般に女性がどのように見られているかを女性の側から描いたもの」を集めているのだとか。
こんな具合に、町の本屋でありながら町の本屋らしからぬくすぐりがあちこちに仕掛けられたお店なのだ。

また、この店はこの規模でありながらイベントも行う。「本屋プロレス」と題したイベントでは、書店内を舞台にプロレスラーが戦うという、どこか漫画のような設定を現実のものとして行ったし、「本屋野宿トークショー」というイベントでは、野宿についての対談のあと、この本屋の隣(中井商店街の一角!)で有志が実際に野宿するという、楽しいんだか辛いんだかわからないことをやっている。
売り上げのためだけでは、きっとこんなことはやらない。
店主の伊野尾さんが面白いと思うことを、現実化させているのだろう。チェーン店ではできない、個人店主だからこそこうした破天荒なイベントを軽やかに実現できるのだ。
こうした例を見ると、書店にはまだまだいろんな戦い方がある、と思って嬉しくなる。

この伊野尾さん、もとから本屋をやろうと思っていたわけではないらしい。
「大学を卒業したら、プロレス雑誌の記者になるつもりだった」
という。この店自体は、昭和32年12月25日に伊野尾さんのお父さんが創業された。家業が本屋だったわけだが、店を継ごうと思っていたわけではない。実際、プロレス記者の選考試験にも応募して、最終面接までは通ったそうだ。
しかし、そこで落とされ、就職する気にもなれず、フリーターをしている時に父がバイクで転倒して骨折。配達ができないということで店を手伝うようになる。そうこうしているうちに、大江戸線が通ることになって敷地の一部が削られることになり、ビルを建て替えることになる。そしてビルが完成した99年から伊野尾さんが二代目店長として店を切り盛りすることになった。自分で積極的になろうと思ったわけではなく、自然な流れで本屋の主人に納まった。そうして本屋を始めて思ったことは、
「それまで親が『本屋は儲からない』と言ってたけど、本当に儲からないんだな、と実感しました」
とは言うものの、本屋の仕事自体は楽しい。
「いち早く新しい本を知ることができる。取次ぎから届く箱を開けて、どんな本かチェックすることができる」
というのが、やはり一番に思うこと。そして、それを「自分の趣味で」並べられることも楽しい。さらに、
「出版社に直接自分の意見を聞いてもらうことができる。これがたとえば文房具とかであれば、小売側がコメントを求められることはないでしょう」
それに、こうして取材されたりする機会も多い。伊野尾書店のようなユニークな書店は注目度も高い。そこもちょっと虚栄心が満足されるところだったりする。

しかし、こうして最近本屋のことが雑誌やテレビなどのメディアに取り上げられる機会が増えたのは、
「本屋というものが非日常になったからでしょう。自分の生活の中にあたりまえにあって、しょっちゅう行く場所であれば、かえって目に入らない。本屋が少なくなって、わざわざ車に乗っていくような場所になったから逆に意識されるようになったのでは」
なるほど。確かにそういう面はある。大型書店の出店は増えているが、伊野尾書店のような町の書店は減っていく一方だ。そこに危機感を覚える人たちが多いから、雑誌や新聞などで本屋特集が組まれることが増えたのだろう。
しかし、そうは言っても、伊野尾書店が注目されるのはそんな感傷からだけではない。町の本屋でもこんな戦い方ができる、ということを積極的に見せているからではないだろうか。根っからの書店員とはちょっと違う伊野尾さんだからできる発想や行動力は、きっとこれからも多くの業界関係者に刺激を与え続けるにちがいない。

ところで、この伊野尾書店、業界関係者だけでなく、ジャニーズの平成ジャンプファンにも密かに注目されていた。「戦う!書店ガール」にも出演している伊野尾慧くんと同じ名前の書店だからだ。映像化が決まってから、ここで「書店ガール」を購入し、伊野尾書店のカバーをかけてもらうというのが、伊野尾くんファンの間で流行っているらしい。
「名前が同じなので、僕も伊野尾慧くんを応援しています」
とのことです。ファンの方はぜひこちらのお店を訪ねてくださいね。

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けやき堂書店(東京都国分寺市)

さて、久しぶりの投稿です。
本屋には相変わらず行っているのですが、最近ではツイッターだのフェイスブックだの、手軽な方に流れたりして。
でも、久しぶりに、こちらで書きたい店が出てきました。
国分寺の、けやき堂書店。
北口徒歩2分、駅前再開発で立ち退くことになり、そのまま閉店することになったそうです。Photo
この店を知っている人は「え、なぜあの店を」と驚かれるだろうと思います。ここ数年は、エロ本専門店のようになっていましたから。ほんの10坪ほどの、活気のない店でしたから。
だけど、私が最初に足を踏み入れた時はそうではなかったのです。

それはもう三十年も前のこと。
駅前のその店は、小さいけれど、妙にマニアックな漫画や同人誌が置いてある店でした。
その頃は、「宇宙戦艦ヤマト」の突然のリバイバルヒットを発端に、空前のアニメブームが巻き起こった頃でした。いまでこそアニメや漫画は日本を代表する文化だ、などと言う人もいますが、当時は「大学生がアニメや漫画を見るのはけしからん」という見方をする人が多数だった時代です。アニメイトもなく、けやき堂のようにマニアックな漫画を置く店は少なかったのです。
それで、つい店主に「面白い本が置いてありますね」などと話しかけたのだろうと思います。もう、三十年前のことですから、記憶は定かではありません。でも、それで、その店主が大学も所属クラブも先輩だ、ということを知ったのでした。
それで、話しが盛り上がり、国分寺に行くとその店を訪れ、いろいろ話し込んだりしたのでした。
でも、大学卒業と同時に国分寺とは縁がなくなり、その店を訪れることはありませんでした。

そして、次に訪ねたのは、六年ほど前のこと。ひょんなことから国分寺の小さな会社に勤めることになり(一年経たずにそこをリストラされましたが)、国分寺界隈をうろうろしている時に、この店がまだ存在するのを見つけたのでした。
その時には、もうエロ漫画が主体の店になっていたと思います。それでも、まだそこにあるのが嬉しくて、思い切って店主に「学生時代、ここに来ていたのですよ」と話しかけ、「ああ、そうですか」なんて言われたものでした。

そうして、三年ほど前にこちらに引っ越してきて、北口に行くたびになんとなくここを気にはしていました。でも、あからさまにエロ雑誌のポスターが貼ってあるこの店に入るのは気が引けました。妙に寂れた雰囲気が、人を寄せ付けない感じもありました。
それで、そのまま寄らないうちに、つい先週、閉められたシャッターの上に「閉店しました。長い間ありがとうございました」という張り紙を見たのです。
場所的に、北口再開発で立ち退きを迫られたのだろうということはわかりました。こんなことなら、挨拶しておけばよかったな、と後悔しました。
そして、昨日、たまたま前を通りかかったところ、シャッターが開いているのを見つけました。
開いているなら、もしかしたら店主がいるかもしれない。
思い切って中に入ると、そこは電気も点いておらず、瓦礫だの本の残骸だの、酷い状態でした。そして、暗い店の奥から、なつかしい顔が出てきました。
「ここは昔、何度か来たことがあるんで、なつかしくて寄ってみたんです」
そう言っても、店主は思い出してはくれませんでした。
「すみません、僕は人の顔を覚えるのが苦手で」
そうして店主は、名前も名乗らない私にいきなり、
「紙の文化はもうおしまいですよ。少なくともうちのような町の本屋はやっていけない」
と、語るのです。
「小説とか漫画はまだいい。だけど、雑誌はもうお終いですね。みんなネットがあれば雑誌はいらないしね。もうちょっと早く業界から足を洗っていれば、こういう状況を知らずにすんだかもしれないけど」
やり場のない怒りとか困惑に溢れた声でした。
「昔、ここは漫画とか同人誌が多かったでしょう。最近ではエロ本とかが主流になっていて、ちょっと近づけなくなってたけど」
私がそう言うと、後ろめたそうに、
「やりたくてやってたわけじゃないですよ。生活しなきゃいけなかったから」
それを責めるつもりもないし、それが悪いとも私は思いません。
「でも、よく持ちこたえたじゃないですか。再開発までずっと続けてこられたわけですから」
そう私が言うと、ようやく店主は笑みを浮かべました。
「40年前にこの店を始めた頃、まだいまみたいに漫画が広がってなくて、僕は漫画が小説や詩や映画にも匹敵するジャンルになる、と言ったら、みんなに笑われたものです」
そういう志でこの店を始めたのだ。だから、ああいう品揃えだったのだ、と30年前のこの店を知ってる私は納得します。
そして、そういう志で始めた店が、こうして無くなってしまうことに胸が痛みます。
「40年、お疲れ様でした」
私が言うと、
「これからは、旅行しますよ。いままでできなかったから」
嬉しそうに店主は微笑んだのでした。

長く続く店というのは、町の風景と同化して、あるのが当たり前になる。そして、それが無くなって初めて、そこが大事な場所だった、と思い知る。
私にとって思い出深い店がまた一軒、なくなりました。
でも、筒然、シャッターを下ろすのではなく、駅前再開発まで持ちこたえてくれてよかったと思う。最後に挨拶が出来てよかったと思う。
さよなら、けやき堂。
町の景色が変わって新しいビルが経っても、忘れないよ。そこにオレンジ色のビニールの屋根の古ぼけた店があったことを。
私にとってのなつかしい国分寺を象徴する店があったことを。

長い間、ありがとう。

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