関東の書店

NO134.BOOKS ORION nonowa西国分寺店

西国分寺駅を利用している人でも、「西国分寺駅構内の店」と聞いてぴんと来ない人もいるかもしれない。その駅を日常的に利用する人ほど、乗るのはどの車両のどの辺で、降りたらどういうルートで乗り換えの電車や改札まで向うかというルートが決まっているので、それ以外の場所の変化に気づかないことがある。
「9月で3周年だったんですけど、いまでも『こんなところに本屋があったっけ』と言われることもあるんです」
と、 ブックマイスターの高野大輔さんは苦笑する。こちらの本屋は改札から武蔵野線に向かうエスカレーターの上にあるnonowaという商業スペースに出来たお店。中央線しか利用しない人にとっては死角になり、気づかないこともあるかもしれない。でも、それではちょっともったいない。お洒落でなかなか素敵な本屋なのだ。

nonowa西国分寺のこのフロアは、噴水を模したオブジェを中心にした小さな広場を取り囲むように、書店、カフェ、眼鏡ショップ、スイーツの店が並ぶ。このスペースのテーマは「ウエスタンジャンクション」。つまり、「人が集まって、そこを通過して旅立っていく」西部の町というイメージ。言われてみれば、看板の文字も、ダークブラウンを基調とした渋めの什器も、看板のロコも、ウエスタンっぽい。
本屋の坪数はわずか十坪だが、店の前の広場のようなスペースにも什器を点在させているので、坪数よりも広く、ゆったりとした印象。
「乗り換えのわずかな時間に買いに来られる方が多いので、お客さまの動線がすっきりしていること、商品がぱっとわかるように置くことに気をつけています」
と、 高野さん。レジ見ないでの方をまったく見ないで、目の前の武蔵野線のホームを気にしながらお会計をするお客さんも少なくない。注目の新刊を大きなパネルに 貼り出したり、コミックや文庫でも面陳が多いのは、そうしたお客さんにもわかりやすくするため。また、お問い合わせの応対もできるだけ迅速にやることを心掛け、次の電車が来るまでの短い時間に書名を調べ、店内になければデータをプリントアウトして渡すようにしている。
「うちの店でお渡しできないのは残念ですが、それを持って、ほかのお店で購入いただければ」
自分の店の利益に直接繋がらなくても、そうすることで書店のよさをお客さんに感じてもらいたい、というのが高野さんの願いだ。確かに、そうした小さなサービスが、リアル書店の信用を上げていく一助になるのだろう。

店舗が小さい分、置かれているジャンルは限られている。雑誌、文庫、コミック、文芸、実用書といった売れ筋がメイン。ベストセラーが多くそろってはいるが、 そればかりではない。ぽつぽつと人文や社会なども混じっていたり、棚ごとにたとえば「猫」とか「印刷」とか、小さなテーマを設けていたり。よく見ると、そのなかに「狼」の本を集めた棚がある。高野さんはSNSのアイコンでも狼を使うほど狼好き。物語などでは悪役のイメージが強い狼だが、実は仲間思いのこころ優しい、賢い生き物なのだ。そうした正しい狼像を伝える本でひとコーナー。わずか十坪の店なのに、その遊びごころが楽しい。そうしてそこから3000円もする「オオカミたちの隠された生活」なんて高額本がたまに売れたりもするから面白い。
ちなみにこの店は(この規模にも関わらず!)独自のゆるキャラを持っている。スタッフみんなで話し合って決めたゆるキャラは「狼」。もちろんブックマイスター高野さんの趣味を尊重してのこと。絵の得意なスタッフが描いたゆるキャラは、そのまま商品化してもいいんじゃないか、というくらいかわいらしい。これは、この店オリジナルのフリーペーパーなどで使われているので、要チェックだ。

また、この店独自と思われるのはコミックのPOP。なんと、切り絵で作られているのだ。この店は、若いお客も多いのでコミックにも力を入れている。奥の棚だけでなく、手前の広場に張り出した部分にはその月の話題作を置いてあるが、そこにいくつか切り絵POPが飾られている。切り絵が得意なスタッフの手によるもので、細工が細かく、キャラクターも似ていて、そのレベルの高さに感心させられる。月ごとに新作が飾られるので、それを見るのもこの店の楽しみのひとつだ。

フェアについていちばん目立つのは、広場の一番前、nonowaに入ったすぐのところにある特設台で月替わりで行うもの。今月のテーマは「わたしたち、この本が欲しいんです!!」。クリスマスの季節とあって、プレゼントされると嬉しい本を集めている。フェアに関してはスタッフ全員参加が高野さんの方針なので、漫画や小説、それに「文字のデザイン・書体のフシギ」といった専門的な本など、スタッフのイチオシ本がいろいろ並んでいる。オオカミが表紙のフリーペーパーとあわせてチェックすると楽しい。
また、店内奥、目の高さの棚を横に2列使ったところでも、テーマを持たせたフェアを毎回行っている。今回のフェアは年間売り上げベスト10の紹介。この店の2015年の売り上げ1位は、大ベストセラー「火花」を抜いて「「ゆっくり、いそげ ~カフェからはじめる人を手段化しない経済~」(大和書房)だ。一般にはあまり聞きなれないタイトルかもしれないが、西国分寺界隈に詳しい人にとっては注目の本。西国分寺駅南口の人気カフェ、クルミドコーヒーの店主影山知明さんが自らのビジネスについて記した本なのだ。この店の年間ナンバー1というだけでなく、この本を日本で一番売ったお店となっている。
そうなった要因のひとつは、発売当日に著者の影山さんがこの店を訪れ、自ら手売りをしたこと。SNS等でそれを知ったクルミドファンが訪れ、かなりの賑わいだったそうだ。
こういうイベントを行うくらい、この店とクルミドコーヒーとの繋がりは深い。きっかけは影山さんのインタビューが載った雑誌を、店頭でPOP付きで紹介したこと。それをツイッターで知った影山さんが店にお礼に訪れたところからつきあいが始まり、高野さん自身もクルミド主催のイベントに顔を出したりするようになった。そうして、クルミドコーヒーが手掛けるクルミド出版の本を店で扱うように頼まれ、お店の地元本コーナーで売るようになった。そうした蓄積があっての、売り上げナンバー1なのだ。
ちなみに、こちらでは私も関わっている地域雑誌「き・まま」も取り扱っていただいている。こちらの販売成績もなかなかのもの。
「この辺りの人たちは地元意識が強いし、いろいろイベントも多いですね。それも(企業やお役所主導でなく)市民が中心になってやるイベントが多いことがすばらしいと思います。本についても、西国図書室とか、国分寺ブックフェスティバルとかありますし」
住んでる場所は神奈川で、この店に配属されるまでは国分寺のことはまったく知らなかった高野さんだが、クルミドとの繋がりをきっかけに、いまでは地元のブックイベントの一箱古本市で個人的に出店するほど。地元との繋がりを楽しんでいる。そうして繋がった人たちが店を訪れるなど、よい形でビジネスにも循環している。そして、そうしたゆるやかな姿勢が、駅中にありながら売れ筋が並んでいるだけでない、楽しさや奥行きのある店にしているのだろう。
お店は人。
チェーン店でも駅中店でもできることはある、とこの店を見ると思うのだ。

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No.132 伊野尾書店(東京都新宿区)

ドラマ放映中なので、ちょこちょこ営業に行きます。版元営業の方とごいっしょする場合が多いし、ブログに載せるほどお話を聞ける機会はなかなかないのですが、なかにはゆっくり訪問できる店もありますので、それを紹介していきたいと思います。

まずは新宿区中井にある伊野尾書店。
実はこの店、四年前の全国書店営業中に「ぜひ行ってみてください」と、本の雑誌社の杉江さんに奨められたお店。なのに、なんとなく行きそびれていたので、今回の訪問は四年越しの宿題を果たした気分です。

西武新宿線と大江戸線の停まる中井駅。駅前の細い通りに「中井商店街」というアーチが掛かり、その両側に個人商店が建ち並ぶ。人通りも多く、商店街もちゃんと機能している。
伊野尾書店は、中井商店街の一角、大江戸線の駅のすぐ隣りにある。
店舗面積は17坪。雑誌やコミック、文庫の新刊が一通り揃い、文芸書やビジネス書や児童書などもちゃんと置かれている。
いわゆる町の書店だ。常連客が8割、雑誌の定期購読や取り置きが気軽に頼める店。自分たちの生活圏にふつうにあるお店、だ。

そうした基本を押さえつつ、この店の品揃えはこの規模にしてはちょっと珍しい。
入り口入ってすぐのところで、店オリジナルの「とにかく笑えればフェア」をやっていた。この規模でこういうフェアをやっていること自体珍しい。並んでいる本は「試験に出ない英単語」とか「おかんメール」とか「インドなんて二度と行くか!ボケ!!ーーでもまた行きたいかも」とか綾小路きみまろの本とか。サブカルからノンフィクション、エッセイまで、さまざま。
「バイトの子に『何かやって』と頼んでやってもらったんですよ。動きは、まあまあってとこかな」
飄々と語る伊野尾宏之店長。
レジ前の目立つエンド台は文芸が置かれているが、「火花」とか「ナイルパーチの女子会」とかどこの書店でも推してる本もあるが、エンド台の特等席(手前の角の部分)には筒井康隆「世界はご冗談」と麻耶雄嵩の「あぶない叔父さん」。うーむ、どういう基準なんだろう。この規模のお店でこういう平積は見たことがない。
「棚の作り方は、趣味ですね」
あっさり伊野尾店長は言う。
趣味ですか、そうですか。
まあ、そう言いながらも売れないものは置けないので、そういう在り方を支持する常連が多いということだとは思いますが。
店の真ん中の棚にはビジネス書や社会関係の本。ここでもミニフェア状態。たとえば田房永子とか北原みのりとか、タイトルつけて括るのはちょっと難しいが、伊野尾さんに言わせると、
「ちょっと前から増えている新しいタイプのジェンダー論、世間一般に女性がどのように見られているかを女性の側から描いたもの」を集めているのだとか。
こんな具合に、町の本屋でありながら町の本屋らしからぬくすぐりがあちこちに仕掛けられたお店なのだ。

また、この店はこの規模でありながらイベントも行う。「本屋プロレス」と題したイベントでは、書店内を舞台にプロレスラーが戦うという、どこか漫画のような設定を現実のものとして行ったし、「本屋野宿トークショー」というイベントでは、野宿についての対談のあと、この本屋の隣(中井商店街の一角!)で有志が実際に野宿するという、楽しいんだか辛いんだかわからないことをやっている。
売り上げのためだけでは、きっとこんなことはやらない。
店主の伊野尾さんが面白いと思うことを、現実化させているのだろう。チェーン店ではできない、個人店主だからこそこうした破天荒なイベントを軽やかに実現できるのだ。
こうした例を見ると、書店にはまだまだいろんな戦い方がある、と思って嬉しくなる。

この伊野尾さん、もとから本屋をやろうと思っていたわけではないらしい。
「大学を卒業したら、プロレス雑誌の記者になるつもりだった」
という。この店自体は、昭和32年12月25日に伊野尾さんのお父さんが創業された。家業が本屋だったわけだが、店を継ごうと思っていたわけではない。実際、プロレス記者の選考試験にも応募して、最終面接までは通ったそうだ。
しかし、そこで落とされ、就職する気にもなれず、フリーターをしている時に父がバイクで転倒して骨折。配達ができないということで店を手伝うようになる。そうこうしているうちに、大江戸線が通ることになって敷地の一部が削られることになり、ビルを建て替えることになる。そしてビルが完成した99年から伊野尾さんが二代目店長として店を切り盛りすることになった。自分で積極的になろうと思ったわけではなく、自然な流れで本屋の主人に納まった。そうして本屋を始めて思ったことは、
「それまで親が『本屋は儲からない』と言ってたけど、本当に儲からないんだな、と実感しました」
とは言うものの、本屋の仕事自体は楽しい。
「いち早く新しい本を知ることができる。取次ぎから届く箱を開けて、どんな本かチェックすることができる」
というのが、やはり一番に思うこと。そして、それを「自分の趣味で」並べられることも楽しい。さらに、
「出版社に直接自分の意見を聞いてもらうことができる。これがたとえば文房具とかであれば、小売側がコメントを求められることはないでしょう」
それに、こうして取材されたりする機会も多い。伊野尾書店のようなユニークな書店は注目度も高い。そこもちょっと虚栄心が満足されるところだったりする。

しかし、こうして最近本屋のことが雑誌やテレビなどのメディアに取り上げられる機会が増えたのは、
「本屋というものが非日常になったからでしょう。自分の生活の中にあたりまえにあって、しょっちゅう行く場所であれば、かえって目に入らない。本屋が少なくなって、わざわざ車に乗っていくような場所になったから逆に意識されるようになったのでは」
なるほど。確かにそういう面はある。大型書店の出店は増えているが、伊野尾書店のような町の書店は減っていく一方だ。そこに危機感を覚える人たちが多いから、雑誌や新聞などで本屋特集が組まれることが増えたのだろう。
しかし、そうは言っても、伊野尾書店が注目されるのはそんな感傷からだけではない。町の本屋でもこんな戦い方ができる、ということを積極的に見せているからではないだろうか。根っからの書店員とはちょっと違う伊野尾さんだからできる発想や行動力は、きっとこれからも多くの業界関係者に刺激を与え続けるにちがいない。

ところで、この伊野尾書店、業界関係者だけでなく、ジャニーズの平成ジャンプファンにも密かに注目されていた。「戦う!書店ガール」にも出演している伊野尾慧くんと同じ名前の書店だからだ。映像化が決まってから、ここで「書店ガール」を購入し、伊野尾書店のカバーをかけてもらうというのが、伊野尾くんファンの間で流行っているらしい。
「名前が同じなので、僕も伊野尾慧くんを応援しています」
とのことです。ファンの方はぜひこちらのお店を訪ねてくださいね。

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けやき堂書店(東京都国分寺市)

さて、久しぶりの投稿です。
本屋には相変わらず行っているのですが、最近ではツイッターだのフェイスブックだの、手軽な方に流れたりして。
でも、久しぶりに、こちらで書きたい店が出てきました。
国分寺の、けやき堂書店。
北口徒歩2分、駅前再開発で立ち退くことになり、そのまま閉店することになったそうです。Photo
この店を知っている人は「え、なぜあの店を」と驚かれるだろうと思います。ここ数年は、エロ本専門店のようになっていましたから。ほんの10坪ほどの、活気のない店でしたから。
だけど、私が最初に足を踏み入れた時はそうではなかったのです。

それはもう三十年も前のこと。
駅前のその店は、小さいけれど、妙にマニアックな漫画や同人誌が置いてある店でした。
その頃は、「宇宙戦艦ヤマト」の突然のリバイバルヒットを発端に、空前のアニメブームが巻き起こった頃でした。いまでこそアニメや漫画は日本を代表する文化だ、などと言う人もいますが、当時は「大学生がアニメや漫画を見るのはけしからん」という見方をする人が多数だった時代です。アニメイトもなく、けやき堂のようにマニアックな漫画を置く店は少なかったのです。
それで、つい店主に「面白い本が置いてありますね」などと話しかけたのだろうと思います。もう、三十年前のことですから、記憶は定かではありません。でも、それで、その店主が大学も所属クラブも先輩だ、ということを知ったのでした。
それで、話しが盛り上がり、国分寺に行くとその店を訪れ、いろいろ話し込んだりしたのでした。
でも、大学卒業と同時に国分寺とは縁がなくなり、その店を訪れることはありませんでした。

そして、次に訪ねたのは、六年ほど前のこと。ひょんなことから国分寺の小さな会社に勤めることになり(一年経たずにそこをリストラされましたが)、国分寺界隈をうろうろしている時に、この店がまだ存在するのを見つけたのでした。
その時には、もうエロ漫画が主体の店になっていたと思います。それでも、まだそこにあるのが嬉しくて、思い切って店主に「学生時代、ここに来ていたのですよ」と話しかけ、「ああ、そうですか」なんて言われたものでした。

そうして、三年ほど前にこちらに引っ越してきて、北口に行くたびになんとなくここを気にはしていました。でも、あからさまにエロ雑誌のポスターが貼ってあるこの店に入るのは気が引けました。妙に寂れた雰囲気が、人を寄せ付けない感じもありました。
それで、そのまま寄らないうちに、つい先週、閉められたシャッターの上に「閉店しました。長い間ありがとうございました」という張り紙を見たのです。
場所的に、北口再開発で立ち退きを迫られたのだろうということはわかりました。こんなことなら、挨拶しておけばよかったな、と後悔しました。
そして、昨日、たまたま前を通りかかったところ、シャッターが開いているのを見つけました。
開いているなら、もしかしたら店主がいるかもしれない。
思い切って中に入ると、そこは電気も点いておらず、瓦礫だの本の残骸だの、酷い状態でした。そして、暗い店の奥から、なつかしい顔が出てきました。
「ここは昔、何度か来たことがあるんで、なつかしくて寄ってみたんです」
そう言っても、店主は思い出してはくれませんでした。
「すみません、僕は人の顔を覚えるのが苦手で」
そうして店主は、名前も名乗らない私にいきなり、
「紙の文化はもうおしまいですよ。少なくともうちのような町の本屋はやっていけない」
と、語るのです。
「小説とか漫画はまだいい。だけど、雑誌はもうお終いですね。みんなネットがあれば雑誌はいらないしね。もうちょっと早く業界から足を洗っていれば、こういう状況を知らずにすんだかもしれないけど」
やり場のない怒りとか困惑に溢れた声でした。
「昔、ここは漫画とか同人誌が多かったでしょう。最近ではエロ本とかが主流になっていて、ちょっと近づけなくなってたけど」
私がそう言うと、後ろめたそうに、
「やりたくてやってたわけじゃないですよ。生活しなきゃいけなかったから」
それを責めるつもりもないし、それが悪いとも私は思いません。
「でも、よく持ちこたえたじゃないですか。再開発までずっと続けてこられたわけですから」
そう私が言うと、ようやく店主は笑みを浮かべました。
「40年前にこの店を始めた頃、まだいまみたいに漫画が広がってなくて、僕は漫画が小説や詩や映画にも匹敵するジャンルになる、と言ったら、みんなに笑われたものです」
そういう志でこの店を始めたのだ。だから、ああいう品揃えだったのだ、と30年前のこの店を知ってる私は納得します。
そして、そういう志で始めた店が、こうして無くなってしまうことに胸が痛みます。
「40年、お疲れ様でした」
私が言うと、
「これからは、旅行しますよ。いままでできなかったから」
嬉しそうに店主は微笑んだのでした。

長く続く店というのは、町の風景と同化して、あるのが当たり前になる。そして、それが無くなって初めて、そこが大事な場所だった、と思い知る。
私にとって思い出深い店がまた一軒、なくなりました。
でも、筒然、シャッターを下ろすのではなく、駅前再開発まで持ちこたえてくれてよかったと思う。最後に挨拶が出来てよかったと思う。
さよなら、けやき堂。
町の景色が変わって新しいビルが経っても、忘れないよ。そこにオレンジ色のビニールの屋根の古ぼけた店があったことを。
私にとってのなつかしい国分寺を象徴する店があったことを。

長い間、ありがとう。

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No,131 文教堂書店中山とうきゅう店

そもそも中山という駅を知らなかった。横浜線って、どこを走ってる路線だっけ。Dscn0103
なんてところになぜ足を運んだか。
前回の紀伊國屋横浜店に行くついでに、もう一軒くらい横浜のお店を周ろうと思ったのだ。
この店を選んだのは、ツイッターでこちらの山口さんと何度か会話して、ユニークな方だな、と思っていたから。なんとなくの勘ですね。ええ。
このブログ、そんな感じの行き当たりばったりでお店を選ぶことが初期には多かったのだけど、ここのところ東京にいることもあり、ガチな選び方になっていたので、息抜きしたくなったんです、はい。

で、来てみたものの、中山は遠かった。神奈川ではどんな位置づけなのでしょう。東京でいえば国分寺くらDscn0067 い?それとも多摩ニュータウン?
「いわゆる郊外型のお店ですよ。文教堂っぽいというか。本部一括で仕入れているし、がさがさした店です」
とまあ謙遜だか投げやりだかわからないような紹介から入る山口さん。で、写真を撮りたいと頼んだら、右のようなポーズを取るし。ツイッターから想像するイメージとそんなに違わない。ちょっと曲者な感じ。
100坪くらい(?)のお店は確かに文教堂っぽい。駅前のショッピングセンターの中にあり、家族連れがよく行くお店なので文芸よりも実用書やコミック、児童書が充実している。ベストセラーが目立つところに置かれている。ジャンル別著者のあいうえお順に文Dscn0065 庫や本が並び、誰にでもわかりやすい棚。通路が広く、棚があまり高くなく、店内がすっきり見渡せるのも文教堂らしいところ。
ともあれ、口ではそう言いながら私を歓迎してくださってる証に、平積みになった「書店ガール」にPOPが付いている。そのコメントが面白い。
「自分も悪役なのだろうか。それとも、悪役に利用された挙句、途中で舞台から消える端役なのか(中略)困難を武器に変え巨人に立ちDscn0066 向かう現代のダビデに捧ぐ1冊!」
中略の前は拙著からの引用だ。今回は書店員さんのコメントやPOPをいくつもいただきましたが、ここを挙げた人は初めてですよ。それに「現代のダビデ」というのも独特な比喩。ほかにはない、山口さんらしいユニークさだ。
「実はこれ、リバーシブルなんですよ」
と、山口さんがPOPを裏返す。こちらにもコメントがある。
「お仕事がんばっている女子・書店や出版業界が気になるアナタ・本が大好きな方々、ぜひ読んでみてほしいです。元気がでます。勇気もでます。書店員いちおしの一冊です」
こちらは正統派POPのお手本のような出来。それに、ほんとに気に入ってくださったというこDscn0102 とが伝わってくる。著者としてはほんとに嬉しいPOPだ(PHPさん、ぜひどこかで使って下さい!)。
こちらのコメントを書いてくださったのは、パートの女性。児童書担当の方だそうだが、かなりの出来だと思う。ほかにも文芸本のそこここに手の込んだPOPが見られるが、こちらはやっぱりパートの方の作で、本屋大賞の投稿の常連の方らしい。なかなか人材豊富だ、中山とうきゅう店のパートさん。
それにしても、リバーシブルという発想が面白い。やるな、山口さん。

さて、児童書を担当している山口さんの棚を見せてもらう。
「文教堂だからベストセラーは入りやすいし、商品知識がなくても販売できるんですよ」Dscn0074
などと、またまた斜に構えたような説明をされるが、名作物売り場の棚を見てびっくり。まるで中原ブックランドTUTAYA小杉店のように、棚と棚の間の狭い隙間にテープが貼られている。
「完訳版のススメーー名作はだんぜん「完訳版」がオススメです。「要約版」は読書に慣れてない子には向いていますが、本来の物語を短くしてあるため、どうしても本来ある物語の力を失ってしまいます。名作は長くて読むのがたいへんと思われるかもしれませんが、ぜひ「本物の物語」にふれてみてください。きっと自分に大切な一冊に会えますよ」
うわー、なんて愛の溢れるコメント。
「この辺の本を売りたくてやってるけど、あんまり関係ないですね。なかなか売れませんよ」Dscn0084
なんて醒めたようなことを言いながら、なんだ、山口さん、やっぱり熱い人じゃない。さらにフェアコーナーを見ると「さんぽに出掛けたくなる絵本」というユニークなテーマで絵本を集めている。ひとつひとつ丁寧なコメントが書かれたPOPつきだ。
「出版社のセレクトではなく自分たちでフェアをやった方が動きがいいし、商品知識もつきますから。でも、手間のわりには売れゆきは伸びないけど。でもまあ仕掛けた本としては『ほげちゃん』(偕成社)がそこそこ行きました。文教堂チェーンでも1,2位になるくらい売れたかな」
「ほげちゃん」は目立つところに面陳で飾ってある。ぬいぐるみも併せて置かれているし、確Dscn0087 かに手に取りたくなるような表紙だ。

さらにユニークなのは、棚ざしの絵本が「1才6ヶ月~2才6ヶ月くらいまでの絵本」という具合に、年齢別に分けてあることだ。
「この分類は好評です。意外とお客様はどういう本がいいかわからなくて迷ったりされるようなので」
なるほど。大人の物ばかりを見ていると気づかないことだが、子供は一歳違うと理解力がぜんぜん違うから、その年齢に見合った本を与えるというのは大事なこDscn0093 とだ。児童書の場合は作家別に並べるよりずっと親切かもしれない。
ほかにもおすすめ本についてのコメントを集めたコーナーがあったり、「あそぼうたのしい男の子のおりがみ」「おしゃれでかわいい女の子のおりがみ」(ナツメ社)の横に、その本を見て作った折り紙の見本が展示されていたり。

児童書とはちょっと違うが、コミックの「ワンピース」売り場は全巻揃いだけど、売り場には本Dscn0097 はなく、巻の番号が書かれた紙が置かれている。それを持って、カウンターで引き換えてもらう方式。万引き対策で智恵を絞った結果だ。人気の高い「ワンピース」は新古書店でも高値で買い取りされるので、万引きに狙われやすいアイテム。それだけでもこうしてガードするというのは賢いやり方だ。

いいじゃん、文教堂中山とうきゅう店。
正直、郊外店というのはどこへ行っても同じだと思っていた。本部一括仕入れで、売れるものDscn0099 だけを置く。文芸よりも実用書メインで、凝った棚や変わった本は存在しない。
ぱっと見、この店もほかと大差ないと思っていた。
でもそれは間違いでした。どんなお店でも頑張っている人はいるし、工夫しているところはある。
そんな思いを新たにする店でした。
これだから、本屋は行ってみないとわからない。

本屋めぐりはやめられない、そう思うのはこんな時です。

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No.130. 紀伊國屋書店横浜店

こちらの店は横浜そごうの7階にある。その立地がまず魅力的だ。エスカレーターを上がってDscn0040 7階に着くとまずは無印良品の店があり、続いてロフトがある。素敵な雑貨の数々がこれみよがしに存在を主張する。立ち止まりたい気持ちをぐっと抑えて歩いていくと、突き当たりにこの店が現れる。
店に一歩入った途端、それまでの雑貨を忘れる。
楽しい。
すてきな本たちが手招きして私を呼んでいる。
そう思わせるのは、この店の特殊な構造にある。
入口から10メートルもしないところに大きな壁があるーーというのは目の錯覚で、実はこれ、ビルを支える大きな柱。店のど真ん中にこの柱があり、それをぐるりと取り巻く形で売り場があるのだ。
本屋としたら、難しい構造だと思う。お客様としたら、入ってすぐに行き止まりになるわけだかDscn0041 ら。
しかし、逆に言えば、この店に入ってくるお客は必ずこの壁を見るということだ。だから、この店は壁に面陳できる棚を設置し、そこに一番の売れ筋商品を置いてある。店名の看板の下には「KINOビジョン」という店の一押し本。それを囲むように今週のベストセラー。売れ行き良好書。それも、文芸だけではない。ビジネス書や文庫、新書。それに実用書までも。
つまりこの壁をひと目見れば、いま日本で売れている本はこういうものだ、というのがわかる仕掛けになっている。店の構造の難しさを逆手にとったうまい見せ方だと思う。もちろん、Dscn0043 POPや書評の切り抜き、著者POP、さらには壁に備え付けられたモニターの映像が本をサポートしている。本好きならテンションが上がらないはずがない。新刊書店の楽しみ方はいろいろあるが、話題の新刊本に出会える、これが一番だと思う。このスペースは、そのお楽しみをぎゅっと凝縮した感じだ。

そして、棚から視線を落とすと、壁を囲む棚や前の平台やワゴンが目に入ってくる。こちらも、話題の本がいっぱいだ。おお、「窓のむこうのガーシュウィン」のサイン本がある、一冊買っていこう、などとはしゃいでいると、その中に拙著「書店ガール」を平Dscn0042 台で発見!文庫売り場のとっつきで、三面展開の書店POPつき!
わーん、嬉しい。もしかしたら、私が来るというので気を遣ってくださったのかもしれないけど、ここに置いてもらっていると、売れてる本って感じがしてどきどきする。

そう言えば、以前横浜会(横浜近辺の書店員や版元関係者、作家が集まって、交流を深めるための呑み会)があった時、作家仲間たちにここに連れてこられた。みんな店の奥の文芸書売り場には行かず、この辺りの棚だけをじっくりチェックしていたっけ。その時は気づかなかったけど、ここに新刊が置いてもらえているかどうかは作家にとっては世間の評価のバロメーターになるんですね。そりゃ、気になるわ。ーーって、その頃はちょうど新刊のない時期だったので、なんでこんなときにみんなはわざわざ本屋に来るんだろうなどとお気楽に思っていましたが。

で、この話題書コーナーの文芸書を担当しているのが、川俣めぐみさん。横浜会の幹事のおDscn0032 ひとりでもある
「こちら、デパートの中ということで、幅広い年齢の方がいらっしゃいます。昼間は女性が多いのですが、夜は近くに大きな企業もありますし、サラリーマンの方が多いですね」
見るからに優しい雰囲気の方だが、しゃべり方もおっとりしている。癒しオーラが出ているような感じの方である。
「店の構造が円を描くような作りになっていますから、それぞれのコーナーでお客様が引っ掛かりを感じていただきつつ奥に導くことができるように、と考えてディスプレイしています。急ぎのお客様は入口近辺だけチェックされるのですが、じっくり見てくださるお客様の方が多いですね」
それぞれコンパクトにまとまっているので、飽きる間もなく次の売り場が現れる。そして、目当Dscn0044 ての文芸売り場は料理本や地図、雑誌売り場の奥になる。文庫は入り口のほぼ反対側だ。人気のあるこうしたジャンルの売り場を奥にすることで、そこに行くついでにほかのコーナーも自然に目に入るようにという計算が働いているのだ。
そして、文芸の奥には楽譜のコーナーという不意打ち。文芸のお向かいは芸術のコーナーだ。こんなところにこんな売る場が、という驚きがあるから、ついつい棚をじっくり眺めてしまう。店の規模は440坪。決して大きくはないが、ほかの紀伊國屋書店と比べても、お客の滞在時間が長いというのも納得だ。

さて、文芸の平台では「小説で読む絵画と音楽」や、本屋大賞を獲ったばかりの三浦しをんDscn0047 さん、貫井徳郎さんのフェアを開催中だ。棚の方は、著者別のあいうえお順に並んでいる。
「入り口の話題書のコーナーでいろいろ展開しているので、こちらの棚の方は検索性を重視したシンプルな並びになっています」
店の一番奥には学習参考書や児童書があり、そこから店の左側へと回ると専門書の売り場へと転じる。専門書では、医療関係の本の充実ぶりが目を引く。
近くに大きな病院があることもあり、またそごうの顧客には医者が多いということもあって、医Dscn0057 療関係の本がよく動くのだという。平台にも、看護関係のテキストがいろいろ並んでいた。

専門書売り場は正直、ちょっと苦手だ。それほどたいした読み手でないということもあるし、歴史とか一部のジャンルにしか興味がないからだ。だが、この店は結構、面白かった。ちゃんと専門書売り場としての体裁を保ちつつ、硬くなりすぎないようにという工夫が随所にされている。たとえば教育関係も教師向けの専門書の横に親を対象とした新書を並べたり、精神世界のコーナーにスピリチュアル系のカードを置いたりと、専門外の人間も思わず立ち止Dscn0058 まるような仕掛けがある。
そうして、店を一周し終わるあたりで再びフェア・コーナー。タロット・カードフェアと雑誌「太陽」のフェアが開催されていた。最後の最後に、見て楽しいコーナーがどん、と来た。最近「太陽」は見掛けないな、とつい取材を忘れてバックナンバーを見入ってしまった。

そうして、一周し終わったあとに、ブックヤードで川俣さんに自身のお話を伺った。
川俣さんはこの店のオープン直後からアルバイトから始めた。
「いろいろバイトを経験したのですが、本が好きでここでバイトを始めていつのまにか十年Dscn0060 経ってしまいました」
本が好きで本屋に行くことが当たり前の日常だったので、雑貨よりも何よりも本屋で働くことが身近なことだった、という。
実際に書店員になってみて、やりがいを感じるのは、自分が薦めた本を面白いと言ってもらえること。ちょうど私が訪れていたときも、三浦しをんさんの「舟を編む」を読んで感動したお客様が、ほかに面白い本はないか、と川俣さんに訪ねられた。直木賞受賞作の「まほろ駅前多田便利軒」と「風が強く吹いている」をお薦めしたところ、その方は両方ともお買い上げされた。おそらくこの店の典型的なお客のタイプだろう。キャリアウーマンらしい、知的で裕Dscn0048 福な感じのお客様だった。書店が推薦した本を買う冒険心と金銭的ゆとりがある。
「この店はフェアなども反応がいいですね。いくらお薦めしても売り上げに繋がらないとやっぱり辛いと思います。こちらの店が新しい本を売りやすい環境にあるのは確かですね」

 印象に残る仕掛けを聞いたところ、東川篤哉さんの「謎解きはディナーのあとで」、という答えが返ってきた。本屋大賞を受賞した超有名な作品だが、川俣さんはこれがブレイクするずっと以前、出た直後から推していたという。
「小学校の頃、赤川次郎さんのミステリを読んでいたので、これは近いものがあると思いました。ミステリの初心者でも楽しめるものなので、ここから入ってくれるお客様があるといいな、と思って。それがだんだん売れて、本屋大賞を受賞して大きくブレイクして、というのはやっDscn0062 ぱり嬉しかったです」
しかし、自分の趣味だから推すということはあまりない。もともとは森博嗣さんのようなミステリが好きだったのだが、本屋で働くようになってからは、純文学だろうとエンタメであろうと、おもしろければいい、と思うようになったという。
そういう話はほかの書店員さんにも聞いたことがある。面白さは人それぞれ。小さな町の書店ならともかく、紀伊國屋のようにたくさんの人が訪れる全国チェーンの店ではあらゆる人のニーズに応えなければならない。だから、自然とそうなっていくのだろう。
「いま、ツイッターで書店員だちが『きみはいい子』を盛り上げようとしています。そうやってみんなで何かを推すのもいいけれど、自分でいいと思う本を見つけて『私はこれ』と打ち出して、この店ならではのヒットを作りたいですね。版元のフェアだけでなく、オリジナルのフェアをDscn0033 いつも何かしらやっていたい」
そう語る川俣さんは、遠くの店はチェックするが、近隣の書店はあまり見ないのだそうだ。
「だって、よかったら真似しそうじゃないですか。同じようなフェアになってしまったら、近くに書店がある意味がない。うちはうちのやり方でやらなければ」

おっとりと話されるのでさりげないことのように聴こえるが、実は熱い方だ(ブログで読む分には、その熱さだけが伝わるかもしれないが)。その熱さの表れが、たとえば横浜会のような大Dscn0034_2 きなイベントの仕掛け人になってしまうということだろう。横浜会は作家の大崎梢さんと川俣さん、同じ紀伊國屋系列の某書店員さんらが中心になって始まった会だ が、最初から6,70人ものお客を集める盛大なものだった。川俣さんのこのおだやかな人柄に惹かれて集まった人も少なくないのでは、と思う。今回、ふたりきりでお店を周らせてもらったが、いっしょにいて気持ちのいい方だった。楽しい空間で、気持ちのいい方にあって、こころに風が通り抜けるような時間だった。

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No.129 啓文堂書店多摩センター店

リアル書店ガール・シリーズ第2弾。Dscn0006
ここ多摩センター店には西ヶ谷由佳さんがいる。彼女と知り合ったのは、吉祥寺書店員の集い「吉っ読(きっちょむ)」のイベントでのこと。わざわざ多摩センターからいらっしゃるなんて熱心な方だな、と思っていた。その後も立川のオリオン書房のイベントでも姿を見掛け、西荻でやった私のイベントにも来てくださりーーと、立て続けにお会いすることになった。
そのひとつとっても、西ヶ谷さんが研究熱心な方だとわかるが、彼女の活躍はそれだけに留まらない。クロネコ通信というフリーペーパーを発信しているし、本屋大賞でも今年の賞のプレゼンターを務めるという具合に、生き生きと仕事をされている。
実は拙著「書店ガール」も啓文堂チェーンでは最初から推してくださるお店が何軒かあるが、それはこの西ヶ谷さんの応援のおかげだ。吉祥寺店や荻窪店の方は「西ヶ谷さんに頼まれてゲラを読んだのが(大きく展開する)きっかけ」とおっしゃっていた。
そんなふうに縁も恩もある西ヶ谷さんのお店、これは足を運ばないわけにはいかないでしょう。で、4月の某日、中央線と京王線を乗り継いで多摩センターへと出掛けていった。

青い看板の啓文堂。都下の人間にはお馴染みのこのチェーン、京王書籍販売株式会社といDscn0008 うのが正式な会社名なんですね。知らなかったよ。つまり鉄道やデパートの京王グループの一員ということで、京王線沿線に店が多いのはそれが理由(最近では中央線にも進出して、荻窪、吉祥寺、なにより私には馴染み深い武蔵小金井にもお店があります)。そして、どこも駅近の一等地にある。
多摩センター店も、京王線多摩センター駅の改札口からほんの数メートルのところだ。
「うちは駅前のお店ですから、通り過ぎる客の足をどうやって止めさせるか、というのが課題なんです」
という西ヶ谷さん。なるほど、駅の改札口から一直線だから、通路替りに店を通るお客もいるだろう。そうしたお客にアピールするように、大きなコーナーや目立つPOPが展開されている。
改札の方からも見えるのは、本屋大賞「舟を編む」と東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇蹟」(角川Dscn0004 書店)それに「歴史と文化を訪ねて~京王文化探訪 二十年の歩み」(京王電鉄株式会社)「京王電鉄まるごと探見」(キャンブックス)の4つが置かれた島。本屋大賞と東野作品と地元本。いまのこの店のイチオシがひと目でわかる。

この中でも、西ヶ谷さんにとって「舟を編む」は思い入れのある作品だ。発売後、すぐに買って読んだときからすごく気に入って、猛烈なプッシュをした。フリー ペーパーを書いたり、自社のHPで紹介したり、ツイッターでもこの作品のことを広くアピールした。その実績が認められて、今年の本屋大賞の式典で三浦さん に記念品を渡Dscn0007 すという大役を仰せつかることになるのだ。
しかし、この「舟を編む」、いまでこそこんなに派手な展開が出来るくらいたくさん入荷しているが、最初はわ ずか5冊しか入らなかったそうだ。駅前の好立地というものの、ここの規模は260坪と大きくはないし、初版は大部数ではなかったから注文した数を満数入れて もらうことはできなかった。そもそもこちらの店の客層の中心はサラリーマンと学生(大学があるので)、多摩センターの住人の中心である年配Dscn0021 者だ。「舟を編 む」のど真ん中の読者層ではない。
にもかかわらず、こちらでも版元が注目するほどの売れ行きになった。ひとえに、西ヶ谷さんの熱意の成果だ。POPひとつとっても、愛が伝わってくる。
「売ろうという気持ちがあると、違います。『スコーレNo.4』も最初の入荷は2冊とか3冊でしたが、そこから300冊近く売ることができました。POPとか展開とか、気持ちを入れてやると売れるものなんです」
まさにリアル書店ガールの面目躍如、だ。そんな西ヶ谷さんだから、拙著「書店ガール」に共Dscn0015 鳴するところも少なくないらしい。力を入れて売ってくださっている。文庫新刊で目立つところに展開されているし、書店員 POPに、フリーぺーパーもある。著者としたら、どきどきするほど嬉しい展開だ。ありがたいことに拙著は啓文堂の他店でも力を入れてくださっているし、ス ペース的にはここ以上のところもあるが、それでもここ多摩センター店が啓文堂チェーンでは一番の売り上げだ。それは西ヶ谷さんの熱がほかの店より高いから なんじゃないか、と思うのである。
あるいは、ここが仕掛ける本は面白いという信用が、静かに客に浸透しているからなのかもDscn0017 しれない。

ほかにもここの店内で目立つのは「啓文堂書店ビジネス書大賞候補作フェア」のコーナー。啓文堂チェーンでは、文芸書、文庫、雑学文庫、ビジネス書、新書の各ジャンル担当が推薦した本を、候補作としてコーナーを作って各店舗で並べる。そして、その中で一番売り上げが高かったものを、啓文堂〇〇大賞、と銘打って、全店で強くバックアップしていくのだ。越谷オサムさんの「陽だまりの彼女」(新潮文庫)が、いまならどこの啓文堂の文庫売り場でも目に付きますよね。あの黄色い地に女の子のイラストの表紙は、啓文堂のポスターで覚えました。
「陽だまりの彼女」もそうですが、ここの受賞作候補作というのは、ほかの賞での受賞歴がない、ここならではのものもあるから興味深い。ビジネス書については私は正直あまり興味がないのだが、そういう客でも手に取り易いものがちゃんと選ばれいてる。今回のラインナップDscn0011 「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」とか「すっきり!わかりやすい!文章が書ける」とか、タイトルだけでも心惹かれる。それに、「ずっとやりたかったことを、やりなさい」という、私の愛読書のひとつも選ばれていて、ちょっと驚いた。ビジネス書というより自己啓発本で、スピリチュアル的な要素も入っている。こういう本もチョイスに入る幅広さ。おまけに、2001年初版の本なのだ。昔の本の掘り起こしというのも、この賞の目的なのだろう。

ほかにも店内では実用書で「漬物・保存食フェア」をやったり、児童書の「ノンたんいっぱい集めました」フェアをやっていたり(ノンタンについては、5日にノンタンが来店するイベントもある)。この店が広げたいファミリー層のお客を意識しての展開らしい。その一方で、本好きのマニア向け大型本「世界の夢の本屋さん」を、奥の平台でこそっと面陳していたりするこだわりが楽しい。これは間違いなく西ヶ谷さんの仕事だろう。
全体にPOPも多いし、わかりやすい、楽しいお店である。

「たとえば往来堂さんとかちくさ正文館さんのように、POPを立てず、棚の並べだけで見せるというやDscn0013 り方をうらやましいと思うこともあります。うちとは真逆のやり方ですね。だけど、そういう店とはそもそも立地が違いますから、うちで真似はできないです」
なるほど、本好きの西ヶ谷さんなれば、文脈棚に惹かれる気持ちもあるだろう。往来堂やちくさ正文館の棚は業界内でも評価が高いし、書店員の努力と研究の成果だから素晴らしいと思う。しかし、その地域で屈指の文教地区に位置し、規模的にもそれほど大きくない店だから成立することだとも言える。郊外の店でそれを真似することはできない。お客さんが検索に戸惑うし、複数の人間がひとつの棚を管理するようなシステムの店では、維持するのも難しい。
商 売における正解はその店その店で違う。ある店ではOKでも、ほかでは無理なことがある。駅前のこの店だから、やるべきことはほかにある。そして、そのやり方で売り上げが立っていれば、それ が正解なのである。

ところで、西ヶ谷さんは大学時代に生協の書店でアルバイトを始めて以来、ずっと本屋一筋。本屋の仕事の魅力はどこにあるのだろうか。
「自分で売りたい本を自分で考えることができることでしょうか。たとえば版元だったら作るまでが仕事ですけど、本屋は売って重版した、ヒットした。好きになった本を何十万部まで積みDscn0012 上げた、ということが嬉しいんです。いまの時代はツイッターで全国の書店員と繋がりがあるから、みんなでヒットを作る喜びもありますし」
なるほど、版元でも営業マンなら売る楽しみはあるわけだが、必ずしも自分の好きな本を選べるわけではない。仕掛ける本を探す楽しみが持てるのは書店員ならでは、だろう。

そして、これから西ヶ谷さんがやっていきたいこととしては、
「文芸と文庫と両方の担当になったので、これからはジャンルを問わずその両方を組み合わせたことをやっていきたい」
そして、「舟を編む」に続いて目論んでいるのは、
「沢村凜さんを売ろう運動です。日本ファンタジーノベル大賞から出た作家さんなのですが、Dscn0009 角川から『黄金の王 白銀の王』の文庫が出ていて(親本は幻冬舎)、それがとてもいいので、仕掛けて行きたいと思います」
角川からの文庫でブレイク、と言えば飛鳥井千砂さんの「タイニー・タイニー・ハッピー」(もとは小説すばるの連載)が記憶に新しい。沢村さんも、西ヶ谷さんたち書店員ガールの応援でどう広がっていくのか、楽しみである。

ところで、「いつからPOPで仕掛けて本を売ろうということを考え始めたのですか?」と西ヶ谷さんに尋ねたところ、「私が仕事を始めたときには、それが普通のことでしたから」とのお答え。
えっ、と思ったが、西ヶ谷さんは業界歴(アルバイト時代を含めても)十年足らず。実は「白いDscn0010 犬とワルツを」で書店員POPの存在が注目されたのは2001年頃なので、西ヶ谷さんが仕事を始める前である。当然、西ヶ谷さんはそれ以前の時代を知らないのだ。
「白い犬」の”事件”が、ついこの前のことだと思っていた私は、強烈なショックを受けた。
それ以降の世代が、いまの書店業界では中心的に活躍しているんだ。
自分で書いていてなんですが、はじめて「書店ガール」の主人公・理子の気持ちが身に染みました。
ジェネレーション・ギャップって、こういうことなんですね。
なんだか、しみじみしちゃいました。

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No,128 三省堂有楽町店

プロの営業マンであれば、この店は絶対はずせない。P4090560_2
ここ発のヒットも多いし、ここが日本一売った本というのも少なくない。売る力のある本屋なのだ。
私的には、三省堂大宮店にいたブンブンコこと杉山さんもいるし、付き合いのある実業之日本社からも近いので馴染み深い。
にもかかわらず、ここにはなかなか行けなかった。というか、ほんとは何度か行ってるのよ。 有楽町に行くついでに。
だけど、行くたびに客の多さに圧倒される。駅中の店と変わらない。書店員さんも忙しそうだP4090536_2 し、話し掛ける隙がない。こういう店は営業さんのフォローがない限り、顔は出さない方がいい。著者の訪問も頻繁にあるから別にありがたくもないし、下手な時間に訪問するとかえって迷惑がられる。
まあ、120数軒周った経験値が、そう思わせるのよね。何度か痛い目にもあっているし。

それなのに、営業さん抜きで訪ねることができたのは、横浜の出版関係者の集いである「横浜会」で、こちらの文芸担当の新井見枝香さんと知り合ったから。P4090555
「うちのお店にも来てください」
と、その場で言われて、さらにその後、メールでもそうおっしゃってくださった。
これなら大丈夫、社交辞令ではあるまい。そう思って、都下から大都会有楽町へと、いそいそと出掛けたのであった。

ここ、有楽町駅のすぐ前という好立地で、坪数は380坪。この店の知名度と実績から考えるP4090556 と、思ったより大きくはない。だが、スタッフのこだわりが店の隅々まで行き届き、活気あるものにしているので、広さ以上の存在感がある。たとえば一階の文芸のところで大きく展開されている東野圭吾さんの「ナミヤ雑貨店の奇跡」。タワー積み(って言うんでしたっけ?)にされた本の前には、木の牛乳箱と手紙の見本が。もちろん文中に出てくる悩み相談の手紙と、それを投函する牛乳箱を再現したものだ。文中に出てくるものと同じ木箱のものをわざわざ展示している。いまどきなかなか無いよ、こんな牛乳箱。雪印マークつきの本物。よく探してきたな、と思う。
フェア台以外にも、力の入ったPOPがあちこち立っている。文字だけでなく、イラスト入りのものも多い。有川浩さんの「三匹のおっさん」のおっさんとか、コミックの「すみれファンファーレ」のすみれ、とか。字だけのものより目立つし、作品の雰囲気や作り手の作品に対する愛情がほんわかと伝わってくる。とてもいいPOPだと思う。
これらは私を呼んで下さった新井さんの仕事だが、ほかにもこの店には文庫姫こと佐々木貴子さんというイラスト上手もいる。文庫姫は小学館の「STORY  BOX」に記事を連載しているが、それに連動した棚が2階の文庫売り場P4090544_2 ある。記事で紹介した小説を集めてコーナーを作っているのだが、目を引くのは文庫姫自身が描いたという自画像だ。ほんと、うまい。プロ並みだ。このレベルでPOPを作られたら、版元POPの在り方も悩むところだろう。
実際、文芸最大手の版元が現在、書店に送っている某人気作家の拡販パネルは、佐々木さんが作って店に飾っていたパネルをそのままコピーしたもの。パネル自体はもちろん素晴らしいが、版元のやり方には安易すぎる感じがしないでもない。ちゃんと宣伝部もある大手の版元が、自分たちが作るより書店員の作るものの方が素晴らしいと、そんなにあっさり認めてもいいのだろうか。

ともあれ、新井さんと、お昼休み中の佐々木さんにお話を伺う。 P4090557_3
まずは、このお店の特徴は、と聞くと、
「POPとかをがーっとつけていますし、パワフルな店だと思います」
と、佐々木さん。新井さんは、
「フレッシュさを大事にして、常に最先端の本を並べる本屋だと思います。時事ネタとか新し い話題に敏感なお客様が多いので、こちらも常に新しい本にアンテナを張っているようにしています」
なるほど、ここは日本有数の繁華街銀座の窓口でもあり、ビジネスの中心地・丸の内にもほど近い。だからただ多くのお客様が訪れるだけでなく、お客様の求めるもののレベルも高いのだ。だが、そうした店だからこそ、仕掛けたものに対する反応も敏感だ。いままでの仕掛けで印象に残ったものとしては、
「やっぱり飛鳥井千砂さんの『タイニー・タイニー・ハッピー』(角川文庫)ですね」P4090538
と、佐々木さん。作品を読んでイメージを膨らませ、フリーペーパーに登場人物6人のイラストをオリジナルで描いた。それが評判になり、『王様のブランチ』でも取り上げられたことは記憶に新しい。
「『ブランチ』の放映日には、一日で3桁売れました」
本の売れ数も凄いが、フリーペーパーの消化枚数の方それよりが多かったというから、その効果がどれほどのものだったかがよくわかる。
それにしても一日で3桁。ということは、この店に来る客の数は一日何人くらいなんだろう。
来店者の一割も買うわけじゃないから、千人ははるかに超えている。実質何%の人が買ったかわからないが、とにかく恐ろしい数だ。東京って、やっぱり凄い。
 
そんな話はともかく。
ほかに、佐々木さんが印象に残っている仕掛けとしては、
「柴田よしきさんの『小袖日記』(文春文庫)です。初めて仕掛けたものですが、版元からの口コミで全国に広がっていって、すごいな、と思いました」
新井さんが印象に残ったものも、
「相場英雄さんの『震える牛』(小学館)です。話題作ではないものを、初めて大量に取ったものです。これが売れたことは、自信に繋がりました」
初めての成功体験は、やはり印象に残る。そして、それがさらによい仕事をしようという意識に繋がるのだろう。
こちら仕掛け販売だけでない。フリーペーパー「ブンブンコ通信」やツイッターでの活発な発言でも業界関係者には知られている。売るだけでなく、発信力もある書店でもあるのだ。
「ツイッターの力は大きいですね。ほかの書店の方と気軽に交流できたり、情報を交換したりP4090549 できますから。いい本があれば、みんなで盛り上げることもできますし」
と、新井さん。「スコーレNo.4」(光文社文庫)のヒットを引き合いに出すまでもなく、いまやツイッターの効果はあなどれない。今年の本屋大賞の「舟を編む」や二位の「ジェノサイド」にしても、ゲラの段階で「面白い」という評判がツイッター上で立っていたことが売り上げに少なからず貢献しただろうし、拙著「書店ガール」の初速のよさも、ツP4090548 イッターの影響があるだろうと思っている。
そして、この店のスタッフはそのツイッターを楽しんでやっている。活発に発言しているだけでなく、文庫姫やブンブンコがほかの書店員に楽しげに絡んでいるのをよく見掛けるし、有楽町三省堂書店の公式アカウントも、たまに中の人の生の声が出ていて面白い。

そう、楽しんでいる、というのが、彼らの仕事全般に言えることかもしれない。飾りつけにしても、フリーぺーパーにしても、ツイッターにしても、お仕事のレベルを超えたこだわりだし、手の掛け方だ。それを苦に思うのではなく楽しんでいることは、売り場や作った宣材を見ればわかる。そして、その楽しさがお客にも伝わるから、売り上げの数字にも反映するのだろう。でなけりゃ、いくらテレビ効果だと言っても、一日3桁は行かないよ。
そんなふうに、仕事を自分の楽しみにまで高め、成果を上げられる人を私は素晴らしいと思P4090551 う。拙著の「書店ガール」というタイトルは、そういう人たちへのリスペクトを込めてつけたのだが、この店のスタッフは、まさにリアル書店ガールだ。

ただ、小説と違ってこの店のスタッフが生き生きと仕事できる理由は、人間関係の風通しの よさによるところも大きいと思う。新井さんの口から直接、佐々木さんの仕事を褒めるのを聞いたし、ふたりの杉山さんについての口ぶりも温かい。
実は保守的な体質の店では、一部の書店員が脚光を浴びることを好まない。仕事はチームでやるものだし、売り上げ的に は文芸より実用書やコミックの方が高いのだから、文芸の書店員ばかりが脚光を浴びがちな昨今の風潮を苦々しく思う書店員がいることも理解はできる。それが嫉 妬という形で人間関係を歪める場合もないわけじゃないが、この店はそういうP4090554_2 こととは縁遠いのだろう。でなければ、文庫姫棚なんて許されるわけがない。
むしろ、「書店員が前に出ることのメリット」を考えられる大人なスタッフが、彼らの仕事を後ろから支えているのだろう。若い人がその力を存分に発揮できるのは、店長以下中枢部のスタッフのやり方次第だと私は思うのだ。

最後に、これからの目標をふたりに聞いてみた。
「『書店ガール』に出てきた『私に聞いてください』というバッジをつけるのも面白いし、近くの学校と連動したフェアをやるのも面白いと思います。型にはまらない、地元密着のフェアを考えたいです。これからもいっぱい本を読んで、いろんな作品を売り出したい」
優しい新井さんは、著者にも気配りした嬉しいお答え。一方、佐々木さんは、
「密かに思っているのは、1万部越えの作品を作りたいってことです」
一瞬、数字が大きすぎて何のことかわからなかった。
つまり、1アイテムをこの店で累計1万部以上売ってみたい、ということだ。
1万部。
それだけで、小説の単行本の推定8割くらいの初版部数を超えていますぜ。
だけど、あながちそれが非現実的だと言えないのは、過去にこの店はそれを達成しているからだ。
「確か、『思考の整理学』(ちくま文庫)が累計でそれくらい売っていると思います。かなり難しP4090541 いことだと思うけど、私もいつかやってみたい」

いいねえ、この熱さ。それでこそ、リアル書店ガールだ。こういう人たちがいるから、この業界はまだやっていけると思う。話を聞いているだけで、こちらも元気になった。元気は移るのだ。私は足元軽く、スキップしたいような気持ちで店を出た。

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NO.127 リブロ吉祥寺店(東京都武蔵野市)

地元シリーズ第二弾、リブロ吉祥寺店。
さて、ここは私の本屋ライフにとっても忘れがたい大事な店だ。
「書店ガール」の舞台を吉祥寺にしたのも、この店があるから、というのも理由のひとつである。

前にも書いたと思うが、もともとリブロには思い入れが深い。私が初めて「東京の本屋」を意P4020430 識したのが、リブロ池袋本店の前身、西武ブックセンターだったのだ。受験で上京した際、なぜかここを訪れ、名古屋には全然、置かれていない(当時)ようなお洒落な本が集められているのを見て衝撃を受けた。図書館でしか見たことがないような本も、普通に売られている。
「やっぱり東京に出なきゃだめだ」
と、その時、強く思ったのである。
その後、志望校に合格し、東京に住むようになった。と言っても、住んだのは中央線のサバンナ西国分寺(当時)だったから、池袋まではなかなか行けない。吉祥寺が一番、身近な都会だし、ここリブロ吉祥寺店が生活圏内の素敵書店ナンバー1になった。家庭教師のアルバイトで週二回、吉祥寺に通っていたこともあり、その行きがけに、よくこの店を訪ねていた。貧乏学生なのであまり本は買えず、うっとり眺めるばかりだったけど。

大学卒業後は都心に住んだのでこの店の存在は遠くなっていたが、再びここが私の意識にP4020440 上るようになったのは小説デビューしてからである。
デビュー作「辞めない理由」の親本はパルコ出版から刊行された(文庫版は光文社)。そのため、パルコ内に多く店を持つリブロが売り出しに協力してくださった。なかでもこの吉祥寺店の矢部潤子店長(当時)が気に入ってくださり、ワゴンで展開してくださった。
その効果もあって、全国で一番「辞めない理由」を売ってくださったのは、リブロ吉祥寺店だったのだ。
「書店ガール」の親本である「ブックストア・ウォーズ」のネタを考えていたのは、ちょうど「辞めない理由」の営業をしていた頃。舞台を吉祥寺にしたのも、矢部さんのいるリブロがあるかP4020446 ら、ということが大きく影響している。

私がそんな話をすると、店長の栗田克明さんも、
「実は僕も同じです。はじめてリブロを知った時、衝撃を受けました。故郷は群馬なんですが、馬場の予備校に通うようになってはじめて池袋のリブロを見て、本屋の概念が変わりました」
栗田さんは私よりうんと年下だが、やっぱりそうなんですね。いまは多様化してお洒落な本屋P4020443 も増えているし、リブロという店もいろんなところに出店されたのでカラーが薄まっているが、つい10年位前までは、「お洒落な本屋=リブロ」だったのだ。
だから、栗田さんは就職試験についても、
「書店の試験はリブロしか受けなかった」
という。それほど、リブロという本屋の衝撃が大きかったのだろう。
しかし、それで最初に勤めたのは大阪の八尾店。郊外型のお店なので、リブロ色は薄かった。その後も転々として、こちらが5軒目。こちらは、リブロの前身のパルコブックセンターの1号店なので、リブロの中でも老舗である。そのため、リブロカラーがいまでも感じられる。栗田さんとしたら、最初に思い描いていた東京の書店のイメージに、ここは比較的近い店なのではないだろうか。

「書店ガール」に書いたのと同様、この店も平日と休日では客層が変わる。平日はお客様も年配の方が多い。午前中に早起きしてバスでこちらの店に来て、午後、バスで帰って行くというパターンだ。夫婦で月イチくらいで訪れ、山ほど買い物をして宅配便で自宅に配送される、そういう顧客もいる。
土日は近隣から吉祥寺に遊びに来る若者、パルコの中という立地条件から、とくに若い女性が多い。
しかし、そうした女性はもちろんだが、年配の常連さんにしても、「人とはちょっと違う本をもとP4020450 めていらっしゃる」のだという。たとえば、雑誌にしても「ブルータス」とか「Pen」が売れる。ファッション雑誌も、最近流行りの付録付きだけでなく、「palm maison」なんてとがった雑誌が壁一面に展示され、バックナンバーも平積みにされている。
もちろん、美大生やデザイン関係者も多い。それを象徴するように、
「うちは写真家のサイン会に人が集まるんですよ」
とのこと。リブロの面目躍如、である。

それから、店内を案内してもらった。エスカレーターで地下二階にあるこの店に降りてすぐのP4020431 ところにアート関係や洋書の売り場がある。いわば、リブロの顔というべき場所だ。
ここの飾りつけがいい。棚一列を使って写真を展示している。「ミュージシャンと猫2」という写真集の中身を、ポスターにして紹介しているのだ。坪効率を考え、少しでも本をたくさん詰め込もうとするのが普通の書店だが、こういう展示は嬉しい。写真集なのだから、中身を見せてくれるのが一番効果的だ。そして、こういう見せ方をした方が高額な写真集も売れるのではないか、と思う。

それ以外にも、ここのコーナーは面陳が基本になっている。「本屋は本のショールーム」といP4020433_2 うのは「書店ガール」にも書いた私の持論だが、こういう置かれ方をしてると、これだよ、と思う。本の特性は、書かれている中身の情報だけでなく物としての価値、つまり表紙のデザインとか版型とか紙の材質とか手触りとか匂いとか、そうした全てをあわせてできるものだと思っている。ことに、美術書とか写真集の類は、物としての価値の比重が高い。だから、表紙を見せて展示するのは正しいやり方だと思うのだ。
もちろん、スペースを食うことなので、すべての本屋でできることだとは思わないけれど。

その先の「趣味・生活」のコーナーには「日本のおまもり」のコーナーが。おまもりだけでなく、P4020437 日本の玩具の紹介本、こけし本も併せて展示されている。
お守りの写真を壁に貼るだけでなく、版元から借りたというセワポロロという木彫りの人形の展示も。ちょっと楽しいコーナーになっている。
ほかにもいろいろ工夫されたコーナーが目に付くのだが、たとえば「ローリーズファーム」のムックの横に、このブランドのシャツを飾ってみたり。
「このビルの上階に『ローリーズファーム』のお店が入っているんですよ。それでタイアップし たんです。ファッションビルならでは、ですね」

だが、一番びっくりしたのは、文芸書の奥のコーナー。「1Q84」の上に、「書店ガール」の大P4020441 きなコーナーが。
うわっ、。「1Q84」より目立っているじゃん。
ありがたいし、嬉しいのだけど、同時にびくびくしてしまう。日頃、自分の本のフェアなどあまり見たことがないので(どころか、1冊も置いてないこともままある)大丈夫だろうか、と思ってしまう小心な作家。

まともにそこを見られなくてささっと前を通り過ぎると、料理本のコーP4020442 ナーでなかしましほさんの新刊が出ているのを見てはしゃいだり、旅行本のコーナーでは栗田さんお薦めの関西の出版社エルマガジン社の作ったガイドブック「Meets」や「ひとりで歩く 京都本」を紹介してもらったり。
このエルマガジンの京都本、こちらの店は「るるぶ」とかより売れている。
関西にも長く住んだ栗田さんが太鼓判を押す内容の充実というのもあるが、やはりこの店には「普通と違う本」を求めるお客さんが多いからなんでしょうね。
たとえガイドブックひとつとっても、こだわりがある。

そんな店内が楽しくて、取材を忘れて一顧客になって楽しみました。
もちろん、「ひとりで歩く京都」はお買い上げ。「palm maison」の表紙の美少女にも惹かれたけP4020448_2 ど、お金が足りなかったので我慢する。銀行に行き忘れたので、財布に千円しか入っていなかったのだ。
でも、それがラッキーだった。もしお金があったら、いろいろ散在してしまっただろう。
自分、ファッションには興味ないのに、壁一面に美しくディスプレイされてたら、そら欲しくなりますがな。
ああ、楽しい。だけど、お金がいくらあっても足りないよ。
そう思いながら、そそくさと退散しました。
ここで好きなだけ散在できる財力と本棚の空間が欲しい。
ここに来るといつも思うことだけど、今回もまた思いました。

ところで、リブロでも老舗ということは、吉祥寺でも大型店としてはここが一番の老舗。
ということは、「書店ガール」に出てくるペガサス書店に一番近い店である、ということにいま、P4020444_2 気づきました。
昔からのいい顧客がついているとか、平日と土日では客層が変わるとか、考えてみれば小説に書いたことと似ている。
そうか、ここがモデルだったのか。
と言っても、あんなダメ書店のモデルと言われても全然、嬉しくないですね。
はい。失礼しました。

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No.126 BOOKS 隆文堂(東京都国分寺市)

西国分寺は私にとって馴染み深い土地である。大学時代の下宿の最寄り駅だったのP4020423_2 だ。当時は電車の本数も少なく(中央線の14時台は4本しかなかった)、駅の周りにはビルのひとつもなく、ひたすら寂しい場所だった。
今の西国分寺と言えば、駅近くに大マンション群があり、大きなスーパーやお洒落な店も出来て、すっかりベッドタウンの駅に姿を変えている。その西国分寺の駅ビルの二階にあるのが、この隆文堂。以前は府中病院の近くに路面店を構えていたそうだが、ここ駅ビルに移ってすでに20数年経つという。

エスカレーターを上ってひと目見た途端、「感じのいい店」だと思った。P4020421
店の横に広い廊下があり、その廊下に面した什器の背が低いので、店内が容易に見渡せる。風通しがいい感じがするし、入りやすい印象を与える。
ワンフロアで150坪くらいなので、全貌が把握しやすく、親しみやすい感じがする。
そういう外的な要因だけでなく、お客の視線を意識した棚作りをしていることを感じる。エレベーターを上って二階に上がってくると、フェアのスペースが目に入る。来店した時は「宇宙兄弟」をやっていた。そのポスターやPOPの向き、貼る高さが、エレベーターを上がってきた人の目につきやすいように計算されている。

店内に入ると、そこここにPOP。面陳が多いのも特徴といえるかもしれない。本屋大賞のP4020416 フェアのコーナーでは、平台でなく、あえて棚で展開をしている。それぞれの候補作の表紙が見やすいし、内容がわかるPOPも多く展示できる。飾られているのが目に近い高さだから、POPの文字も見やすいし。小スP4020417 ペースを逆手にとったうまいやり方だと思う。
飾られているPOPのほとんどは版元の作ったものだが、ふたつだけ手描きPOPを作り、さりげなくお店のオススメもアピールしている。ちなみに、手描きのPOPがつけられているのは三浦しをんさんの「舟を編む」と宮下奈都さんの「誰かが足りない」だった。
これらはさらっと見れば、見逃してしまう。とりたててすごいやり方というわけではない。普通の店よりほんのちょっと工夫し、ほんのちょっと手を掛けている。そうした息遣いが店の隅々に感じられる。そこが、この本屋の「感じのよさ」に繋がっているのではないか、と思う。

文庫担当の上田砂由里さんに話を伺う。P4020413
上田さんはこちらの店で13年勤務しているベテラン書店員。
「『書店ガール』、売れてますよ」
と、文庫新刊台の前に案内してくださる。売り上げベスト10の、なんと四位だ。一位二位 が「1Q84」で、三位が有川浩さんの「三匹のおっさん」、それに続いて四位。
ありえない。「傍聞き」より上なんて。
こちらの店、私の地元ということで営業の方も動いてくださって、上田さんにお願いして私P4020424 の本を優遇してもらった。その成果が出ているのだろう。上田さんとしては、
「身内なんで、やはり書店員の話ということに興味を引かれました。それに、お仕事小説は池井戸潤さん以来、売れる流れがあるし、類書があるとコーナー展開もしやすいですから」
ありがたいことである。仕掛けて動くのは、それだけ本屋と顧客の信頼関係ができているからだろう。さらに、私が地元(正確には隣の小金井市在住)ということもプラス効果なのだろうか。紀伊國屋チェーンでも、一番売れているのは国分寺店だというし、本のたたずまいから地元臭が漂うのかもしれない。
なにげに、地元は強い。こちら、実は東川篤哉さんのお膝元。それで「謎解きはディナーのあとで」が出たとき、「地元作家」と小さく紹介したら、ばかばか売れた。いくら入れてもすぐになくなるほどだったという。
やはり、地元の支持は大事です。

なんて話は置いといて、上田さんに自分で気に入っている書棚を示していただいた。 P4020410
連れて行かれたのは、講談社のコーナー。さながら日明恩さんと高野和明さんのミニフェア状態。ふたりの本を何冊も平にして、手作りPOPを並べている。
「ここはずっとこういう状態です。このふたりの本は単行本で読んで面白かったので、こうして紹介しています」
こうした展開をしているのは、日本でもここだけだろう。高野さんは、もちろん「ジェノサイド」以前からの応援だ。いまや「ジェノサイド」で大ブレークした高野さんだが、それ以前からこうして応援する書店員が全国にいるから、いまの人気に繋がるのだろう、と思う。
ほかにも、上田さんが力を入れているものに、たとえば祥伝社文庫の「幕末 維新の暗 P4020426_2 号」(加治将一著)がある。歴史ミステリが好きで、単行本のときに読んで面白かったと思った本だ。文庫版も出たときから応援していて、いまでも新刊棚のすぐ横に、POPを立てて置いている。
それでいて、今一番売れている「1Q84」の文庫は、とくにPOPはつけていない。個人的にも関心のある本ではないし、P4020425
「私がPOPを書かなくても、これは売れるから」
と思うのだそうだ。そうした本より、版元が力を入れていない、配本も少ない、だけど自分が面白いと思った本、それが上田さんの書店員ごころに火をつけるのだという。
「これだけたくさんの本が出ていると、書店員が気づかないだけで、いい本、仕掛ければ動く本もたくさんあると思うんです。そういう本を少しでも探したいのだけど、時間もお金も限られていて、ほんと申し訳ない」

そんな熱い書店員の上田さん、書店員になってよかった、と思うのは、
「いろんなことを自由裁量でやらせてもらえるのが嬉しいですね。金銭的にはどうかな、とP4020409 思うこともあるし、責任があるから辛いと思うこともあるけど、やり甲斐はあります」
それに、やはりお客様に声を掛けてもらうのが嬉しい。
「あなたにカバーを掛けてもらうときれいだから、レジではいつもあなたの列に並ぶようにしてるのよ、とか、あなたのお薦めはどれも面白いから、買うようにしているのよ、と言われたりすると、ほんとに嬉しいです」
なるほど。地元に根ざした書店だけに、リピーターも多いし、書店員の仕事もよくチェックしている。カバー掛けを褒めてもらった、という話は、これだけ取材していても、あまり聞いたことがない。
「ほかにも、作家が来てくれたり、ツイッターで紹介した本を面白いと言ってもらえたり。やっぱり人に感謝されることが、一番嬉しいじゃないですか。そういうことがあるから、この仕事は楽しいです。好きだから、やっているんです」

その後、同僚の鈴木慎二さんを紹介してもらった。鈴木さんとは、実はツイッター上で会P4020418 話したことがあったので、挨拶したかったのだ。そして、本屋大賞の話から、「舟を編む」が映画化されたときのキャスティングの予想になった。私は堺雅人を挙げたが支持が得られず、その後ほかにもいろんな候補を各自出し合って、最終的にはピースの又吉がいい、ということで落ち着いた。
上田さんにしろ、鈴木さんにしろ、初対面とは思えないノリのよさ。
それはたぶん、この店の人間関係の明るさがなせるわざなのだろう。もしかしたら、店を見て「感じがいい」と思った一番の理由はそこにあるのかもしれない、と思いながら店を後にした。

にしても、ほんとに、どうですかね? ピースの又吉。
原作そのままではないけど、雰囲気はあってるし、話題にもなると思うんですけどね。
って、私が言うことでもないんですけど、いいよ、又吉。

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No.126 三省堂 新横浜店 (横浜市港北区)

この店を訪ねたのも、人が目的。こちらの山本恭子さんにお会いするためである。
山本さんは実は拙著「ブックストア・ウオーズ」の取材のために、五年ほど前にお会いしている。その「ブックストア・ウオーズ」を「書店ガール」と改題し、PHP文芸文庫から出ることになったので、その挨拶かたがた訪ねることにしたのだ。

五年前にお会いした時、山本さんは神保町の本店にいらした。当時はまだ珍しかった、一種類の本を大きく積むという展開で文芸の売り上げを伸ばしていらした。その時の、楽しそうに仕事を語る姿が強く印象に残っている。元気で、前向きで、まさに「書店ガール」の、若いヒロイン亜紀のような方だった。
だが、五年ぶりにお会いした山本さんは、印象がずいぶん違った。キャリアを重ねて落ち着いた優秀な書店員という印象だ。
この店がオープンしたのは4年前の3月だが、山本さんはその2ヶ月前からこちらに赴任して、活動を始めた。工事現場の状態から店をチェックし、どの棚に何を入れるかといったことから、アルバイトの採用まで関わっているという。そうした経験が、書店員としての山本さんを大きくしたに違いない。いまや、亜紀よりもベテランの理子のイメージに近い。ああ、それが五年という歳月なのだなあ、と思う。
その五年の間に、私の方は多少の進歩はあったのだろうか、というのはさておいて。

こちらの店、ワンフロアで330坪。だが、広い通路が走っているので、その面積以上の広さを感じる(通路は坪数のなかには入らない)。客層については、新幹線の駅が近いので、平日は出張のサラリーマン、休暇や連休前は帰省する家族層がメイン。さらに、近隣の住宅地のニューファミリーもよく訪れる。
「こちらのお店は、本店のようには文芸は売れません。新幹線に持ち込むには単行本は邪魔ですし、主婦層は堅実なので、売れるのは文庫が中心です。ミステリや雑学のものがよく動きます」
なるほど、この店の壁には大きく文庫の売れ筋コーナーが作られている。壁の展示は目立つし、遠くからでも見えるように、単価の高い単行本を展示する方が一般的だ。そこにあえて文庫を展示することで、この店の文庫の力の入れ具合がわかる。
そして、東野圭吾さんとか宮部みゆきさんとか、どこでも売れる文庫がやっぱりここでも売れている。
だが、不思議とこの店だけで売れるロングセラーがあるという。ミステリでは貫井徳朗さんの「愚考録」。恋愛ものでは、山本文緒さんの「恋愛中毒」。後者は角川の文庫フェアで動きがよかったので単独で積んでみたが、2年間コンスタントに週20冊くらいづつ、3年で千冊くらい売れたという。理由はわからないが、この店の客層になぜか合っていたらしい。
それで気をよくして、漢字四文字の不倫小説が出ると並べることにしたら、それも連鎖的に売れる。エッセイだが、宇野千代の「恋愛作法」も「恋愛中毒」の傍に置いたら売れた。

そうしたセレクションは面白い、と思う。自分の好みだけで平にしていたら、自ずと偏りが出る。それよりも、別の要素、言葉遊びだったり、ジャケットの作りだったり、偶然の要素を取り込むことでバラエティを持たせようとする。そうしたなかから、自ずとお客様の好む本が浮かび上がってくることもあるのだ。
「小説の好みということで言えば、本店で文芸担当になった段階で好きな作家の括りというのは崩壊しました。商売なので、いろいろな本を読まなきゃと思うし、偏って買うことはなくなりました。1回読んだらそれ以上、読まなくなるし、すごく嵌るということはほとんどありません。自分の好みでなくても、版元のオススメで面白そうだと思えば素直に仕掛けるし、『もう見飽きたよ』と文句を言われても、売らなきゃいけないものもありますしね」
そうだろう、と思う。私自身は編集者だったが、仕事であるがゆえに好みと違うものを大量に読む。自分自身の好き嫌いより、読者の好き嫌いの方に関心が行くようになる。ある意味、そうなって初めて一人前だといえるかもしれない。
自分の好きな本を、好きな形で仕掛けられるというのは幸せなことだが、逆に自分の好みを前面に出さない、というのも、またそれはプロの書店員の在り方だと私は思うのだ。
山本さんはそうしたタイプの書店員なのだろう。

ところで、もうひとつ、ここに来てみたかったのは、ここが新横浜だからだ。この書店から歩いて10分も掛からないところに、佐藤信夫コーチのいる新横浜スケートセンターがある。佐藤コーチはかつては荒川静香、中野友加里、村主章枝らを育て、現在では小塚崇彦、浅田真央を指導している。だから、新横浜といえばフィギュアスケートファンにとっては聖地にも等しいのだ。
そんなわけで、フィギュアスケート関係者やファンもここを訪ねることもあるだろうし、世界選手権も近いことだし、できればフィギュアものをプッシュしてください、とちゃっかり自分の「銀盤のトレース」を営業して帰ったのだった。

 

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