九州の書店

No,122 丸善 博多店

そして、新幹線まで時間があったので、丸善博多店を訪問する。
こちらお店、JR博多シティビルの8階にある。天神戦争が一段落して、今度は博多戦争にPb050332 なっているが、そこに再び参戦した形になる。さらにここは丸善がジュンク堂と同じ系列になってから後にオープンしたお店でもある。どんなふうになったか、気になっていた。閉店した丸善福岡ビル店にいらした徳永圭子さんが、こちらに移っていることも知っていたし。

そして、ひと目見て、やっぱりこれはジュンクだ、と思った。図書館のように背の高い書棚、平台が少なく、面陳も少なく、一冊でも多く本を置こうというやり方だ。
好き好きがあると思うが、私自身はあまりそういう店は好みではない。背の低い什器で辺りPb050333 が見渡せ、そこかしこに平台があり、ミニフェアが組まれている。そういう旧丸善福岡ビルの店の方が、タイプとしては好きだ。
とはいうものの、ここはいい、と思った。それはここが特殊な立地だからだ。駅ビルの上にあり、店舗が異常に細長い。その真ん中に長い長い通路があり、その両側に本棚が垂直に並んでいるので、実にわかりやすい。
私が大型店舗を苦手なのは、広すぎてわかりにくい、探すのに疲れる、高い什器に圧迫感がある、という、はなはだおばさん臭い理由なのだが、ここであれば大丈夫だ。ワンフロアだし、通路をまっすぐ歩いていれば、どこかで自分の目的の本棚にぶつかる。それに、真ん中に長く伸びた通路があるので開放的だ。私的にはとても気に入った。

さて、迎えてくださった徳永さん、老舗丸善の中堅管理職と聞いてこちらが勝手に妄想するイPb050335 メージを裏切らない、知的できびきびとした物腰の書店員だ。ブックオカにも参加されているので何度もお会いしているが、前回の福岡行でダメダメなところも見られているし、お会いするのはちょっと気後れしていた。それでご挨拶だけのつもりだったのに、こういう方はやっぱりお話が面白く、途中から慌ててメモを取り出した。
「こちらのお店は800坪、以前より1.5倍の在庫があります。それに、こうした什器になりましたから、以前の店のように面陳はできませんし、特殊性はあまり出せませんね。だけど、そのかわり全ての棚にエンド台を置いて、これを推したいというものを単品で展開しています。言ってみれば50本のワゴンがあるようなものです。ここに置くものは厳選して、ものすごく絞っPb050346 て置いています」
本につけられているPOPは大型で、書き文字ではなく印刷された文字で統一されている。手作りの温かみというのはないが、
「そちらの方がぱっと目立つし、わかりやすい」
そういう判断でこの形態が選ばれている。確かに、普通の平台と違ってここのエンド台はぶらぶら通路を歩きながら見るのだから、小さくごちゃごちゃ書かれているより、ぱっと見てわかるものが望ましいのだろう。

さて、移転して変わったのは、店の作りだけでない。以前の店は、中高年層の支持が高い、Pb050349_2 雑誌の記事よりも新聞の書評、「王様のブランチ」よりも「週刊ブックレビュー」で紹介された本の方が動くという、老舗丸善の面目躍如といった感じだった。しかし、ここは駅ビル。制服姿の学生や子供から高年齢層まで、あらゆる年齢のお客様が来店される。徳永さんとしても、日々発見があると言い、
「こんなにも携帯小説の受容があるとは思いませんでした」
下は小学5,6年から中学生、上はおしゃれして博多に出てきたという主婦やOLにまで広がっている。彼女たちは、同時に少女漫画や青い鳥文庫、みらい文庫もPb050358 見ている。もちろん、それはランキングに上がるほどの数字ではないが、それでも、「携帯小説は終わった」という世間の風潮とは違う現実がここにある。
そうした変化を見ながら、日々手探りで方向性を模索しているという。それが少しづつ手ごたえが出てきたか、と思えば、やっぱりダメか、と思ったり。この作家のこのシリーズならこれくらいいけるはず、と思ったものが読みどおりに行かなかったり。
「もっとアピールしていかなければ、と思います」

だが、変わったというものの、やっぱり丸善と思ったのが、徳永さんにお薦めの棚を伺ったとPb050337 き。徳永さんが嬉しそうに紹介してくださったのは、「ノンフィクションと文学」という棚。ノンフィクションとフィクションの境界にあるような、かつ「文章的に優れたもの」を集めたという。
「もともと丸善の分類ではノンフィクションは文芸に分類されるものなんです。だけど、ここでは文芸の棚に並ばないもの、社会や医学などの棚にばらばらに置かれるものも集めています」
だから、ノンフィクションと一口に言っても幅広く、医学的なもの、震災関係や風土誌的なもの事件もの、戦争関係と、コーナーごとにさまざまだ。
たとえばある棚をピックアップしてみよう。社会主義的なリアリズムで知られる詩人谷川雁のPb050338 詩集「原点が存在する」から、多大杉栄と伊藤野枝の遺児の精神的な成長を追った松下竜一「ルイズ~父に貰いし名は」、大岡昇平の裁判ノンフィクション「ながい旅」と同じ作家の法廷小説「事件」、五味川純平「人間の條件」そして沖縄返還の裏に隠された史実を描く澤地久枝「密約」若泉敬「他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス」といった流れ。戦後の日本、人が人を裁くこと、そういったテーマで集められた本であろう。
ああ、正しく丸善の棚。そんな気がします。こうした奥行きの深さに惹かれて、丸善には愛書Pb050342 家の中高年が集まるんだよね。
で、なかでも徳永さんお奨めなのが医学書院の本だという。医学系の専門書の出版社だが、なかには素人が読んでも興味深いノンフィクションがあるのだとか。そういって「コーダの世界~手話の文化と声の文化」という本を教えてくれた。

で、そんな本を嬉々として紹介してくださる知的な徳永さんだが、店を出ようとしたとき、店頭に飾られていた「謎解きはデイナーのあとで」のテレビ化フェアのPOPを見て、私がふと
「執事役は櫻井翔よりマツジュンがよかったな」とつぶやくと(嵐ファンの人、すみません)、徳Pb050353 永さんが、
「マツジュンは、『きみはペット』がよかったですよ」と受けてくださる。
うっ、そんな話題もフォロー。徳永さん、懐深い。
隙のない感じの徳永さんに、意外なお茶目さを見つけて、ちょっと嬉しくなって店を後にした。

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No,121 ジュンク堂書店福岡店

そして、佐賀から福岡に戻ったその足で、ジュンク堂に向かう。
このお店、一昨年の西日本大横断営業の最終地点だったのに、体調崩したために、アポを取りながらPb050290 訪れることができませんでした。
なので、今回はそのリベンジ。
ここで待っていてくださったのは、文芸書担当の下妻久美さんとや彌益陽子さん。活気のある書店には必ずといっていいほどいる、若くて本好きで仕事に前向きな、キュートな書店員女子コンビである。こういう女子は大好き。たちまちテンション上がります。

ところで、数年前、福岡は天神に大型書店が一斉に進出し、凌ぎを削った。天神戦争と呼ばれた激しい本屋生存競争の中で、唯一勝ち残ったのがここ、ジュンク堂福岡店である。そして、戦場は博多近辺に移るのだが、それはそれとして。

私が訪れた時は、ここは1600坪(今頃は地下一階にもスペースを広げてさらに大きくなってPb050305 いることと思う)。もともとは若いお客が多く、文庫が強い店だったのだが、天神から丸善が撤退したことで年配のお客がこちらに流れ、時代小説や雑学系の売り上げもよくなったという。ほかにもエンタテインメント系が強いことも特徴的で、メディアミックス関係がよく動くそうだ。
ここの文芸書売り場で目に付いたのは、文芸書が立てて置かれてあったこと。普通は寝かせてあるよね。どうしてか、と聞いてみると、
「うちの文芸売り場は新刊棚が少ないんです。だから、せめて新刊が目立つように、エスカレーターを上ってきたお客様の目にすぐ留まるように、立てて本を置いたんです」
と、下妻さん。なるほど、小さな工夫だが、仕事においてはそういうことが大事だと思う。Pb050301どうしたらお客様に本をよく見せられるだろうか、そういうことを常に考えているから、既成概念にとらわれない置き方を思いついたのだろう。120数軒まわって、こうした置き方を見たのは初めてだ。この一点をとっても、下妻さんの、売り場に対する熱意がよくわかる。
そんな話をいろいろ聞きたかったが、売り場は夕方。お客様も多い時間だから、早々にふたりの人柄に触れる質問へと移る。

「書店員をやっていて、楽しいと思うことは?」
彌益さんの方は、
「お客様が探している本のタイトルを、少ないヒントで言い当てたとき。それから『選んで欲しPb050303 い』と頼まれて選んだ本を、次にいらっしゃった時、『よかったよ』と、言ってもらえるときですね」
一方、下妻さんの方は、
「人は本で救われるということがあると思うんです。私自身がそういう経験をしたことがあって、その本を棚に置いたところ、たまたま友人が手に取ってくれて、『私も感動した』と言ってくれたときは、置いてよかったと思いました。そもそも、そういう本を求めている人に紹介することがしたくて書店員になったのですから」
下妻さんとお友達が感銘を受けた本というのは、「ガール・ジン フェミニズムする少女たちのPb050314 参加型メディア」(太田出版)。アメリカの無名の女性たちによる参加型メディア(手作りの小冊子)、ジンの実態と社会的意義を書いたものだ。
そのほかにも昭和初期に活躍した幻の作家尾崎翠の文庫(ちくま、河出等)など、
「マイナーというか、こんな小説あったんだ、と思われるような本を置くのが好きです。こんな地味なもの、好きな人いるのかな、と思っていた本が売れると、すごく嬉しいし、お友達になりたいと思う」
うーん、なんてキュート。大好きだよ、そういう書店女子。そして、その下妻さんが「自己満棚」Pb050306 と下げて言うのがフェアの棚2列と、件の「ガールズ・ジン」が置かれているサブカルの一角だ。とても素敵な本並び。
そうなんです。ジュンク堂って、本を積んだり、大きなフェアをやったりしないから、書店員のこだわりってすごく見え難くい。だけど、よくよく話を聞くと、こんなふうにこっそり書店員さんが力を入れている部分ってあるんです。福岡ジュンク堂に行ったら、ぜひこのサブカル棚を探してください。

そして、もうひとりの女子、彌益さんも負けてはいない。人文書担当の細井さんと組んで、HP上で「本のオオギリ」というコラムを連載している。これは、たとえば「石」とか「猿」とか、ひとPb050321 つのテーマに沿って本を紹介しあう、というものだ。訪れた月のテーマは「穴」。そのお題に添って「おへそのあな」「マンホールからこんにちは」と言った子供の本から、「鼻ほじり論序説」「穴と境界」といった学術書まで紹介する。
そしてそれはもちろん売り場でも展開しているが、それがどこかというと、一階の、入り口を入って突き当たりの壁面。お客の目にはとまりにくい、実は売り場としてはデッドスペースにあたる部分だ。こういPb050324 うところだから、好きに使っていいと上の人からもお許しが出ているのだろう。
これを見て思いだしたのが、ジュンク堂の住吉店。店の外の壁に沿ってミニフェアをやっていた。普通ならあまりやらない場所だったので印象に残っている。ジュンクで書店員のこだわりを見たいと思ったら、店の真ん中でなく、案外はじっこにこそ真価が見られるのかもしれない。
そして、私のような書店好きの人間は、そういう部分を発見して、ほっとするのである。

ところで、このふたりはブックオカの実行委員でもあるライターの高倉美恵さんのご紹介。ブックオカ仲間なのだそうだ。
「プライベートな時間を割いて参加するのは、結構たいへんです。裏方はやることがいろいろPb050329 あるし。だけど、始まると楽しいし、知り合いもできるし、参加してよかったと思います」
ブックオカは、書店イベントの中でも規模が大きく、内容も充実している。しかし、専門の居ベンターではなく、書店員や関係者が手弁当で働くのだから、その労苦は察せられる。
ブックオカほどのイベントでも、福岡の多くの書店員が参加している、というわけではない。むしろ、そんな時間があったら自分の本業に力を入れた方がいい、と思う書店員の方が大多数のようだ。
確かにそれは正論だ。本業以外に割く時間がとてもない、そういう人もいるだろう。家族がいPb050331 たりすれば、なかなか思い通りに自分の時間は使えないことは、ワーキングマザーとしてずっと仕事をしてきた私にはとてもよくわかる。
だが、このたいへんさをたいへんと思わず、楽しむことができれば、それは幸せだ。その瞬間、労働は作業ではなく、遊びとなる。そして、真剣に遊ぶことができる人間の方が精神的な豊かさを手に入れることができると思うのだ。

そして、このブックオカの宣伝ちらしやポップも、店のはじっこに飾られていました。素敵なPOPつき。彌益さんの仕事だそうだ。
「POP作るの、実は好きなんです」
という彌益さんだが、もちろんジュンク堂ではその力はそれほど発揮する余地はない。
うーん、ジュンク堂、有能なPOP職人を無駄にしているよ、と内心思わずにはいられませんでした。

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No,120 積文館書店伊万里店

さて、ブックオカの一箱古本市の翌々日に、伊万里駅前の積文館書店に出掛けた。Pb050273
こちらの堀田さとみさんとは、BOOK-LaというSNSで知り合い、私の個人フェアを始めてやってくださった方でもある。奇しくも伊万里は親の出身地。親戚はいまでも住んでいるし私にとっては、とても縁の深い土地である。今は東京に住む私が、その土地の書店員さんとネットを通じてこうして知り合いになれる縁を、とても有り難く思うのです。

さて、ここ積文館伊万里店は、伊万里駅の目の前にある200坪(目算)ほどの店。8年前、平成16年1月にオープンした。しばらく伊万里を訪ねていなかった私Pb050275 は、こんな立派なお店が、ここ伊万里にあるということに、感慨深い思いだった。私が知っている頃は、これだけのお店はなかったよ。
駐車場もあり、家族連れや年配客が多い。文具も扱っており、児童書が充実している、いまゆる郊外型のお店。そこで働く堀田さんは書店員歴約18年のベテランだ。
「郊外型の店ですから、ランキングの上位にくるものを揃えています。上位300位以内に入る 本はなるべく切らさないようにしていまPb050277 す」
訪れた時にも、やはり東野圭吾さんの新刊や山田悠介さんなど定番が平積みされていたが、目を引いたのは棚の面陳。直木賞を受賞した「下町ロケット」(小学館)の隣に「NASAより宇宙に近い町工場」(ディスカバー・トゥエンティーワン)というノンフィクションが大きなPOP付きで飾られている、それだけでもやるな、と思うが、そのすぐ下の段に「はやぶさ」関係の本を集めたのは気が利いている、と思った。小説とかノンフィクションの枠にとらわれないのも実にいい。
ほかにも、クリスマス本コーナーが美しく飾られていたり、平台やワゴンに緑色の布を敷いたPb050278_2 りと、郊外型の店ながら、目を凝らすとここ独自の工夫も見られるのだ。実は私のミニフェアをやっていただいた時も、レース模様の紙を敷いて造花を飾り、表紙のイラストをボードに貼るなどしてそれは美しくディスプレイしてくださっていた。著者としてはもう、感涙ものでした。これは堀田さんの仕事だと思うが、細かなところにセンスの良さが感じられる店なのです。

そのほか、お年寄りが多いので柴田トヨさんの新刊「百歳」(飛鳥深社)がレジ前の目立つとPb050280 ころに大きく展開されているのが目に付くが、土地柄、筑豊炭田の記録を絵や文章で残して昨年世界記憶遺産に登録された山本作兵衛関係の書籍も好調だとか。やはり、地元の誇りですものね。私もここで買えばよかった、と後で思いました。

お忙しくされていたので、堀田さんとはあまりお話する時間がなかったが、この店を訪ねることはこの旅の目的のひとつだったので、来られただけで嬉しかった。
伊万里は縁のある土地なので、また機会があれば来ようと思う。

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NO.93 紀伊國屋書店 ゆめタウン博多店

Img_1439 さて、前日ブックオカの人たちと呑み会をして(後日、これについてはアップします)、呑み過ぎたせいか、朝から絶不調。何度もトイレに行き、嘔吐、下痢。
さては、二日酔いで脱水症状を起こしたか、というほどの調子の悪さ。それで、高倉さんに頼んで、車を出してもらう。たぶん、これは歩いてはとても周れない。昨日、初対面の高倉さんになんて図々しいお願い。でも、そんなことを言っていられないくらい、調子が悪かった。ほんと。

Img_1444 それで、訪れたのが、ここ紀伊國屋ゆめタウン店。飛び込みでしたけど、幸い高倉さんの知人である天ヶ瀬英子さんがいらしたので、挨拶をさせていただく。
お店は素敵でした。お世辞抜きで。ワンフロア930坪で、50万冊の品揃え。ファミリーを意識して、書棚は低く、真ん中を丸くレイアウトしたり、波型の什器が入っていたり、インテリア自体の雰囲気が楽しい。
郊外のショッピングモールということで、若いお母さんが多いので、Img_1442 実用書、児童書、教育関係が売れ筋だそう。「100円で作れる肉おかず」(学研)といった実用書が、全国でもトップクラスの売り上げをたたき出したのだとか。病院も近いので、医学関係の専門書もよく動く。昨年から児童書担当者が「絵本大賞in九州」という試みを始め、児童書もよく動いている。
書棚の飾りつけもいろんな工夫がされてる。豆腐本のコーナーにImg_1452 は、豆腐の空き箱を飾るといった演出も。
随所に見所の多いお店でしたが、残念ながら、体調があまりにも悪く、途中で座り込んだりする体たらくで、早々に取材を切り上げました。
これはもう、営業は続けられない。
そう判断して、その後周る予定だったジュンク堂の営業をキャンセル。高倉さんにお願いImg_1441 して空港へと向かいました。それで空港内の医者で見てもらったところ、二日酔いではなく、ウィルス性の大腸下痢炎であることが判明。疲れていたところで、生ものか何かを食べたために発病したのだろうということ。ちなみに、潜伏期間は2~3日ということなので、前日のブックオカの呑み会が原因ではありません。たぶん、その前日、イカを食べたのが悪かったのか。
そんなわけで、福岡営業はかなり辛い終わり方をしました。
Img_1451 福岡。
親の実家が佐賀なので馴染み深い土地(帰省のときは、博多が最寄り駅)だし、高倉さんはいるし、今回、一番気楽な場所だと思っていたのに。
ものすごく残念。
そして消化不良。
ブックオカの人たちにも迷惑を掛けて、「ダメ著者伝説」だけを残しImg_1450 た感じ。
これはどこかでリベンジしなけりゃいけないかなあ、と思い、秋のブックオカ参加が可能かどうか、密かに計画を練っている。

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No.92 丸善 福岡ビル店

Img_1423 さて、金文堂を出た直後は、まだ動揺していた。実はその日、福岡の書店員さんたちが歓迎の呑み会をしてくださることになっていた。それまでにあと2軒くらいは周るはずだったのだが、とても取材にはならない。まずはノートを探しに歩く。天神の地下鉄で駅員に尋ね、ホームを探し、西鉄まで戻って、西鉄の駅を捜索する。それからリブロのあるビルの1階でも尋ねてみる。もちろん、リブロにも電話する。
Img_1424 しかし、見つからない。これ以外は立ち寄ったところもないので、探しようもない。ショックのあまりツイッター上に嘆きを吐露し、読んだ人たちに同情していただいて、ちょっと慰められ、呆然としながらも再び天神に戻ってきた。天神の丸善で高倉さんに会うことになっていたのだ。
だが、待ち合わせまで1時間以上ある。で、仕方なく、営業をすることにした。

Img_1428 丸善を選んだのは、その晩、こちらの徳永圭子さんも呑み会に参加されることを知っていたからだった。気力がなえていたので、少しでも繋がりのある人のところに行きたかったのである。
さて、この丸善、ブログを書いている時点ではまだあるが、明日19日をもって閉店になる。2011年の春に、新しくできる商業施設JR博多シティの中に、新しく丸善福岡店がオープンするので、そちらに移転、ということになる。それで、ちょうど閉店セールをやっていた。Img_1429 文具・雑貨・洋書が30%~80%引きとあるほか、「岩波書店在庫稀少フェア」や「暮しの手帖」フェアなども大きくスペースを取られている。
店自体は落ち着いて格調が高く、いかにも丸善というたたずまい。
「会社のスタイルとして、こういう形をドンと打ち出すというよりは、出店が決まったところで。その立地にあった店作りをするのが丸善のやり方」
Img_1434 と、徳永さんはおっしゃるが、周ってみて、やはり丸善にはカラーがある。ちょっとお堅い、アカデミックな雰囲気。それはインテリアや什器が図書館を思わせるような落ち着いた配色や材質を用いているから、とか、書店員の制服のデザインとか、そういうことだけではない。本のセレクションとかが、エンタメよりもちょっとだけアカデミックに偏っている感じ。付録つきの雑誌を大きく展開するというよりは、「暮しの手帖」のフェアの方が喜ばれる感じ。名古屋の丸善でImg_1425 は「コミックを置いていない」と言っていたが、ここもそれに通じるような格調高さがある。雑誌よりも新聞の書評、「王様のブランチ」よりも「週刊ブックレビュー」で紹介された本の方が動く、というような。実際、そういうコーナーが大きく取ってあったし。
「こちら、学生が少ない場所で、お客様の年齢層も高めです。医学書のような専門書を目当てにいらっしゃるお客様も少なくありません」
Img_1427 徳永さん自身は、3月にこちらに戻ってきた。それ以前は本部に2年くらいいたのだそうだ。あちこち本屋を見るのも好きで、昨年、ブックマークナゴヤにも行ってきた。名古屋は古本屋や図書館が充実していて、本を読む環境がある、そんな話をしていると、徳永さんに社内電話が掛かってきた。お客様からクレームの電話が掛かってきて、現場では対応できず、徳永さんの方に回って来たのだ。
それで、そちらの対応のために、取材は中断。あとは呑み会の席で、ということになった。
どうもこの日はついていない。
Img_1433_2 でも、せっかく来た記念に、と、「作家の家」(西村出版)という本を買いました。コクトーやモラヴィアといった文字通り文豪たちが住んでいた家の写真集。たぶん、新宿でも買えるんだろうけど、本は出会いだから。これが置いてあった作家や出版社関係のコーナーの並べ方がよかった(左の写真)のです。1キロ近くもあるような重たい本ですけど、それはそれ。記念ですから。
それに、たとえ移転が決まっているとはいえ、この空間の存在感、この本を並べたスタッフたちが、どれくらい次に引き継がれるのだろうか。
そんなことを考えて、ちょっと寂しく思ったのでした。
本屋の閉店は、どんな場合でも寂しいものですね。

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NO.91 福岡金文堂本店(福岡市中央区)

Img_1415 さて、この金文堂に着いたとたん、取材ノート紛失が発覚。店長の青木正宗さんがお相手してくださり、さらにノート替わりのメモまでくださった。ノートの件もたいそう心配してくださった優しい方だったが、私の方、話を伺いながらも、ノート紛失の件で内心、動揺しまくり。気もそぞろで申し訳なかったです。

そんな話はともかく、こちら、明治45年創業ということだから、創立98年、文字通り老舗だ。福岡の中心の天神、その中でも新天町という商店街に入ってすぐのところにこの店はある。
Img_1421 「金文堂は福岡、佐賀を中心に、約30店舗弱で展開しています」
かつては大きい書店は天神にしかなく、郊外型でも100坪程度。ある意味、のんびりとしていたところが、ナショナルチェーンの進出によって一変したという。1600坪のジュンク堂をはじめ、丸善、リブロ、紀伊國屋も天神近辺に進出。たちまち書店激戦区となった。福岡の書店業界では、天神戦争と言われる状態である。
それにあわせて、金文堂も西鉄に450坪の店を出店したり、郊外の夢タウンに出店したりと、生き残りをかけてさまざまなやり方を試さざるをえなかった。
Img_1418 だが、やはり天神の町の規模に対して、書店が集中しすぎたのか、紀伊國屋が博多に移転。丸善も6月で天神から撤退、来年博多に新店舗をオープンさせるという。今度は、博多戦争が起こりそうな勢いだが、天神の店にとってはいいニュース、と言えるだろう。新天町の入り口にパルコが出店したことで人の流れが戻ってきたこともあり、これからは天神も少し落ち着くのでは、と青木さんは語る。
「建坪60坪のうちが、ほかの店に対抗するために、捨てた部分もありました。学習参考書、Img_1417 専門書関係は切り捨てましたし、文芸も話題書関係に絞ってきました。それが少し改善できるといいのですが」
もともとは年齢の高いお客様が多く、時代劇や健康ものや料理本といった実用書が強いのだが、売れ筋のコミック、雑誌、文庫を見直し、若者向けの商品を多くした。路面店のメリットを生かし、店頭に女性誌の付録のバッグを見本つきでワゴン販売したり、若い人向けの小説のフェアなども多くしている。
だが、こちらが老舗らしいな、と思ったのは、最近のヒットとして、
Img_1419 「バンドつきのダイエット本の、バンドだけを650円で販売したところ、バカ売れしました。話題性にどう引き付けて商品を売るかが大事だと思います」
ほかの書店でも同様の試みをしているそうだが、普通はそれでも千円の価格設定をしているそうだ。千円切っても売れるのは、こちらの店には違う物販ルートがあるからだ、という。それがあるのが、老舗の老舗たる由縁だろう。昨日今日、こちらで商売を始めた店にはない昔からのコネやルートがあるにちがいない。
Img_1420 「地元の書店としては、倒れるわけにはいかないですからね。近くの積文館さんとも、最近はよく話しをするのですが、なんとか生き残るために頑張りますよ」
頑張ってほしい。
お客さんだって、大きな店がいいという人ばかりではないだろう。ナショナルチェーンの大型店も楽しいし、素敵だが、同時に地域に密着した中小規模の店も残ってこそ、書店業界は活性化すると思う。
状況があまりに厳しいので、おためごかしの励ましは言えないが、心密かにエールを送りつつ、金文堂をあとにした。

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NO.90 リブロ福岡西新店(福岡市早良区)

Img_1399 さて、次は西新というところにあるリブロだ。こちら、高倉さんとあおい書店の谷風店長の両方から推薦をいただいている。西新の地下鉄の構内からそのまま入れるファッションビルのプラリバの6階に、目的のリブロがあった。
実は高倉さんからは、こちらの北川正太さんを訪ねるように、と言われていた。北川さんも、ブックオカ(福岡の書店のお祭り)のメンバーなのだそうである。あいにく北川さんはレジの最中。かわりに、店長の尾崎歩さんがお相手をしてくださった。
Img_1406 ファッションビルの中にあるので、やはり女性ものが強い。だが、それだけでなく、こちらのお店のある西新は、福岡一の繁華街天神から地下鉄で10分ほど離れた文京地区。大学や有名私立高校も近くにある。なので、学参関係が売れる。それに就活関係も。
「昔は就活本が売れるシーズンは決まっていたのですが、今は年中動いていますね」
それに、私学案内の本で近隣の学校が紹介されたりすると、大きく動いたりするとか。
Img_1400_2 ところで、リブロといえば、芸術書の類が有名だが。
「うーん、リブロも場所によってさまざまですから、うちにももちろんありますが、突出しているということはないですね。ここは繁華街から10分ほどですけど、その10分という距離が、東京とはだいぶ違います。たった10分なのに、都心と川越くらいの距離感を感じます」
なので、どちらかといえば郊外型の店に近いのだとか。
尾崎さん自身は大分の出身だが、仕事では東京の店を転々としていたという。九州と東京の両方を知っている。
「こちらの言い方がきつい、と東京から来た若い子たちは思うみたいですね。私自身は九州なので平気なのですが」
そんな話をしながら、尾崎さんが店の中を案内してくださった。
Img_1408 コミック売り場の新刊台を見ると、シュリンクされて平積みになった新刊それぞれに、「最新刊 ○月×日発売」と書かれている。
「これはいいですね。私も最近では漫画をあまり買わないから、表紙だけ見ても、最新刊かどうかわからなくなることがあるんですよ」
そんな話をしていると、傍にいた老夫婦の奥さんの方が話しに割り込んできた。
「そうよね。こうしてあると、迷わなくてすむよね」
さらに奥さんは尾崎さんに話し掛ける。
「でもね、ここのレジ、混んでくるとこの辺、ぐちゃぐちゃになる。もう、ずっと待たされる。ユニクロ見てごらんよ、ちょっと混んでくると、すっぐ人が出てきてちゃっと並ばせるから」
と、レジの並び方に対して注文をつける。怒って、という感じではないが、畳み掛けるような口調だ。尾崎さんははい、はい、と神妙に聞いている。言うだけ言うと満足したのか、奥さんは去っていった。
Img_1401 「あれは親切のつもりなんでしょうね」
私が訪ねると、尾崎さんは、
「そうなんですよ。でも、こういう言い方は、東京ではしませんからね。方言はきつく聞こえるし、若い子は引いちゃうんです」
なるほどね。悪気なく、思ったことをはっきり言う。黙っている方が不親切だ。それが福岡的なのだろう。親が隣の佐賀県人なので、私にはちょっとわかる気がする。陽性でからっとしているから、後に引かないのだが、そういう率直さは、東京育ちの、とくに若い人には苦手なのかもしれない。育った文化の違いというのは、なかなか理解しにくいものだ。
「ところで、売り上げ的なことで、福岡の特徴ってありますか?」
「そうですね。一度ヒットしたものがだらだら売れるということですか。それは版元さんも不思議がっていました」
たとえば昨年映画化された「僕の初恋をキミに捧ぐ」の小説版(小学館文庫)が、いまだに売れ続けているのだそうだ。

Img_1407 私として不思議なのは、これまで周った土地で見聞きしたここならではのヒット、というのを福岡では聞かないことだ。たとえば広島の廣文館から全国区になった「女性の品格」のように、福岡から火がついて全国区になったものがない。そういうものを生みやすい土壌ではあるのにもかかわらず。
新しいヒットが生まれやすい場所というのは、確かにある。
住人が新しいものを受け入れやすい。
ある程度以上の人口がある。
Img_1409_2 書店員同士の連帯が強い(ブックオカのような書店イベントを共同で行う)。
これだけの条件が揃っていながら、福岡発のヒットを聞かない。それはなぜなのだろうか。
「なぜでしょうね。確かに不思議ですね」
尾崎さんも首を捻る。尾崎さんが気さくな方なので、そんな話で盛り上がり、ついつい長居をしてしまった。
「ぜひ、福岡発のヒットを作ってくださいね」
私の本なんて、どうですか?と言いたかったが小心なので言えず、リブロを後にした。

その直後に取材ノートをなくしてしまうのだった。

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NO.89 BOOKSあんとく くしはら店(福岡県久留米市)

Img_1370 さて、同じBOOKSあんとくの、もうひとつのお店がこのくしはら店。やはりAVレンタルやゲーム、CDの販売も行う、いわゆる郊外型の店ではあるが、久留米市の中央に近い。なので、面積は250坪と、みずま店よりはぐっと小規模。近隣に大きな書店もあるということで、こちら、とくにライトノベルやゲーム、アニメなど、いわゆるアキバ系の書籍に力を入れている。
「ナショナルチェーンではやれないことをやって、お店を差別化しています」
と、吉武逸人店長。だが、実はそうした商品にあんとくグループが力を入れるのは、昨日今日に始まったことではない。専務の安徳博行さんに伺うと、「風の谷のナウシカ」が公開された84年頃にはアニメ関連書籍を多く仕入れて、利益を出していたらしい。実は84年当時はアニメという言葉すら一般的ではなかった。アニメ関連の書籍を扱う店もまだ少なく、こちら、先見の明があった、と言えるだろう。
Img_1385 「それで調子に乗って、コミケを開いたりしました。怖いもの知らずで、『ナウシカ』を連載していた『アニメージュ』編集部に、宮崎駿さんにパンフレットの表紙を依頼しに行ったり。もちろん、編集長の尾形さんには『金額がヒトケタ違う』と、鼻で笑われましたけど」
とは言うものの、あとで編集部から「ナウシカ」のポスターがどさっと送られてきたのは嬉しかった、と安徳さんは言う。
尾形編集長。実は私も知っている。私自身、アニメージュ編集部で5年ほどライターとして働いていたことがあるから。尾形編集長は、あけすけな発言をする方なImg_1380_2 ので敵も多かったけど、一方で情に厚く、アイデアマンでもあった。武道館を借り切ってのアニメイベントを初めて行ったり、そもそも「風の谷のナウシカ」をアニメ映画にしようという発想は、この人なくしては生まれなかった。そんな尾形さんの名前を、久留米で聞くとは。
世の中、何が繋がるかわからない、とつくづく思う。
Img_1382 それはともかく。
くしはら書店は、そんなわけでアキバ系の書籍が充実している。でも一方で文芸書にも力を入れており、POPも美しい。文芸の単行本については、副店長の山口健太郎さんが作っておられるそうだが、
「僕はほかの書店さんのやり方を真似をしているだけ。バイトの子の方が頑張っていますよ」
と、謙虚だ。真似でもなんでも、作る手間は掛かる。近頃では、版元ができのいいPOPを作ってくれるので、それを飾っておけば事足りるのに、ちゃんと自分で作るという姿勢がいい。そういうPOPの方が、きっとお客様にも伝わるだろう。
Img_1373 こちらでも、もちろん「あんとく大賞」のラインナップが並んでいた。こちらは、みずま店に比べると文芸書の比重が高い。江國香織さん、恩田陸さん、山田宗樹さん、西村京太郎さんのご著書などもあるのだが、ライトノベルがないのがちょっと不思議。しいていえば「図書館戦争」がそれに近い。すでにラノベの売れ筋は売れてしまうので、あえてここにいれても不利ということなのだろうか。
それから、こちらで「norma jean」という大きな看板のあるコーナーを発見した。三崎亜記さんの「コロヨシ!!」や海堂尊さんの「マドンナ・ヴェルテ」などが置Img_1377 かれている。ノーマ・ジーン。マリリン・モンローの本名だが、なぜこの名前が?
「ノーマ・ジーンというのは、久留米と鳥栖を中心にしたフリーペーパーなんです。そことタイアップして、うちがお薦めの本を紹介させていただいている。それで店にもコーナーがあるんですよ」
と、吉武店長。ノーマ・ジーンというのは、女性向けということで付けられた名前らしい。実物が見たかったが、このフリーペーパー、こImg_1384 ちらでは大人気で、店に置くと何百枚もあるものがすぐになくなってしまうのだとか。この日も1枚も残っていなかった。残念。
そのほか、「本屋大賞」「このミステリがすごい」のスタイリッシュな並びの棚、現代書館の「久留米藩」と「ブリジストン石橋正二郎伝」(ブリジストンは久留米が発祥の地)の大きな展開が目に付いた。

このくしはら店を見せていただいた後、本部に伺って色紙を書かせていただいた。さらに江口小百合さんや古賀隆明さんにも紹介していただく。最初は真面目な話をしていたが、実はおふたりとも、アキバ系の話に詳しい。私もかつてはアニメージュのライター、その後はライトノベルの編集者をしていたので、実は通じるものがある。「その昔、私は『装甲騎兵ボトムズ』のノベライズを作ったんですよ」「そうですか。あれは思い出したように新作が出ますよね」などと、マニアックな会話をさせていただいた(「ガンダム」「パトレイバー」はともかく、「ボトムズ」が通じるのはかなりディープ)。こちらは会議でも、「機動戦士ガンダム」の名台詞が飛び交うこともあるという。さすが、くしはら店を抱えるあんとく書店の本部だけのことはあると、妙に感心しつつ、楽しい時間を過ごさせていただいた。

その後、博多に戻る私のために、駅まで車で送っていただけることになった。その運転をしてくださったのが、安徳社長その人。恐縮するこちらに「娘を送るついでだから」とおっしゃってくださる。さらに「いつも、店同士の連絡は僕がやっているんですよ。僕が一番、ヒマだから」
気さくで、腰の低い方だ。BOOKSあんとくで感じた明るさ、本部会議でガンダム語録が出る自由さ、というのは、この社長あってのことだろう。気取らない社長の人柄に少しだけ触れて、心温まる思いで久留米を後にした。

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NO.88 BOOKSあんとく みずま店(福岡県久留米市)

さて、福岡初日に久留米に脚を伸ばした。短い滞在なのにわざわざこちらに出向いたのは、福岡書店周りをコーディネートしてくださった高倉美恵さんの奨めがあったから。久留米駅まで行けば、専務の安徳博行さんが車で案内してくださるという。
ところが、その前のブックス・キューブリックで少々時間をロスし、さらに慣れない土地で乗り換えに手間取り、西鉄に乗ればよかったのにJRに乗ったためにさらに遅くなり、待ち合わせに1時間遅れる羽目になる。遅れそうだとわかった時点で安徳専務には電話連絡を入れたのだが、電話番号が間違っていた。携帯の留守電にふきこんだのだが、あれは誰の電話だったのだろう?

Img_1350 というわけで、会うまでに散々な目にあったのだが、安徳専務はいい人だった。むっとした顔ひとつせず、にこやかに出迎えてくださる。で、さっそくBOOKSあんとくでも最大規模のみずま店に向かう。BOOKSあんとくは久留米中心に展開しているチェーン。
久留米。久留米絣とブリジストンと豚骨ラーメンの発祥の地。チェッカーズと松田聖子を生んだ土地でもあり、市の歌は藤井フミヤの作詞だ。県庁所在地ではないが、独自の文化を持ち、住民の郷土愛が強いことでは、尾道に通じるものがある。

Img_1367 で、そんな久留米にあるOOKSあんとくみずま店は元気だった。都心からちょっと離れた、駐車場の広い、いわゆる郊外型書店。あんとくグループでも最大規模の782坪。AVレンタルやCD、文具、ゲームなどの販売も行っている。
だが、入ってすぐ目に付くのが入り口右にある日本酒の展示。「日本最大酒処 地元の蔵元が誇る逸品」と書かれている。久留米は京都、神戸に次いで清酒製造の盛んな町なのだ。にしても、本屋の入り口でそれを見るとは思いませんでしたが。
んで、中に入ると新刊・話題書のコーナーがあるが、そこで一番、目立つのが、「奇跡の居酒屋ノート」(羊泉社)。新橋のとある飲み屋に置かれているノートImg_1354 の書き込み、それをめぐるさまざまな実話を集めたものだ。すごく売れている本というわけではない。それを一番大きく扱っているのは、実は著者とこちらの社長が旧知の仲だから。「人の縁を大事にしたい」という社長の意向で、これが大きく扱われている。もちろん、いい本だから、という理由もあるのだが。
それっていいな、と思う。とても人間的だ。もちろん話題書の中には「告白」や「天地明察」と佐伯チズさんの一連の著作など、売れ筋の本もちゃんとある。だが、それだけではどこの本屋に置いてあるものと変わりはない。うちの本屋だからこの人を推す、というものがあっていい。というか、もっとあってもいいんじゃないか。なぜかしらないけど、この本屋には田辺聖子さんの本だけが妙に充実しているとか、鉄道の本だけがマニアックに置いてあるとか。そんな偏りがあった方が、本屋としては面白いと思うのだ。
Img_1351 で、ほかに目立つのが「あんとく大賞」のコーナー。年に1度、あんとくBOOKチェーン全体で行っているもので、まず各店舗のスタッフがそれぞれ自分の推薦する本を選ぶ。それを店にコーナーを作って展示をし、売れ行きを競う。それで、各店一番売れたものを集めて、再びコーナーを作って決勝を行い、大賞を決めるというもの。
なかなか面白い。大手のチェーンでは、スタッフそれぞれの推薦本を紹介したり、それでフェアをやったりということを最近、さかんにしImg_1355 ている。だが、各店舗で予選を行い、チェーン全体で決勝戦をする、というのは、私はあまり知らない。
その試み自体が面白いが、なお愉快なのが、推薦する本のジャンルがばらばらなこと。ここみずま店であがっている候補も、たとえば「心眼力」「いやでも物理がおもしろくなる」「司馬遼太郎が描いた新撰組の風景」とノンジャンル。「おじいちゃんのごくらくごくらく」「やさ Img_1365 いのおしゃべり」といった絵本から「最新バイクメンテナンス」といった実用ムックも。もちろん「プリズンホテル」(浅田彰)や「アルジャーノンに花束を」(ダニエル・キイス)といった小説の定番もちゃんとある。実に多種多様。好きな本、といって正直に上げたら、書店のスタッフでもこんな風にいろいろなんだな、と思う。それらを特設台でPOPをつけて展開。ほんとに好きな本だし、勝敗が掛かっているから、POPにも熱がこもっている。
なお、この試みは今年で4年目。ちなみに昨年の入賞者作は1位「十歳のきみへ」(日野原重明著・冨山房インターナショナル)、2位「素直な心になるために」(松下幸之助・PHP研究所)」3位「深堀真由美のDVDでラクやせ!ゴロ寝ヨガ」(深堀真由美・宝島社)と、普通の賞ではちょっとないようなラインナップ。いわゆるベストセラーとも違う。書店員さんだけでなく、お客さんもこの選出には加わっているわけで、お客さんが本音で欲しいと思う本はこういうラインナップになるのか、と興味深い。その前の2年には、連続で東野圭吾さんの本が入っていた。「探偵クラブ」(角川書店)と「おれは非情勤」(集英社)。東野作品としては、決してメジャーではない。発掘本といってもいい。有名どころはもうよく知っている。そうでないもので面白い作品が知りたい、という東野ファンの心をつかんだのだろう。実はそういうものを探す方が、誰もが認める傑作を探すより難しい(ほんとに東野作品を丹念に読んでいないと見つけられない)。だけど、だからこそお客さんはそれを求めているのではないか、と思う。
Img_1359 ほかに目立つのは、郷土出身作家コーナー。郷土史関係の本とはまた別に、素敵な写真のPOPつきのコーナーがありました。。こういうのって、作家もきっと嬉しいよね。で、そのラインナップの豪華なこと。乙一、三崎亜記、矢野隆、葉室麟、宮崎哲弥、鳥越俊太郎。乙一は久留米高専出身で、三崎亜記さんは久留米市役所に勤めていたそうな。矢野隆さんはすばる文学新人賞で08年デビューされたばかりの若い作家だが、こちらの店にはよく顔を出される、スImg_1356 タッフとも親しいのだそうだ。
そのほか東野圭吾さんの大きなコーナーがあったり、映像化された作品の関連書籍コーナーがあったり、坂本龍馬コーナーがあったり。ひとつひとつはどこでもやっているフェアだけど(というか、郊外型のお店なので、すごく凝った本棚は作りにくいという事情もあるのだろうが)、ここは飾りつけがすごい。POPというより看板といっていいかも。ことに坂本龍馬については、年表まで作っている。そういうのは、ほかではちょっと見たことがない。
Img_1357_2 あと、本と並んで高価そうな壺が飾ってあったり、図書館みたいな机と椅子が置いてあったり、そこここに楽しい工夫がある。売り場から、働く人たちの熱心さ、お客さんを楽しませようと心掛けている姿勢が感じられる。

店長さんの中村和伸さん、副店長の山田真也さん、文芸担当の城野一顕さんともお話をした。みんな元気だ。ことに店長の中村さんImg_1361 の明るさが印象的だ。そもそも、こちらなぜ高倉さんと知り合ったかというと、かつて福屋書店の店長もされ、新聞にコラム連載を持つ優秀な書店員の高倉さんに、勉強会の講師をお願いしたからなのだそうだ。福岡市の書店が集うブックオカにも「無理に頼んで混ぜてもらった」のだそうで、実に積極的で、研究熱心だ。もちろん、近年の不況の波や大型書店の進出に、こちらの店だって影響を受けないはずはない。だが、苦しいことを苦しいと言っても仕方ない、とImg_1358 ばかりに自分たちがやれることを前向きに探している。たとえばあんとく大賞は、自分たちの仕事を自分たちで盛り上げている、と言っていい。お祭り好きな福岡人らしい、と言うべきか。私の来店もわざわざみんなで出迎えてくださって、これもひとつのイベントと捕らえてくださっているのか。
こういう書店を見ると、わざわざ九州に来てよかったな、と思う。地方もまだまだ捨てたもんじゃない。みずま書店のスタッフの明るさに触れて、元気をもらった気がした。

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No.87 ブックス・キューブリック(福岡市中央区)

Img_1337 赤坂。けやき通り。予備知識なくても、ここが福岡のお洒落タウンだとわかる。東京で言えば青山か原宿か。両側にけやき並木のある通りのそこここに、ブティックや雑貨屋が点在する。ブックス・キューブリックも、そんな町並みにしっくり溶け込んでいる。黒字に白く横文字で書かれた店名、同色のアーケード、ガラス張りの店内。そこが本屋だとは、ちょっと気づかないかもしれない。洋書屋といえば、そうかもしれない、と思うが。
Img_1341 で、中に入ると、普通の雑誌が置いてあることに逆に驚く。「MENS CLUB」「LEON」「DIME」「和楽」や付録つきの女性誌もちゃんとある。京都のガケ書房のような、完全なセレクトショップを想像していたが、そうではないらしい。
「うちは、町の本屋。若者ではなく、ビジネスマンが来て、何か発見のある店というのを心掛けています」
と、店長の大井実さん。30坪ほどの店内は、雑誌と文芸書とビジネImg_1345 ス関係の書籍が目立つ。文芸書も、「1Q84」「新参者」「ゲゲゲの女房」といった人気作も抑えているが、写真家スーザン・ソンタグやデザイナーでありエッセイストでもある鴨居羊子のムックなどが目立つところに飾られている。文庫の並びは作家のアイウエオ順ではあるが、ノンジャンルで版元も時代もばらばら。内田百聞の「ノラや」の隣に内田也哉子の「ペーパームービー」、宇月原清明「安徳天皇漂海記」、宇野千代、江國香織、江戸川乱歩という流れ。なんか匂Img_1346 いがある。ばらばらのようで、ある種のトーンがある。これはなんだろう。
大井さん、一見、普通の本屋のおじさん。だが、福岡の書店イベント「ブックオカ」の仕掛け人でもある。この店作りといい、書店一筋にやってきた人には思えない。
なぜ、ブックオカのようなことをはじめたのか、と尋ねたところ、かえってきたのは、
Img_1344_2 「昔、そういう仕事をやっていたからです」
とのこと。かつて大井さんは、東京で大手の広告代理店で働いていた。時はバブルまっさかり。電話一本で何億という金が動く、代理店の虚業にすっかり嫌気が差していた。周りは、自分を大きく見せようとする人間ばかり。そんななかでかっこいい、と思えたのは、自分でお店をやっている人間だったそうだ。「僕はただのガラス屋です」って言ってる人が、世界的なアーティストの作品を手掛けていた り。イタリアに行って、スローライフな生活を体験したこともあり、大井さん自身も地に足のついた生活をしようと思って、自分でも商売を始めることにした。書店であれば、地域の文化の拠点となれるし、イベントなどで町おこしをすることもできる。福岡を選んだのは、自分自身が中学高校住んでいたこと、高校の同級生だった奥さんが福岡出身だということもある。
Img_1340_2 それで、了解した。この店の品揃えは、クリエイティブな仕事、カナ 文字職業の人が好んで読みそうな品揃えだ。なんとなく、マガジンハウスの取り上げそうなラインナップというべきか。それは、大井さん自身の前歴がなせる業なのだろう。そして、それがこの赤坂という町にとても似合っている。
「本屋の商売はなかなか厳しいけど、うちは客単価が高いので助かっています。一度に一万円以上買っていく人もいる」
ちょうど、お会計をする女性がいた。その人に、大井さんはレジ前に あったお菓子を奨める。とてもおいしいですよ、と。お客さんは奨められてそれも買い物に加えた。お客さんが店を出ると、
Img_1347_2 「あの方は、1時間半くらいここにいらっしゃっいましたね。うちは1時間、2時間滞在するお客様がざらにいるんですよ。それで、吟味して買ってくださる」
500坪とか1000坪もある大型店なら、それも不思議ではない。わずか30坪ほどの店でそうだというのは、それだけこの店の品揃えが素晴らしいことの証明だろう。ひとつひとつの商品に、大井さんの神経がいきわたっているということだ。
Img_1348 こういう人が福岡に来てよかった。違う業界を経験した人間が入ってきたことで、福岡の書店状況に刺激が加わった。ブックオカという福岡の書店の共同イベントは、代理店で働いていた大井さんだからこその発想であり、運営だ(このイベントについてはパンフレットでしか知らないが、企画内容が優れているというだけでなく、パンフレットの作りもお洒落だ。広告もちゃんと取っている。そういうところに、大井さんの力を感じる)。もともと、そういうことをやりたくて書店を始めた大井さん、だけど、実際にブックオカをやるまで5年くらい待った。
「それまでは状況をみたり、人脈を作ったり」
なかなかの戦略家だ。電子書籍時代を迎えて厳しくなるであろう書店状況についても、もう次の手を考えているという。そう語る大井さん、なかなか楽しそうだ。
「住んでみて気がついたのは、このあたりはよそから来た人間が多いんですよね。よそ者も入りやすい土地なんです。それに、都会ではあるけど、周囲に海も山もあるし。子供を育てる環境としてもとてもいい」
Img_1349_2 すっかり福岡に根付いた大井さん、これからもますます地域の商店街と協力してイベントを行うなど、地域の活性化に努力していきたい、と語ってくれた。実は私も大井さん同様、小さい頃から引越しが多く、人生で12回引越しをしている。平均すると4年に1度は引越ししてきたことになる。仕事も代理店ほどではないが、出版という虚業に近い仕事をしてきた。いまは小説書きだから、なおのこと虚業だ(そもそも、小説を書くことは仕事なのだろうか?)。だから、どこか自分が根無し草という意識が抜け切れない。実は、こんな風にあちこちの書店を巡っているのは、土地に根づく仕事を見たかった、ということもある。
だから、大井さんがうらやましかった。自分もいつか大井さんのように、土地に根付き、周りの人たちと連帯していくような生活が送れるのだろうか。人生後半戦になっても、一向にその気配のない自分は、ちょっと打ちのめされた気持ちになってこの店を後にした。

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