No,122 丸善 博多店
そして、新幹線まで時間があったので、丸善博多店を訪問する。
こちらお店、JR博多シティビルの8階にある。天神戦争が一段落して、今度は博多戦争に
なっているが、そこに再び参戦した形になる。さらにここは丸善がジュンク堂と同じ系列になってから後にオープンしたお店でもある。どんなふうになったか、気になっていた。閉店した丸善福岡ビル店にいらした徳永圭子さんが、こちらに移っていることも知っていたし。
そして、ひと目見て、やっぱりこれはジュンクだ、と思った。図書館のように背の高い書棚、平台が少なく、面陳も少なく、一冊でも多く本を置こうというやり方だ。
好き好きがあると思うが、私自身はあまりそういう店は好みではない。背の低い什器で辺り
が見渡せ、そこかしこに平台があり、ミニフェアが組まれている。そういう旧丸善福岡ビルの店の方が、タイプとしては好きだ。
とはいうものの、ここはいい、と思った。それはここが特殊な立地だからだ。駅ビルの上にあり、店舗が異常に細長い。その真ん中に長い長い通路があり、その両側に本棚が垂直に並んでいるので、実にわかりやすい。
私が大型店舗を苦手なのは、広すぎてわかりにくい、探すのに疲れる、高い什器に圧迫感がある、という、はなはだおばさん臭い理由なのだが、ここであれば大丈夫だ。ワンフロアだし、通路をまっすぐ歩いていれば、どこかで自分の目的の本棚にぶつかる。それに、真ん中に長く伸びた通路があるので開放的だ。私的にはとても気に入った。
さて、迎えてくださった徳永さん、老舗丸善の中堅管理職と聞いてこちらが勝手に妄想するイ
メージを裏切らない、知的できびきびとした物腰の書店員だ。ブックオカにも参加されているので何度もお会いしているが、前回の福岡行でダメダメなところも見られているし、お会いするのはちょっと気後れしていた。それでご挨拶だけのつもりだったのに、こういう方はやっぱりお話が面白く、途中から慌ててメモを取り出した。
「こちらのお店は800坪、以前より1.5倍の在庫があります。それに、こうした什器になりましたから、以前の店のように面陳はできませんし、特殊性はあまり出せませんね。だけど、そのかわり全ての棚にエンド台を置いて、これを推したいというものを単品で展開しています。言ってみれば50本のワゴンがあるようなものです。ここに置くものは厳選して、ものすごく絞っ
て置いています」
本につけられているPOPは大型で、書き文字ではなく印刷された文字で統一されている。手作りの温かみというのはないが、
「そちらの方がぱっと目立つし、わかりやすい」
そういう判断でこの形態が選ばれている。確かに、普通の平台と違ってここのエンド台はぶらぶら通路を歩きながら見るのだから、小さくごちゃごちゃ書かれているより、ぱっと見てわかるものが望ましいのだろう。
さて、移転して変わったのは、店の作りだけでない。以前の店は、中高年層の支持が高い、
雑誌の記事よりも新聞の書評、「王様のブランチ」よりも「週刊ブックレビュー」で紹介された本の方が動くという、老舗丸善の面目躍如といった感じだった。しかし、ここは駅ビル。制服姿の学生や子供から高年齢層まで、あらゆる年齢のお客様が来店される。徳永さんとしても、日々発見があると言い、
「こんなにも携帯小説の受容があるとは思いませんでした」
下は小学5,6年から中学生、上はおしゃれして博多に出てきたという主婦やOLにまで広がっている。彼女たちは、同時に少女漫画や青い鳥文庫、みらい文庫も
見ている。もちろん、それはランキングに上がるほどの数字ではないが、それでも、「携帯小説は終わった」という世間の風潮とは違う現実がここにある。
そうした変化を見ながら、日々手探りで方向性を模索しているという。それが少しづつ手ごたえが出てきたか、と思えば、やっぱりダメか、と思ったり。この作家のこのシリーズならこれくらいいけるはず、と思ったものが読みどおりに行かなかったり。
「もっとアピールしていかなければ、と思います」
だが、変わったというものの、やっぱり丸善と思ったのが、徳永さんにお薦めの棚を伺ったと
き。徳永さんが嬉しそうに紹介してくださったのは、「ノンフィクションと文学」という棚。ノンフィクションとフィクションの境界にあるような、かつ「文章的に優れたもの」を集めたという。
「もともと丸善の分類ではノンフィクションは文芸に分類されるものなんです。だけど、ここでは文芸の棚に並ばないもの、社会や医学などの棚にばらばらに置かれるものも集めています」
だから、ノンフィクションと一口に言っても幅広く、医学的なもの、震災関係や風土誌的なもの事件もの、戦争関係と、コーナーごとにさまざまだ。
たとえばある棚をピックアップしてみよう。社会主義的なリアリズムで知られる詩人谷川雁の
詩集「原点が存在する」から、多大杉栄と伊藤野枝の遺児の精神的な成長を追った松下竜一「ルイズ~父に貰いし名は」、大岡昇平の裁判ノンフィクション「ながい旅」と同じ作家の法廷小説「事件」、五味川純平「人間の條件」そして沖縄返還の裏に隠された史実を描く澤地久枝「密約」若泉敬「他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス」といった流れ。戦後の日本、人が人を裁くこと、そういったテーマで集められた本であろう。
ああ、正しく丸善の棚。そんな気がします。こうした奥行きの深さに惹かれて、丸善には愛書
家の中高年が集まるんだよね。
で、なかでも徳永さんお奨めなのが医学書院の本だという。医学系の専門書の出版社だが、なかには素人が読んでも興味深いノンフィクションがあるのだとか。そういって「コーダの世界~手話の文化と声の文化」という本を教えてくれた。
で、そんな本を嬉々として紹介してくださる知的な徳永さんだが、店を出ようとしたとき、店頭に飾られていた「謎解きはデイナーのあとで」のテレビ化フェアのPOPを見て、私がふと
「執事役は櫻井翔よりマツジュンがよかったな」とつぶやくと(嵐ファンの人、すみません)、徳
永さんが、
「マツジュンは、『きみはペット』がよかったですよ」と受けてくださる。
うっ、そんな話題もフォロー。徳永さん、懐深い。
隙のない感じの徳永さんに、意外なお茶目さを見つけて、ちょっと嬉しくなって店を後にした。
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