中国地方の書店

NO.84 廣文館 広島駅ビル店(広島市南区)

Img_1305 さて、廣文館金座街店の藤森さんから紹介された広島駅ビル店。
ここも金座街同様、女性にシフトしたお店だ。だが、お店が新しいこともあって、お洒落度が高い。入ってすぐのところに、廣文館の売り上げベスト10が飾られているのだが、その什器がガラスでできている。そこに置かれているだけで、本が2割り増しセンスよく見えますよ。お店のロゴ周りも黒字に白でセンスがいいし、売り場の一角でお洒落な雑貨を売っているのが、女ごころを引き付ける。

Img_1303 雑誌を担当されている桑原太加彦さんに伺うと、階下に女性ファッションの店が集中しているだけに、やはり若い女性客が多いのだそう。売れ筋は、やはり付録つきの女性雑誌。ずらりと並んで壮観です。自己啓発ものや心理分析ものもやはりよく売れるらしい。だがここは新潮クレスト・ブックフェアが成功したお店だ。ミーハー的なフリのお客様だけでなく、ちゃんと本好きの顧客もついているのだろう。文芸書売り場も充実しているし、話題書もただの売れ筋だけでなく、バラエティに富んだ内容のものを紹介していました。
Img_1308 そして「ここならではのヒットは?」
と、尋ねたところ、紹介してくださったのが、角川文庫の「長い腕」。ひときわ目立つ大きな赤いPOPと手作りの帯を巻いて平台で展開されている。第21回横溝正史ミステリ大賞を受賞した作品だが、世間的なベストセラーというのとはちょっと違う。04年、つまり6年も前に刊行されているものなので、こちらのお店の発掘本といってもいいだろう。廣文館ならではの紹介をしていこう、ということで仕掛けた本だそうだが、この店が、日本で一番売ったお店、ということになるらしい。その仕掛けImg_1310_2 人がほかならぬ桑原さん。なかなか鋭いところを突いてくる。ほかに も、06年の「ルームメイト」(今邑彩)「眩暈を愛して夢をみよ」(小川勝巳)「出口なし」(藤ダリオ)といった文庫が大きく展開されている。ほかではあまり見ない個性的なラインナップだ。
実は文庫の方が書店もオリジナルな展開を仕掛けやすいと思うのだが、新刊が多すぎるせいか、実はどこのお店でも思い切った展開はしにくいようだ。新刊書話題書だけで並べるので手一杯なのだろう。そのため文庫売り場はどこの店も同じ、という印象になりがちだが、ここの平台は面Img_1313 白かった。でもそれを支えるのは、やはりお店の広さとお客さんの感度のいいおかげなんだろうな、と思う。
こんなお店が駅ビルにあるというのは、広島、なかなかあなどりがたし。便利な場所にあるお店はベストセラーをただ並べているだけ、というこちらの思い込みを気持ちよく裏切っている。楽しくなって、つい河出書房新社の「萩尾望都特集」を買ってしまいました。いえ、この本なら無理にここで買わなくても、東京のそこここのお店にImg_1306 も売ってることは知ってるけど。でも、買いたくなるお店ってなんかあるよね。それって大事だよね。荷物が重くなるのは困るんだけど。

そんなわけで、ここを最後にしたおかげで、終わりよければすべてよし、という気持ちで広島営業を終わることにした。

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No.83 廣文館 金座街本店(広島市中区)

さて、金正堂を出たあと、商店街を歩いていて、ふと目にしたアンデルセンの大きなお店。ここが本店に違いない、そんな勘が働いて、ここでランチをすることに決める。アンデルセンは東京では青山の大きなお店が有名だが、実は広島が発祥の地。なぜ、私がそれを知っているかというと、広島出身の友人がこちらの創業者のお嬢さんと友人だったから。
「昔は普通のパン屋だったんだよ」
と彼女は言っていた。アンデルセンの立派な建物を見て、いまではなかなか会えないその友達のことをなつかしく思い出したのだった。
担当編集の高中さんも広島出身なので、アンデルセンについてはさらに詳しく、もともとはタカキベーカリーと言うパン屋さんから始まったこと。さらに、私が立ち寄った本通の広島アンデルセンは、今では数少なくなった被爆施設だということを後から教えてもらった。産業奨励館(現・原爆ドーム)と、どちらを被爆の象徴として残すか、かつて議論もあったのだそうだ。
しかし、今残るこのお店は、どこからどう見てもお洒落なベーカリー・レストラン。戦争の傷跡は微塵も感じさせない。広尾や六本木にあったって見劣りしない。広島の復興と繁栄の象徴、別の意味で広島を代表するお店に十分なっているんじゃないか、と思う。ここが被爆の象徴にならなくて正解だったんではないだろうか。
で、ここで温泉卵ののったシーザースサラダのランチセットをおいしくいただき、廣文館へと向かう。

Img_1287 廣文館は本通とはアーケード続きではあるが、金座街という名前になるらしい。商店街というと、東京ではおじちゃんおばちゃんのいる場所というイメージが強いが、ここはお洒落なお店が多く、若い女性の姿が多い。広島の流行の最先端、といった感じだ。
この廣文館も、金正堂同様、この地で愛され育ってきたお店だが、雰囲気はちょっと違う。若い女性のお客が多い。パルコが近いせいか、こちらはより若い女性客にシフトを絞っている感じだ。1階にはImg_1297 雑誌売り場が充実。オレンジページのバックナンバーを一挙にそろえたフェアを開催していた。よく見るとこのフェア、オレンジページと廣文館チェーンがタイアップして開催しているものらしい。あきらかに版元が作ったとおぼしき印刷POPに「広島のなすファンのみなさま」なんて書いてあるんだもんなあ。実力がなければ版元もそんなことをしてくれないわけで、地元でのこのお店の愛されっぷりを感じさせた。そうそう、オレンジページの隣には、北欧スタイル・giorni・スカンジナビアンスタイルと、感度の高いインテリア雑誌のフェアをやっていた。その1点でも、客層の雰囲気が感じられる。
Img_1295_3 文芸売り場は2階。階段を上がったところに、廣文館のお薦めのコーナー。女学生の友、地元作家朽木祥さんの「引き出しの中の家」の紹介、「ゲゲゲの女房」を中心にした水木しげる関連本。メディアワークス文庫フェア(これも女子ファン強し?)、新潮文庫の「孤独な夜のココア」やポプラ社文庫を並べた田辺聖子フェアには「女子必読」とある。田辺さん、私もレスペクトする作家のひとりだ。いいですねえ。田辺さんを愛読する女子は、こころ正しく育つ気がする。そう、女子必読ですよ。

Img_1288 さて、応対してくださったのは藤森真琴さん。物静かな雰囲気のある女性だ。
「やはり、地方だと物も情報も東京とタイムラグがありますね。なかなか新しい本の情報が入ってこない。なかには発売されたことに気づかないものもあって、後から残念に思うこともあります」
淡々と藤森さんは語る。最近では大手の版元営業でも、経費節減で年に1回しか会えないようなこともざらにあるのだという。そういうImg_1291 意味では、こちらのお店はどこの地方書店(ナショナルチェーンは除く)でも抱えるような悩みを持ったお店、といっていいだろう。
しかし、実はこの店、「女性の品格」(PHP新書)の火付け役として知られるお店なのだ、ということを、偶然居合わせたトーハン広島支店の竹迫仁美さんに教えられた。実は廣文館が独自のラジオ枠を持っており、藤森さん自身がレギュラーで毎週本を紹介しているのだそうだ。だから、藤森さんが火付け役になった本もいくつかある。
「とくに印象に残っているのは、藤森さんが駅ビル店にいらしたときに組まれた新潮社のクレストブック・フェアですね。あれは素敵でしたね」
竹迫さんが教えてくれる。藤森さんは、
「あれは実は自分がやりたくて、『売れなくてもいい』と思って採算度外視で仕掛けたフェアだったんです。でも、本を並べたら独特の雰囲気があったんでしょうね。お客様に注目していただいて、結果的Img_1293 にはすごくいい仕上がりになりました。駅ビル店という場所もあるのでしょうけど、あれは嬉しかったです」
クレストブック・フェアが成功する。地方ではちょっとありえない感じだが、広島くらいの都会になれば本好きの数もそれなりにいる。そういうお客様が集まる店で、仕掛けをうまくやれば、十分、結果は出せるということなのだろう。そうした結果に注目してか、新潮社や講談社といった大手版元の営業マンが合同で廣文館の文芸担当者だけを集めた自社の新作の紹介を開いたりもするらしい。
Img_1294_2 「いまは何がヒットするかわからない時代。どこからヒットが生まれるかも、予想がつきませんよね」
などと、語る竹迫さん自身も、実は「取次ぎ発のヒットを作りたい」という野望を持つ。
いいなあ、その心意気。それで、仕掛けたい作品は何ですか、と尋ねると、
「篠田節子さんの『イビス』です」
と、即答。篠田さん、実は大学の先輩だ。無名大学出身だと、数少ない有名人の先輩はImg_1301_2 ちゃんとチェックしている。作家として尊敬する方でもある。いいですね、ぜひ仕掛けて、ヒットさせてください。
そのほか、「腐女子目線が文芸のヒットを読み解く鍵になる」など、しばし雑談で盛り上がった。楽しくて、気づいたら2時間も長居してしまった。お忙しいところ、すみません。
帰り際、藤森さんは、
「せっかくですから、駅ビル店も見ていってください」
と言って、そちらの桑原さんをご紹介くださった。そんなわけで、すっかり日も暮れたが、駅ビル店へと向かうことにする。

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NO.82 金正堂(広島市中区)

Img_1276 さて、紀伊國屋の後には廣文館の藤森さんのアポを取っていたのだが、私がちょっと出遅れたために、藤森さんは休憩に出られてしまった。心優しい紀伊國屋の藤井さんが、本通商店街の入り口まで案内してくださったのに、残念なことである。
で、藤森さんがお店に戻られるまでに、途中で見掛けたこの金正堂に営業に行ってみることにする。なにせ広島・本通といえば、昔から一番の繁華街(この商店街だけで専門の情報誌が出ているくらいだ)、そこにいかにも老舗という顔で鎮座しているこのお店、寄らないわけにはいかないだろう。
Img_1279 お店を入って感じるのは、やはり昔ながらの書店の匂い。なんだろう、年長者向けの書籍や雑誌が充実しているとか、ジャンルの案内が大きな文字で見やすいようになっているとか、年長者に優しいというだけではない、ずっとここで商売していたお店だけが持つ独特の雰囲気。書店というより本屋さん、という庶民性と、年月に鍛えられた店だけが持つ重厚さとを併せ持った独特の存在感。この前に訪れた仙台の金港堂や神戸の海文堂にも、どこか通じるものがあった。
Img_1286 応対してくださったのは、森田睦成さん。「経営者が不在なので」と、やんわり取材はNGだったが、自分で見た感想をブログに上げることはかまわない、とおっしゃってくださった。
1階は新刊と文庫の売り場。写真でわかるように、天井から版元別の看板が見やすいように飾られていたり、佐伯泰英さんのコーナーがすぐわかるようになっていたり。そして、階段のすぐ横には、地元本コーナーが。やはり老舗、ちゃんと目立つところにありました。そして原爆関係の書籍も。そこを熱心に見ているお客さんもいるのは、この店らしい。
Img_1282_2 勧められて2階に上がってみると、そこでは呉の海事歴史博物館、大和ミュージアムのショップコーナーがあった。神戸の海文堂にも海洋資料の展示があったが、あちらは海洋関係の学術書を出している出版社の系列だけに専門性が高かったが、こちらはぐっと庶民的。海軍の衣装の展示や、山本五十六のお言葉の色紙、海軍カレーや海軍クッキー、はては宇宙戦艦ヤマトのテープまで販売している。これを見ているだけでも楽しい。自分でも海軍カレーが欲しくなった。でも、次の営業があったので、買うのは遠慮したが。

Img_1277 そういえば、ここにはちゃんと「銀盤のトレース」が棚ざしでありました。店に入ってすぐ左手のいい場所に。版元の営業さんから頼まれたのだそうです。まさかここにあるとは思わなかったので、ちょっと嬉しくなりました。

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No.81 紀伊國屋書店 広島店(広島市中区)

広島は都会だが、ゆったりしている。そのゆったり感を演出するのは、街中を流れる川と路面電車だ。昔懐かしい、などと思うのは部外者の感傷。この路面電車、ばりばり現役。メインストリートを駆け抜ける、広島市民になくてはならない足なのだ。
Img_1257_2 その路面電車で駅から20分弱、紙屋町西駅で下車すると、目の前にバスセンターとそごうの入った広島センタービル。その6階に目指す紀伊國屋がある。
こちらは担当の高中さんからの連絡で、文庫担当の藤井さんにアポが取れている。なので、心強い。
フロアを降りると、紀伊國屋らしい落ち着いた雰囲気の店内。しかし、よくよく見ると、そこここにこだわりが。話題書の中に真藤順丈 Img_1275_2 さんの「バイブルDX]や柳内たくみさんの「ゲート」、伊吹有喜さんの「49日のレシピ」(もちろん「王様のブランチ」で紹介される前)が、「神様のカルテ」や「親鸞」といっしょに並んでいる。新しい作品に感度がいい。
かと思えば「インドなんて2度と行くか、ボケ!」(アルファポリス)が 平積みになって置いてある。実はこれ、去年の9月に文庫版が刊行されたもの。この出版ラッシュのご時勢では、すでに過去の作品と Img_1266_3 思われるものを、ちゃんと掘り起こしている。ほかにもここは「絶対ボケない生活」(廣済堂出版)という新書をヒットさせている。地方だが、気合の入った書店なのだ。
藤井さんの担当する文庫売り場の飾りつけがまた楽しい。東野圭吾作品を集めた棚には、版元から来た赤い六角形のPOPをばらばらにして貼り付けたり、ふきだし状のPOPにコメントを書いたり、「ぼくたちと駐在さんの700日戦争」のところには、メディア化された時のタレントの切り抜きを貼ってあったImg_1270 り。ちょっとした工夫だが、楽しさが形になっている。
実は藤井さん、地元ではラジオの番組のレギュラーを持つなど、よく知られた書店員さんだ。
「荻原浩さんの『ハーフボイルド・エッグ』を読んだときは、これは面白いと思って、ゆで卵の絵を描いたPOPをつけたりしました。それから今は有名になりま したが、湯本香樹実さんの『夏の庭』も、これだ、と思っていろいろ仕掛けました。最終的にはほかの店に抜かれましたが、かなり売れましたよ。そんなふうに 売りたいと思う時は、本に呼ばれたという感じがするんです。表紙を見ただけで、これは売らなきゃ、という気持ちになる。そんな本には滅多に出合えないので すが」
そして、これ、と思う作品に出会った時には、精一杯応援する。結Img_1272 果的には大都市の書店に抜かれてしまうこともあるが(人口比からいって、いったん火がついたものは、東京大阪にはかなわない)、藤井さんが仕掛けて成功したものも少なくない。
こうした仕事ぶりを見るにつけ、書店員一筋の人なのかと思いきや、実はまだ10年も経っていない。前職は広告代理店やコピー機の営業をやっていたのだそうだ。
「あまり営業には向いていなかったんですね。成績が振るわず、上Img_1274 司に叱られてばかり。ポケベルが鳴るのが怖くてびくびくしていたんですよ。ポケベルって、たいてい上司から『今日の収穫は』という問い合わせか、顧客からのクレームか、どちらかでしたから」
その後遺症で、急に呼び出し音が鳴るのが怖くて、いまだに携帯電話を持てないという藤井さん。とても繊細な人だ。それに優しい方である。私が来るということで、わざわざ「銀盤のトレース」をPOPつきで平積みにしてくださっていた。さらに、わざわざ広島のお菓子の詰め合わせをお土産に持たせてくださる。ほんとはこちらがお土産をお渡しすべきなのに、なんてありがたいこと(ちゃんと東京まで持ち帰りました。すごくおいしかったです。自分で取り寄せしようかと思うくらい気に入りました)。そんな藤井さんの細やかな心遣いは、きっと接客にも向いていたのだろう。
「お客様に本を薦めるのも好きですし、探していた本を見つけて差し上げて、喜んでいただくのも好きになんです」
と、おっしゃる。やっぱり書店員が天職だったんだろうな、と穏やかに語る藤井さんを見て思う。
Img_1265 ところで、藤井さんの印象に残る営業マンを尋ねたところ、
「そうですね。いろいろ印象に残る方はいらっしゃいますけど、ひとり挙げるなら新潮社の岑さんでしょうか。実は書店員にすごく人気のある方なんですよ。仕事ができて、クールなところがとても。でも、最近、眼鏡をコンタクトに変えられてしまって、それはそれでさわやかなんですけど、女性陣からは前の方がよかったという声もあって。文系女子は、眼鏡の真ん中のところを指でくっと上げる仕草に弱いんですよ」
そうだったのか。岑さん。この営業ツアーでも、「優秀な営業マン」ということで何度か名前を伺っていたが、実はそんな意味でも人気があったとは。
岑さん、書店周りをするときはぜひ伊達眼鏡を。女子書店員サービスになりますよ、って本人このブログを見ているわけもない(もちろん、私は会ったことがない)ので、適当なことを言ってみる。

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No.79 ジュンク堂 広島店(広島市南区)

Img_1249 ジュンク堂広島店。広島駅から徒歩5分も掛からない便利なところにある。福屋というファッションビルの10階、ワンフロアで800坪くらいはあるだろうか。
しかし、この店で驚くのは、壁際にびっしり埋め尽くされた本棚の高さと幅の長さ。高さは3、4メートルくらいで、幅は10メートル?20メートル?とにかく圧巻。上の方はもちろん梯子を使って本の出し入れをする。映画でしか見たことのないイギリスの大学の図書館とか、そImg_1250 んな感じ。いやー、素敵。ここで本を探しているとちょっとハイソな気分に浸れるかもしれない。
後に周ったほかの書店の書店員さんも「あの天井の高さがうらやましい。うちは古いビルなので天井の高さが足りない。消防法に引っかかるから、あんなふうには並べられないんです」と羨んでいました。
こちら、お話を聞いてくださったのは、文芸担当の石田さん。ジュンク堂のお店の性格上、
Img_1242 何か1点を大きく仕掛けるというやり方はあまり取っていないそうだが、現在、石田さんは「世界を旅する」というフェアを展開中だ。開高健さんの「オーパ!」や「河は眠らない」、それに沢木耕太郎さんの「深夜特急」、村上春樹さんの「辺境・近境」といった定番のものから、西原理恵子さんのものや竹内海南江さんのものまで、バラエティにとんだ組み合わせ。石田さん個人としては、中村安希さんの「インパラの朝」を売ろうというところで思いついたフェアだったそうなので、これにはPOPをつけてさりげなくアピールしている。
Img_1243 そうなんですよね。書店さんのフェアって、そのテーマ全体への関心もさることながら、ある1冊の本を売りたい、ということが最初のきっかけになっていたりするんですよね。ほかにPOPがついていたのは沢木さんの「深夜特急」。これは「旅する力」と2冊フェアに上げたこともあり、こちらにも石田さんの思い入れがあるのでしょうか。
ところで、こちらのお店らしいヒット作は?と尋ねると、
「そうですね。やはりカープ関係の本がよく売れますね。MAZDA Img_1255 Zoom-Zoom スタジアム 広島ができてからは、とくにそうです。担当者も力を入れています」
やはり、広島といえばカープなのか。
「あと、現在、開催している古絵葉書のフェア。昔の広島の写真の絵葉書で、これは毎年定番のフェアになっています」
なるほど、確か金沢でも同様のフェアを見た。やはり、地元の歴史を扱うものは、どこでも強いらしい。
「ほかにご当地本とか、ご当地作家の本のコーナーというのはあるのですか?」
Img_1254 「もちろんありますが、広島の場合はやはり原爆関係の本も多くなるので」
ああ、そうか。神戸では震災関連の書籍が地元関連の本のところに置かれていた。ここ広島では、やはり原爆ということを避けて通れない。忘れてはいけない痛みなのだ。それは同じご当地本でも、たとえば仙台で伊達政宗本が売れるというのとは、まったく事情が異なる。もしかしたら、昔の絵葉書が売れるのも、過去の姿がそこにしか残っていないという重い歴史があるからなのかもしれないな、とちょっと厳粛な気持ちになった。

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No.80 啓文社 福屋ブックセンター店(広島県尾道市)

尾道といえば「土曜日の実験室!」と言って通じるのは、昔の映画ファン。大林宣彦監督の「時をかける少女」ですよ。テンション上がるわー。約束の時間より早く着いたので、明るい日差しのもと、穏やかな海を眺めながらぶらぶらと散策する。観光地だけにお洒落な店も点在しているが、なかには昔ながらの古道具屋さんもあって、奥からおっちゃんが睨みをきかせている。うわ、大林世界だ。なーんて、ひとりで盛り上がりました。
でもまあ、尾道に寄ったのは大林映画の舞台を確認するためでなく、啓文社に行くため。というか、啓文社の児玉憲宗さんと三島政幸さんにお会いするため。実はこのふたり、別の意味で会いたい人だったりする。
Img_1207 児玉さんについては、オリオン書房の白川さんに「ぜひ、会いに行くように」と勧められていた。白川さんが尊敬する書店員さんだそうで、児玉さんの著書「尾道坂道書店事件簿」(本の雑誌社)を読むようにと奨められた。素晴らしい本だった。書店員ものというより、エッセイとしてすごくいい。仕事、仕事をめぐる人間関係、家族、尾道という町、そうしたものに対する愛と敬意があふれている。尾道という町に根を下ろし、20年以上も書店の仕事を続けてきたこと。さらに、大きな病気と闘ってきた人だからこそ書ける文章の凄み。それでいて底辺に透徹する明るさ。前向きさ。書くことを生業として、すべてを書くための材料と見ているようなプロのライターには、到底生み出せない文章である。
敵いませんわ。

Img_1228 私の駄文を読むよりは、この本を読んだ方が啓文社のことは何倍もわかる。以上、終わり、というわけにもいかないので。
本に書かれていないこととしては、啓文社では60歳を過ぎても現役で頑張る人がいる。60過ぎの店長が、「仕事のツールで必要だから」と、最近、ツイッターをはじめられたそうだ。年長者の知恵やキャリアを大事にする会社であり、それに応えるスタッフがいる。それって、とても素敵なことだ。成果主義を重んじ、若者だけを尊重する会社は、実は未来がない。売り上げを立てる力だけを重視し、年寄りになったら切られる会社であれば、若者だってそこに未来を見出せない。忠誠心だって育たないし、給料以上の仕事はやる気にはなれないではないか。あんなふうになりたい、と思う先輩がいてこそ、会社という集団はうまく機能すると思う。
Img_1231 それから、啓文社は金沢のうつのみや書店などと同じように、小さな書店に替わって取り次ぎの窓口になっていた(最近、系列会社にその仕事を引き継いだ)ことも聞いた。取次ぎの代行については、後にうつのみや書店のところで書くつもりだが、啓文社のそうした働きがあるからこそ、瀬戸内海の島の小さな書店にも本を送ることができたのだ、ということ。地域に根ざした老舗の書店の役割というのは、そういうことだ。地方の文化というのは、そうやって守られてきたのだ。
それを語る児玉さんの穏やかな口調、言葉の端々から伺える仕事への情熱。何よりきらきらと輝く目が、雄弁に児玉さんの人となりを語る。私とほぼ同世代だが、この年で、こんな目をした人にあったのは、いつ以来だろう、とちょっと感動してしまった。

Img_1213 それから三島さん。児玉さんは本部に勤務しておられて、三島さんの方が福屋ブックセンターの店長。実は、三島さんのツイッター上での活発な発言、それから行動に注目していました。書店員とあると、私はとりあえずフォローしているのだが、その中でも三島さんの発言は目立つ。ことに、ツイッターを通じて作家の手書きPOPを集める運動は面白いと思い、私も参加させていただきました。実際のところ、作家POPというのがどれくらい売り上げに繋がるのかはわからないけど、なんでもやってみようという行動力がいい。
Img_1232 実は三島さんとお会いすると決めたあとに、ツイッター上で宮下奈都さんの「スコーレNo,4」を盛り上げようという書店員の運動が盛り上がった。その中心人物のひとりがほかならぬ この三島さんであった(実はツイッター上で宮下さんとも知り合い、同じ担当編集という繋がりもあって、今回、福井に宮下さんを訪ねている。不思議な縁である。それについては、また後日、記載)。秘密結社と呼ばれているその書店員の運動で、三島さんを団長と呼ぶ人もいる。その異様な盛り上がりの渦中にあっても、冷静さを失わないし、取次ぎや版元に迷惑が掛からないように指示を出す。一見、無秩序な秘密結社の運動が、実はすごく秩序正しいものになっているのは、この人の呼び掛けに負う部分も少なくない。すごいアクティブな方だし、アイデアマンでもあるが、児玉さんに言わせると、その本領を発揮Img_1233 するようになったのは、この1月、店長になってからなのだそうだ。それまで溜めてたアイデアが、店長になった途端、発揮されるようになったらしい。だが、実は三島さん、ミステリに関しては「おそらく中国地方でも、1、2を争うほど詳しい書店員」ということだそうだが、その知識はまだ書店にそれほど反映させていない。「趣味を出しても、それが売り上げに繋がるかどうか」ということで、様子を見ているらしい。アクティブな部分と、慎重さとが不思議と同化している方のようだ。本人も、ツイッターやブログ上の能弁さから想像していたより、ずっとクールな印象を与える。書店員というより、物書きの印象に近い方だった。
そんな三島さんに、店内を案内していただいた。
エスカレーターをあがってすぐのところに、例の作家直筆POPの着いた本の棚。さすがに目立つ。これだけの直筆POPを揃えた書店は、ちょっと見掛けません。大阪の紀伊國屋書店本町店くらいだろうか。それに、私が宮下さんとの関係を知って、わざわざ隣に並べてくださった心遣いが嬉しい。
Img_1217 「スコーレNo.4」については、搬入が翌日ということで、まだ並んでいませんでした。残念。でも、ゆったりしたスペースのところどころに、緑のテーブルクロスを敷いた丸テーブルが置かれ、フェアの本が並んでいる。手作りのPOPもとても可愛い。たぶん、このあたりに「スコーレNo.4」が並ぶのだろうな、と思う。
それから、レジの脇にはご当地本を集めたコーナーがある。そこがなんとも楽しい。郷土の歴史やガイドブック、それに小説。林芙美子、「告白」の湊かなえといったご当地作家の本はもちろん、尾道を題材に取った小説の数々。志賀直哉「暗夜行路」、今東光「悪名」といった定番に加えて、田辺聖子に恩田陸、Img_1210 桐野夏生といった意外な作家の作品も。さらには、地元出身の漫画家かわぐちかいじさんの実弟かわぐちきょうじさんによる「小林和作伝・花を見るかな」(小林和作は尾道を代表する画家)もある。
そうしたバラエティに富んだ尾道本の数々を見ていると、尾道ってやっぱり魅力的な場所なんだなあ、と思う。決して広い範囲ではない、なのにこれほど多く語られ、物語の舞台になった場所、多くの文化人を輩出した土地はそんなに多くはないだろう。
Img_1208_2 この本の並びが、そのまま尾道の素晴らしさを物語る。すごいコーナーだ。
ほかにも、児童書が充実していたり、宗教関係の本が文学コーナー並に充実していたり、雑学文庫のコーナーがあったり、と見所はいろいろあるが、三島さん自身がこだわっている棚としてあげてくださったのは、店の奥のあまり目立たないところにあった。「福屋ブックセンターお薦め棚」のコーナーの「数学が登場する小説とノンフィクション」「ゼロ年代の思想家たちとその周辺」だ。
前者はもちろん「天地明察」や「博士の愛した数式」「数学ガール」(結城浩)といった軽いものから、「ポアンカレ予想」(早川書房)、「ゲーデル、エッシャー、バッハあるいは不思議のImg_1223 環」(白楊社)まで、バラエティに富んだ並び。後者は東浩紀さんの「クォンタム・ファミリーズ」や「思想地図」「キャラクター」といった一連の著作を中心に、「ゼロ年代の想像力」(宇野常寛)「アーキテクャの生態学」(濱野智史)やユリイカの「初音ミク」特集号はいいとして、なぜか小鷹信光の「私のハードボイルド」や「私のペーパーバック」まで。うーむ、深い。
思わず考え込んでしまった。

そんなわけで、なんだかんだで2時間以上、楽しく過ごさせていただいた。啓文社、いい書店です。働く人の頑張りや、情熱が見える書店です。
Img_1238 ところで、児玉さんが拙著の「ブックストア・ウオーズ」(新潮社)を持っていらしたので、サイン交換をした。児玉さんは「本が好き、本を売るのはもっと好き」と書いてくださった。いい言葉だ。
私は「本が好き、本を書くのはもっと好き」と言えるかな? まだまだ言えないな。ことに、児玉さんのような方を目の前にしては。
続けないと、何事も本物にはならない。4冊や5冊書いただけでは、まだまだだ。いつか、「本を書くのはもっと好き」と言えるようになりたいものだ、と強く想った。

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