No.78 ジュンク堂書店 三宮店(神戸市中央区)
さて、神戸と言えばジュンク堂発祥の地。そのなかでも三宮店こそ本丸中の本丸。海文堂書店と並んで、ここがあったから神戸行きを選んだのである。
三宮センター街という、おしゃれな店が軒を連ねるアーケード街の中に、その店はあった。
4フロアが書店だという大書店ビル。でも、1階はHMVの方がやたら主張しているので、入り口はうっかりすると見落としそうです。でもまあ、エスカレーターで2階に入ってみると、さすがの本と人の量。話題書だけをずらりと並
べて面陳した棚がお出迎え。
実は到着時間がわからなかったし、担当者の名前も知らなかったので、アポなしの直撃でした。もし担当者がいなければ、翌日で直せばいいや、などと姑息なことを考えていたのですが、文芸書担当の楠本杏子さんが、にこやかに迎えてくださいました。
おりしも「1Q84」の展開が花盛り。こちらでも、もちろん一番目立つところにコーナーができている。
「こちらでは、どれくらい売れたんですか?」
「1巻で類型3000冊くらいですか。3巻も1500を超えました」
と、こともなげに楠本さんはおっしゃる。
3000ですか。普通の(といっても、その地域の上位店)と一桁以上違う。さすが、ジュンクの本丸だ。と言いつつ、私が気になったのは「1Q84」のコーナーのど真ん中に、アイザック・ディネーセンの「アフリカの日々」(晶文社)が置かれていたこと。
「これはどうしてなんですか?」
「本の中にこの小説の紹介が出てくるので、問い合わせがあったんです。それで、並べて置いてみました」
とのこと。なんて芸が細かい。ただたくさん売るだけでなく、こうした細やかな心遣いが本屋の心意気だよね。
ところで、このディネーセン、私の憧れの作家である。「アフリカの日々」みたいな作品が書けたら、絶筆してもいいな、と思うくらい(そんなことはありえないので、じたばた書き続けるしかないのですが)。晶文社のディネーセンコレクションは絶版になったはずだけど、「1Q84」効果で復刊したのだろうか、などと考えたりした。どうでもいいけど。
ところで、こちらのお店、やはりジュンクの棚らしくない。3階4階は違うみたいなのですが、文芸の置かれている2階は昔のままの什器、つまり、あまり背が高
くない。おまけに、棚の前の平台が、一列だけしか並べられないようになっている。
で、この平台がなかなか面白い。レジ近くに話題書の大きなコーナーがあるので、押さえるべきものはそっちで押さえ、ここは治外法権というか、思い切り担当者の個性が出ている。ノンカフェ・ブックスの「ジェリー・ビーンズが落ちてくる」なんて本、見たことなかった。神戸が本拠地の出
版社だというから、それも無理はないけど。
そのシリーズの横に有吉玉青さんの「三度目のフェルメール」(小学館)、「営業零課接待班」(講談社)なんて、意表をつく流れ。
「ここは、ちょっとこだわりがあるけど、話題書の棚には置けないものを並べています。ほんとは2列に置けるといいんですけどね」
楠本さんはそうおっしゃるが、実は1列の平台の方が目立つと思いました。2列よりも視線が分散せず、本の1冊づつが際立って見える。それに、面白い。実はこの店の2階で、個々が一番面白いんじゃないか、と私は思った。
さらに、このお店の意外な見所は、文庫売り場の奥にもあった。なんと、2メートル以上幅のある棚にぎっしり面陳で矢崎在美さんの「ぶたぶた」シリーズ(光文社文庫)が、関連のコミックスとあわせて面陳されている。おまけに、棚の上にぶたのぬいぐるみや紙粘土で作ったピンクのぶたぶたキャラまである。
これがほかの店なら驚かない。だけどジュンク堂だよ。「ぶたぶた」のような知る人ぞ知る作品を、コーナー作って、しかもキャラグッズ(しかも手作り)といっしょに並べるなんてことはやらないものだと思っていた。しかも、この三宮店で。
「そうですね。ほんとはうちではあまりやらないんですけど、これくらいならいいかな、と少しずつ売り場を増やしていったら、今みたいになってしまいました」
と文庫担当の方は笑っておっしゃった。きっと売り上げがついてきているから、上司の方も文句が言えないんでしょうね。あるいは、密かに「ぶたぶた」のファンだったりして。
「若い女性向けかと思っていたら、意外とサラリーマンの方にも受けているんですよ」
とのことだ。
いやいや、奥が深いぞジュンク堂。とにかく一冊でも多くの本を並べる、図書館のような本屋というイメージを、まさかこの三宮店で裏切られるとは。これだから、書店周りは愉快だな、と思いながらお店を後にした。
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