中部地方の書店

No.68 七五書店(名古屋市瑞穂区)

Img_0997 さて、西日本営業の最初は再び名古屋。実はこちら、七五書店のことを知ったのは、ツイッター上で。以前、新瑞橋の泰文堂の記事をブログに上げたところ「うちの近所」と七五書店の方がツイッター上でつぶやいてくださったのだ。
泰文堂に近いということは、うちの実家にも近い。でも、新瑞橋からバスで一駅のところに、本屋があっただろうか。このあたりは、自分の(本屋チェックの)テリトリーだったはずなのに。
それで俄然、興味を覚えて、ツイッターを通じて営業兼取材の申し込みをしてみたのだった。

Img_0998 七五書店で出迎えてくださったのは、熊谷隆章さん。会った直後に、実はこの熊谷さん、桜台高校卒業ということで、自分の後輩でもあることが発覚。地元なんで、ありえないことではないのだが、いきなりなので驚いた。大学の後輩の書店員としてはオリオン書房の白川さんがいるが、高校の後輩に会ったのは初めて。これも縁だな、と思いました。さっそく熊谷さんに売り場を案内してもらうことにする。

Img_0999 七五書店の名前の由来は、店舗の坪数が75坪だから、ということらしい。町の本屋さんとしては、比較的広いので、ゆったりしている。めざしているのは、
「一見普通の本屋だけど、癖がある。中毒性のある棚になっている」
ということだそうだ。その言葉通り、入ってすぐの目立つフェア台のラインナップがまず普通じゃない。林真理子「下流の宴」(毎日新聞社)柳美里Img_1001 「ファミリー・シークレット」(講談社)川上弘美「パスタマシーンの幽霊」(マガジンハウス)が面陳されているのは、まあいいとしよう。それらと並んで「秘密結社の時代」(海野弘・河出ブックス)、「カントの人間学」(ミッシェル・フーコー・新潮社)、「談志最後の根多帳」(悟桐書院)。棚差しだが、「出版の魂」(高橋秀明・牧野出版)「鉄道という文化」(小島英俊・角川選書)「悪魔学入門~デビルマンを解剖する」(南條竹則・講談社)、うーむ、これは、どんなコンセプトなのImg_1003 か。
「うちは新刊がどさっと入ってくる店ではなく、自分で注文して選んでいるので、この並びにはこだわっています。まあ、自分なりの文脈棚というか。ざっくり言って、こっちは文系。裏側がビジネスとか社会科学系」
確かに、棚差しになっているものには、ある種の流れを感じる。面陳の基準は私にはわからないけど。で、角のところにはImg_1004 「1Q84](新潮社)や「天地明察」(角川書店)といった売れ筋が並ぶ。
「心掛けているのは、探しやすい棚。だけど、それだけでは面白くない棚になる。探しやすさと同時に、こんな本があるという発見がもたれるようにしたい」
そうした意図から、文庫本についても、版元別ではなく、作家別のあいうえお順になっている。確かに、ライトノベルのファンをのぞけば、お客はどこの版元かはあまり気にしていない。作家別に並べてもらった方がわかりやImg_1007 すい。それだけでなく、たとえば浅田次郎と芥川龍之介、あいうえお順では浅田さんが前だが、棚の幅の関係でそのとおりに並べると2段にまたいでしまう。なので、あえて順序を入れ替えて、芥川を前に並べる。小さなことだが、お客様に対する気配りだ。それだけでなく、「隣にくる作家の名前も考えて並べる」のだそうな。
そのコンセプトが端的に現れているのは、実は小説ではなく、ノンフィクションの棚。
Img_1006 たとえば小松和彦の「日本妖怪異聞録」(講談社学術文庫)があって、佐野眞一「旅する巨人~宮本常一と渋沢敬三」(文春文庫)、そしてその宮本常一の2冊並んだ横に柳田国男、そして柴田宵曲の「奇談異聞辞典」(ちくま学芸文庫)という流れ。面白いよ。

さらに、文庫棚をよく見ると、隅のところに薄い箱が張り付いていた。中には「東野圭吾文庫作品リスト201004」というフリーペーImg_1013 パーが入っている。内容は、2010年現在、文庫で入手可能な東野作品のリストだ。タイトルだけでなく、それぞれの価格、版元、ISBNコード、発行年月日もついている。もちろん手作り。たぶんエクセルで表を作って、B5の紙にプリントアウトしている。東野さんだけでなく、宮城谷昌光さんや宮部みゆきさん、藤沢周平さんといった人気作家については同じものが作られている。
いいな、こういうの。ほかではまだ見ていない。作るのは、結構、面倒だと思うけど、お客は喜ぶと思う。これがあれば、どれだけその作家の本を読んだかチェックできるし、次に買う目安になる。自分だったら、宮部みゆきさんのをもらって帰って、マーカーで読んだ本に色を塗る。
「どれだけ販促に繋がっているかはわかりませんが、持って行かれる方は多いですね」
そうでしょう。ファンは嬉しいもの。きっと、これを見て買う人もいますよ。

Img_1018 それに、特筆すべきは本屋大賞の棚。受賞作候補作が並んでいるのはもちろんだが、熊谷さん自身が投票した3冊もPOPつきで並んでいる。「ハーモニー」(伊藤計劃・早川書房)、「線」(古処誠二・角川書店)そして「よろこびの歌」(宮下奈都・実業之日本社)。
をを、「よろこびの歌」。宮下奈都さん。これは「銀盤のトレース」の担当編集者である高中さんの仕事。その縁で、宮下さんとは3日後に会うことになっている。やっぱり、繋がりますねえ。いえ、うちの地元だとか、私の後輩といった時点で、こちらとは浅からぬ縁ではないか、と思ってたのですが。
Img_1016 もちろん、熊谷さんはツイッター発の「スコーレNo.4」の秘密結社の運動にも参加している。この時点では、まだ運動が動きだした直後だったが、すでにコーナーを作って展開していた。すばやい動き。おそらく、運動とは関係なく、「スコーレNo.4」を多めに仕入れていたのだろう。「よろこびの歌」を推すくらいだから、宮下さんの文庫にチェックを入れていないわけはない。
ほかにも、ツイッター上で以前、盛り上がった「ネコ本」運動にもこImg_1015 ちらは参加していて、その名残もちらり。POPだけでなく、棚にシールを貼って楽しさを演出しているのがいい。

ほかに、いままで仕掛けて印象に残るものは?と、尋ねると、
「そうですね。どういうきっかけかは覚えていないのですが『クレイジーカンガルーの夏』(諠 阿古・GA文庫)を読んですごく面白くて、ライトノベルですが一般の方にも紹介したいと思いました。本屋大賞にも推薦したところ、『本の雑誌』の増刊号に自分が書いたコメントが掲載されました。するImg_1014 と、それを読んだ版元の営業の方から、夏休みの注文書にそのコメントを使わせてほしいという連絡をもらいました。小さい書店なので、営業の方もあまりいらっしゃらないですし、版元の方とあまり接点がないので、こういうやりとりがあると印象深いです。この文庫については、うちの店頭でもコメントを書いたパネルを作ったりしたので、まずまずの反響でした。うちでは、こうした仕掛けはたまにしかやらないので、やるからにはお客様に響くものを、と思います」

ところで、こちらの客層はどんな感じなのだろう。
「学生から家族連れまで幅広いです。男女比では同じくらい。常連の方は多いと思います。でも、接客するうえでは、常連の方もそうでない方も、区別しないように対応したいと心掛けています」
Img_1008 なるほど。熊谷さん、真面目な方だ。そんな熊谷さん、個人的に好きな書店はどこだろうか。
「ちくさ正文館です。こちら、高校時代に初めて入ってすごいショックを受けました。以来、すごく意識しています」
出た!名古屋の基本、ちくさ正文館。やはり、ここは名古屋の書店員には絶大なレスペクトをされているんだなあ。熊谷さんの本の選びにも、確かにちくさ正文館の匂いは感じたよ。
「それから、往来堂書店の元の店長の安藤さんの『文脈棚』の考え方にも影響を受けました」
なるほど。あの新刊台はそれなのか。
「さらに、サカエ地下のリブレット。こじんまりとした店だけど、リブレットの面白さをぎゅっと凝縮した感じで、面白いです」

Img_1019 ところで、熊谷さん、ツイッターやブログなどで活発に書き込みをされている。その理由は、と尋ねると、
「地元のお客さん以外にも、少しでも認知してほしいと思うので」
とのこと。そうだよね。このあたり、うちの実家の近くでもあるけれど、どちらかといえば下町、庶民的な地区だ。普通で考えれば、わかりやすい有名作家とか、ベストセラーを置こうと思うだろう。だけど、あえて本好きにも楽しめる店作りを、と頑張っているのがわかる。この地区にあるまじきレベルの高さだ。だからこそ、広く本好きの客を集めたいと熊谷さんは思うのかもしれない。
Img_1020 それがうまくいってほしい、と私も思うが、同時にこの地区の子供たちは幸せだ、と思う。
こういう店が近所にあったら、きっと楽しいよ。
ほかの店を知らないから、今はこれが当たり前だと思うだろうけど、いつか子供たちも気がつくと思うよ。町の本屋にはあまりない本が当たり前に並んでいた、それがどれほど幸せなことか。
小さい頃接する本、つまり地元の本屋で見掛けた本が、後にその人の嗜好にも影響するというのは、この年になってますます実感することだから。

こういう本屋が、高校時代にほしかった。
きっと、週に何回も通っていたよ。
地元の本屋を5軒探して、あとは丸善になければ名古屋のどこにもない(30年前の名古屋はそうだった)。そんな貧しい本屋環境で育った身としては「今の子はいいなあ」とうらやましくなると同時に、その店で頑張っているのが高校の後輩という事実に、なにか胸が温かくなる思いだった。
がんばれ、七五書店!
遠くから、エールを送っています。

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No.28 神宮前泰文堂(名古屋市熱田区)

Img_0555 さて、この日、最後は泰文堂さん。
パレマルシェという、神宮前駅そばのショッピングビルの中にあるお店。
場所柄、主婦だけでなくビジネスマンや学生も多く集まりそう。広い店内に、ビジネス書や学習参考書書なども充実していました。

ただ、こちらも広い店内に、土曜日のせいか書店員さんが少なく、担当の方がレジを離れられそうになかったので、ご挨拶だけに留めました。
Img_0554_2 営業の竹田さん曰く、人情に厚いお店だそうで、確かに本も一番目立つところに置いていてくださいましたし、我々の駐車券も、特別に時間を延長できるよう計らってくださいました。さりげない心遣いが嬉しいです。ありがとうございます。

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NO27.磨里書房 南店(名古屋市熱田区)

Img_0553_2 さて、豊橋から名鉄に乗って神宮に戻り、友人の和美と会う。和美が、また書店周りにつきあってくれるのだ。しかし、私と和美の組み合わせは、どうも道に迷うらしい。版元からもらった資料にある住所をいくら探しても、みつからない。ここぞとばかりに出したアイフォン(ようやく住所検索が出来るようになった)のナビでも、該当なし、と出る。
結局、一番あてになる、住人に尋ねるという手段でお店を突き止めました。なんのことはない、資料にマリ書房とあったのが、磨里の間違いだったんですね。

店構えはこじんまりしているようで、中は意外と奥行きがある。入り口脇には寄せ植えの鉢。入ってすぐのところにパン関係のムックが並んでいたり、子供たちがアナログのゲー ム本で遊べるようなコーナーが作られていたり。BGMもジャズが流れていました。お洒落でこだわりが見られるお店。
お、これは素敵、と思いましたが、バイトの方だけだったので、挨拶だけにしました。

うーむ、取材がしたい。
次回、機会があったらチャレンジしたいお店でした。

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No,26 精文館書店 本店(愛知県豊橋市)

Img_0550 名鉄に乗って小一時間。さて、やってきました豊橋市。ここはバンクーバー五輪の代表である鈴木明子選手の出身地。
ここにやってきた目的は、精文館書店の商品部の谷本直紀さんにフリーペーパーに協力してくださったことのお礼のため。精文館さんは、拙著にとても協力してくださっている。豊橋くらい足を運んでもばちは当たるまい。というか、行くべきでしょ、人として。

精文館書店は豊橋駅のすぐそば、売り場総面積1500坪、書店部分だけでも1200坪。東海地区最大の書店だそうである。本館のほか、文具と児童書を扱う文具館、アニメDVDとホビー関連商品を扱うコミック館もある。まずは本館のビルの5階の本部へ。エレベーターの入り口がわからなくて、店内のエスカレーターを使ってあがっていきましたが、フロアごとに全然、雰囲気が違って面白い。ことに4階はフィギュアとか充実していて、まるで別のお店みたい。
5階で谷本さんにご挨拶をし、谷本さんの案内で1階の文芸書売り場へ。文芸担当の上田孝巳さん。実は実業之日本社の営業の竹田さんから、私が伺うことが伝わっていたらしく、上田さんはすでに私のブログをチェック済みだとか。わお。
そのせいか、上田さんは幾分、警戒気味。むー。

Img_0543 1.仕事で気をつけていることは?
お客さんが探しやすい棚を作るということですね。この本の隣はこれ、とだいたい流れがありますから、それに沿って棚を作りつつ、個性を出す、ということです。
あとは、お客さんにどんどん聞くということですね。問い合わせがあったとき、名前も版元も覚えていらっしゃらない場合でも、どこでその本を知ったか、どうしてその本を欲しいと思ったか、お客さんの記憶を吐き出させると、その書名を推測できることが多いです。
2.印象に残る営業マンは?
やはりまめに着てくださる方ですね。それから、こちらが接客している時にはちゃんと待ってくださる方。まずお客様ありきですから。それに、自分のところの本だけでなく、他社のこれといっしょに置くといい、というような提案をしてくださる方は、こちらもありがたいですね。
Img_0548 3.接客で印象に残ることは?
レジで接客している時、5冊くらい本を持っていらして、それが全部自分が読んでいる本だった、というように趣味が被るような方は印象に残っています。
4.書店員になってよかったことは?
本を扱っていると、自然といろんな知識が増えていって、それがよかったことだと思うのですが、最近ではだんだん知識に飲み込まれていっているかな、と思います。
それに、ほかの書店に行っても、楽しむことができないんです。まだ、これ置いてあるんだ、とか、あ、これ取り寄せなきゃ、とか思ってしまうから。もともとは本が好きで、本屋は自分にとって安心できる場所でした。それで書店員になったのですが、10年もやると、こうなってしまう(笑)。
5.よく行く書店は?
三省堂の名古屋髙島屋店とテルミナ店は定点観測しています。東京ですと、ジュンク堂池袋店と神田三省堂書店ですね。
休みの日は、近所にはうちの支店しかないというのもあるので、むしろブック・オフに行ったりします。新刊書店だと、棚の並びはだいたい見当がつくのですが、ブック・オフはぜんぜん違うので面白いです。
6.仕掛けてうまくいったことは?
Img_0544 小さいフェアは好きでたまにやるのですが、宮崎学の「突破者」がまだ有名になる前に、これは面白いと思って平で置いたところ、結構売れましたよ。版元の南風社の営業の方が覚えていてくださったくらいですから。
最近では、「アンブロークンアロー ― 戦闘妖精・雪風」を3,40冊売り、「SF本の雑誌」を細かく追加を掛けて、合計で2,30冊売りました。それで調子に乗って「狂乱西葛西日記20世紀remix SF&ミステリ業界ワルモノ交遊録」を20冊注文したところ、これはちょっと余ってしまいまして。でも、気長に売ろうと思って、目立つところに置いてあります(上の上田さんの写真の背後にある)。
7.これからやってみたいことは?
そうですね。実は本店は文芸の売り上げが伸び悩んでいまして、新刊を並べるだけではどうしても立地のよい系列店やAmazonには勝てない。それで考えたのは、出版社ごとの全店フェアをやったらどうかな、ということ。ジャンルを絞ってやれば、成立するんじゃないかな。長崎出版や論創社だったら、面白いものになるんじゃないか、と思っています。

Img_0546 入り口すぐの目立つところには、東野圭吾さんの新作とか、普通のベストセラーが置いてあるのですが、そこをちょっと中に入って、文芸の新刊、というところになるとすぐに上田さんのこだわりがわかる。東浩紀さんが表紙の早稲田文学が面出しされていて、その隣りに「クォンタム・ファミリーズ」が置いてあったり、「さよなら、ジンジャー・エンジェル」が目立つところに平で積んであったり。神山健二さんの「東のエデン」の隣りに上橋菜穂子さんの「獣の奏者」が並べてあったり(神山さんは、上橋さん原作の「精霊の守り人」のアニメの監督・脚本を務めた)。押井守監督の「ASSAULT GIRLS AVALON」が棚ざしになってるし。普通、置かないでしょ、一番上には。しかも2冊も。
Img_0547 ぶっちゃけ、上田さん、SF好きでしょ?
私自身は、決してSF者ではないのだが、周りにそっち系が多い(同世代の本好き男子はことごとくSF好き、と言っても過言ではない。少なくとも私の周りでは)ので、わかるんですよ。
んでもって、ここでも「狂乱西葛西日記」の話が(これで3軒目)。しかも、いまいち売れていないと聞いて、ついつい私は自分のバッグから宮部みゆきさんの文庫に挟んであった「大極宮」(大沢事務所所属作家の通信チラシ)を取り出し、「ほら、ここで宮部さんが『狂乱西葛西日記』をすごく褒めてますよ。これをPOPに使ったらいいんじゃないですか?」などと、釈迦に説法的なことをやってしまいました。何をやってるんだか。私は本の雑誌社の営業マンか。でも、最初私を警戒していたっぽい上田さんが、SF話になると楽しげに語ってくれました。よかった、共通の話題があって。

Img_0552 もちろん、こちら、本店ですから、SF以外にもあらゆるジャンルが充実しています。上田さんはSF以外にもちゃんと目配りされていて、私の本も浅田真央ちゃんの新刊の隣に置いてくださっていました。ありがとうございます。
んで、SF話で盛り上がって取材が長引いてしまったのに、その間、谷本さんはちゃんと私を待っていてくださいました。お忙しいのに、すみません。谷本さん、ほんとにいい方です。

そんなわけで、楽しく過ごした精文館書店本店。近隣のSF者は足を運ぶべき店です、と書いたら、精文館さんには迷惑でしょうか。SF好きじゃなくても、大丈夫。東海一の大書店ですから、あらゆるお客様のニーズに応えてくれます。豊橋に行ったら、ぜひ、お立ち寄りを。

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No25.三省堂書店 名古屋髙島屋店(名古屋市中村区)

Img_0525 さて、三省堂書店名古屋髙島屋店。名古屋駅から地続きのデパートの11階にある543坪のお店。
ここは、名古屋でもっとも売り上げの高いと言われるお店。広い店内に、朝からお客様が詰め掛けている。
そうなんです。私にとってはすごく敷居が高い。実は名古屋一敷居が高い店かもしれない。
といっても、丸善のように格式の高さからくる敷居の高さと違って、こちらはトラウマから来る敷居の高さ。実は4年前、「辞めない理由」で営業に行ったとき、あまりにも文芸担当の方が忙しそうで、ろくに話し掛けることもできず、すごすごと帰ったという苦い経験があるからなのだ。まあ、名古屋一の店なので、忙しさもまた格別。行った時間帯も悪かったんだろうな、と思います。
なので、正直、今回はパスしようと思っていた。営業の竹田さんに言われるまでは。
「後藤副店長さんは、すごく気さくな方ですよ。いつも親切に応対してくださいます」
それで、その後藤副店長を心の支えに伺うことにする。
Img_0526 だが、私が勘違いしたのか、後藤副店長はお休み。文芸担当の方もお休み。
「でしたら、大丈夫です」
これ幸いと、営業セット(手書きPOPと注文書と新聞のコピー)をレジに置いて帰ろうとすると、「ちょっと待ってください」と、応対してくださっていたレジの女性がどこかへ走っていく。しばらくして戻って来られると、「まもなく店長が来ますので、お待ちください」
なに、店長?聞いてないよ、そんなこと。
で、店長の副田陸児さんが出ていらした。
いえ、そんな、わざわざ店長さんに対応していただくほどの者ではなく。内心、冷や汗がぼたぼた。
だが、さすがに三省堂という大手チェーンの店長さん。接客業のプロ中のプロ。ものすごく穏やかな、紳士的な対応をしてくださったので、こちらの緊張もすぐにほぐれました。
それで、取材も店長さんにお願いすることに。

1.こちらの特徴は?
デパートの中というと、普通は女性客が多いのですが、こちらは名古屋駅の上という立地もあって、ビジネス客も多いのが特徴です。休日は家族連れのお客様も多いですね。
最近は文芸書の単行本は厳しい状況です。東野圭吾さんとか村上春樹さんのようなネームバリューのある方は別として、たいていは文庫になってから読まれることになりますし。ですから、新しい作家さんが出て、文芸がもっと活性化するとよいのですけど。
Img_0529    全体に昔の方が読まれていましたね。読むのがステータスだったですから。「おまえ、まだ太宰も読んでないのか」と言われたりしましたし。
2.この店ならではのヒットなどはありますか?
本屋大賞の候補にもなっている夏川草介さんの「神様のカルテ」という本があるのですが、これがコンスタントに売り上げ1位をキープしているんです。東野圭吾さんの新刊が出るとそちらが1位になるのですが、しばらくするとまた「神様」に戻る。おそらく作品がこのお店のお客さまにあっているんでしょうね。ここ数ヶ月、ぶれなく売れています。
3、書店員ならでは、と思う役得は?
わりとサイン会とか講演会をやらせていただくことが多くて、いろんな作家さんとお会いしまImg_0530_2 した。それで面白い話とか、逆に書くときの精神的な辛さなど、伺えたことでしょうか。お会いした作家さんのなかでは、東野圭吾さんがすごくかっこいい方で、印象に残っています。
4.接客で印象に残っていることは?
やはり、お褒めいただいたときのことでしょうか。あの店員さんにやってもらいたいと言われると嬉しいですね。
接客ということでは、ほかの業種がやっているように、自分が接客したお客様に葉書を出すなどしてもいいかな、と思ったりしています。百貨店にある店ですし、ポイントカードをやっていたりするので、顧客データもありますから。
本というのは、どこでも同じ値段で同じものを売っていますので、お店としての特色を出していかなければ、と思います。見せ方も切り口とかテーマで工夫していかないと。本ほど多品種小ロットな商品はありませんし、黙っていても品物が入荷される。そういう商材はほかにはありませんから。その分、頑張らないといけないと思います。
5.これからやってみたいことは?
芥川賞候補にもなった大森兄弟が一宮出身なんです。彼らだけでなく、愛知出身の作家さんもいろいろ活躍されていますから、地元作家をプッシュしていきたい。それから、名古屋発というヒットを作って行ければと思います。

やー、敷居を高くしていたのは、私の心だったのですね。お忙しいにもかかわらず、とても丁寧に応対していただきました。おまけにサイン本まで作らせていただいて。ありがたいお店です。
私が子供の頃にはなかったお店なので、実はじっくり見たのはこの日が初めてなのですが、ワンフロアで店内の移動がラクだし、ジャンルごとの棚の配置がわかりやすいし、通路の幅も広い。レイアウトが巧みなのか、実際の坪数以上の広さを感じる。大型書店だと、本がありすぎてかえって選びにくいのだが、この書店の場合、力を入れている本は、ポイントポイントのフェアのコーナーにどっと積み上げるなど、書店の方針も伝わりやすい。だからヒットも生みやすいし、お客様も集まるのだろうと思う。私も名古屋に住んでいたら、やっぱりここに来ていただろう。加えて保守的な名古屋人に好まれる理由は、髙島屋と三省堂という2重のブランド力、さらに書店員の接客のよさもあるだろう。まず、書店員の数がほかより多いし、流しの著者にもわざわざ店長自ら応対してくださる対応のよさ。地の利だけでない、そうした書店の在り方が名古屋でトップの売り上げを生んでいるのだと思う。
お話に出た「神様のカルテ」が500坪以上ある店内のあちこちに山積みになっていました。私Img_0531 が訪れたちょうど前日に、著者の夏川さんが挨拶にみえたのだそうです。名古屋一売れるこの店で、ベストセラートップの快進撃を続ける。いったい、どれだけ売れているのでしょうね。何ヶ月も1位ということであれば千冊は軽々越えそう。万単位で売れていてもおかしくない。間違いなくこの店が、「神様のカルテ」を日本一売ったお店だと思います。
ところで、地元出身の作家をプッシュしたいとおっしゃっていた副田さん、私も地元作家ですので、ひとつ、よろしくお願いします、と、面と向かっては言えず、こんなところで呟いてみる。

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No24 鎌倉文庫 サンロード地下街店(名古屋市中村区)

Img_0516 で、13日は豊橋に行く日なんですが、その前に、名古屋駅近辺の店もちょっと訪ねてみることにする。
これも営業の竹田さんに奨められた鎌倉文庫からスタート。名古屋駅近辺、それも地下街。広すぎてわかりにくい。前にも書いたが、名古屋の中心は栄町、次に名古屋駅近辺。だが、真の中心はその地下街にある。
みんな、地上なんか歩いとれせん。地下の方が車も通らんし、冬は暖かいし、そりゃいいに決まっとるがね。
というわけで、地下街の店は繁盛している。なかでも、この鎌倉文庫サンロード地下街店は、わずか10坪しかないというのに、かつては名古屋一の売り上げを誇ったお店。この前社長さんにお会いした鎌倉文庫今池ガスビル店の系列のお店です。
Img_0520 朝10時頃伺ったところ、土曜日なので比較的、空いているというものの、名駅エリアマネージャーの伊藤幸信さんは品出しの真っ最中でお忙しそう。とりあえず、本を置いてくださっていることのお礼を言い、ついでに取材も、とお願いしたが、「うーん、うちはいいですよ」と、あまり気乗りしない様子。いえ、決して無愛想な方ではなく、ただ忙しいんです。でも、めげずにいろいろ話しかけているうちに、伊藤さんのお子さんが中京大の体育学科であることを知る。「中京大にも、取材に行ったんですよ。すごくいい学校ですね」なんて話から、だんだん伊藤さんの気持ちもほぐれてきたところで、なし崩し的に取材に移る。
いや、粘って、ほんとよかった、というのは後から思ったことでした。

1.こちらの客層は?
Img_0521 平日は通勤通学の方がメインです。だから、帰りの5時以降はほんと忙しいですね。土日に見えるお客様は、ここなら話題の本がある、と知ってみえる方が多いです。
2.でも、いわゆるベストセラー本ばかりじゃないですね(「サはサイエンスのサ」とか「平凡パンチの時代」「大正ロマン手帖」なんて本まで、10坪なのに並んでいる)。
この本なら、お客様が買ってくださるという勘が働くものを仕入れています。面白そうか面白くなさそうか、本屋は雑学王的なところがないと勤まらないので、いろんなジャンルをチェックしています。
3.今まで仕掛けたもので、印象に残っているものは?
このお店の場合、面白いように売り上げが伸びた時代もあって、日本で一番売れた商品もいくつもありましたよ。
Img_0522 だけど、個人的に一番記憶にあるのは、大友克洋さんのコミックス。タイトルはなんだったかな、もう覚えていないけど、まだ彼が一部の人にしか知られていない頃、通販メインで、書店は東京と大阪の一部にしか置かないという本が発売されたんですよ(おそらく綺譚社の「BOOGIE WOOGIE WALTZ」か?)。それで直接、編集部に電話して掛け合い、買取りで大量に仕入れしました。。当時はコミックも取次ぎを通していなかったので、なんとでもなったんですよ。上司の顔は引き攣っていましたけど、若かったから出来たんだと思います。でも、大量に売りました。岐阜や三重からもわざわざお客さんが買いに来たくらいですから。
雑誌で印象に残っているのは「JUNE」ですね。これも元はエロ系の雑誌の増刊として出されていたんですよ。当初は自販機にしか置いてなかったものを、これも版元に直接、掛け合って店に置くことにしました。これも、かなり売りました。しばらく、バックナンバーもずっと置いていましたよ。
Img_0519 今は取り次ぎが主導になって、全部取り次ぎ通しですから、ある意味、面白みがないですね。指定配本とかもありますし。だけど、取次ぎ通さず、継続的にペイさせていくことは難しいでしから、仕方ないです。
4.これからやってみたいことは?
返品率を下げたいですね。かつては、10%台、雑誌は7,8%という時代もあったんですよ。その頃は、坪効率日本一と言われていた時代ですけどね。まあ、ああいう時代はもう来ないと思いますけど、もう少し1冊1冊をじっくり売っていけるといいですね。

いきなり大友克洋さんの名前が出てくるとは思わなかった。地下鉄の人通りの多い店で、そんなマニアックな名前を聞くとは。おまけに「JUNE」。さらにびっくり。だって、私、確かに名古屋駅の地下で、「JUNE」の創刊号を見ましたもの。すごい本が出たなあ、と驚いて、買おうかどうしようかすごく迷って、結局買いませんでしたけど。でも、それは、伊藤さんの仕事だったんですね。まさか30年経って、そんな記憶が繋がるとは。
それに、本を出している綺譚社には、友達が勤めていました。大友さんとも1度お会いしたことがあります。JUNEの創刊編集長とは知り合いです。2代目編集長は友達の弟。いやまあ、繋がる繋がる。両方とも、こちらのお店ではなく、名駅地下の、別のお店に伊藤さんがいらっしゃった時代のお仕事らしいのですけどね。なんとまあ、世間は狭い。
それで、こういう書名を聞くと、伊藤さんというのがいわゆるオタク系の人かと思うでしょ?まったくそうではないみたい。普通の中年男性です。いわゆる雑学王で、感度のいい方なんでしょうね。現在の駅前店も、一見、駅周辺によくある、狭い店内にベストセラーと実用書、雑誌ばかり並べたお店かと思いきや、書棚に目を凝らすと「サはサイエンスのサ」(作者の鹿野司さんとは、編Img_0517 集者時代、一度だけ原稿をお願いしたことがある)と「天気予報学入門」が並べて置かれていたり、その数冊離れたところに「代替医療のトリック」なんて本があったり。「本の雑誌」と「ラジオ深夜便」が、少ない雑誌売り場の棚ざしの一番目立つところに置かれていたり。何気に深い品揃えなのだ。だからこそ、駅の乗り換えに利用するお客さんだけでなく、この店なら、とわざわざ来るお客さんもいるということなのだろう。

便利で深い、鎌倉文庫サンロード地下街店。名古屋の地下街に行ったら、覗いてみてください。狭い店なのに、意外な発見のあるお店です。

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NO23.ちくさ正文館本店(名古屋市千種区)

Img_0495 さて、名古屋の基本、ちくさ正文館だ。
「基本」と呼んだのは、らくだ書店東郷店の店長さんなんですが、ほかの書店さんからも、たびたびこちらをレスペクトする発言を聞く。それでまあ、こちらに伺うことにする。幸い、私の本も入荷してくださっているという情報は入っていたし、名古屋の書店を周っている以上、基本を抜かすわけには行かないし。幸い、かつて系列だった正文館本店の清水さんが、仲介の労をとってくださったので、店長の古田一晴さんを訪ねて伺うことにする。

Img_0498 ちくさ正文館。私が高校時代、教科書ガイドを買いに来たのは、実はこちらのお店ですね。外から見ると、ちょっとなつかしいような佇まいの町の本屋さん。そんな格式の高いお店には見えないのですが、表玄関を一歩入ると、この店の実力がすぐわかる。入ってすぐのところにある、一番目立つ文芸の新刊の平台には、大江健三郎さんの「水死」とか森まゆみさんの「海に沿うて歩く」とか吉村昭歴史小説選集とかが並んでいる。雑誌の新刊のコーナーにあるのがImg_0500 「西洋中世研究」だったりするし。それ見ただけで、帰ろうか、と思いましたよ、あまりに場違いで。すでに古田さんにアポを取っていなかったら、引き帰したかもしれない。よくまあ、私の本を入荷してくださったものだ、と思いました。
あとで知ったのは、奥の方には普通の文芸のベストセラーなども並んでいて、私の新刊もそちらの平台に置いていてくださっていました。正面玄関すぐの部屋は特別みたいなのですが、それにしても、すごいわ。

Img_0503 置いてある本の格調の高さとか、店全体が醸し出す知的な雰囲気に圧倒されつつも、店長の古田一晴さんを見て、さらにびびる。一癖もふた癖もありそうな個性的な風貌。それは間違っていなかったとあとでわかるのですが。
もっとも、さすがに接客業を長くされている方なので、突然、訪ねてきた無名の作家にも、やさしく応対してくださいました。

1.仕事で気をつけていることは?
いまの書店の状況は、従業員が人の3倍働かないとおっつかない。それでようやくとんとん。厳しい時代ですよ。ほかとの差別化とかはその先の先。うちの場合、中規模店だし、ジャンルに細分化した担当がいるわけでもないし、自分が雑役兼任で全体を見るという感じです。
うちの店は変わっているといわれるけど、非常にベーシックなことをやっていると思っています。面倒なことも手を抜かない。だいたい、芸術評論と詩の棚を見ればその店のことがわかりますね。そこが一番面倒なところだから、ちゃんとやっていないと繋がりがめちゃめちゃ。やってるところとそうでないところの差がはっきり出ます。
Img_0499 気をつけているのは、毎日こつこつ情報を集めることかな。何が流行っているかってことは、日経流通新聞とかを見ればわかる。だけど、本に繋がる情報は違いますから。取次ぎとか版元のFAXの情報なんかもほんの一部。いろんな情報に目を通し、人のネットワークを活用するということですね。そうですね、たとえば先日浅川マキが名古屋で客死しました。それを聞いて、すぐに石風社から1冊だけ出ている彼女の本を手配したところ、へたな新刊より売れましたよ。そういう風に、常時アンテナを張っているということですね。
うちの店は人文・文芸・芸術にジャンルを絞っています。それも、どこにでもあるものは置かない。児童書、タレント本の類は一切置かない。コミックはガロとか、アート系のものが置いてあるだけ。学習参考書もありません。駅近くに支店があり、そちらに学参、児童書、コミックスの類は大量に置いてありますので、それですみ分けしているんです。
うちの場合は、目的買いが多く、大学の先生とか司書の方にファンが多いんです。そうした方が学生を連れてきてくださる。だから、売り込みとかはしたことがないんです。
Img_0510 2.仕掛けて印象に残っていることは?
学参以外は一通りやりましたし、フェアもいろいろやったからねえ。
最近やったので印象に残っているのは寺山修司フェア。名古屋にいるコレクターから借りて、寺山の著書を展示しました。ほぼ全部揃いましたよ。
それから、田中栞さんの豆本フェアですね。田中さんの仕事をまとめて、田中さんの作った豆本とか蔵書票、ミニ版画なども展示しました。
3.印象に残る営業マンは?
歴史書懇話会とか人文会とかNRとか、今でもずっとみんな仲良くしているんですが、亡くなった筑摩の田中さんとか晶文社の島田さんが名古屋担当だった80年代前半頃が、本屋も一番元気だったんじゃないかな。その頃はブックフェアをそれぞれの店がオリジナルで競った時代でした。弘栄堂が火付け役になって、全国書店のブックフェア一覧を作って、ほかがやったらうちは違うものをやる、と思って頑張っていた時代です。
その頃から思うと、今のブックフェアはフェアじゃないですね。夏に文庫フェア、年末は「こImg_0512 のミステリがすごい」、それから直木賞、本屋大賞。パターン化している。あれでは駄目ですね。どこに行っても同じものが置いてあるから、かえって売れない。こういうフェアしか組めないというのは、本屋の企画力が落ちているということなんでしょうね。
4.よく行く書店は?
強いて言えば、家族と行くTUTAYAかな。春だったら旅の本、年末には手帳といった具合に、日常の季節感の出し方がうまいと思うし、一般層に売る売り方の参考になります。あとは、CDショップとか、むしろ本屋以外の店の方が参考になりますね。

うちの場合、売れ行きベスト10もめちゃめちゃですよ。加藤陽子さんの「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」が、ここ半年で4ヶ月くらいベスト1に来ている。まあ、そういった名古屋の知識層が、ほかの店に行かずに、まっすぐここに来てくださる。そうしたお客さんが来店して、目的の本以外にも刺激的な本を見ちゃった、また来ようと思わせる本屋でないと駄目ですね。常にインパクトのある店でないと。それに、いつまでも昔のお客ばかりを相手にしていては駄目。若いお客を得て次に繋げる、その材料を持っていないと。うちで言えば、「ゼロ年代の想像力」とか雑誌の「PLANETS」辺りの読者がそれだと思っています。ですけど、名古屋のほかの書店では「PLANETS」を置いていないんです。それもどうかと思いますね。

これからの書店は「人」じゃないかな。ある程度、時代の波が読めて、具体化できて、継続できる。それで明確なカラーが打ち出せる、そういう店は生き残るで しょうね。いまは厳しImg_0504 い時代だから、とただ愚痴っている人間と、そういう時代だから頑張ろうという人と、2極化されていくんじゃないでしょうかね。
うちは今年もBOOK MARK NAGOYAに参加します。それだけでなく、いろんなお店と年間通して連絡取り合って、チラシを互いに配ったり、ここで新しいことをやっているという情報を交換したりする。それぞれの店がカラーを持っていれば、いろいろ繋がっていくんじゃないでしょうか。

古田店長の話は面白く、気づいたらあっという間に1時間以上経っていた。その後、1階の売り場を案内してもらったら、実に楽しくて、ここでも小一時間が過ぎた。だって、ここの本棚、本当に見たこともない本が並んでいるのだ。人文系や芸術系の本には正直、あまり馴染みがないんだけど、ピンポイントで映画と音楽だけはなんとなくわかる。デビッド・リンチが一冊も置いていないとか、こだわりがわかる。実は古田店長、名古屋でも有名な映画人でもある。その繋がりで寺山修司フェアをやれたりするのだそうだ。
にしても、まったく見たこともない品揃え。ビリー・ワイルダー本は全部持ってるつもりだったがこれはないぞ、とか「ウィリアム・フォークナー研究」なんて研究書があって、そのシリーズの映画特集号(フォークナーと映画の関わりだけで1冊編んでいる)がわざわざ映画棚にあったりとかね。興味のあるジャンルで、知らない本がたくさんあると、こんなにもわくわくする気持ちになるんだ、ということを初めて知りました。こういう気持ち、忘れていたなあ。確かに、古田さんの言うように、最近の店はカラーが薄れているのかもしれない。
それから、ここの平台、フェアと新刊以外のところは基本的に1冊づつしか置いてありません。背を上にして立ててある。だから、見掛けよりも点数が多いんですね。それも、私の知らないような版元の名前がいっぱい。きめ細かい仕事というのは、こういうのを言うんだな、と思いました。

結局、5000円以上、買い物をして、意気揚々と帰宅しました。
今回の取材で、自分の趣味で本を買ったのはこれが初めて。買いたくなる理由は、ここでしか手に入らない本があるから。ここで出会ったからには、買っておかねば、と思わせる本があるから。
実は都心の大型書店に行けば、それらの本は1軒で全部揃うのかもしれない。だけど、ちくさ正文館のセレクトだから買っておきたい、という気持ちが確かにある。この店の、正面入り口入ってすぐの部屋にある本は、全部が特別にセレクトされた本、どうでもいい本は1冊も置いてない、と思わせるのだ。
実は、そう思わせる力こそ、ちくさ正文館の底力。「名古屋の基本」であり続ける理由ではないだろうか。

びびらずに、行ってよかった。すごく楽しかった。古田店長、長い時間、ありがとうございました。今度、帰省するときに、また寄ります。今度はお客として遊びに来ますので、その時はよろしく。

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No21 鎌倉文庫 今池ガスビル店(名古屋市千種区)

さて、今日からはひとり営業。心細し。
おまけに、最初から鎌倉文庫の本店にあたる今池ガスビル店で、 社長さんにお会いすることを営業の竹田さんから奨められる。
Img_0485 鎌倉文庫って言ったら、名古屋の中心栄町の、そのまた中心(名古屋の真の中心は地下街である)のサカエチカのど真ん中(つまり名古屋のヘソに位置する)のクリスタル広場に面したお店とか、名古屋駅の地下街で、かつては坪単価日本一と謳われたお店とか、名古屋近辺で合計10店舗展開している地元じゃ有名な書店チェーン。子供の頃、よくサカエチカの鎌倉文庫で私も立ち読みしましたよ。その社長さんっていたらねえ。偉い人じゃないですか。竹田さんは、
「大丈夫ですよ、気さくな方だから」
とおっしゃるけど、そんなエラい人じゃなくてもいいです。というか、むしろ現場の人がいいです、と思ったんだけど。

地下鉄今池駅の10番出口に直結しているという、超便利な立地のお店。方向音痴の自分でも迷わず行けました。それで、お店に入ってレジの人に、
「副店長の知行さまか、宮川社長さまはいらっしゃいますか」
と、あえて副店長さんのお名前を先に言ってみる。この期におよんでも、できれば社長さんを避けたいという姑息な心理。しかし、
「私です」
と、応えてレジから出て来て下さったエプロン姿のおじさまこそが、宮川社長その人だった。うっひゃー、さっきまでレジ打ちしているのを見ちゃったよ、社長さんなのに、ばりばり現場の人だー。

Img_0480_2 噂どおり気さくな方で、こちらの取材も受けてくださるというので、バックヤードで取材をさせていただくことに。
1.仕事で気をつけていることは?
店ごとに特色が違いますから、売れるものも違います。店ごとの特色を出して売るということですね。
この今池店については、とにかく飽きさせないようにしよう、ということです。常連のお客様も多いので。
それから、エンターテインメントに徹しようということですかね。近くには専門書に強いちくさ正文館もありますから。もっとも、この地区の方は知的水準が高い方が多いので、人文書とはいかなくても、固めなものも売れますよ。哲学系とかもわりと売れる。ちくま学術文庫みたいなものでも、平気で売れるんですよね。お年寄りじゃなくても、若い人でも結構、買って行きます。一方で、このあたりには中国人の留学生も多くて、TOEICの本なんかもすごく売れるし。結構、ばらばらですよ。
Img_0481 だけど、ほかの店のように、ひとつの本で100冊いっぺんに仕入れるとかはできないので、本にコメントつけたりして丁寧に売っています。そうすると、やっぱり動きますから。もっとも、自分がほれないと、コメントはつけられないですけどね。この店の単行本はもちろん自分でつけていますよ。
2.書店をやってよかったと思うことは?
書店経営は今は苦しい時代ですね。だけど、本がもともと好きなので、社長じゃなかったら楽しいかもしれません(笑)。だけど、商材としては非常に好きです。だから、飽きないし、30年以上やってこられたのは幸せなことだと思っています。
具体的に、よかったことと言ったら、やっぱり素敵な人と会えるということじゃないですか。Img_0484 70になってもかっこいい方とか、80過ぎても新しい知識を貪欲に吸収しようという方を見ると、年を取るのも捨てたもんじゃないな、と思います。
3.お客さんとのかかわりで印象に残っていることなどはありますか?
お客さんといっても、本当に千差万別で、カバーが欲しい、しおりが欲しいとおっしゃる方がいるかと思えば、要らない方は袋まで要らないとおっしゃる。この人がああだから、あの人も、ということが通じない。書店の場合、アパレルのような長時間の接客じゃないから、一瞬で判断しなければなりませんし。だけど、だからこそ、この人に聞けば一番だ、とお客様に思われるような店員にならなければだめ だと思いますね。
Img_0486 こちらのお店はターミナル店ですけど、固定客やリピーターが多いんですよ。毎日来るお客様もたくさんいるし、3日にいっぺんやってきて文庫を3冊づつ買っていくような方もいらっしゃる。すごいなあ、と思います。この商売は、そういう方たちに支えられてると思います。
4.印象に残る営業マンは?
辞められて10年くらい経ちますけど、日本ヴォーグ社の営業だった方とは、今でもおつきあいをさせていただいています。
文芸では新潮社とか集英社の方と、年は離れているけど気が合います。とにかくこの本を売りたい、と一生懸命な方とは合うんだと思います。
Img_0482 5.将来的に、やりたいことは?
これからの時代、書店がどうなるかはわかりません。マニアックなもの、すごく高級なものになるかもしれない。粗製乱造、とにかく出せばいいというような本が淘汰されて、よい本をきちんと売りたい。ヨーロッパの映画に出てくる書店のようにセレクトされた本や特化した本を並べて売って、それでもちゃんと商売になる、というのが理想ですね。

それに、宮川社長、現場の第一線でもばりばり働いていらっしゃる。POPまで自ら書くというのは、ちゃんと当たらしい商品に目配りしていないとできないことだろう。これで、社長業はいつなさっていらっしゃるんだろうか、なんて思うのは大きなお世話ですね、はい。だけど、いつまでも現場に立って、現場を大事にしている社長さんは素敵だ。そういう社長さんがいる書店だからこそ、鎌倉文庫は私が小さい時のまま、ずっと同じ場所に在り続けているんだろう。
Img_0483 ここに来るお客様は、丸善の紙袋を持った方が一番多いのだそうだ。栄の丸善ではそこでしか買えないものを買い、こちらのお店で買えるものはこっちで買おう と思われる方が多いのだろう。そういうお客様の気持ちはわかる。都心の大きな店で珍しい本を買ったとしても、地元で買えるものは地元で買おうと思うのが、 書店好きの共通した心理だろう。だって、地元のお店も大事だもの。で、この書店激戦地区の千種区にあって、そう思わせる鎌倉文庫は立派だ。固定客が多いと いうのが、何より本屋の底力だと思う。

今池で遊んで、ふと時間が空いたら、あるいは今池近辺で待ち合わせるとしたら、このお店をご利用ください。便利で、わかりやすくて、岩波新書が妙に充実しているお店です。

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NO20 本の王国 野並店(名古屋市天白区)

Img_0478 さて、一日付き合ってくれた友人の和美と別れて、地下鉄野並駅の近くの「本の王国」野並店へ。こちら、実は実家の最寄り駅だったりするのですが、こんなすばらしい本屋ができたということを知ったのはつい最近。昔は10坪ほどの野並書房以外、野並に本屋はなかったよ。こんな立派な本屋があるなんて、今の住人はなんてうらやましい。

だけど、残念ながら文芸担当の方がお休みで、お話は伺えませんでした。でも、私の本はImg_0470 ちゃんと目立つところに平積みにされているし、文芸には力を入れている感じのお店でした。「さよならドビュッシー」や「トギオ」や、宝島文庫を大きく展開しているのは、ミステリが売れるからなんでしょうか。そのほか「心の持ち方50」というのも、たくさん面出しになっていましたけど。
残念、聞きたいことはいろいろあった。機会があったら、ここにはまた来たい。

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No19 精文館書店 荒尾店(愛知県東海市)

Img_0454 さて、友人和美とドライブで周る尾張書店旅、最後は精文館荒尾店。この辺は和美に土地勘があるので、比較的ラクに着きました。でも、この辺、ドライブしていると面白いですね。東海市に入ったとたん、あたりの景色が田園風景から都市に変わったりして。車で行かないと、そういうことはわからないものです。

さて、こちら精文館書店荒尾店。以前、中島新町店の久田さんにImg_0457 ご紹介いただきました。まだ20代で店長、しかも「うちのお店きっての優秀な書店員」だという磯野さん。久田さんが「事前にブログを読んで研究しておいた方がいいですよ」と脅したらしく、少し緊張されている様子。いえ、実はこちらも出来る書店員さんオーラを感じて、内心びくびくだったんですけど。
1.仕事で気をつけていることは?
店長なので、やはり楽しく働ける環境を作るということが一番ですね。それから、売れ筋の一般的なものを積んで置くのはもちろんですが、常連の、あの方はお好きだろうと思う本はよく見えるところに置く、みたいなピンポイントなこともやっていたり。
2.接客で嬉しかったことは?
お客様が探されている本を見つけた時です。先日、お客様が「かえるの、かえるの」とだけおっしゃったのですが、なぜかひらめいてかこさとしさんの「おたまじゃくしの101ちゃん」をお持ちしたところ、どんぴしゃりだったので、嬉しかったです。
それから、これはみなさんやっていらっしゃることだと思いますが、問い合わせされた本だけでなく、関連書籍を何冊かお持ちししたところ、気に入っていただけて、最初の予定以外の本も買っていただいたりすることですね。
Img_0458 3.印象に残る営業マンは?
そうですね。JTBの方とか文理の方かな。「磯野さん、最近、きれいだね。恋をしてるね」とか、いつもユニークな挨拶をされます。
あと、悪い意味では、こちらの顔を絶対に覚えてくれない方とか。「店長さんはどちらに?」「私ですけど」「失礼しました。では、名刺を」「いえ、もらってます」という会話を何度も繰り返す方もいらっしゃいます。
4.書店員になったきっかけは?
うちの母親が小学校の国語の教師をしていまして、絵本が大好きで、私たち兄妹が小さい頃、よく読み聞かせをしてくれたんです。それも、普通に読むだけじゃなく、兄妹4人を、絵本の登場人物になぞらえたり、節をつけて謳うように読んでくれたり。それだけでは飽き足らなくて、そのうち自分で絵本を作ってくれました。私が小さい頃、忘れ物が多くて、お気に入りの帽子をバスに忘れて、市バスセンターまで取りにいったことがあったんです。その時のことを「まあちゃんのきいろいぼうし」と言う絵本にしてくれたんです。それも、最後に落し物箱を開けると、中から黄色い帽子が出てくるという仕掛け絵本だったんです。それがすごく嬉しくて。それから、本を届けられる仕事をしたいなあ、と思ったんです。
もっとも、母はそんなことを知らなくて、「教員養成大学に行ったのに、どうして教師にならないの」と言われましたけど。
Img_0459 5.書店員になってよかったと思われますか?
ええ。よかったと思います。楽しいですよ。
一番、楽しいと思うのは、新しい本を最初に手にとって見られることかな。
6.好きな書店は?
実家の近所の梅森書店です。緑区と東郷町の境目辺りにある小さなお店なんですけど。子供の頃から立ち読みをよくしていて、ハタキを掛けられたりしました。店主の梅森さんが品出しから何から一人でやっていて、配達までされて。小さいですけど、品揃えがよくて、気に入っています。
Img_0464 あとは、なくなってしまった桶狭間書店。基本的に小さな本屋が好きなんです。大きくて、広くて、きれいなお店は、仕事で見ているからいいじゃないか、と思ったりします。
7.これからやってみたいことは?
開店店長を一度やってみたい。もてる限りの知識と体力を費やして、好きなように棚を作ってみたいですね。

凛とした雰囲気の磯野さん。てきぱきと質問に答えてくださいましたが、書店員になったきっかけを尋ねると、途端に目を輝かせて、子供の頃の思い出を楽しそうに語ってくださいました。素敵なお母様だし、磯野さんご自身も本当に絵本がお好きなんだな、ということが伝わってきました。だけど、そのきっかけを作ったお母様ご自身が、自分の影響力をご存知ないとは。うーむ、残念。おかげでこんな素敵な店長さんになっているのに。
Img_0460 個人的なことですが、私も「教員養成大学に行ったのに、教師にならなかった」クチなので、すごく親近感を覚えました。そういう学校に行くと、教師にならないことって、大きな決断がいるんですよ。親にも嘆かれるし。でも、学校より本が好きだったんですね。その気持ち、すごくわかる。なんて、ほんとに個人的な共感なんですけど。

そんな頑張り屋の磯野店長をはじめ、美人スタッフが笑顔で出迎えてくれる精文館荒尾店。コミックと文庫が充実しています。お近くにお立ち寄りの際は、ぜひ覗いて見てくださいね。

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