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No.146 ほんのみせコトノハ(東京都国立市)

こちらは元書店員の友人Uさんに紹介されたお店。実は先日志津にもいっしょに出掛けた方なのだが、「若い店長がやっていて、志津のlighthouseに通じるようなお店」という説明だった。
国立。だとすると、おしゃれな古本屋かしら。このブログでは古本屋は避けているんだけど。
そんなことを思いながら、店に足を踏み入れる。駅前から伸びる富士見通り添いだが、入口は裏手にまわった二階という、ちょっとわかりにくい立地。扉や窓の装飾がいかにも国立らしいナチュラル系だ。そして階段を上って、売り場に足を踏み入れてびっくり。
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15坪ほどの店の左右両側の壁面と、手前の机にも少し本が置かれているが、3000冊ほど並んだ本はみな新しい。れっきとした新刊書店ではないか。
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それも、テーマは本。ふつうの本屋がやる「本」にまつわるフェアをうんと大きくした感じだ。それも、ことさらにジャンル分けはしない。
ある棚を見よう。「あの商店街の、本屋の、小さな奥さんのお話。」というコミックの横に、富士見L文庫「一生夢で食わせていきますが、なにか。」。続いて夏葉社の二冊「庄野潤三の本 山の上の家」「東京の編集者 山高登さんに話を聞く」。その隣には京都の書店員堀部篤史さんの「街を変える小さな店」「90年代のこと」があって、ショーペンハウアー「読書について」の岩波文庫版と光文社文庫版が並べられ、その隣りには電撃文庫の「魔導作家になろう!」シリーズが並んでいる。

硬軟自在、コミックもエッセイも哲学書も小説もノンフィクションもみんなひとくくりだ。それが妙にしっくりと収まっている。
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昨今、本や本屋にまつわる本は増えているけど、こんなにたくさんあったとは知らなかった。初めてみる本もたくさんある。
「本を読むときに何が起きているのか ことばとビジュアルの間 目と頭の間」という個人的に興味のあった(でも、すごくマニアックな)テーマの本を発見し、思わず買っちゃいました。
本好きなら間違いなくテンションが上がるし、ずっと見ていたいという気持ちになる品揃えだ。

「ざっくり言えば、右側の棚は作家と漫画家が主人公で、出版業界が舞台になっているもの。それに本の書き方についての本を集めました(上記の棚はその一部)。左側は『不思議系』というか、妖怪とか本の中に入り込む話などを揃えています。それに図書館や貸本について、それにデザインや評論なども置いています」
紹介してくださるのは、コトノハの店長有路友紀さん。まだ20代半ばの若い女性だ。こんなに若い方が、新刊書店を開いているという事実にまたびっくりする。
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新刊書店を開くのは実はなかなかハードルが高い。店舗を借りる資金だけでなく、新谷や日販やトーハンといった大手の取次と契約するにはかなりの額の保証金が必要だからだ。そして、取次と取引がなければ新刊を仕入れるのは難しい。なので、個人で新たに本屋を開くとしたら古本屋が多いし、そうでなければ子どもの文化普及協会のような特殊な取次を通すケースが多い。しかし、こちらの店の隅に置かれた箱は、取次大手の日販のものだ。

「古本屋にしなかったのは業界にお金をまわしていきたい、と思ったから。作家さんや版元にお金をまわして、それで次の作品を世に出してほしいんです。そのためには新刊書店じゃないと、と思ったんです」
おお、なんと素晴らしい志。こんなふうに理想を持って仕事をすることを、長年出版関係の仕事をしてきた私自身忘れている。そんな自分が少し恥ずかしい。

だけど、どうやって若い有路さんは日販と繋がったんだろう。
「実は日販と直接ではなく、新進という会社を通して日販のシステムを使わせてもらっているんです」
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新進は愛知の「本の王国」という書店チェーンを展開する会社だが、一方で書店の独立開業支援事業も行っている。やり方はいわゆるフランチャイズ方式だが、店名も形態も書店主の自由裁量にまかされる。日販のシステムを使えるし、そのため個人書店ではなかなか手に入りにくいベストセラーも入手できるという強みがある。何より保証金が安い。
「本屋を始めようと思っていろいろな人に相談している時に、やはり北海道で書店を開業しようとしている方からこれを教えてもらいました」

しかし、そもそも有路さんはなぜ本屋を開こうと思ったのだろう。
こういう店を開くなんて、よほどの本好き、本屋マニアなのだろうか?
しかし、その予想はあっさりと裏切られる。
「小さい頃からスポーツづけで、趣味はゲーム。本はそんなに読んでいませんでした」
驚くことに、有路さんはフィンスイミングの日本代表を7年くらい勤めたほどのスポーツ・ウーマンだったのだ。だが、スポーツで食べて行くなら、五輪で活躍できるくらいでないと意味がないと思い、選手をサポートする側にまわろうと思う。そして、大学でサポートのための勉強をやり、競泳のマネージャーにも挑戦するが、その結果自分にはサポートは向かない、と自覚する。そして、忙しい合間の息抜きに詠んだ漫画に興味を持ち、漫画編集者を志す。だが、なかなかそちらの道が開けず、どうしようか考えているうちに、作るより売る方をやってみよう、と考えた。そして、書店でアルバイトを始め、そこで本を売る楽しさに目覚めたのだ。

そして、書店員になるにしても、組織の中でやるより個人でやりたい。そのためにどうしたらいいか考え始めてから一年ほど。そして今年の3月にこの店をオープンさせるのである。その一年の間に資金を貯め、店内に併設するカフェを開くための資格も取っている。
国立に決めたのは、自宅から通いやすく、東京の中でもメジャーな路線である中央線のどこかで開業したいと思ったから(ただし、自宅は中央線沿線ではない)。それで立川から国分寺あたりの物件をあたり、この物件を紹介された。そこで、国立駅周辺を調べ、駅ビルの書店の品揃えがよかったので、この町なら自分のやりたいと思う本屋も成立する、と考えてここに決める。
驚くべきその行動力。決断力。

書店員から自分で店をオープンさせた方は何人もいるが、たいていは何年も書店員を続け、知識と実績を得てから独立開業する。それが一般的である。有路さんも書店員経験はあるというものの、それほど長くはない。
そして、開業した時点でまだ23歳だ。
「高尚なことはほかの書店にまかせて、ここでは本屋って楽しいよ、と世間にアピールしたい」
その軽やかさは、上の世代にはない。志があっても、実績がないことを言い訳に、なかなか足を踏み出さないだろう。自分も同じ立場だったらそうだと思う。そして、自分にGOを出せる日はなかなか来ないのだ。
だから、有路さんの、とにかくやってみる、というその姿勢はとてもまぶしい。
商品知識もまだまだ、と有路さんは言うが、この店の選書はとても楽しい。
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「(チャレンジできたのは)年収が低くてもいいし、すごく成功しようとは思っていませんから」
とは言うものの、運営は厳しく、イベントをしても集客はまだまだ。このままでは平日にアルバイトをして資金を稼ぎ、土日だけ開く形態にしなければならないかもしれない。
それでも、有路さんに悲壮感はない。本屋以外にも創作などにもチャレンジして、本屋がうまくいかなくても、コトノハという屋号だけは背負っていこうと思っているからだ。

こういう軽やかな姿勢もいいな、と思う。仕事柄書店員一筋という人に何人も会っているし、そういう方たちの凄みも知っている。だけど、そういうプロ中のプロだけが生き残れる世界でなくてもいい、と思う。
本屋がやりたいからやってみよう。そう考える若者が増える方が、本屋に多様性が生まれる。千葉のlighthouseにしろこの店にしろ、いままでになかったタイプの本屋だ。
いろんな本屋があっていい。いろんな本屋があれば、これまで本屋に足を向けなかった人が来るきっかけにもなるだろう。
だからこそ、このお店、成功してほしいと思う。
15坪ほどの店の窓際の一画はカフェになっており、仕事や勉強をするのにもいい空間だ。珈琲紅茶各400円。エビスビール小瓶があるのも嬉しい。フードはカレーやパスタそれにパンケーキなどもある。居心地がいいので、毎週のようにここに仕事に来る作家もいるという。
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それにちょっとしたイベントや読書会、ビブリオバトルの会場にも利用価値は高い。
国立駅から徒歩5,6分。お近くの方はぜひここを訪れてほしい。本好きなら、きっとうっとりする空間になっているから。
(2019年10月18日訪問)

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