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2019年10月

No.145.くまざわ書店アクアシティお台場店

新橋からゆりかもめに乗って台場駅下車。そのゆりかもめの中で聞こえる会話が中国語。
そう、台場近辺は観光名所になっている。なので、台場駅の目の前のアクアシティというショッピングモールの中に来るお客も、ほとんどが観光客。その4階にこの店はある。
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「場所柄リピーターは少ないですね。一見さんのお客さまがほとんどです」
と、相原聡子店長は言う。お客さまの8割くらいは観光客で、日本と海外のお客さまが半々くらい。ほかは湾岸のタワーマンションに住み人たちが外食したついでに立ち寄り、まとめ買いをするというケースが多い。ふつうの書店ではメイン層である高年齢のお客さまは、この店にはほとんど来ない。だから、ほかでは人気の健康系のベストセラーも、この店では動かない。店舗は120坪ほどだが、通路を隔てて3ヵ所に分かれている。本屋としたら条件がいいとはいいにくい。
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しかし、その店舗の形態を逆手にとって、一見さんにアピールする本ものを通路側に置く、というのがこの店の戦略だ。通路の目立つところに映像化関連の書籍を並べたり、人気芸能人の写真集を置いたり。フジテレビが近いのでその関係は外せないが、それ以外にも「筋肉体操」や「チコちゃんに叱られる」、「凪のお暇」など、話題になっているものはどんどん展開する。子どもが「あっ」と声をあげ、カップルが立ち止まってチェックするような、そういう展示を心掛けている。写真集では新垣結衣の二冊が真ん中に置かれている。これは海外のお客さまに人気だという。
観光地に来てまで本屋に行こうとするお客さまは少ないが、そういう方たちが思わず足を止めれば成功だ。なので、この店の展示はポップでとても楽しい。最近文具コーナーを新設したが、カラフルなシールやマスキングテープ、匂いのする時計など、小さくてかわいいものが通路脇に並んでいる。この辺は、海外からの観光客にアピールしそうだ。
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「イメージとしては、ふつうの新刊書店とヴィレッジバンガードの中間くらいかな。ほかのくまざわ書店の人間には『訳が分からない』と言われたりもしますが(笑)」
確かに、くまざわ書店と言えば、人文や社会などの本が厚いことで定評がある。もちろん、この店にもそうしたコーナーはちゃんとある。まとめ買いしに来られるお客さまたちには、店の奥に進めばしっかりした品揃えであることを示し、購入に繋がるようにしなければならない。新聞の書評コーナーもあるし、はじめての韓国文学というコーナーもある。早川書房のフェアもやっている。ディストピアもののミニフェアで、「1984」や「動物農場」のノートも置かれていて楽しい。だが、通路脇の展開が印象が強く、ぱっと見ではそういう心遣いは伝わりにくいのだろう。だが、こうした店舗にしたことで、以前より売り上げは上がった。固定観念にとらわれず、店のあるべき姿を模索していったことの成果なのではないだろうか。
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さらに、この店の立地で特徴的なのは、TAX FREEのカウンターのすぐ隣にあるということ、同じフロアにノイタミナショップ&カフェシアターがあること(ノイタミナとは、フジテレビ系列の深夜アニメ放送枠のこと)。そこを目指してくる海外のお客さまのハートをつかむのも大事な作戦。そのため昨年増床したのを機に、カウンターのすぐ手前の30坪ほどの売り場をコミック専門のコーナーとして独立させた。昨年は「バナナフィッシュ」関連書が爆発的に売れたそうだ。そういう店は全国探してもなかなかないだろう。いまはノイタミナシアターで「サイコパス」の先行上映をしているので、それを大きく展開している。
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「いまはネットですぐに日本のアニメのことが伝わるので、海外のお客さんでもとても詳しい。勉強しないとついていけないですね」
ちょうど訪れたアジア系の女性二人組に、相原さんが質問をされた。後で聞くと「アイドリッシュセブン」というスマホゲームから発生したコンテンツについての本だったそうだ。私は不勉強で知らなかったが、アイドル育成と音楽ものの要素を持ち、若い女性には人気があるアイテムらしい。
「東アジア系の方たちは、日本のお客さまたちとリアルタイムで好きなものを共有していますね」
やはり好きなものにも地域性が出る。おそらく価値観とか情のあり方が東アジアでは共有しやすいのだと思う。だから、韓流ドラマが日本でブームになるし、日本のアニメが韓国や中国で人気が出るのだろう。
新しいものだけでなく、意外なものを海外のお客さまに問合せされたりする。
「ヨーロッパ系のお客さまに『あずきちゃん』という作品について聞かれたので調べたら、95年からNHKのBSで放映されたアニメでした。なぜいまそれなのかは、わかりませんでしたが」
ほかにも、中国の方に伊藤潤二さんのことをよく聞かれるというし、ジブリ作品はロングセラー。なので、ほかの店では新作が公開された時にしか置かないジブリ関連書も、ここでは常備している。イラストや漫画の描き方なども、海外のお客さまはよく買って行かれる。漫画家やアニメーターの画集なども人気がある。
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「もちろん海外のお客さまも大事ですが、観光で来た日本のお客さまが『そういえばこの本、地元にはもうないよね』と思われるような(定番の)本をきちんと置くことが大事だと思っています」
また、通路側に置かれているコミック版「君の名は」や「シャーロック」のバイリンガル版も息長く売れている。やはりお土産として買って行かれる海外の方が多いそうだ。児童書コーナーでも、在留の方たちが子どもに日本語を教えるためにディズニーの絵本などを買って行かれるという。
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そうした海外のお客さまに応対するために、相原さんはラジオ講座などで英語の勉強をしているというが、中国語韓国語の学習も少しづつ始めている。たいへんと言えばたいへんだが、
「習ったことがすぐ実践で使えるというのは励みになりますね」
と、相原さんは前向きだ。実のところ、海外のお客さまを相手にすることで困惑することもあるだろし、ふつうの店ではない苦労もあると思う。しかし、相原さんの話からはそんなことはちっとも感じられない。ぱっと見、楽しいお店という印象だが、それは相原さん自身の前向きな姿勢にも影響されているんだろうな、と思った。

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144.くまざわ書店イトーヨーカドー武蔵小金井店(東京都小金井市)

イトーヨーカドーの三階にある地元のこの店を訪ねようと思ったのは、ここが高村薫さんの「我らが少女A」を大きく扱っている、と聞いたからだ。同じ小金井市を舞台にしたこの本を、「日本一売りたい」と頑張っている書店員がいる。地元民としてこれは応援せねばなるまい。
その書店員は文芸書担当の田村秀美さん。
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「我らが少女A」についてはご存じの方も多いと思うが、事件の舞台となる野川公園や小金井市東町などが、高村薫さんの綿密な取材力と圧倒的な筆力によってリアルに描き出されている。そのため、地元のよさを広めようと活動している人々の心を大いに動かした。物語の舞台になった地図を作ったり、その場所を訪ねるツアーが企画されたりしている。
田村さん自身も小金井のフィルム・コミッションなどの活動に参加していることから、この本をぜひ売りたい、と考えた。地元本と並べて大きくコーナーを作り、市民の作った地図をフリーペーパーとして配った。
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「読んで終りというのでなく、物語の場所を歩くことにつなげられるような告知にしました」
というところが、地元を愛する田村さんらしい。さらに、イトーヨーカドーに掛け合って、入口二か所にパネルを設置したりもした。その甲斐あって、くまざわ書店チェーンとしては日本一この本を売ったという。それほど広いわけではなく、スーパーの中にある店として、これは画期的なことだ。
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「フリーペーパーを持って行く人は多かったですし、『これ、小金井が舞台なんですよね』と、話し掛けてくれるお客さまが多くて、とても嬉しかったです」

その「少女A」と地元本が飾られているのは、店の外側に面した地元コーナー。遠くからでも目立つ場所である。もともとこの店に地元コーナーはなかったのだが、田村さんが提案して昨年末から始めたものだ。大岡昇平が小金井滞在中に執筆した「武蔵野夫人」や写真集「昭和の小金井」といった定番はもちろん、小金井にスタジオがあるスタジオジブリの関連本や、地元NPO法人の代表である著者による「後悔しないための介護ハンドブック」などもある。地元ネットワークの強い田村さんならでは、の選書である。
「ここは常にアップデートし、お客さまに新鮮に感じてもらえるコーナーにするよう心がけています。そうすれば来店されるたびにチェックしていただけますから」
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あるイベントで「地域と映像」という活動をしている佐藤洋輔さんと田村さんが会った時、佐藤さんがこの棚のことを知っていて「めちゃめちゃ感動した」と言ってもらえたそうだ。初対面なのに、棚を通じて田村さんのことを知っていたのである。『書店員は棚を通じて会話する』というが、まさにその通りだ、と思う。

田村さんの担当はほかに新刊・話題の本の棚も担当している。スーパーの中にある本屋なので、お客の主流は家族連れ、もしくは高年齢層。だからいちばん売れるのはテレビで話題の健康本だが、そういう本屋にしてはこの棚のラインナップは渋い。
「各ジャンルで、硬いけどいい本はここに置く、というきまりになっています。それ以外に、これはいいんじゃないか、と私が思う本をほかの棚から移したり、注文して取り寄せたりしています」
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ここがなかなか面白い。経済金融とか歴史とか人文、芸術と棚ごとにざっくりテーマが決まっているが、たとえば芸術の棚。「現代日本のブックデザイン史1996-2020」「バンクシー 壊れかけた世界に愛を」という専門的な本の横に諸星大二郎のコミックが2冊並んでいるし、サイエンスの棚がミニ恐竜フェアになっていたり。
ここは注目のコーナーで、チェックされる常連さんも多い。
「こんな本、売れるの?と思うような硬い本でも、いい本なら売れます」
先ほどの「現代日本のブックデザイン史1996-2020」は4320円もする。それでも面陳で置かれているのは、それでも売れるからだ。平積みになっていた「日本国の正体」なども、置いた途端、売れていったという。
ほかにも、印象に残る売れ方をしたのが、『気づけない毒親』。
「話題になっている本ではないですけど、試しに置いたら売れました。悲しいことですが、こういう需要はあるんですね。そういう本をなるべく目立たせたいと思っています」
平積みになっている「トーシツ・ライフ」もそんな一冊だ。トーシツは糖質ではなく統合失調症のこと。統合失調症の母親を持つ娘の立場から、その病気とのつきあい方を描いたエッセイコミックである。声高に主張はしないけど、切実に求めている人がいる。田村さんはそうした本を探して置きたいと思っている。

ほかにも、書評コーナーが日経と朝日のものだったり、教養、ノンフィクション、政治・経済で縦一列づつ取っていたり、新書と岩波文庫だけで手前から奥までずらっと横一列棚に並んでいたりと、スーパーの中にある庶民的な本屋とは思えない充実ぶり。書店の棚は地域の文化度を測るバロメーターだと私は思っているが、小金井はなかなかのものだ、と嬉しくなった。
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もうひとつ、この本屋で特徴的なのは、児童書のコーナーが充実していること。子どもの数が減っているので、ほとんどの本屋が縮小傾向にあるのだが、ここでは逆に昨年末のリニューアルに伴ってスペースが増えたという。小金井は新築マンションの増加などで子育て世代の人口が増えている。それを反映しているのだろう。売り場は年代別の絵本で棚の横二列全部、雑誌やキャラクターもので横一列、読みもので横一列、それからライトノベルやコミックの棚へと続く。赤ちゃんから高校生くらいまで、どの世代でも対応できる売り場だ。もちろん、参考書なども奥のコーナーに常備されている。
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その量だけでもたいしたものだと思うが、並べ方や飾り付けも工夫されている。天井から旗を下げ、キャラクターの切り抜きが随所に踊る。「おしりたんてい」など、こどもに人気の本がひとめでわかるように面陳されている。児童書だけの週間ベストセラーを紹介したり、「すみっこぐらし」関連本でフェアもやっている。回転棟やパズルブロックLaQのコーナーもあり、実に楽しそうな売り場なのだ。この辺りは児童書担当の鈴木雅子さんの仕事。
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「土日になると、お子さんが常設している椅子を自分で出してきて、棚の前でずらっと並んで本を読んでいるんですよ」
なるほど、ここの売り場なら毎週でも来たくなる。子どもの本離れなどというが、ちゃんと面白い本がそこにあるなら、子どもも興味を示す。
そして、ここに通う子どもは将来きっと本好きになる。こんなにたくさんの楽しい本に触れられるのだから。読書の楽しみ方が自然に身に着くだろうから。
本屋が本好きを育てる、それは確かにある。そして、この店は確実にそれに貢献している。

地元とはいえ、ちょっと外れに住んでいるので、ここに来るのは久しぶり。
ちょっと見ない間に、ますますいい本屋に進化している、と感心した。しかし、本屋がいくら頑張っても、それを必要とする地元民がいなければ成り立たない(売れない本は淘汰されるので、いつのまにかベストセラー中心の棚になってしまいがちだ)。このレベルを維持できるのは、地元の需要があるからだ。
小金井市民、なかなかやるじゃん、と嬉しくなった。
(*注 「少女A」の展開は取材当時のもの。現在は別のフェアが展開されています)                                                                                  (2019年9月24日訪問)

 

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