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No.142 水野書店(名古屋市南区)

ここは、名古屋の七五書店から歩いて10分掛からないくらいの場所にある。名古屋なのでもちろん駐車場はあるが、地下鉄の駅からも名鉄の駅からも遠い。文具や近隣の中学の制服も扱ってる。チェーン店ではなく、いわゆる町の本屋である。

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にも関わらず、ちゃんとしている、というのが第一印象。雑誌や文庫も新しいものが揃ってるし、直木賞受賞の「渦」のような売れ筋も、受賞直後からちゃんと平積みされていた。児童書も参考書もある。都会の大型店ばかり見ていると当たり前のように思えるかもしれないが、出版不況の昨今、町の本屋でそういう店は珍しい。駅から遠いような店ならなおさらだ。近くの七五書店でも、単行本や文庫は全て熊谷店長が注文しなければ入荷されないし、注文しても、旬の本はなかなか入ってこない。にも関わらず、50坪ほどのこの店は清潔で、売れ筋の商品が過不足なく並んでいる。堂場瞬一さんとか松井玲奈さんなどのサイン色紙もある。想像していたより、ずっと元気な店のようだ。

ここが開店したのは1979年、今から40年ほど前のことだ。創業者の水野雄一さんは元々名古屋の老舗デパートの外商部に勤めていたが、29歳の時そこが大手と合併することになり、これまでのような仕事はできない、ということで退社。それ以前から本が好きだったことと、外商部でのお得意さんの1人に書店の方がいたことから、そこで半年ほど修行させてもらい、自分の土地に本屋を建てた。

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時代は出版業界が右肩上がりに成長していた頃。当時は目の前の道路の交通量が多かったことも幸いして、すぐに店は軌道に乗った。子供が学校から帰る3〜4時、社会人が仕事終わりの7時以降と、売れ行きのピークが日に2回あったという。

「本屋になったら本がたくさん読めるかと思ったら、忙しくて逆に読む時間が減ってしまいましたね」

順調な売れ行きをテコに、同じ書店仲間は店舗を増やし、その後それがバブル崩壊とともに首を絞める。撤退を余儀なくされたり、大手チェーンとの合併をすることになったりしている。

「僕は臆病だったんですね。そんなに手を広げなくても、そこそこ売り上げが立っていればいい、と思っていましたから」

水野さんはそう謙遜するのが、店をむやみに広げなかったのは、この商売を始めた理由も関係している。

「僕は本屋のオヤジになりたかったんです。書店でもブックストアでもなく、本屋」

つまり気取らず、いつでもふらりと立ち寄れる店、そこで、いろいろ話をして和むことができる場所、そういうものを水野さんは作りたかったのだ。

「いらっしゃったお客さんと、5分でも10分でもいいから、世間話がしたいんです」

何より、水野さんは人が好きなのだ。

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地方の個人経営の本屋さんでは、そんな風に町の人々の愚痴を聞いたり、相談に乗ることも仕事のうち、と心得てる人もいる。

だけど、最初からそういうことがやりたくて本屋になった、という人は初めて見た。なるほど、だから私のような無名の作家が訪ねてきて、話を聞かせてくれ、と言っても、ちゃんと相手をしてくださるはずだ、と納得した(飛び込みで書店に行っても、いつも相手をしてもらえるとは限りません。小さいお店の方が作家慣れしておらず、新手の広告取りか何かではないかと、警戒されます)。

そして、それが理由だから、店舗を増やしたり大型書店にすることにはあまり興味が持てなかったのだろう。

「本が好きな人の中には、内向的な人も多いんですよ。だから、最初は挨拶だけ、それが何度か繰り返されるうちに、少しずつ打ち解け、話をするようになる。そういうことがたまらなく嬉しいんです」

と、水野さんは笑う。その笑顔が明るくて楽しそうで、人を和ませる。頑なな人の心を開くのは、この笑顔なのだろう。

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そして、その社交的な性格から、書店組合の活動にも積極的に参加している。

「長年やってると、最初は新人の営業担当として紹介された方が、今では大手出版社や取次で重役になってたり、ということもありますね」

組合も年々人が減っているため、役員の成り手も少ない。なので、なかなかやめられないそうだ。しかし、そういうことがいろんな業界的な繋がりを生み、結果的に仕入れの充実や、作家からのサインが届くなどのメリットをもたらしているのだろう。

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現在の店長は水野さんではなく息子の慎一郎さん。慎一郎さんは店をリニューアルさせ、店を手伝う奥さんや従姉妹のおかあさん、意見を取り入れ、女性向けの品揃えを充実させている。書店組合のイベントにも積極的に参加している。

そうして主導権を息子に譲っても、水野さんは店舗に立ち続ける。水野さんとの会話を楽しみに訪れるお客さんの相手をするために。

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