No.137 くまざわ書店武蔵小金井北口店
武蔵小金井駅の北口にはドン・キホーテのビルがある。1階から3階までがドンキのフロア、いわゆるMEGAドンキなのだが、そのビルの地下全部がくまざわ書店である。
坪数はバックヤードなども合わせると470坪。なので、思いのほか広い。エスカレーターを降りて左手は児童書や学術参考書のコーナー。正面は文庫、右手に新刊のスペースや書評紹介のコーナーがあって、その奥にいろんなジャンルの本が置かれている。だが、新刊のコーナーからして、一味違う。いわゆるベストセラーだけでなく、時事ノンフィクション話題コーナーが表裏両面展開している。文芸書より目立つくらいだ。
そして、新聞書評コーナーは、朝日、日経、東京新聞の三紙を扱う。この辺も土地柄だろう。
「この店は教養のあるお客さまが多いので、ベストセラーではない教養書でも、並べておくと、2冊3冊と売れていくんてす」
と、店長の中原高見さん。ベストセラーだけでなく、その周辺に置かれた本もきちんとチェックしてくださるお客さまが多いので、いろいろと教えられることも多いそうだ。
また、店内をざっと見回して気づくのは、フェアが多いこと。
いまの季節どこでもやってる新潮角川集英社の文庫フェアはもちろんだが、有志書店員が企画したナツヨムを始め、平野隆大「毎日写真」刊行記念選書フェアだとか、「自殺会議」刊行記念フェア、松村圭一郎選書による「あたりまえを突破する人類学フェア」などなど、マニアックなものを含めるとあちこちで10くらいはあるだろうか。
「こういうフェアをやると、日頃は扱わない版元を知ったり、作家による選書も置くこともできます。それに、新しい本が次々と刊行されるので、定番を平台に置くのはなかなかできないのですが、フェアだとそれができるのがいいですね」
と、中原店長。平台も多いので、いろいろ変化をつけたり、ちょっとした仕掛けをして注目を集めることを心掛けているそうだが、フェアというのはより効果的にそれを仕掛けられる、ということなのだろう。
「自分で選書してフェアをやるというより、版元さんと話し合って決めることの方が多いです。スペースもあるし、最近ではフェアに積極的な店として認識されてきたのか、版元さんから依頼されることも増えてきました」
だが、最初からフェアの多い店というわけではなかった。開店してまだ1年目か2年目か、翻訳者たちが勧める書店縦断フェア「はじめての海外文学」に、この店も参加していることを知って、ちょっと驚いた覚えがある。ほかの参加書店は、いわばこの手のフェアの常連というような書店ばかりで、この店だけ異質に思えたので。
「文芸担当の女性からの提案でやってみたのですが、結構売れました。彼女からも刺激を受けましたね」
中原店長によれば、この店は本好きのアルバイトが多いという。いい本屋には、本好きも集まるということか。本好きなので、いろんなアイデアも浮かぶ。それが、いい形でフェアなどに反映するらしい。
また、この店で圧巻なのは、芸術書のスペースが広いこと。美術、音楽、映画、書道など、棚が奥に向かって10以上、ズラッと並んでいる。そこにも、ミュッシャ展を記念してパンフや関連書を並べるフェアをやるなど、工夫が凝らされている。
コミックは一番奥。やはり学生も多いため、100本くらい棚がある。売り上げでも、20%程度を占めるという。コミック専門店でもないのに、これだけ並んでいるのはなかなか見ごたえがある。
また、小金井市にはスタジオジブリがあるということもあって、レジの奥の壁際一面はジブリコーナー。作品紹介本だけでなく、高畑勲さんの反戦本など硬い本も置かれていて、そういう本もちゃんと売れている。また、ここはジブリ出版の雑誌「熱風」の数少ない配布店でもある。人気のある雑誌のため、店に届くと1週間ほどで配布終了するらしい。
店の真ん中には、椅子とテーブルが置かれていて、ゆっくり本が読めるようになっている。
スペースも広いので、イベントも行ないやすそうだが、それについては、これからの課題。
「今月27日に、はじめて本格的に手掛けるイベントをやります」
それは「書店の未来、そして読書の未来」がテーマのトークショーで、出版ニュース社代表の清田義照さんと月曜社取締役の小林浩さんが登壇する。なかなか渋いイベントだが、この店にはこういう催しが似合っているのだろう。イベントは人手も必要なので仕掛けるのはなかなか難しいそうだが、これが成功すればまた次に繋がるので、私も成功を祈っている。
この店を取り上げた理由は、大洋堂の次にどこを訪ねようか、とSNSで問いかけたところ、この店の名前が本屋好きから上がったからだ。地元なので、もちろん開店当初からこの店を知っていた。開店して5年弱、じっくり見てみると、ほんとうにいい本屋になってきた。本好きから名前が上がるのも当然のことかもしれない。
そして、この店のいいところは、今でも少しずつ進化をしているところだ。行くたびに小さな発見がある。地元民として、これからの進化を楽しみにしている。(2019年7月16日訪問)
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