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2019年7月

七五書店三たび

週に一度取材して、週末にアップするというのを目標にしているのだけど、台風が来たりして予定は狂うこともある。

なので、今週里帰りして伺った七五書店のことを少し。

名古屋在住のひと、あるいはNHKのニュースをたまたま観た人は気づいていると思うけど、七五書店、この7月かなり注目を浴びた。

というのは、直木賞の発表の日、地元作家大島真寿美さんの「勝手に待ち会」を企画したのだ。

待ち会というのは、直木賞はじめ大きな賞の選考会の時、候補となった作家とその担当編集者がレストランやバーなどに集まって、結果がどうなるか、待っていること。

候補者である大島さん本人は、東京で担当編集者たちに囲まれていたようだが、彼女を慕う書店員やファンが集まり、「勝手に待ち会」というイベントを開催したのだ。ここは以前から地元作家の大島さんを高く評価し、前のブログにも書いたように、何年も大島真寿美コーナーを作って応援してきた。なので、今回のノミネートを待ち会という形で盛り上げようとしたのだ。

結果、見事に大島さんの単独受賞。待ち会は歓喜に包まれた。そして、取材に来ていたテレビや新聞に、その様子が流れることとなった。

東京ではNHK総合だけだったようだが、名古屋ローカルは名古屋在住作家の直木賞受賞に大盛り上がり。七五書店の様子も、何度も放映されたらしい。

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その後、この店で大島さんの本を購入された方で希望者は大島さんのサインを入れてもらえるというサービスも始めた。大島さんも、こういう形で地元の本屋に貢献しようとしている。

その甲斐もあり、大島コーナーは順調に売り上げを伸ばしているという。

また、たまたまだが、最新号の本の雑誌でも、七五書店が巻頭カラーで登場。満面の笑みを浮かべている熊谷店長の写真が掲載されている。

そんなわけで、いまホットな本屋だから訪ねよう‥‥というわけではなく、ここはうちの実家からも近いので、帰省した時、一度は訪ねることにしている。まあ、帰省の時の恒例行事。

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それから、前にブログを上げた時、パソコンの調子が悪く、写真をアップできなかった。それが気にかかっていたので、今さらだが、写真を上げたいと思ったのだ。

まずはレジ前。こういう並びになってるのは、おそらく選挙があったから。

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そして、入ってすぐのところに、何年も前から大島真寿美コーナー。その横に書店員有志による夏の文庫フェアナツヨム。今年のテーマは「夜」。夜にちなんだ多彩な文庫が並んでいる。

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左手の方に新刊・話題の本コーナー。それに続いてフェア・特集コーナー。

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そのタイトルがいい。「差違があること・多様であること」「誰もが『同じ』ではないし、無関係でもない」。

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どんな本が入っているかは、 写真や前回のブログを見てくださいね。

それから、この書店が地元のコアなコミック好きに支持されているコミック棚。

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上の方に、ずらりと色紙が並んでいるのがわかるだろうか。

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残念ながら、コミックにあまり私が詳しくないので、うまく説明できないのが残念だ。

それから、地元コーナー。これも入口近くの目立つところにある。

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しまった、「本の雑誌」で褒めていた文庫コーナーを撮り忘れた。

でも、それは「本の雑誌」を見ていただくとして。

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それぞれの棚に発見があるので、見てて飽きない。

ブログだけでなく、お近くの方はぜひこちらに足を運んでほしい。

一見ごく普通の町の本屋に、これほどセレクトされた本が並んでいることに、きっとびっくりさせられるので。

それから、店の中にあるまほろば珈琲もとても美味。本を買ったあと、ここで読むのもいいし、本を買わず、ただ珈琲を楽しみにしているお客様もいる。ブックカフェというよりブック&カフェ。どっちも味わい深いのだ(5時半頃には珈琲店の方は閉店になるので要注意。書店の方は夜10時頃までやっています)。    (2019年7月26日訪問)



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No.137 くまざわ書店武蔵小金井北口店

武蔵小金井駅の北口にはドン・キホーテのビルがある。1階から3階までがドンキのフロア、いわゆるMEGAドンキなのだが、そのビルの地下全部がくまざわ書店である。

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坪数はバックヤードなども合わせると470坪。なので、思いのほか広い。エスカレーターを降りて左手は児童書や学術参考書のコーナー。正面は文庫、右手に新刊のスペースや書評紹介のコーナーがあって、その奥にいろんなジャンルの本が置かれている。だが、新刊のコーナーからして、一味違う。いわゆるベストセラーだけでなく、時事ノンフィクション話題コーナーが表裏両面展開している。文芸書より目立つくらいだ。

そして、新聞書評コーナーは、朝日、日経、東京新聞の三紙を扱う。この辺も土地柄だろう。

「この店は教養のあるお客さまが多いので、ベストセラーではない教養書でも、並べておくと、2冊3冊と売れていくんてす」

と、店長の中原高見さん。ベストセラーだけでなく、その周辺に置かれた本もきちんとチェックしてくださるお客さまが多いので、いろいろと教えられることも多いそうだ。

また、店内をざっと見回して気づくのは、フェアが多いこと。

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いまの季節どこでもやってる新潮角川集英社の文庫フェアはもちろんだが、有志書店員が企画したナツヨムを始め、平野隆大「毎日写真」刊行記念選書フェアだとか、「自殺会議」刊行記念フェア、松村圭一郎選書による「あたりまえを突破する人類学フェア」などなど、マニアックなものを含めるとあちこちで10くらいはあるだろうか。 

「こういうフェアをやると、日頃は扱わない版元を知ったり、作家による選書も置くこともできます。それに、新しい本が次々と刊行されるので、定番を平台に置くのはなかなかできないのですが、フェアだとそれができるのがいいですね」

と、中原店長。平台も多いので、いろいろ変化をつけたり、ちょっとした仕掛けをして注目を集めることを心掛けているそうだが、フェアというのはより効果的にそれを仕掛けられる、ということなのだろう。

「自分で選書してフェアをやるというより、版元さんと話し合って決めることの方が多いです。スペースもあるし、最近ではフェアに積極的な店として認識されてきたのか、版元さんから依頼されることも増えてきました」

だが、最初からフェアの多い店というわけではなかった。開店してまだ1年目か2年目か、翻訳者たちが勧める書店縦断フェア「はじめての海外文学」に、この店も参加していることを知って、ちょっと驚いた覚えがある。ほかの参加書店は、いわばこの手のフェアの常連というような書店ばかりで、この店だけ異質に思えたので。

「文芸担当の女性からの提案でやってみたのですが、結構売れました。彼女からも刺激を受けましたね」

中原店長によれば、この店は本好きのアルバイトが多いという。いい本屋には、本好きも集まるということか。本好きなので、いろんなアイデアも浮かぶ。それが、いい形でフェアなどに反映するらしい。

また、この店で圧巻なのは、芸術書のスペースが広いこと。美術、音楽、映画、書道など、棚が奥に向かって10以上、ズラッと並んでいる。そこにも、ミュッシャ展を記念してパンフや関連書を並べるフェアをやるなど、工夫が凝らされている。

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コミックは一番奥。やはり学生も多いため、100本くらい棚がある。売り上げでも、20%程度を占めるという。コミック専門店でもないのに、これだけ並んでいるのはなかなか見ごたえがある。

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また、小金井市にはスタジオジブリがあるということもあって、レジの奥の壁際一面はジブリコーナー。作品紹介本だけでなく、高畑勲さんの反戦本など硬い本も置かれていて、そういう本もちゃんと売れている。また、ここはジブリ出版の雑誌「熱風」の数少ない配布店でもある。人気のある雑誌のため、店に届くと1週間ほどで配布終了するらしい。

店の真ん中には、椅子とテーブルが置かれていて、ゆっくり本が読めるようになっている。

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スペースも広いので、イベントも行ないやすそうだが、それについては、これからの課題。

「今月27日に、はじめて本格的に手掛けるイベントをやります」

それは「書店の未来、そして読書の未来」がテーマのトークショーで、出版ニュース社代表の清田義照さんと月曜社取締役の小林浩さんが登壇する。なかなか渋いイベントだが、この店にはこういう催しが似合っているのだろう。イベントは人手も必要なので仕掛けるのはなかなか難しいそうだが、これが成功すればまた次に繋がるので、私も成功を祈っている。

この店を取り上げた理由は、大洋堂の次にどこを訪ねようか、とSNSで問いかけたところ、この店の名前が本屋好きから上がったからだ。地元なので、もちろん開店当初からこの店を知っていた。開店して5年弱、じっくり見てみると、ほんとうにいい本屋になってきた。本好きから名前が上がるのも当然のことかもしれない。

そして、この店のいいところは、今でも少しずつ進化をしているところだ。行くたびに小さな発見がある。地元民として、これからの進化を楽しみにしている。(2019年7月16日訪問)

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No.136 大洋堂書店

久しぶりにココログにログインしたら、リニューアルされていた。なので、私の方も、これからはスマホで書いて投稿してみようと思う。そちらの方が、写真をアップしやすいからね。

さて、大洋堂。

1fd944a490214e2d92dd6223307ba45dこうして見ると、普通の町の本屋さん。実際、中央線の東小金井駅北口から徒歩3分くらいのところにあり、この地で50年以上の長きにわたって頑張ってきた町の本屋さんである。

しかし、この書店、入り口を別の角度から見ると、こんな風。

03acb85e0f46466a9984e4e1efb31877先ほどの入り口の左側を見ると、こんな風になっているのだ。

つまり、ここ、ひとつの店舗で本屋だけではなく、カフェとタイ式マッサージやオイルトリートメントなどのヒーリングスペース、それにカフェの三つの役割を持つお店なのだ(ヒーリングサロンとカフェはocioという)。

カフェを併設しているお店は増えてきたが、こんな風にヒーリングサロンも兼ねているお店は全国的にも珍しい。

そして、そのカフェの部分も、コーヒーは一杯ずつドリップする本格派だし、焼き菓子のレベルも高い。片手間で、流行りだからカフェをやっています、という店とは一線を画している。どうしてこういうお店になったかを知りたくて、訪ねることにした。

入り口を入ると、右手に本屋のレジカウンターがあるが、その奥がカフェスペース。さらに奥がマッサージルームになっている。

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本屋部分は入って左側の方。本屋部分はだいたい20坪くらいか。半分近くは雑誌。そして、残りはコミック、文庫、単行本に絵本もあるという展開的な町の本屋さん。いちばん目立つ平台に、小金井市の写真集があったり、タウン情報誌があるところに、地域性を感じる。

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平台にこの日いたのは、店のオーナーの弟さんの一色義人さん。もともとこの店は義人さんと現オーナー清志さんのお父様の明さんが創始者である。参考書で知られる旺文社に勤めていらしたのだが、脱サラして始めたのがこのお店。名前も、旺文社時代お世話になった品川の書店の名前をもらったのだそうである。明さんのあとを義人さん清志さんご兄弟が継ぎ、この店を盛り立てきた。今も昔も、この店は外商が主力。昭和の頃は小学校で学研の科学と学習を売っていたし(かつてこの二誌は、月に一度学校内で販売があった。事前に金額を書いた封筒を先生が配り、希望者は当日売りに来た雑誌を並んで購入する、という方式を取っていた)。亜細亜大の教科書販売も行っていた(現在では、美容院や個人野お宅に定期購読を届けることが中心である)。

店売りの方では、子どもがよく買いに来てくれたし、銭湯帰りの人や、かつて近隣にあったマルイの独身寮の人たちが仕事帰りに立ち寄ってくれたりもしたという。

「その当時は、黙っていても本が売れた時代。それに比べると、いまの売り上げは半分以下、かなり落ちましたねえ」

と、義人さん。

「ネットショップもあるけど、昔は本が娯楽の王様だった。いまはいろいろ楽しいものが増えましたからね」

そんな時代の変化を受けて、何か新しいことをやらなければ、と考えたオーナーの清志さん。息子さんの淳さんに

「ブックカフェをやらないか?」

と、持ちかけたことが、この店の改革の始まりだった。

実はその当時、淳さんはマッサージサロンで働いており、独立を考えていた。カフェというのは想定外だったが、本屋にカフェだけでなくマッサージサロンも併設してしまえば、店舗としてうまくまとまるのではないか、と考えた。

そして、実際にカフェを開く前に、まずは東京で勉強し、さらにワーキングホリデーを利用してカナダにカフェ修行に行った。運良く知り合った日本人のカリスマコーヒー職人のもとでコーヒーの淹れ方をみっちり鍛えられ、東京に戻ってくる(この辺のお話はドラマチックで面白いのだが、詳細はいつか別の機会に)。東京でまた焙煎についても学び、晴れて店のリニューアルに取り掛かる。

カナダ時代の上司から、「出来るだけ店は自分自身で作った方がいい」と、アドバイスされ、感性のあう大工さんに手伝ってもらいながら、出来るところは自分たちの手で仕上げた。カフェのタイルを張ったり、建具を葉山まで買いに行ったり。一部テーブルも自作している。

そうして、2016年の10月21日にリニューアルオープンにこぎつけた。

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現在はパートナーで、セラピストでもある真未さんが、カフェの焼き菓子も担当している。この焼き菓子もカナダ仕込みのレシピを使いつつ、真未さんが研究を重ねたもの。甘すぎず、上品な味わい。一口サイズの焼き菓子もあるのが嬉しい。

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カフェだけ、あるいはマッサージとカフェを利用する人で店に人が戻ってきた。また、焼き菓子目当てで訪れる人もいる。

本屋としての売り上げはどうか、と義人さんに尋ねると、

「売り場面積は減ったのに、売り上げは下がってはいません。何より、お客さんが増えて店が賑やかになったのが嬉しいですね」

店はまだまだ手を入れているところ。淳さんと真未さんの2人でカフェとマッサージの両方をオペレーションするのは大変で、

「まだocioの方は看板も作ってないんですよ」

このスペースを使ってイベントや瞑想会を行うなど、新しい試みにトライしている。

「いずれテーマを決めて本棚を作ってみたい」

と、淳さんは言う。そうなれば、もっと本屋との連動がうまくいくだろうし、ブックカフェとしての役割もさらに深まるだろう。

家族で50年以上支えてきた本屋。こういう形で進化し、また未来へと繋がっていく。本屋というスペース、地域との繋がりをうまく活かせば、まだまだ可能性はある。

実は、拙著「書店ガール」シリーズで、登場人物の1人彩加が沼津に開こうとしていたお店は、こういう形を想定していた。現実の、私の身近なところにもこういうお店が出来ているというのはとても嬉しいし、肩肘張らずにそれを実現している一色さんご一家がとても頼もしい。

地域の新しい、くつろげる場所としてこの店が発展していくことを、心から願っている。

(訪問日2019.7.10)












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