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No.135 戸田書店掛川西郷店再び

「書店ガール」シリーズを書き終え、書店について書くことがなくなったのがちょっと寂しくもあり、こちらのブログを再開してみようか、と思いつきました。営業ということでもなく、好きな書店を好きなように好きなペースで書いていきたいと思います。
なので、ひと月に一度とかふた月に一度くらいになるかもしれませんが。ゆるく、続けられればと思います。

で、再開第一回は、戸田書店掛川西郷店。こちらの高木店長は静岡書店大賞の仕掛け人であり、その縁で、以前にもこちらに伺ったことがある。その時は駆け足で覗いただけだったので(ブログにも書いている)、今回改めてじっくり店を案内してもらった。
入口は店の正面に向かって左手寄りのところにある。入店してすぐ正面にはお勧めの本がワンブロック。入口から右手の壁沿いに総合レジ。そして、レジ脇に、さくらももこさん追悼のコーナーがある。この時期、さくらさん追悼は現在全国の書店でやっているはずだけど、さくらさんは静岡出身で、子どもの頃は近所の戸田書店が行きつけだったという縁がある。なので、そのレスペクトが感じられるような手作りの桜色の美しいPOPと、戸田書店が出てくる漫画の1シーンのコピーも飾られているのが印象的だった。

でも、この店に入ってすぐに気づくのは、児童書の充実ぶり。左手いちばん手前に幼児が遊べるような一角があり、それから奥に向かって絵本棚、児童書棚、参考書コーナー、と続く。つまり、入口からまっすぐ店の奥へと進むにつれて対象年齢が上がっていく、という動線になっている。さらに参考書の前にライトノベルの棚が。
ラノベというとコミックの横に並べて置かれるのが一般的だが、あえてそこに置かなかったのは児童書から活字の世界へお客さまを導きたい、という高木店長の意図。コミックは真ん中に大人の一般書や文具を挟んで反対側手前にある。つまり、参考書とは対角線の反対側の場所。
「コミックはいちばん奥に」
これも高木店長のこだわり(もちろん、コミックだけ目当てのお客さまは、入口からまっすぐ右手奥に進めばいいので、不便ではありません。そして、コミックコーナーも大きく、充実しています)。こんな風に、お客の成長に動線をあわせている書店というのは、いままで私は見たことがない。そこに込められた高木店長の祈りみたいなものも感じて、なんだか胸が熱くなる思いだ。
そして、レジ前には駄菓子屋のコーナーもある。これもなかなかの品ぞろえ。
「町の本屋って、昔は気軽に入れるところだったんです。この店もそうありたいと願っています」
これは人気コーナーで、売れ行きがいい。高木店長自ら毎週静岡の問屋まで仕入れに行っているのだそうだ。
駄菓子は単価が安いので、売れても利益としては大きくない(どころか、仕入れの手間などを考えるとロスが大きい)。だけど、こうした心遣いが、店の居心地のよさに反映してくるだろう。
そして、この店を強く印象づけるのは、店のど真ん中にパイプを組み合わせて作った部屋のようなスペース。12,3畳ほどの広さがあり、ここで毎回力を入れたフェアをやっている。鎧を借りて展示したり、バイクを飾って関連書籍を置いたりしたこともある。このスペースでやる凝ったフェアは、毎回注目を集めている。伺った時はちょうど児童書の偕成社のフェアをやっていた。置かれた本は約200冊。壁沿いの左から順に1950年代の本、60年代、70年代とざっくり偕成社の歴史がわかるような置かれ方になっている。さらに、作られているPOPがすごい。
「美味しそうな料理の数々。なんとすべてクレヨンとクレパスで描いています」(「きょうのごはん」加藤休ミ/作)
「いろいろ出版されている『ブレーメンのおんがくたい』。偕成社版は村岡花子訳です」(『ブレーメンのおんがくたい』村岡花子/訳)
「描き分け版という手間のかかる手法で印刷されています。1場面だけ、銀のインクが使われているのがわかりますか?」(『よるのおと』たむらしげる/作)
ふつうの、書店員が書くPOPとは違う、あきらかに、本の制作に関わった編集者でなければ書けない言葉の数々だ。偕成社の営業担当者がこのために聞き集めたのである。
このフェアは、版元主催の全国一律のフェアではない。この店と、偕成社のコラボで生まれた企画である。なんとも贅沢である。
こうした目立つフェアだけでなく、レジのところに、静岡県三島がペンネームの由来である三島由紀夫の好物であったマドレーヌを置いていたり、読書用の枕を売っていたり、とそこここに工夫がある。静岡県内の小学生が持つ交通安全の黄色い手提げバックや、防災時やアウトドアで役立つイザ飯などを棚の間に見つけるのも楽しい。

また、9月中旬現在、ほかの書店ではどこでも展開している手帳フェアがここにはない。
「版元の発売がどんどん早まっているんですが、それをやるとその分本が置けなくなる。手帳は4月はじまりのものもあるから、それも置くとしたら、一年のうち半分は手帳が置かれることになる。それはもったいない。それに、短い期間で集中してやっても、売り上げ的にはそんなに変わらないと思うんですよ」
確かにその通りだ。
どうしてこんなに手帳を前倒しで売ることになったのだろう?手帳でいちばん売れているという、ほぼ日手帖の影響だろうか、と思ったりしないでもない(あれは毎年違うカバーのものを出して、人気のものは早く売り切れることをアピールして購買層の気持ちを盛り上げる。なるほど広告に長けた方のやる商売だな、と思う)。だけど、それ以外の、定番と言われる手帳であれば、何も早く買う必要はない。そんなに早く売り場に置かれても、結局お客が買うのは年末ぎりぎりではないだろうか。
本だけでも、年々点数が増えていて、置き場に困るくらいなのだから、手帳を早く置くことに抵抗する本屋があってもいいと思う。

そして、この店で本好きを喜ばせるのは、中央奥の棚にひっそりとトランスビューや三島社、夏葉社など直取引の本が並べられていること。
「ここを目的に来てくださる方もいらっしゃいます」
そこに、店長のお勧めという小さなコーナーもあったりするが、高木さんは、
「9割から9割5分はビジネスとして売れるものを置く。自分がやりたいことは、それ以外でやる」
確かに、都会のど真ん中であれば、本好きの好む凝った選書の棚だけで勝負することも可能だろう。それだけの人口があるから。だが、地方でそれは難しい。どんなに本好きの喜ぶ棚を作ったとしても、売れなくて、店を潰してしまったらおしまいだ。それは結局、品揃えが地域にあっていなかった。お客さんの方を向いて商売していなかった、ということなのだ。
だから、勢い地方の書店というのはベストセラー中心の画一的なものにならざるをえないし、本好きからみれば退屈な店に思えることも少なくない。
だけど、ここがそうなっていないのは、本屋という商売に掛ける熱、そして、子どもたちに本を好きになってほしいという高木さんの想いがぶれないからだろう。

「こちら、商圏はどれくらいですか?」
最後にそれを聞いてみた。
「そうですね。半径20キロくらいの範囲でしょうか」
半径20キロ。東京に住んでいるとぴんと来ないが、これって、新宿を中心とすると池袋も渋谷も銀座もすっぽり入ってしまう。西へと向かうと調布の先くらいまでの範囲だ。車では約30分。それくらいかけてここまでくる人がいる、ということだ。
もちろん、その間にも本屋はあるかもしれない。だけど、ここに勝る本屋はない。わざわざそれだけ時間を掛けてきたい本屋であるということだろう。
この店を覗いて、それがよくわかる。何かしら買いたくなるようなものがある。私も旅の途中で荷物は増やしたくなかったが、ついフェア台から一冊と、三島由紀夫の好んだマドレーヌを購入した。

ところで、高木さんは個人的に走る本屋さん、という活動をなさっている。戸田書店の仕事とは別に、自分で仕入れた児童書などを自分の車に詰めて、本屋のない地域に売り歩いている。
「地方の本屋はどんどん潰れて、無書店地域が増えているんです。そうなると、子どもたちが本と出会う機会がどんどん減ってしまう」
子どもというのは次世代の本の購買層だ。そちらが育たないと、本をめぐるビジネスはますます先細りになっていってしまう。次世代の読書家を育てたい、その想いが、高木さんがこの活動を始めたきっかけだった。
最初は自分で本を購入していたが、最近取次会社の東販がこの活動を理解を示し、東販から仕入れることができるようになった。よほどの資金がないと新規に口座が開けないと言われる大手取次にして、これはたいへんな英断である。東販を動かしたのは、高木さんのいままでの実績と、子どもに本を届ける理想そのものに対してだったのではないだろうか。
「この車が到着すると、子どもたちが寄ってくるんですが、その目の輝きと言ったら。正直、これを始めて自分の商売に対する考え方が変わりました」
小4まで近所に本屋がなく、薬屋のスタンドの漫画だけが新刊との出会いだった自分には、その子どもたちの嬉しさは容易に想像がつく。図書館の本とは違う、新しい、これまで見たことのない本と会える場所。それがどれほど大事なものなのかも。
そして、同時におとなになった今だから、この活動がどれほど大変なことかも理解できる。なにせ本業をちゃんとこなしながらの活動である。静岡書店大賞の運営も手伝いながらの活動である。
高木さんには家族もいる。休養したい、家族で過ごしたい、と思う時間をこちらにあてているのだ。奥様がもと書店員で理解があるからやっていけるのだろう。いまは子どもたちも巻き込んで、売ることを家族のイベントとして楽しんでいるようだ。
ちなみに、高木さん夫妻は自宅に無人古本屋も開いている。どこまで本を売ることがお好きなんだろう、と感服するばかりだ。
前向きでゆるぎない、高木さんのパワーに圧倒されて、掛川をあとにした。

最後に。
ここを再訪しようと思うきっかけになったのは、ある業界人の還暦のお祝いの飲み会が東京であり、そこで高木さんにお目に掛かったから。その方をお祝いしたい、ただそれだけのために忙しい時間をやりくりして、掛川から駆け付ける。その行動力と人に対する温かさに心打たれたのだ。
ちょっと足を延ばせば、会いたい人に会える。話を聞くことができる。
怠惰のために、その機会を逃してはいけない、と自戒したことだった。

(2018年9月16日書店訪問、9月21日アップ)

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