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NO134.BOOKS ORION nonowa西国分寺店

西国分寺駅を利用している人でも、「西国分寺駅構内の店」と聞いてぴんと来ない人もいるかもしれない。その駅を日常的に利用する人ほど、乗るのはどの車両のどの辺で、降りたらどういうルートで乗り換えの電車や改札まで向うかというルートが決まっているので、それ以外の場所の変化に気づかないことがある。
「9月で3周年だったんですけど、いまでも『こんなところに本屋があったっけ』と言われることもあるんです」
と、 ブックマイスターの高野大輔さんは苦笑する。こちらの本屋は改札から武蔵野線に向かうエスカレーターの上にあるnonowaという商業スペースに出来たお店。中央線しか利用しない人にとっては死角になり、気づかないこともあるかもしれない。でも、それではちょっともったいない。お洒落でなかなか素敵な本屋なのだ。

nonowa西国分寺のこのフロアは、噴水を模したオブジェを中心にした小さな広場を取り囲むように、書店、カフェ、眼鏡ショップ、スイーツの店が並ぶ。このスペースのテーマは「ウエスタンジャンクション」。つまり、「人が集まって、そこを通過して旅立っていく」西部の町というイメージ。言われてみれば、看板の文字も、ダークブラウンを基調とした渋めの什器も、看板のロコも、ウエスタンっぽい。
本屋の坪数はわずか十坪だが、店の前の広場のようなスペースにも什器を点在させているので、坪数よりも広く、ゆったりとした印象。
「乗り換えのわずかな時間に買いに来られる方が多いので、お客さまの動線がすっきりしていること、商品がぱっとわかるように置くことに気をつけています」
と、 高野さん。レジ見ないでの方をまったく見ないで、目の前の武蔵野線のホームを気にしながらお会計をするお客さんも少なくない。注目の新刊を大きなパネルに 貼り出したり、コミックや文庫でも面陳が多いのは、そうしたお客さんにもわかりやすくするため。また、お問い合わせの応対もできるだけ迅速にやることを心掛け、次の電車が来るまでの短い時間に書名を調べ、店内になければデータをプリントアウトして渡すようにしている。
「うちの店でお渡しできないのは残念ですが、それを持って、ほかのお店で購入いただければ」
自分の店の利益に直接繋がらなくても、そうすることで書店のよさをお客さんに感じてもらいたい、というのが高野さんの願いだ。確かに、そうした小さなサービスが、リアル書店の信用を上げていく一助になるのだろう。

店舗が小さい分、置かれているジャンルは限られている。雑誌、文庫、コミック、文芸、実用書といった売れ筋がメイン。ベストセラーが多くそろってはいるが、 そればかりではない。ぽつぽつと人文や社会なども混じっていたり、棚ごとにたとえば「猫」とか「印刷」とか、小さなテーマを設けていたり。よく見ると、そのなかに「狼」の本を集めた棚がある。高野さんはSNSのアイコンでも狼を使うほど狼好き。物語などでは悪役のイメージが強い狼だが、実は仲間思いのこころ優しい、賢い生き物なのだ。そうした正しい狼像を伝える本でひとコーナー。わずか十坪の店なのに、その遊びごころが楽しい。そうしてそこから3000円もする「オオカミたちの隠された生活」なんて高額本がたまに売れたりもするから面白い。
ちなみにこの店は(この規模にも関わらず!)独自のゆるキャラを持っている。スタッフみんなで話し合って決めたゆるキャラは「狼」。もちろんブックマイスター高野さんの趣味を尊重してのこと。絵の得意なスタッフが描いたゆるキャラは、そのまま商品化してもいいんじゃないか、というくらいかわいらしい。これは、この店オリジナルのフリーペーパーなどで使われているので、要チェックだ。

また、この店独自と思われるのはコミックのPOP。なんと、切り絵で作られているのだ。この店は、若いお客も多いのでコミックにも力を入れている。奥の棚だけでなく、手前の広場に張り出した部分にはその月の話題作を置いてあるが、そこにいくつか切り絵POPが飾られている。切り絵が得意なスタッフの手によるもので、細工が細かく、キャラクターも似ていて、そのレベルの高さに感心させられる。月ごとに新作が飾られるので、それを見るのもこの店の楽しみのひとつだ。

フェアについていちばん目立つのは、広場の一番前、nonowaに入ったすぐのところにある特設台で月替わりで行うもの。今月のテーマは「わたしたち、この本が欲しいんです!!」。クリスマスの季節とあって、プレゼントされると嬉しい本を集めている。フェアに関してはスタッフ全員参加が高野さんの方針なので、漫画や小説、それに「文字のデザイン・書体のフシギ」といった専門的な本など、スタッフのイチオシ本がいろいろ並んでいる。オオカミが表紙のフリーペーパーとあわせてチェックすると楽しい。
また、店内奥、目の高さの棚を横に2列使ったところでも、テーマを持たせたフェアを毎回行っている。今回のフェアは年間売り上げベスト10の紹介。この店の2015年の売り上げ1位は、大ベストセラー「火花」を抜いて「「ゆっくり、いそげ ~カフェからはじめる人を手段化しない経済~」(大和書房)だ。一般にはあまり聞きなれないタイトルかもしれないが、西国分寺界隈に詳しい人にとっては注目の本。西国分寺駅南口の人気カフェ、クルミドコーヒーの店主影山知明さんが自らのビジネスについて記した本なのだ。この店の年間ナンバー1というだけでなく、この本を日本で一番売ったお店となっている。
そうなった要因のひとつは、発売当日に著者の影山さんがこの店を訪れ、自ら手売りをしたこと。SNS等でそれを知ったクルミドファンが訪れ、かなりの賑わいだったそうだ。
こういうイベントを行うくらい、この店とクルミドコーヒーとの繋がりは深い。きっかけは影山さんのインタビューが載った雑誌を、店頭でPOP付きで紹介したこと。それをツイッターで知った影山さんが店にお礼に訪れたところからつきあいが始まり、高野さん自身もクルミド主催のイベントに顔を出したりするようになった。そうして、クルミドコーヒーが手掛けるクルミド出版の本を店で扱うように頼まれ、お店の地元本コーナーで売るようになった。そうした蓄積があっての、売り上げナンバー1なのだ。
ちなみに、こちらでは私も関わっている地域雑誌「き・まま」も取り扱っていただいている。こちらの販売成績もなかなかのもの。
「この辺りの人たちは地元意識が強いし、いろいろイベントも多いですね。それも(企業やお役所主導でなく)市民が中心になってやるイベントが多いことがすばらしいと思います。本についても、西国図書室とか、国分寺ブックフェスティバルとかありますし」
住んでる場所は神奈川で、この店に配属されるまでは国分寺のことはまったく知らなかった高野さんだが、クルミドとの繋がりをきっかけに、いまでは地元のブックイベントの一箱古本市で個人的に出店するほど。地元との繋がりを楽しんでいる。そうして繋がった人たちが店を訪れるなど、よい形でビジネスにも循環している。そして、そうしたゆるやかな姿勢が、駅中にありながら売れ筋が並んでいるだけでない、楽しさや奥行きのある店にしているのだろう。
お店は人。
チェーン店でも駅中店でもできることはある、とこの店を見ると思うのだ。

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