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No,133くまざわ書店南千住店

ドラマのタイトルは「戦う!書店ガール」だが、実際、多くのこころある書店員は戦っている。
出版不況や労働環境の悪化や配本の不平等やライバル店の出現や、自分の店の環境を悪くするありとあらゆるものと戦っている。

ここ、くまざわ書店南千住店の阿久津武信さんもそのひとりだ。
私が阿久津さんを知ったのは、SNSだった。たぶんツイッターで私のことをフォローしてくださったのでフォロー返しをしたのだろう。相手が書店員の場合は即座にフォロー返しすることにしているので。
で、どんな方かは知らなかったが、阿久津さんは前向きなところが目を引いた。
「南千住すぐやる課」と自称していて、思いついたことは積極的に実行する。おもしろいPOPを作ったり、先日発表になった三島賞・山本賞についても、前日から準備をして(受賞者を予想して)、発表と同時に大きく展開をする。前年の三島賞・山本賞は、チェーン全体でトップの売り上げだったそうだ。くまざわ書店チェーンの中で特別条件がいい店というわけではないので、これは阿久津さんの努力以外なにものでもない。
SNSではほかに近隣のお店のグルメ情報を流したり、仕事の苦労を替え歌にしたり、明るい人柄が印象に残る。
そんなわけで、一度店を訪ねたいと思ったのだ。

そして、こちらからアポを取り、仕事中の阿久津さんを横目に、勝手に店内を散策する。
ショッピングセンターの一階にあるこのお店は、正しく郊外型のお店。女性誌やビジネス書やコミック、それに児童書のスペースが大きい。椅子などもあって、子供たちがゆっくり本を選べるようになっている。だが、それだけでなくスペースは狭いが人文書や社会などの専門書が置いてあるところはくまざわ書店ならでは。新聞の書評に載った本を置いてあるコーナーがあるが、そこも日経新聞の書評が元になっていたりするし。

しかし、阿久津さんが力を入れたいと思っているのは、文芸の棚。
「文芸書は本屋としては大事な位置づけにあると思うので、扱いを悪くしたくない」
文芸の単行本の売り上げは近年右肩下がり。売り上げだけ考えれば文芸よりも実用書に力を入れた方がいいのかもしれないが、それでは本屋としての厚みに欠ける。
そうした思いから、POPを作ったり、今週のオススメ作家として、たとえばこの時は増山実さんを紹介したりしている。
また、あちこちに著者POPが飾られているのも印象的だ。郊外にあるチェーン店でこれは珍しい。著者POPは都心の営業力のあるお店に優先的に配られるから、郊外店には滅多に届かないのだ。にもかかわらずここに飾られているのは、阿久津さんが積極的にイベントに参加し、そこで知り合った作家さんから直接もらったり、SNSなどで自ら「著者POP書きます」と宣言している作家にアポを取ったりして手に入れたものだろう。

だが、一方でこうしたやり方は郊外店にそぐわない、という見方もある。
下町で年配客中心なんだから、新刊と話題書だけ置いておけばいい。
文芸のコーナーはもっと狭く、提案型のコーナーは不必要だ。
郊外型の店舗経営のセオリーは、どうやらそういうものらしい。テータに添って、新刊と話題書を決められた数入れるのが合理的な経営なのだろう。
掛けた手間分の売り上げの効果がみえにくいだけに、阿久津さん自身も、お店のこれからの方向性を悩んでいる、という。

だけど、客の立場から言えば、新刊と話題書だけの店なんてつまらない。
実は私自身かつて四年ほど下町に住んでいたことがあり、道路隔てて反対のところに、200坪くらいの、その地区で一番大きな書店があった。だが、その店に行くたびに「これだけ大きな店なのに、どうして欲しい本が全然ないのだろう」と思ったものだ。典型的な、新刊と話題書だけの郊外店だったのだ。
そして、結局その店にはほとんど足を運ばなかった。本を買う時は、会社のある飯田橋の書店で購入すればいいと思っていた。
ほんとうは、それだけの大きさがあるのだから、よく見れば好みの本もあったのだろう。しかし、本というのは不思議なもので、同じ本を見ても購買欲をそそる店とそうでない店がある。それは、その本がどこに、どの本といっしょに並べられているか、によるのだ。こっちの好みを刺激するような並べ方や飾り付けがされていれば、ついじっくりと棚を見るし、ほかにも何かないかと探してみる。そこに来るまではまったく考えていなかった本を買ってみようと思う。
そして、また同じ店に来ようと思う。
そうした店には、間違いなく創意工夫している書店員がいる。書店員の努力は棚に出る。店の雰囲気に出る。
阿久津さんの想いはお客に通じていないはずはない。
「ここに本屋があってほしいから、ここで本を買い続けるよ」
そんなふうに言ってくれるお客さんがいるそうだが、それはきっと阿久津さんの努力を棚から感じ取っているからなんじゃないだろうか。

で、ここからは部外者の勝手な意見ですが。
金太郎飴的な郊外店は、その店のファンを作らない。本好きが集まらない。客単価も上がらない、と私は思う。
だって、東京なんだもの。ほかにも本屋はあるんだもの。選べるんだもの。なんでわざわざありきたりの本屋に行かなきゃならないのーーというのが、大方の本好きの気持ちだ。
南千住は下町といいながら、マンションも多いし、若いファミリーも多い。なかには本好きもいるだろうし、違いのわかる客もきっといる。
だから、郊外型の店のセオリーをぶっちぎって、そういう客をおおっと唸らせるような品揃えにした方が、売り上げはあがるんじゃないかーーというのは、たぶん素人考えなんですよね、きっと。
生意気言って、すみません。

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