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2015年5月

No.132 伊野尾書店(東京都新宿区)

ドラマ放映中なので、ちょこちょこ営業に行きます。版元営業の方とごいっしょする場合が多いし、ブログに載せるほどお話を聞ける機会はなかなかないのですが、なかにはゆっくり訪問できる店もありますので、それを紹介していきたいと思います。

まずは新宿区中井にある伊野尾書店。
実はこの店、四年前の全国書店営業中に「ぜひ行ってみてください」と、本の雑誌社の杉江さんに奨められたお店。なのに、なんとなく行きそびれていたので、今回の訪問は四年越しの宿題を果たした気分です。

西武新宿線と大江戸線の停まる中井駅。駅前の細い通りに「中井商店街」というアーチが掛かり、その両側に個人商店が建ち並ぶ。人通りも多く、商店街もちゃんと機能している。
伊野尾書店は、中井商店街の一角、大江戸線の駅のすぐ隣りにある。
店舗面積は17坪。雑誌やコミック、文庫の新刊が一通り揃い、文芸書やビジネス書や児童書などもちゃんと置かれている。
いわゆる町の書店だ。常連客が8割、雑誌の定期購読や取り置きが気軽に頼める店。自分たちの生活圏にふつうにあるお店、だ。

そうした基本を押さえつつ、この店の品揃えはこの規模にしてはちょっと珍しい。
入り口入ってすぐのところで、店オリジナルの「とにかく笑えればフェア」をやっていた。この規模でこういうフェアをやっていること自体珍しい。並んでいる本は「試験に出ない英単語」とか「おかんメール」とか「インドなんて二度と行くか!ボケ!!ーーでもまた行きたいかも」とか綾小路きみまろの本とか。サブカルからノンフィクション、エッセイまで、さまざま。
「バイトの子に『何かやって』と頼んでやってもらったんですよ。動きは、まあまあってとこかな」
飄々と語る伊野尾宏之店長。
レジ前の目立つエンド台は文芸が置かれているが、「火花」とか「ナイルパーチの女子会」とかどこの書店でも推してる本もあるが、エンド台の特等席(手前の角の部分)には筒井康隆「世界はご冗談」と麻耶雄嵩の「あぶない叔父さん」。うーむ、どういう基準なんだろう。この規模のお店でこういう平積は見たことがない。
「棚の作り方は、趣味ですね」
あっさり伊野尾店長は言う。
趣味ですか、そうですか。
まあ、そう言いながらも売れないものは置けないので、そういう在り方を支持する常連が多いということだとは思いますが。
店の真ん中の棚にはビジネス書や社会関係の本。ここでもミニフェア状態。たとえば田房永子とか北原みのりとか、タイトルつけて括るのはちょっと難しいが、伊野尾さんに言わせると、
「ちょっと前から増えている新しいタイプのジェンダー論、世間一般に女性がどのように見られているかを女性の側から描いたもの」を集めているのだとか。
こんな具合に、町の本屋でありながら町の本屋らしからぬくすぐりがあちこちに仕掛けられたお店なのだ。

また、この店はこの規模でありながらイベントも行う。「本屋プロレス」と題したイベントでは、書店内を舞台にプロレスラーが戦うという、どこか漫画のような設定を現実のものとして行ったし、「本屋野宿トークショー」というイベントでは、野宿についての対談のあと、この本屋の隣(中井商店街の一角!)で有志が実際に野宿するという、楽しいんだか辛いんだかわからないことをやっている。
売り上げのためだけでは、きっとこんなことはやらない。
店主の伊野尾さんが面白いと思うことを、現実化させているのだろう。チェーン店ではできない、個人店主だからこそこうした破天荒なイベントを軽やかに実現できるのだ。
こうした例を見ると、書店にはまだまだいろんな戦い方がある、と思って嬉しくなる。

この伊野尾さん、もとから本屋をやろうと思っていたわけではないらしい。
「大学を卒業したら、プロレス雑誌の記者になるつもりだった」
という。この店自体は、昭和32年12月25日に伊野尾さんのお父さんが創業された。家業が本屋だったわけだが、店を継ごうと思っていたわけではない。実際、プロレス記者の選考試験にも応募して、最終面接までは通ったそうだ。
しかし、そこで落とされ、就職する気にもなれず、フリーターをしている時に父がバイクで転倒して骨折。配達ができないということで店を手伝うようになる。そうこうしているうちに、大江戸線が通ることになって敷地の一部が削られることになり、ビルを建て替えることになる。そしてビルが完成した99年から伊野尾さんが二代目店長として店を切り盛りすることになった。自分で積極的になろうと思ったわけではなく、自然な流れで本屋の主人に納まった。そうして本屋を始めて思ったことは、
「それまで親が『本屋は儲からない』と言ってたけど、本当に儲からないんだな、と実感しました」
とは言うものの、本屋の仕事自体は楽しい。
「いち早く新しい本を知ることができる。取次ぎから届く箱を開けて、どんな本かチェックすることができる」
というのが、やはり一番に思うこと。そして、それを「自分の趣味で」並べられることも楽しい。さらに、
「出版社に直接自分の意見を聞いてもらうことができる。これがたとえば文房具とかであれば、小売側がコメントを求められることはないでしょう」
それに、こうして取材されたりする機会も多い。伊野尾書店のようなユニークな書店は注目度も高い。そこもちょっと虚栄心が満足されるところだったりする。

しかし、こうして最近本屋のことが雑誌やテレビなどのメディアに取り上げられる機会が増えたのは、
「本屋というものが非日常になったからでしょう。自分の生活の中にあたりまえにあって、しょっちゅう行く場所であれば、かえって目に入らない。本屋が少なくなって、わざわざ車に乗っていくような場所になったから逆に意識されるようになったのでは」
なるほど。確かにそういう面はある。大型書店の出店は増えているが、伊野尾書店のような町の書店は減っていく一方だ。そこに危機感を覚える人たちが多いから、雑誌や新聞などで本屋特集が組まれることが増えたのだろう。
しかし、そうは言っても、伊野尾書店が注目されるのはそんな感傷からだけではない。町の本屋でもこんな戦い方ができる、ということを積極的に見せているからではないだろうか。根っからの書店員とはちょっと違う伊野尾さんだからできる発想や行動力は、きっとこれからも多くの業界関係者に刺激を与え続けるにちがいない。

ところで、この伊野尾書店、業界関係者だけでなく、ジャニーズの平成ジャンプファンにも密かに注目されていた。「戦う!書店ガール」にも出演している伊野尾慧くんと同じ名前の書店だからだ。映像化が決まってから、ここで「書店ガール」を購入し、伊野尾書店のカバーをかけてもらうというのが、伊野尾くんファンの間で流行っているらしい。
「名前が同じなので、僕も伊野尾慧くんを応援しています」
とのことです。ファンの方はぜひこちらのお店を訪ねてくださいね。

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ドラマについて

それは「書店ガール」の親本である「ブックストア・ウオーズ」を書き上げて間もない頃だったと思う。
当時ある感動実話集がベストセラーになっていた。ところが、そのエピソードの一部がネットからの流用であることが発覚し、回収騒ぎが起こった。人気商品だっただけに、どう対応すべきか、書店関係者の間でも話題になっていた。
が、私の尊敬するある書店員がこれについて、
「俺は売るよ。それを求めるお客がいる限り、売るのが俺の仕事だから」
と言い切った。
それを聞いたとき、自分はまだまだ書店員のことがわかっていなかった、と思い知らされた。
書店員が売るのは好きな本だけではない。モラル的にどうかと思っても、こんな下品な本と内心思っても、求める人がいれば売る。買いたい人に届ける。
きれいごとではなく、商売とはそういうものなのだ、と。

だから、「戦う!書店ガール」の第一話で、
「どうせあんたたちだって、流行に乗っかって本を売りたいだけなんでしょ!」
とタレントのアリーさんに言われたとき、渡辺麻友さん演じる亜紀が逆ギレして、
「それのどこが悪いんですか。私たちは書店員です。本を売るのが私たちの仕事なんです!」
と言い切ったのを観たとき、思わず泣きそうになった。
そうだ、それが書店員だ。
本を売る、たったひとつのことのために、書店員の仕事はあるのだ。
そこに誇りを持つ、それが書店員なのだ。
そこをちゃんと描いてくれたから、私はこのドラマはオールOKだと思った。
多少のドラマ的な誇張や、原作との違いなどたいした問題ではない。
大事なのは、書店員の書店員たる所以をちゃんと描いてくれることなのだ。

そして、それを演じた渡辺さん、感情剥き出しで怒鳴り返した。みんなに好かれるアイドルにあるまじき形相で。
その瞬間、渡辺さんが亜紀という役にみごとに重なった。
慣れた役者だったら、そんなシーンを演じてもどこか可愛く見せようとする。そうした計算をしない渡辺さんのまっすぐさ、純粋さ、生真面目さこそ実は亜紀というキャラクターのよさそのものでもある。単に熱血とか、努力家とか、誰にでもわかるふたりの共通点だけでなく。

「戦う!書店ガール」というドラマのよさはいろいろあるけど、第1話のこのシーンがあったから、私にとって大好きなドラマになった。
いまは第4話まで終わったところ。第5話からは原作にある書店閉店問題がいよいよ表面化し、理子が苦境に立たされる。原作では描けなかったキャリア女性の可愛さを見せてくれた稲森いずみさんが、追い詰められた理子をどんなふうに演じてくれるか、木下ほうかさんたち上司連中がどんな悪役ぶりを見せてくれるか、楽しみにしている。

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