政文堂閉店
私はあちこち書店を周っているけど、それは営業というより取材の意味合いも強い。もし営業だけだったら、東京都心の大型店をしらみつぶしにまわるのが一番効率がいい。わざわざ福島の10坪ないような小さな書店に3度も4度も足を運ぶ必要はない。
営業もあるけど、それ以上にそこの店の人に会いたいから行くのだ。京都に行ったらガケ書房の山下さんに会おうとか、そんな店が全国に何軒もあるということを、私は幸せだと思う。
そんなひとつだった神戸の海文堂が、先月閉店した。これで神戸元町という場所に、もう2度と行くことがないかもしれない、と思うくらいがっかりした。
そしてそのショックが褪せないうちに、福島の政文堂から今月いっぱいで閉店する、という連絡をもらった。こちらもたいへんなショックだ。わずか10坪にも満たず、平積みになっている本でも一種類につき1冊か2冊しか置かない。まあ、よくある地方の小さな店だ。しかし、そこのおばさんとはとても気が合った。初対面で3時間も立ち話をした。書店員というだけでなく、人生の先輩として、いろんな話を聞かせてもらった。客商売は接客が基本ということを、身を持って教えてもらった。私にとってはそこを訪ねることが福島を訪れる大きな目的になっていたのだ。
こちら、ご主人の御病気というどうしようもない理由での閉店だ。しかし、撤退ではない。以前ブログでこの店のことを「家族経営で、持ち家だからやっていけるんじゃないか」と書いたが、そうではないそうだ。借家で、それでも身の丈にあった商売を何十年も続け、いまでも無借金経営なのだそうだ。訪れる客は少ないが、ここを贔屓にするお客も多く、一度に何冊も買う人もいる。また、そういう人が好むだろう本をあえて並べたりする。客の顔が見える商売を福島駅前で何十年もしてきたのだ。そうして、すでにサラリーマンなら定年の年を越えている。子供たちも独立している。健康のために区切りをつけるというのは無理のない話だし、書店員人生を無事全うされたと、店主夫妻を祝福したい。
海文堂のように有名なお店ではなく、閉店にあたって新聞で取り上げられたり、本が刊行されたりするようなことは決してない。
そこを愛した人たちにだけ惜しまれて、政文堂はひっそりと消えていくのだろう。
だけど、私は好きだったよ。
訪ねるのがいつも楽しみだったよ。
福島駅前の政文堂書店。
そこにあってくれて、ありがとう。
いつまでも忘れない。
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コメント
たまたま成田空港の書店で手に取った『書店ガール』に引き込まれ,時差ぼけもあって出張先の眠れぬ夜に完読しました。
書店ガールがすごく良かったので,書店ガール2を買いまして,次の海外出張の眠れぬ夜にまた完読しました。とても良かったです。
どんなふうに私の心に響いたのか細々とは書きませんが,長く働いてきた女性にとって,普遍的かつ強い共感をひきおこす小説ですね。
碧野圭さんの大ファンになりました。
これからの御著作,とても楽しみにしております。^^
投稿: TanakaA | 2013年12月25日 (水) 19時37分