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No.130. 紀伊國屋書店横浜店

こちらの店は横浜そごうの7階にある。その立地がまず魅力的だ。エスカレーターを上がってDscn0040 7階に着くとまずは無印良品の店があり、続いてロフトがある。素敵な雑貨の数々がこれみよがしに存在を主張する。立ち止まりたい気持ちをぐっと抑えて歩いていくと、突き当たりにこの店が現れる。
店に一歩入った途端、それまでの雑貨を忘れる。
楽しい。
すてきな本たちが手招きして私を呼んでいる。
そう思わせるのは、この店の特殊な構造にある。
入口から10メートルもしないところに大きな壁があるーーというのは目の錯覚で、実はこれ、ビルを支える大きな柱。店のど真ん中にこの柱があり、それをぐるりと取り巻く形で売り場があるのだ。
本屋としたら、難しい構造だと思う。お客様としたら、入ってすぐに行き止まりになるわけだかDscn0041 ら。
しかし、逆に言えば、この店に入ってくるお客は必ずこの壁を見るということだ。だから、この店は壁に面陳できる棚を設置し、そこに一番の売れ筋商品を置いてある。店名の看板の下には「KINOビジョン」という店の一押し本。それを囲むように今週のベストセラー。売れ行き良好書。それも、文芸だけではない。ビジネス書や文庫、新書。それに実用書までも。
つまりこの壁をひと目見れば、いま日本で売れている本はこういうものだ、というのがわかる仕掛けになっている。店の構造の難しさを逆手にとったうまい見せ方だと思う。もちろん、Dscn0043 POPや書評の切り抜き、著者POP、さらには壁に備え付けられたモニターの映像が本をサポートしている。本好きならテンションが上がらないはずがない。新刊書店の楽しみ方はいろいろあるが、話題の新刊本に出会える、これが一番だと思う。このスペースは、そのお楽しみをぎゅっと凝縮した感じだ。

そして、棚から視線を落とすと、壁を囲む棚や前の平台やワゴンが目に入ってくる。こちらも、話題の本がいっぱいだ。おお、「窓のむこうのガーシュウィン」のサイン本がある、一冊買っていこう、などとはしゃいでいると、その中に拙著「書店ガール」を平Dscn0042 台で発見!文庫売り場のとっつきで、三面展開の書店POPつき!
わーん、嬉しい。もしかしたら、私が来るというので気を遣ってくださったのかもしれないけど、ここに置いてもらっていると、売れてる本って感じがしてどきどきする。

そう言えば、以前横浜会(横浜近辺の書店員や版元関係者、作家が集まって、交流を深めるための呑み会)があった時、作家仲間たちにここに連れてこられた。みんな店の奥の文芸書売り場には行かず、この辺りの棚だけをじっくりチェックしていたっけ。その時は気づかなかったけど、ここに新刊が置いてもらえているかどうかは作家にとっては世間の評価のバロメーターになるんですね。そりゃ、気になるわ。ーーって、その頃はちょうど新刊のない時期だったので、なんでこんなときにみんなはわざわざ本屋に来るんだろうなどとお気楽に思っていましたが。

で、この話題書コーナーの文芸書を担当しているのが、川俣めぐみさん。横浜会の幹事のおDscn0032 ひとりでもある
「こちら、デパートの中ということで、幅広い年齢の方がいらっしゃいます。昼間は女性が多いのですが、夜は近くに大きな企業もありますし、サラリーマンの方が多いですね」
見るからに優しい雰囲気の方だが、しゃべり方もおっとりしている。癒しオーラが出ているような感じの方である。
「店の構造が円を描くような作りになっていますから、それぞれのコーナーでお客様が引っ掛かりを感じていただきつつ奥に導くことができるように、と考えてディスプレイしています。急ぎのお客様は入口近辺だけチェックされるのですが、じっくり見てくださるお客様の方が多いですね」
それぞれコンパクトにまとまっているので、飽きる間もなく次の売り場が現れる。そして、目当Dscn0044 ての文芸売り場は料理本や地図、雑誌売り場の奥になる。文庫は入り口のほぼ反対側だ。人気のあるこうしたジャンルの売り場を奥にすることで、そこに行くついでにほかのコーナーも自然に目に入るようにという計算が働いているのだ。
そして、文芸の奥には楽譜のコーナーという不意打ち。文芸のお向かいは芸術のコーナーだ。こんなところにこんな売る場が、という驚きがあるから、ついつい棚をじっくり眺めてしまう。店の規模は440坪。決して大きくはないが、ほかの紀伊國屋書店と比べても、お客の滞在時間が長いというのも納得だ。

さて、文芸の平台では「小説で読む絵画と音楽」や、本屋大賞を獲ったばかりの三浦しをんDscn0047 さん、貫井徳郎さんのフェアを開催中だ。棚の方は、著者別のあいうえお順に並んでいる。
「入り口の話題書のコーナーでいろいろ展開しているので、こちらの棚の方は検索性を重視したシンプルな並びになっています」
店の一番奥には学習参考書や児童書があり、そこから店の左側へと回ると専門書の売り場へと転じる。専門書では、医療関係の本の充実ぶりが目を引く。
近くに大きな病院があることもあり、またそごうの顧客には医者が多いということもあって、医Dscn0057 療関係の本がよく動くのだという。平台にも、看護関係のテキストがいろいろ並んでいた。

専門書売り場は正直、ちょっと苦手だ。それほどたいした読み手でないということもあるし、歴史とか一部のジャンルにしか興味がないからだ。だが、この店は結構、面白かった。ちゃんと専門書売り場としての体裁を保ちつつ、硬くなりすぎないようにという工夫が随所にされている。たとえば教育関係も教師向けの専門書の横に親を対象とした新書を並べたり、精神世界のコーナーにスピリチュアル系のカードを置いたりと、専門外の人間も思わず立ち止Dscn0058 まるような仕掛けがある。
そうして、店を一周し終わるあたりで再びフェア・コーナー。タロット・カードフェアと雑誌「太陽」のフェアが開催されていた。最後の最後に、見て楽しいコーナーがどん、と来た。最近「太陽」は見掛けないな、とつい取材を忘れてバックナンバーを見入ってしまった。

そうして、一周し終わったあとに、ブックヤードで川俣さんに自身のお話を伺った。
川俣さんはこの店のオープン直後からアルバイトから始めた。
「いろいろバイトを経験したのですが、本が好きでここでバイトを始めていつのまにか十年Dscn0060 経ってしまいました」
本が好きで本屋に行くことが当たり前の日常だったので、雑貨よりも何よりも本屋で働くことが身近なことだった、という。
実際に書店員になってみて、やりがいを感じるのは、自分が薦めた本を面白いと言ってもらえること。ちょうど私が訪れていたときも、三浦しをんさんの「舟を編む」を読んで感動したお客様が、ほかに面白い本はないか、と川俣さんに訪ねられた。直木賞受賞作の「まほろ駅前多田便利軒」と「風が強く吹いている」をお薦めしたところ、その方は両方ともお買い上げされた。おそらくこの店の典型的なお客のタイプだろう。キャリアウーマンらしい、知的で裕Dscn0048 福な感じのお客様だった。書店が推薦した本を買う冒険心と金銭的ゆとりがある。
「この店はフェアなども反応がいいですね。いくらお薦めしても売り上げに繋がらないとやっぱり辛いと思います。こちらの店が新しい本を売りやすい環境にあるのは確かですね」

 印象に残る仕掛けを聞いたところ、東川篤哉さんの「謎解きはディナーのあとで」、という答えが返ってきた。本屋大賞を受賞した超有名な作品だが、川俣さんはこれがブレイクするずっと以前、出た直後から推していたという。
「小学校の頃、赤川次郎さんのミステリを読んでいたので、これは近いものがあると思いました。ミステリの初心者でも楽しめるものなので、ここから入ってくれるお客様があるといいな、と思って。それがだんだん売れて、本屋大賞を受賞して大きくブレイクして、というのはやっDscn0062 ぱり嬉しかったです」
しかし、自分の趣味だから推すということはあまりない。もともとは森博嗣さんのようなミステリが好きだったのだが、本屋で働くようになってからは、純文学だろうとエンタメであろうと、おもしろければいい、と思うようになったという。
そういう話はほかの書店員さんにも聞いたことがある。面白さは人それぞれ。小さな町の書店ならともかく、紀伊國屋のようにたくさんの人が訪れる全国チェーンの店ではあらゆる人のニーズに応えなければならない。だから、自然とそうなっていくのだろう。
「いま、ツイッターで書店員だちが『きみはいい子』を盛り上げようとしています。そうやってみんなで何かを推すのもいいけれど、自分でいいと思う本を見つけて『私はこれ』と打ち出して、この店ならではのヒットを作りたいですね。版元のフェアだけでなく、オリジナルのフェアをDscn0033 いつも何かしらやっていたい」
そう語る川俣さんは、遠くの店はチェックするが、近隣の書店はあまり見ないのだそうだ。
「だって、よかったら真似しそうじゃないですか。同じようなフェアになってしまったら、近くに書店がある意味がない。うちはうちのやり方でやらなければ」

おっとりと話されるのでさりげないことのように聴こえるが、実は熱い方だ(ブログで読む分には、その熱さだけが伝わるかもしれないが)。その熱さの表れが、たとえば横浜会のような大Dscn0034_2 きなイベントの仕掛け人になってしまうということだろう。横浜会は作家の大崎梢さんと川俣さん、同じ紀伊國屋系列の某書店員さんらが中心になって始まった会だ が、最初から6,70人ものお客を集める盛大なものだった。川俣さんのこのおだやかな人柄に惹かれて集まった人も少なくないのでは、と思う。今回、ふたりきりでお店を周らせてもらったが、いっしょにいて気持ちのいい方だった。楽しい空間で、気持ちのいい方にあって、こころに風が通り抜けるような時間だった。

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コメント

 横浜にいらしたんですね。そごうの本屋は、横浜そごう開業時には、そごうブックセンターという本屋でした。その後、三省堂書店を経て、紀伊国屋書店になったと記憶しています。
 「書店ガール2」楽しく読みました。「書店ガール3」期待していますw
次の話は、チェーンの本屋の再出店をからめたらどうでしょう。私の住んでいる街の隣町に、あるチェーンの本屋が出来ました。そのチェーンの本屋は、10年くらい前に、同じ町内の別のビルにあったのと同じチェーンの本屋でした。そこで、私が、店員に、懐かしいねと声をかけると、その店員は、以前、別のビルに同チェーンの本屋があったことすら知らないようでした。新旧の店舗の店員や、お客をからめると面白いストーリーができるのではと思っていますww爆

投稿: カセイジン | 2013年4月 2日 (火) 19時22分

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