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2012年7月

No,131 文教堂書店中山とうきゅう店

そもそも中山という駅を知らなかった。横浜線って、どこを走ってる路線だっけ。Dscn0103
なんてところになぜ足を運んだか。
前回の紀伊國屋横浜店に行くついでに、もう一軒くらい横浜のお店を周ろうと思ったのだ。
この店を選んだのは、ツイッターでこちらの山口さんと何度か会話して、ユニークな方だな、と思っていたから。なんとなくの勘ですね。ええ。
このブログ、そんな感じの行き当たりばったりでお店を選ぶことが初期には多かったのだけど、ここのところ東京にいることもあり、ガチな選び方になっていたので、息抜きしたくなったんです、はい。

で、来てみたものの、中山は遠かった。神奈川ではどんな位置づけなのでしょう。東京でいえば国分寺くらDscn0067 い?それとも多摩ニュータウン?
「いわゆる郊外型のお店ですよ。文教堂っぽいというか。本部一括で仕入れているし、がさがさした店です」
とまあ謙遜だか投げやりだかわからないような紹介から入る山口さん。で、写真を撮りたいと頼んだら、右のようなポーズを取るし。ツイッターから想像するイメージとそんなに違わない。ちょっと曲者な感じ。
100坪くらい(?)のお店は確かに文教堂っぽい。駅前のショッピングセンターの中にあり、家族連れがよく行くお店なので文芸よりも実用書やコミック、児童書が充実している。ベストセラーが目立つところに置かれている。ジャンル別著者のあいうえお順に文Dscn0065 庫や本が並び、誰にでもわかりやすい棚。通路が広く、棚があまり高くなく、店内がすっきり見渡せるのも文教堂らしいところ。
ともあれ、口ではそう言いながら私を歓迎してくださってる証に、平積みになった「書店ガール」にPOPが付いている。そのコメントが面白い。
「自分も悪役なのだろうか。それとも、悪役に利用された挙句、途中で舞台から消える端役なのか(中略)困難を武器に変え巨人に立ちDscn0066 向かう現代のダビデに捧ぐ1冊!」
中略の前は拙著からの引用だ。今回は書店員さんのコメントやPOPをいくつもいただきましたが、ここを挙げた人は初めてですよ。それに「現代のダビデ」というのも独特な比喩。ほかにはない、山口さんらしいユニークさだ。
「実はこれ、リバーシブルなんですよ」
と、山口さんがPOPを裏返す。こちらにもコメントがある。
「お仕事がんばっている女子・書店や出版業界が気になるアナタ・本が大好きな方々、ぜひ読んでみてほしいです。元気がでます。勇気もでます。書店員いちおしの一冊です」
こちらは正統派POPのお手本のような出来。それに、ほんとに気に入ってくださったというこDscn0102 とが伝わってくる。著者としてはほんとに嬉しいPOPだ(PHPさん、ぜひどこかで使って下さい!)。
こちらのコメントを書いてくださったのは、パートの女性。児童書担当の方だそうだが、かなりの出来だと思う。ほかにも文芸本のそこここに手の込んだPOPが見られるが、こちらはやっぱりパートの方の作で、本屋大賞の投稿の常連の方らしい。なかなか人材豊富だ、中山とうきゅう店のパートさん。
それにしても、リバーシブルという発想が面白い。やるな、山口さん。

さて、児童書を担当している山口さんの棚を見せてもらう。
「文教堂だからベストセラーは入りやすいし、商品知識がなくても販売できるんですよ」Dscn0074
などと、またまた斜に構えたような説明をされるが、名作物売り場の棚を見てびっくり。まるで中原ブックランドTUTAYA小杉店のように、棚と棚の間の狭い隙間にテープが貼られている。
「完訳版のススメーー名作はだんぜん「完訳版」がオススメです。「要約版」は読書に慣れてない子には向いていますが、本来の物語を短くしてあるため、どうしても本来ある物語の力を失ってしまいます。名作は長くて読むのがたいへんと思われるかもしれませんが、ぜひ「本物の物語」にふれてみてください。きっと自分に大切な一冊に会えますよ」
うわー、なんて愛の溢れるコメント。
「この辺の本を売りたくてやってるけど、あんまり関係ないですね。なかなか売れませんよ」Dscn0084
なんて醒めたようなことを言いながら、なんだ、山口さん、やっぱり熱い人じゃない。さらにフェアコーナーを見ると「さんぽに出掛けたくなる絵本」というユニークなテーマで絵本を集めている。ひとつひとつ丁寧なコメントが書かれたPOPつきだ。
「出版社のセレクトではなく自分たちでフェアをやった方が動きがいいし、商品知識もつきますから。でも、手間のわりには売れゆきは伸びないけど。でもまあ仕掛けた本としては『ほげちゃん』(偕成社)がそこそこ行きました。文教堂チェーンでも1,2位になるくらい売れたかな」
「ほげちゃん」は目立つところに面陳で飾ってある。ぬいぐるみも併せて置かれているし、確Dscn0087 かに手に取りたくなるような表紙だ。

さらにユニークなのは、棚ざしの絵本が「1才6ヶ月~2才6ヶ月くらいまでの絵本」という具合に、年齢別に分けてあることだ。
「この分類は好評です。意外とお客様はどういう本がいいかわからなくて迷ったりされるようなので」
なるほど。大人の物ばかりを見ていると気づかないことだが、子供は一歳違うと理解力がぜんぜん違うから、その年齢に見合った本を与えるというのは大事なこDscn0093 とだ。児童書の場合は作家別に並べるよりずっと親切かもしれない。
ほかにもおすすめ本についてのコメントを集めたコーナーがあったり、「あそぼうたのしい男の子のおりがみ」「おしゃれでかわいい女の子のおりがみ」(ナツメ社)の横に、その本を見て作った折り紙の見本が展示されていたり。

児童書とはちょっと違うが、コミックの「ワンピース」売り場は全巻揃いだけど、売り場には本Dscn0097 はなく、巻の番号が書かれた紙が置かれている。それを持って、カウンターで引き換えてもらう方式。万引き対策で智恵を絞った結果だ。人気の高い「ワンピース」は新古書店でも高値で買い取りされるので、万引きに狙われやすいアイテム。それだけでもこうしてガードするというのは賢いやり方だ。

いいじゃん、文教堂中山とうきゅう店。
正直、郊外店というのはどこへ行っても同じだと思っていた。本部一括仕入れで、売れるものDscn0099 だけを置く。文芸よりも実用書メインで、凝った棚や変わった本は存在しない。
ぱっと見、この店もほかと大差ないと思っていた。
でもそれは間違いでした。どんなお店でも頑張っている人はいるし、工夫しているところはある。
そんな思いを新たにする店でした。
これだから、本屋は行ってみないとわからない。

本屋めぐりはやめられない、そう思うのはこんな時です。

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No.130. 紀伊國屋書店横浜店

こちらの店は横浜そごうの7階にある。その立地がまず魅力的だ。エスカレーターを上がってDscn0040 7階に着くとまずは無印良品の店があり、続いてロフトがある。素敵な雑貨の数々がこれみよがしに存在を主張する。立ち止まりたい気持ちをぐっと抑えて歩いていくと、突き当たりにこの店が現れる。
店に一歩入った途端、それまでの雑貨を忘れる。
楽しい。
すてきな本たちが手招きして私を呼んでいる。
そう思わせるのは、この店の特殊な構造にある。
入口から10メートルもしないところに大きな壁があるーーというのは目の錯覚で、実はこれ、ビルを支える大きな柱。店のど真ん中にこの柱があり、それをぐるりと取り巻く形で売り場があるのだ。
本屋としたら、難しい構造だと思う。お客様としたら、入ってすぐに行き止まりになるわけだかDscn0041 ら。
しかし、逆に言えば、この店に入ってくるお客は必ずこの壁を見るということだ。だから、この店は壁に面陳できる棚を設置し、そこに一番の売れ筋商品を置いてある。店名の看板の下には「KINOビジョン」という店の一押し本。それを囲むように今週のベストセラー。売れ行き良好書。それも、文芸だけではない。ビジネス書や文庫、新書。それに実用書までも。
つまりこの壁をひと目見れば、いま日本で売れている本はこういうものだ、というのがわかる仕掛けになっている。店の構造の難しさを逆手にとったうまい見せ方だと思う。もちろん、Dscn0043 POPや書評の切り抜き、著者POP、さらには壁に備え付けられたモニターの映像が本をサポートしている。本好きならテンションが上がらないはずがない。新刊書店の楽しみ方はいろいろあるが、話題の新刊本に出会える、これが一番だと思う。このスペースは、そのお楽しみをぎゅっと凝縮した感じだ。

そして、棚から視線を落とすと、壁を囲む棚や前の平台やワゴンが目に入ってくる。こちらも、話題の本がいっぱいだ。おお、「窓のむこうのガーシュウィン」のサイン本がある、一冊買っていこう、などとはしゃいでいると、その中に拙著「書店ガール」を平Dscn0042 台で発見!文庫売り場のとっつきで、三面展開の書店POPつき!
わーん、嬉しい。もしかしたら、私が来るというので気を遣ってくださったのかもしれないけど、ここに置いてもらっていると、売れてる本って感じがしてどきどきする。

そう言えば、以前横浜会(横浜近辺の書店員や版元関係者、作家が集まって、交流を深めるための呑み会)があった時、作家仲間たちにここに連れてこられた。みんな店の奥の文芸書売り場には行かず、この辺りの棚だけをじっくりチェックしていたっけ。その時は気づかなかったけど、ここに新刊が置いてもらえているかどうかは作家にとっては世間の評価のバロメーターになるんですね。そりゃ、気になるわ。ーーって、その頃はちょうど新刊のない時期だったので、なんでこんなときにみんなはわざわざ本屋に来るんだろうなどとお気楽に思っていましたが。

で、この話題書コーナーの文芸書を担当しているのが、川俣めぐみさん。横浜会の幹事のおDscn0032 ひとりでもある
「こちら、デパートの中ということで、幅広い年齢の方がいらっしゃいます。昼間は女性が多いのですが、夜は近くに大きな企業もありますし、サラリーマンの方が多いですね」
見るからに優しい雰囲気の方だが、しゃべり方もおっとりしている。癒しオーラが出ているような感じの方である。
「店の構造が円を描くような作りになっていますから、それぞれのコーナーでお客様が引っ掛かりを感じていただきつつ奥に導くことができるように、と考えてディスプレイしています。急ぎのお客様は入口近辺だけチェックされるのですが、じっくり見てくださるお客様の方が多いですね」
それぞれコンパクトにまとまっているので、飽きる間もなく次の売り場が現れる。そして、目当Dscn0044 ての文芸売り場は料理本や地図、雑誌売り場の奥になる。文庫は入り口のほぼ反対側だ。人気のあるこうしたジャンルの売り場を奥にすることで、そこに行くついでにほかのコーナーも自然に目に入るようにという計算が働いているのだ。
そして、文芸の奥には楽譜のコーナーという不意打ち。文芸のお向かいは芸術のコーナーだ。こんなところにこんな売る場が、という驚きがあるから、ついつい棚をじっくり眺めてしまう。店の規模は440坪。決して大きくはないが、ほかの紀伊國屋書店と比べても、お客の滞在時間が長いというのも納得だ。

さて、文芸の平台では「小説で読む絵画と音楽」や、本屋大賞を獲ったばかりの三浦しをんDscn0047 さん、貫井徳郎さんのフェアを開催中だ。棚の方は、著者別のあいうえお順に並んでいる。
「入り口の話題書のコーナーでいろいろ展開しているので、こちらの棚の方は検索性を重視したシンプルな並びになっています」
店の一番奥には学習参考書や児童書があり、そこから店の左側へと回ると専門書の売り場へと転じる。専門書では、医療関係の本の充実ぶりが目を引く。
近くに大きな病院があることもあり、またそごうの顧客には医者が多いということもあって、医Dscn0057 療関係の本がよく動くのだという。平台にも、看護関係のテキストがいろいろ並んでいた。

専門書売り場は正直、ちょっと苦手だ。それほどたいした読み手でないということもあるし、歴史とか一部のジャンルにしか興味がないからだ。だが、この店は結構、面白かった。ちゃんと専門書売り場としての体裁を保ちつつ、硬くなりすぎないようにという工夫が随所にされている。たとえば教育関係も教師向けの専門書の横に親を対象とした新書を並べたり、精神世界のコーナーにスピリチュアル系のカードを置いたりと、専門外の人間も思わず立ち止Dscn0058 まるような仕掛けがある。
そうして、店を一周し終わるあたりで再びフェア・コーナー。タロット・カードフェアと雑誌「太陽」のフェアが開催されていた。最後の最後に、見て楽しいコーナーがどん、と来た。最近「太陽」は見掛けないな、とつい取材を忘れてバックナンバーを見入ってしまった。

そうして、一周し終わったあとに、ブックヤードで川俣さんに自身のお話を伺った。
川俣さんはこの店のオープン直後からアルバイトから始めた。
「いろいろバイトを経験したのですが、本が好きでここでバイトを始めていつのまにか十年Dscn0060 経ってしまいました」
本が好きで本屋に行くことが当たり前の日常だったので、雑貨よりも何よりも本屋で働くことが身近なことだった、という。
実際に書店員になってみて、やりがいを感じるのは、自分が薦めた本を面白いと言ってもらえること。ちょうど私が訪れていたときも、三浦しをんさんの「舟を編む」を読んで感動したお客様が、ほかに面白い本はないか、と川俣さんに訪ねられた。直木賞受賞作の「まほろ駅前多田便利軒」と「風が強く吹いている」をお薦めしたところ、その方は両方ともお買い上げされた。おそらくこの店の典型的なお客のタイプだろう。キャリアウーマンらしい、知的で裕Dscn0048 福な感じのお客様だった。書店が推薦した本を買う冒険心と金銭的ゆとりがある。
「この店はフェアなども反応がいいですね。いくらお薦めしても売り上げに繋がらないとやっぱり辛いと思います。こちらの店が新しい本を売りやすい環境にあるのは確かですね」

 印象に残る仕掛けを聞いたところ、東川篤哉さんの「謎解きはディナーのあとで」、という答えが返ってきた。本屋大賞を受賞した超有名な作品だが、川俣さんはこれがブレイクするずっと以前、出た直後から推していたという。
「小学校の頃、赤川次郎さんのミステリを読んでいたので、これは近いものがあると思いました。ミステリの初心者でも楽しめるものなので、ここから入ってくれるお客様があるといいな、と思って。それがだんだん売れて、本屋大賞を受賞して大きくブレイクして、というのはやっDscn0062 ぱり嬉しかったです」
しかし、自分の趣味だから推すということはあまりない。もともとは森博嗣さんのようなミステリが好きだったのだが、本屋で働くようになってからは、純文学だろうとエンタメであろうと、おもしろければいい、と思うようになったという。
そういう話はほかの書店員さんにも聞いたことがある。面白さは人それぞれ。小さな町の書店ならともかく、紀伊國屋のようにたくさんの人が訪れる全国チェーンの店ではあらゆる人のニーズに応えなければならない。だから、自然とそうなっていくのだろう。
「いま、ツイッターで書店員だちが『きみはいい子』を盛り上げようとしています。そうやってみんなで何かを推すのもいいけれど、自分でいいと思う本を見つけて『私はこれ』と打ち出して、この店ならではのヒットを作りたいですね。版元のフェアだけでなく、オリジナルのフェアをDscn0033 いつも何かしらやっていたい」
そう語る川俣さんは、遠くの店はチェックするが、近隣の書店はあまり見ないのだそうだ。
「だって、よかったら真似しそうじゃないですか。同じようなフェアになってしまったら、近くに書店がある意味がない。うちはうちのやり方でやらなければ」

おっとりと話されるのでさりげないことのように聴こえるが、実は熱い方だ(ブログで読む分には、その熱さだけが伝わるかもしれないが)。その熱さの表れが、たとえば横浜会のような大Dscn0034_2 きなイベントの仕掛け人になってしまうということだろう。横浜会は作家の大崎梢さんと川俣さん、同じ紀伊國屋系列の某書店員さんらが中心になって始まった会だ が、最初から6,70人ものお客を集める盛大なものだった。川俣さんのこのおだやかな人柄に惹かれて集まった人も少なくないのでは、と思う。今回、ふたりきりでお店を周らせてもらったが、いっしょにいて気持ちのいい方だった。楽しい空間で、気持ちのいい方にあって、こころに風が通り抜けるような時間だった。

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