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本屋がなくなるということ

昨日、ある方から本の王国野並店が、近く閉店になることを教えてもらった。
地下鉄の駅が延長になったことでの打撃を受けていることは伺っていたが、ついに、と胸が塞がる想いである。
本の王国。
私の実家に一番近い本屋である。
このブログでも訪問記を書いたことがあるが、地域の男の子たちの憩いの場になっていた素敵な本屋である。
そこがなくなってしまうことは、本当に寂しい。
あの男の子たちは、これからどこに集まればいいのだろうか。

その街が好きになれるかどうかは、そこに好きな人がいるか、好きな場所(自然)があるか、というだけでなく、そこに好きな店があるか、ということも大事なことだ。私にとっては、よい本屋があるかどうか、というのは、なにより大きな問題である。極端な話、洋服屋や雑貨屋はなくてもいい、いい本屋さえあればいいのだ。
本屋がない街、本屋が寂れている街は寂しい。
本屋というのは、その街の文化基準なのだ。
故郷が、そんな寂しい街になってしまうのは、切ないことである。

幸い、現在住んでいる場所は、そこそこ本屋環境に恵まれている。すぐ近所に小さいが、頑張っている本屋があるし、駅前まで出れば、100坪以上の本屋も何軒かある。日常的には困らないけどーーと、思っていたら、つい先月まで隣駅の駅前にあった本屋がなくなっていることに、昨日気がついた。
間口が狭く、奥行きが広く、真ん中に長い長い雑誌スタンドがあり、右手の壁側はコミック、左手の壁側は文庫という実にわかりやすい、構成の店だった。コミックと雑誌に力を入れてるからには若者向けかと思いきや、置いてある文庫が妙に年寄り向けっぽく、ラノベはなく、時代ものが充実している。有川浩はないのに有吉佐和子が何冊か置いてある、そんな店だった。そこだけ時が止まったような、のんびりした隣町の町並みに、なんともマッチした店だと、いっしょに行った夫と笑いあったものだったが。

本屋の閉店が相次ぐことは知っているが、身近な本屋が立て続けになくなるのは哀しい。
このブログを始めてまだ三年足らずだが、すでになくなった店がある。辞めてしまった書店員さんもいる。それについてコメント欄に書いたものもあるし、あえて何もコメントしてないケースもある。
だけど、このブログから外すつもりはない。
このブログは本屋の紹介というだけでなく、私が出会った店、出会った人の記録だからだ。
出会ったことを忘れたくない。
なくなってしまった店なら、なおのこと。
今は無くなっても、確かにそこにあった。そこに、こういう人がいた。
それはずっと残しておきたい。

拙著「書店ガール」を読んでくださった方なら、その中に一伸堂という本屋が出てくることを知っているだろう。
実はそのお店、私が以前住んでいた場所のすぐ近くに実在した店の名前である。そこが閉店すると知った時、自分でも意外なほどショックを受けた。前住んでいたのは新宿区だったから、本屋環境については今以上に恵まれていた。だから、本が手に入らなくて困るということはなかったが、一伸堂がなくなるということ自体が、衝撃だったのだ。
ただ本を買うだけでなく、立ち寄るたびに馬鹿話をした。私が版元の人間だとわかっていたので(当時は出版社勤務)、小さな本屋の経営がたいへんなこと、私が勤めていた会社の配本が少ないことの愚痴を聞かされたりもした。一方で「書店ガール」の親本が出たときはとても褒めてくださって、推薦コメントをいただいたりもした。ただ好きな店、という以上の関わりのあるお店だった。新宿区という、人と人との絆が薄い場所にあって、そこが唯一馴染みの店だったのだ。そこがなくなることで、その街での自分の居場所のひとつが確実になくなった、と思った。

その時の記憶が、「書店ガール」の加筆の際に、一伸堂という名前を蘇らせたのである。
もうその街にはない。だけど、確実にそこにあった。その名前だけでも、小説にとどめておきたかったのである。

その後、一伸堂のご主人とは一度も会っていない。どこにいるのかも知らない(新宿区にいないことだけは確かだ)。
だけど、何かの拍子に拙著を手に取り、そのことに気づいてくれるかもしれない、私のことを思い出してくれるかもしれない、ということを、実は密かに願っているのだ。

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コメント

書店ガールを、さっき読み終えました。
碧野作品、初です。
何か自分も客の一人になって楽しんだような、それでいて従業員になって奮闘したような妙な興奮(笑)明日は普通に仕事だから早く寝なくては…。私の田舎にも子供の頃は本屋があり、ほぼ毎日立ち寄り三昧。(とっくの昔に書店は閉鎖)
それは今も同じで時間があれば、目的もなく立ち寄ってしまいます。やっぱり本屋で本に出会う楽しみは代え難いもの。

でも現実の厳しさ。本屋さんの灯が少しずつ消えるのは寂しいですね。

投稿: やまと | 2012年6月 4日 (月) 00時54分

ありがとうございます。一気に読んでくださったのですね。本屋好きの人に楽しんでもらえたのは嬉しいです。

近所の本屋、大事ですよね。ことに、子供の頃は歩いていける範囲が自分の世界ですから、そこに本屋があるかないかは大きな違いだと思います。
このブログでも、たくさんの素敵な本屋を紹介していますけど、それでも地元の本屋にはかなわない。地元の本屋を大事にしたいと思います。

投稿: 碧野 圭 | 2012年6月 4日 (月) 16時03分

大阪の一読者です。「書店ガール」読ませていただきました。
やはり一伸堂の件が切ない
私も4〜5年前に 永年通った小さな本屋さんが相次いで閉店し 淋しい思いをいたしました。
一言・二言しかしゃべらないのに 好みの作家の新刊はいつも
とって置いてくれていました。
客の好みをわかってくれている主人のいる本屋さん 
ありがたかった。
今通っている中型書店(?)では無理でしょうね
もちろん予約や問い合わせには丁寧に対応してもらっていますが・・ ついコメントしたくなってしまいました。 
長々とすみません。

投稿: hidet | 2012年6月 8日 (金) 01時49分

書店ガール拝見しました!最初は難しい女のバトルなのかなと思いましたが、感動致しました泣
今は女性が男性より上の立場の会社が1部しか見られなくて、法では男女均等法が私は生まれてすぐと聞き、なのに何故!?と思いました。
それで離婚という話も聞きます。
私は書店が大好きで、何でも便利になり過ぎで考え物だと思いますね。ちなみに私が通学する学校も吉祥寺にあり、でも家から遠いし夜になると危ないので、住みたい1位だとは思いませんでた!!
失礼致します。

投稿: 陽登未 | 2012年6月10日 (日) 14時43分

先日、書店ガールを本屋でみつけ購入し一気に読み終えました。面白くて久々に読書後爽やかな気分になれました。碧野さんの本は初めてでしたが、何故か気になりますのでこれからも読んでいこうと思います。私は子供の頃から本が大好きで書店も大好きです。昨今、電子化、雑誌化が進み寂しい限りですが、本はやっぱり紙が一番のような気がします。

投稿: iwa4 | 2012年7月 8日 (日) 10時28分

>hidetさま

一気読み、ありがとうございます。
先が気になって、どんどんページをめくるような本を目指しているので、そんなふうに楽しんでいただけて嬉しいです。
それにしても、小さな本屋がどんどんなくなっているのは寂しいですね。その大切さを、多くの人がもう一度思い出して欲しいと思っています。

>陽登未さま

均等法が施行されても、まだまだ企業の上層部や政治家などにも女性の進出は少ないですね。その辺の層がもっと厚くなったら、いろいろ変わるかな、と思います。
吉祥寺の学校、あそこかな? 吉祥寺は私も好きですけど、行くといろいろ買い物したくなる街なので、たまに遊びに行くという距離感が気に入っています。

>iwa4さま

一気読み、ありがとうございます。もし、本書が気に入られたら、「辞めない理由」(光文社文庫)を読んでいただけると嬉しいです。仕事のリアルを書きたいといつも思うので、シビアさはもしかすると「書店ガール」以上かもしれませんが、その分、読後のすっきり感は高いと思います。よろしくお願いします。

投稿: 碧野 圭 | 2012年7月15日 (日) 21時53分

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