« No,128 三省堂有楽町店 | トップページ | 本屋がなくなるということ »

No.129 啓文堂書店多摩センター店

リアル書店ガール・シリーズ第2弾。Dscn0006
ここ多摩センター店には西ヶ谷由佳さんがいる。彼女と知り合ったのは、吉祥寺書店員の集い「吉っ読(きっちょむ)」のイベントでのこと。わざわざ多摩センターからいらっしゃるなんて熱心な方だな、と思っていた。その後も立川のオリオン書房のイベントでも姿を見掛け、西荻でやった私のイベントにも来てくださりーーと、立て続けにお会いすることになった。
そのひとつとっても、西ヶ谷さんが研究熱心な方だとわかるが、彼女の活躍はそれだけに留まらない。クロネコ通信というフリーペーパーを発信しているし、本屋大賞でも今年の賞のプレゼンターを務めるという具合に、生き生きと仕事をされている。
実は拙著「書店ガール」も啓文堂チェーンでは最初から推してくださるお店が何軒かあるが、それはこの西ヶ谷さんの応援のおかげだ。吉祥寺店や荻窪店の方は「西ヶ谷さんに頼まれてゲラを読んだのが(大きく展開する)きっかけ」とおっしゃっていた。
そんなふうに縁も恩もある西ヶ谷さんのお店、これは足を運ばないわけにはいかないでしょう。で、4月の某日、中央線と京王線を乗り継いで多摩センターへと出掛けていった。

青い看板の啓文堂。都下の人間にはお馴染みのこのチェーン、京王書籍販売株式会社といDscn0008 うのが正式な会社名なんですね。知らなかったよ。つまり鉄道やデパートの京王グループの一員ということで、京王線沿線に店が多いのはそれが理由(最近では中央線にも進出して、荻窪、吉祥寺、なにより私には馴染み深い武蔵小金井にもお店があります)。そして、どこも駅近の一等地にある。
多摩センター店も、京王線多摩センター駅の改札口からほんの数メートルのところだ。
「うちは駅前のお店ですから、通り過ぎる客の足をどうやって止めさせるか、というのが課題なんです」
という西ヶ谷さん。なるほど、駅の改札口から一直線だから、通路替りに店を通るお客もいるだろう。そうしたお客にアピールするように、大きなコーナーや目立つPOPが展開されている。
改札の方からも見えるのは、本屋大賞「舟を編む」と東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇蹟」(角川Dscn0004 書店)それに「歴史と文化を訪ねて~京王文化探訪 二十年の歩み」(京王電鉄株式会社)「京王電鉄まるごと探見」(キャンブックス)の4つが置かれた島。本屋大賞と東野作品と地元本。いまのこの店のイチオシがひと目でわかる。

この中でも、西ヶ谷さんにとって「舟を編む」は思い入れのある作品だ。発売後、すぐに買って読んだときからすごく気に入って、猛烈なプッシュをした。フリー ペーパーを書いたり、自社のHPで紹介したり、ツイッターでもこの作品のことを広くアピールした。その実績が認められて、今年の本屋大賞の式典で三浦さん に記念品を渡Dscn0007 すという大役を仰せつかることになるのだ。
しかし、この「舟を編む」、いまでこそこんなに派手な展開が出来るくらいたくさん入荷しているが、最初はわ ずか5冊しか入らなかったそうだ。駅前の好立地というものの、ここの規模は260坪と大きくはないし、初版は大部数ではなかったから注文した数を満数入れて もらうことはできなかった。そもそもこちらの店の客層の中心はサラリーマンと学生(大学があるので)、多摩センターの住人の中心である年配Dscn0021 者だ。「舟を編 む」のど真ん中の読者層ではない。
にもかかわらず、こちらでも版元が注目するほどの売れ行きになった。ひとえに、西ヶ谷さんの熱意の成果だ。POPひとつとっても、愛が伝わってくる。
「売ろうという気持ちがあると、違います。『スコーレNo.4』も最初の入荷は2冊とか3冊でしたが、そこから300冊近く売ることができました。POPとか展開とか、気持ちを入れてやると売れるものなんです」
まさにリアル書店ガールの面目躍如、だ。そんな西ヶ谷さんだから、拙著「書店ガール」に共Dscn0015 鳴するところも少なくないらしい。力を入れて売ってくださっている。文庫新刊で目立つところに展開されているし、書店員 POPに、フリーぺーパーもある。著者としたら、どきどきするほど嬉しい展開だ。ありがたいことに拙著は啓文堂の他店でも力を入れてくださっているし、ス ペース的にはここ以上のところもあるが、それでもここ多摩センター店が啓文堂チェーンでは一番の売り上げだ。それは西ヶ谷さんの熱がほかの店より高いから なんじゃないか、と思うのである。
あるいは、ここが仕掛ける本は面白いという信用が、静かに客に浸透しているからなのかもDscn0017 しれない。

ほかにもここの店内で目立つのは「啓文堂書店ビジネス書大賞候補作フェア」のコーナー。啓文堂チェーンでは、文芸書、文庫、雑学文庫、ビジネス書、新書の各ジャンル担当が推薦した本を、候補作としてコーナーを作って各店舗で並べる。そして、その中で一番売り上げが高かったものを、啓文堂〇〇大賞、と銘打って、全店で強くバックアップしていくのだ。越谷オサムさんの「陽だまりの彼女」(新潮文庫)が、いまならどこの啓文堂の文庫売り場でも目に付きますよね。あの黄色い地に女の子のイラストの表紙は、啓文堂のポスターで覚えました。
「陽だまりの彼女」もそうですが、ここの受賞作候補作というのは、ほかの賞での受賞歴がない、ここならではのものもあるから興味深い。ビジネス書については私は正直あまり興味がないのだが、そういう客でも手に取り易いものがちゃんと選ばれいてる。今回のラインナップDscn0011 「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」とか「すっきり!わかりやすい!文章が書ける」とか、タイトルだけでも心惹かれる。それに、「ずっとやりたかったことを、やりなさい」という、私の愛読書のひとつも選ばれていて、ちょっと驚いた。ビジネス書というより自己啓発本で、スピリチュアル的な要素も入っている。こういう本もチョイスに入る幅広さ。おまけに、2001年初版の本なのだ。昔の本の掘り起こしというのも、この賞の目的なのだろう。

ほかにも店内では実用書で「漬物・保存食フェア」をやったり、児童書の「ノンたんいっぱい集めました」フェアをやっていたり(ノンタンについては、5日にノンタンが来店するイベントもある)。この店が広げたいファミリー層のお客を意識しての展開らしい。その一方で、本好きのマニア向け大型本「世界の夢の本屋さん」を、奥の平台でこそっと面陳していたりするこだわりが楽しい。これは間違いなく西ヶ谷さんの仕事だろう。
全体にPOPも多いし、わかりやすい、楽しいお店である。

「たとえば往来堂さんとかちくさ正文館さんのように、POPを立てず、棚の並べだけで見せるというやDscn0013 り方をうらやましいと思うこともあります。うちとは真逆のやり方ですね。だけど、そういう店とはそもそも立地が違いますから、うちで真似はできないです」
なるほど、本好きの西ヶ谷さんなれば、文脈棚に惹かれる気持ちもあるだろう。往来堂やちくさ正文館の棚は業界内でも評価が高いし、書店員の努力と研究の成果だから素晴らしいと思う。しかし、その地域で屈指の文教地区に位置し、規模的にもそれほど大きくない店だから成立することだとも言える。郊外の店でそれを真似することはできない。お客さんが検索に戸惑うし、複数の人間がひとつの棚を管理するようなシステムの店では、維持するのも難しい。
商 売における正解はその店その店で違う。ある店ではOKでも、ほかでは無理なことがある。駅前のこの店だから、やるべきことはほかにある。そして、そのやり方で売り上げが立っていれば、それ が正解なのである。

ところで、西ヶ谷さんは大学時代に生協の書店でアルバイトを始めて以来、ずっと本屋一筋。本屋の仕事の魅力はどこにあるのだろうか。
「自分で売りたい本を自分で考えることができることでしょうか。たとえば版元だったら作るまでが仕事ですけど、本屋は売って重版した、ヒットした。好きになった本を何十万部まで積みDscn0012 上げた、ということが嬉しいんです。いまの時代はツイッターで全国の書店員と繋がりがあるから、みんなでヒットを作る喜びもありますし」
なるほど、版元でも営業マンなら売る楽しみはあるわけだが、必ずしも自分の好きな本を選べるわけではない。仕掛ける本を探す楽しみが持てるのは書店員ならでは、だろう。

そして、これから西ヶ谷さんがやっていきたいこととしては、
「文芸と文庫と両方の担当になったので、これからはジャンルを問わずその両方を組み合わせたことをやっていきたい」
そして、「舟を編む」に続いて目論んでいるのは、
「沢村凜さんを売ろう運動です。日本ファンタジーノベル大賞から出た作家さんなのですが、Dscn0009 角川から『黄金の王 白銀の王』の文庫が出ていて(親本は幻冬舎)、それがとてもいいので、仕掛けて行きたいと思います」
角川からの文庫でブレイク、と言えば飛鳥井千砂さんの「タイニー・タイニー・ハッピー」(もとは小説すばるの連載)が記憶に新しい。沢村さんも、西ヶ谷さんたち書店員ガールの応援でどう広がっていくのか、楽しみである。

ところで、「いつからPOPで仕掛けて本を売ろうということを考え始めたのですか?」と西ヶ谷さんに尋ねたところ、「私が仕事を始めたときには、それが普通のことでしたから」とのお答え。
えっ、と思ったが、西ヶ谷さんは業界歴(アルバイト時代を含めても)十年足らず。実は「白いDscn0010 犬とワルツを」で書店員POPの存在が注目されたのは2001年頃なので、西ヶ谷さんが仕事を始める前である。当然、西ヶ谷さんはそれ以前の時代を知らないのだ。
「白い犬」の”事件”が、ついこの前のことだと思っていた私は、強烈なショックを受けた。
それ以降の世代が、いまの書店業界では中心的に活躍しているんだ。
自分で書いていてなんですが、はじめて「書店ガール」の主人公・理子の気持ちが身に染みました。
ジェネレーション・ギャップって、こういうことなんですね。
なんだか、しみじみしちゃいました。

|

« No,128 三省堂有楽町店 | トップページ | 本屋がなくなるということ »

関東の書店」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/552111/54610808

この記事へのトラックバック一覧です: No.129 啓文堂書店多摩センター店:

« No,128 三省堂有楽町店 | トップページ | 本屋がなくなるということ »