« NO.127 リブロ吉祥寺店(東京都武蔵野市) | トップページ | No.129 啓文堂書店多摩センター店 »

No,128 三省堂有楽町店

プロの営業マンであれば、この店は絶対はずせない。P4090560_2
ここ発のヒットも多いし、ここが日本一売った本というのも少なくない。売る力のある本屋なのだ。
私的には、三省堂大宮店にいたブンブンコこと杉山さんもいるし、付き合いのある実業之日本社からも近いので馴染み深い。
にもかかわらず、ここにはなかなか行けなかった。というか、ほんとは何度か行ってるのよ。 有楽町に行くついでに。
だけど、行くたびに客の多さに圧倒される。駅中の店と変わらない。書店員さんも忙しそうだP4090536_2 し、話し掛ける隙がない。こういう店は営業さんのフォローがない限り、顔は出さない方がいい。著者の訪問も頻繁にあるから別にありがたくもないし、下手な時間に訪問するとかえって迷惑がられる。
まあ、120数軒周った経験値が、そう思わせるのよね。何度か痛い目にもあっているし。

それなのに、営業さん抜きで訪ねることができたのは、横浜の出版関係者の集いである「横浜会」で、こちらの文芸担当の新井見枝香さんと知り合ったから。P4090555
「うちのお店にも来てください」
と、その場で言われて、さらにその後、メールでもそうおっしゃってくださった。
これなら大丈夫、社交辞令ではあるまい。そう思って、都下から大都会有楽町へと、いそいそと出掛けたのであった。

ここ、有楽町駅のすぐ前という好立地で、坪数は380坪。この店の知名度と実績から考えるP4090556 と、思ったより大きくはない。だが、スタッフのこだわりが店の隅々まで行き届き、活気あるものにしているので、広さ以上の存在感がある。たとえば一階の文芸のところで大きく展開されている東野圭吾さんの「ナミヤ雑貨店の奇跡」。タワー積み(って言うんでしたっけ?)にされた本の前には、木の牛乳箱と手紙の見本が。もちろん文中に出てくる悩み相談の手紙と、それを投函する牛乳箱を再現したものだ。文中に出てくるものと同じ木箱のものをわざわざ展示している。いまどきなかなか無いよ、こんな牛乳箱。雪印マークつきの本物。よく探してきたな、と思う。
フェア台以外にも、力の入ったPOPがあちこち立っている。文字だけでなく、イラスト入りのものも多い。有川浩さんの「三匹のおっさん」のおっさんとか、コミックの「すみれファンファーレ」のすみれ、とか。字だけのものより目立つし、作品の雰囲気や作り手の作品に対する愛情がほんわかと伝わってくる。とてもいいPOPだと思う。
これらは私を呼んで下さった新井さんの仕事だが、ほかにもこの店には文庫姫こと佐々木貴子さんというイラスト上手もいる。文庫姫は小学館の「STORY  BOX」に記事を連載しているが、それに連動した棚が2階の文庫売り場P4090544_2 ある。記事で紹介した小説を集めてコーナーを作っているのだが、目を引くのは文庫姫自身が描いたという自画像だ。ほんと、うまい。プロ並みだ。このレベルでPOPを作られたら、版元POPの在り方も悩むところだろう。
実際、文芸最大手の版元が現在、書店に送っている某人気作家の拡販パネルは、佐々木さんが作って店に飾っていたパネルをそのままコピーしたもの。パネル自体はもちろん素晴らしいが、版元のやり方には安易すぎる感じがしないでもない。ちゃんと宣伝部もある大手の版元が、自分たちが作るより書店員の作るものの方が素晴らしいと、そんなにあっさり認めてもいいのだろうか。

ともあれ、新井さんと、お昼休み中の佐々木さんにお話を伺う。 P4090557_3
まずは、このお店の特徴は、と聞くと、
「POPとかをがーっとつけていますし、パワフルな店だと思います」
と、佐々木さん。新井さんは、
「フレッシュさを大事にして、常に最先端の本を並べる本屋だと思います。時事ネタとか新し い話題に敏感なお客様が多いので、こちらも常に新しい本にアンテナを張っているようにしています」
なるほど、ここは日本有数の繁華街銀座の窓口でもあり、ビジネスの中心地・丸の内にもほど近い。だからただ多くのお客様が訪れるだけでなく、お客様の求めるもののレベルも高いのだ。だが、そうした店だからこそ、仕掛けたものに対する反応も敏感だ。いままでの仕掛けで印象に残ったものとしては、
「やっぱり飛鳥井千砂さんの『タイニー・タイニー・ハッピー』(角川文庫)ですね」P4090538
と、佐々木さん。作品を読んでイメージを膨らませ、フリーペーパーに登場人物6人のイラストをオリジナルで描いた。それが評判になり、『王様のブランチ』でも取り上げられたことは記憶に新しい。
「『ブランチ』の放映日には、一日で3桁売れました」
本の売れ数も凄いが、フリーペーパーの消化枚数の方それよりが多かったというから、その効果がどれほどのものだったかがよくわかる。
それにしても一日で3桁。ということは、この店に来る客の数は一日何人くらいなんだろう。
来店者の一割も買うわけじゃないから、千人ははるかに超えている。実質何%の人が買ったかわからないが、とにかく恐ろしい数だ。東京って、やっぱり凄い。
 
そんな話はともかく。
ほかに、佐々木さんが印象に残っている仕掛けとしては、
「柴田よしきさんの『小袖日記』(文春文庫)です。初めて仕掛けたものですが、版元からの口コミで全国に広がっていって、すごいな、と思いました」
新井さんが印象に残ったものも、
「相場英雄さんの『震える牛』(小学館)です。話題作ではないものを、初めて大量に取ったものです。これが売れたことは、自信に繋がりました」
初めての成功体験は、やはり印象に残る。そして、それがさらによい仕事をしようという意識に繋がるのだろう。
こちら仕掛け販売だけでない。フリーペーパー「ブンブンコ通信」やツイッターでの活発な発言でも業界関係者には知られている。売るだけでなく、発信力もある書店でもあるのだ。
「ツイッターの力は大きいですね。ほかの書店の方と気軽に交流できたり、情報を交換したりP4090549 できますから。いい本があれば、みんなで盛り上げることもできますし」
と、新井さん。「スコーレNo.4」(光文社文庫)のヒットを引き合いに出すまでもなく、いまやツイッターの効果はあなどれない。今年の本屋大賞の「舟を編む」や二位の「ジェノサイド」にしても、ゲラの段階で「面白い」という評判がツイッター上で立っていたことが売り上げに少なからず貢献しただろうし、拙著「書店ガール」の初速のよさも、ツP4090548 イッターの影響があるだろうと思っている。
そして、この店のスタッフはそのツイッターを楽しんでやっている。活発に発言しているだけでなく、文庫姫やブンブンコがほかの書店員に楽しげに絡んでいるのをよく見掛けるし、有楽町三省堂書店の公式アカウントも、たまに中の人の生の声が出ていて面白い。

そう、楽しんでいる、というのが、彼らの仕事全般に言えることかもしれない。飾りつけにしても、フリーぺーパーにしても、ツイッターにしても、お仕事のレベルを超えたこだわりだし、手の掛け方だ。それを苦に思うのではなく楽しんでいることは、売り場や作った宣材を見ればわかる。そして、その楽しさがお客にも伝わるから、売り上げの数字にも反映するのだろう。でなけりゃ、いくらテレビ効果だと言っても、一日3桁は行かないよ。
そんなふうに、仕事を自分の楽しみにまで高め、成果を上げられる人を私は素晴らしいと思P4090551 う。拙著の「書店ガール」というタイトルは、そういう人たちへのリスペクトを込めてつけたのだが、この店のスタッフは、まさにリアル書店ガールだ。

ただ、小説と違ってこの店のスタッフが生き生きと仕事できる理由は、人間関係の風通しの よさによるところも大きいと思う。新井さんの口から直接、佐々木さんの仕事を褒めるのを聞いたし、ふたりの杉山さんについての口ぶりも温かい。
実は保守的な体質の店では、一部の書店員が脚光を浴びることを好まない。仕事はチームでやるものだし、売り上げ的に は文芸より実用書やコミックの方が高いのだから、文芸の書店員ばかりが脚光を浴びがちな昨今の風潮を苦々しく思う書店員がいることも理解はできる。それが嫉 妬という形で人間関係を歪める場合もないわけじゃないが、この店はそういうP4090554_2 こととは縁遠いのだろう。でなければ、文庫姫棚なんて許されるわけがない。
むしろ、「書店員が前に出ることのメリット」を考えられる大人なスタッフが、彼らの仕事を後ろから支えているのだろう。若い人がその力を存分に発揮できるのは、店長以下中枢部のスタッフのやり方次第だと私は思うのだ。

最後に、これからの目標をふたりに聞いてみた。
「『書店ガール』に出てきた『私に聞いてください』というバッジをつけるのも面白いし、近くの学校と連動したフェアをやるのも面白いと思います。型にはまらない、地元密着のフェアを考えたいです。これからもいっぱい本を読んで、いろんな作品を売り出したい」
優しい新井さんは、著者にも気配りした嬉しいお答え。一方、佐々木さんは、
「密かに思っているのは、1万部越えの作品を作りたいってことです」
一瞬、数字が大きすぎて何のことかわからなかった。
つまり、1アイテムをこの店で累計1万部以上売ってみたい、ということだ。
1万部。
それだけで、小説の単行本の推定8割くらいの初版部数を超えていますぜ。
だけど、あながちそれが非現実的だと言えないのは、過去にこの店はそれを達成しているからだ。
「確か、『思考の整理学』(ちくま文庫)が累計でそれくらい売っていると思います。かなり難しP4090541 いことだと思うけど、私もいつかやってみたい」

いいねえ、この熱さ。それでこそ、リアル書店ガールだ。こういう人たちがいるから、この業界はまだやっていけると思う。話を聞いているだけで、こちらも元気になった。元気は移るのだ。私は足元軽く、スキップしたいような気持ちで店を出た。

|

« NO.127 リブロ吉祥寺店(東京都武蔵野市) | トップページ | No.129 啓文堂書店多摩センター店 »

関東の書店」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/552111/54519965

この記事へのトラックバック一覧です: No,128 三省堂有楽町店:

« NO.127 リブロ吉祥寺店(東京都武蔵野市) | トップページ | No.129 啓文堂書店多摩センター店 »