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2012年4月

NO.127 リブロ吉祥寺店(東京都武蔵野市)

地元シリーズ第二弾、リブロ吉祥寺店。
さて、ここは私の本屋ライフにとっても忘れがたい大事な店だ。
「書店ガール」の舞台を吉祥寺にしたのも、この店があるから、というのも理由のひとつである。

前にも書いたと思うが、もともとリブロには思い入れが深い。私が初めて「東京の本屋」を意P4020430 識したのが、リブロ池袋本店の前身、西武ブックセンターだったのだ。受験で上京した際、なぜかここを訪れ、名古屋には全然、置かれていない(当時)ようなお洒落な本が集められているのを見て衝撃を受けた。図書館でしか見たことがないような本も、普通に売られている。
「やっぱり東京に出なきゃだめだ」
と、その時、強く思ったのである。
その後、志望校に合格し、東京に住むようになった。と言っても、住んだのは中央線のサバンナ西国分寺(当時)だったから、池袋まではなかなか行けない。吉祥寺が一番、身近な都会だし、ここリブロ吉祥寺店が生活圏内の素敵書店ナンバー1になった。家庭教師のアルバイトで週二回、吉祥寺に通っていたこともあり、その行きがけに、よくこの店を訪ねていた。貧乏学生なのであまり本は買えず、うっとり眺めるばかりだったけど。

大学卒業後は都心に住んだのでこの店の存在は遠くなっていたが、再びここが私の意識にP4020440 上るようになったのは小説デビューしてからである。
デビュー作「辞めない理由」の親本はパルコ出版から刊行された(文庫版は光文社)。そのため、パルコ内に多く店を持つリブロが売り出しに協力してくださった。なかでもこの吉祥寺店の矢部潤子店長(当時)が気に入ってくださり、ワゴンで展開してくださった。
その効果もあって、全国で一番「辞めない理由」を売ってくださったのは、リブロ吉祥寺店だったのだ。
「書店ガール」の親本である「ブックストア・ウォーズ」のネタを考えていたのは、ちょうど「辞めない理由」の営業をしていた頃。舞台を吉祥寺にしたのも、矢部さんのいるリブロがあるかP4020446 ら、ということが大きく影響している。

私がそんな話をすると、店長の栗田克明さんも、
「実は僕も同じです。はじめてリブロを知った時、衝撃を受けました。故郷は群馬なんですが、馬場の予備校に通うようになってはじめて池袋のリブロを見て、本屋の概念が変わりました」
栗田さんは私よりうんと年下だが、やっぱりそうなんですね。いまは多様化してお洒落な本屋P4020443 も増えているし、リブロという店もいろんなところに出店されたのでカラーが薄まっているが、つい10年位前までは、「お洒落な本屋=リブロ」だったのだ。
だから、栗田さんは就職試験についても、
「書店の試験はリブロしか受けなかった」
という。それほど、リブロという本屋の衝撃が大きかったのだろう。
しかし、それで最初に勤めたのは大阪の八尾店。郊外型のお店なので、リブロ色は薄かった。その後も転々として、こちらが5軒目。こちらは、リブロの前身のパルコブックセンターの1号店なので、リブロの中でも老舗である。そのため、リブロカラーがいまでも感じられる。栗田さんとしたら、最初に思い描いていた東京の書店のイメージに、ここは比較的近い店なのではないだろうか。

「書店ガール」に書いたのと同様、この店も平日と休日では客層が変わる。平日はお客様も年配の方が多い。午前中に早起きしてバスでこちらの店に来て、午後、バスで帰って行くというパターンだ。夫婦で月イチくらいで訪れ、山ほど買い物をして宅配便で自宅に配送される、そういう顧客もいる。
土日は近隣から吉祥寺に遊びに来る若者、パルコの中という立地条件から、とくに若い女性が多い。
しかし、そうした女性はもちろんだが、年配の常連さんにしても、「人とはちょっと違う本をもとP4020450 めていらっしゃる」のだという。たとえば、雑誌にしても「ブルータス」とか「Pen」が売れる。ファッション雑誌も、最近流行りの付録付きだけでなく、「palm maison」なんてとがった雑誌が壁一面に展示され、バックナンバーも平積みにされている。
もちろん、美大生やデザイン関係者も多い。それを象徴するように、
「うちは写真家のサイン会に人が集まるんですよ」
とのこと。リブロの面目躍如、である。

それから、店内を案内してもらった。エスカレーターで地下二階にあるこの店に降りてすぐのP4020431 ところにアート関係や洋書の売り場がある。いわば、リブロの顔というべき場所だ。
ここの飾りつけがいい。棚一列を使って写真を展示している。「ミュージシャンと猫2」という写真集の中身を、ポスターにして紹介しているのだ。坪効率を考え、少しでも本をたくさん詰め込もうとするのが普通の書店だが、こういう展示は嬉しい。写真集なのだから、中身を見せてくれるのが一番効果的だ。そして、こういう見せ方をした方が高額な写真集も売れるのではないか、と思う。

それ以外にも、ここのコーナーは面陳が基本になっている。「本屋は本のショールーム」といP4020433_2 うのは「書店ガール」にも書いた私の持論だが、こういう置かれ方をしてると、これだよ、と思う。本の特性は、書かれている中身の情報だけでなく物としての価値、つまり表紙のデザインとか版型とか紙の材質とか手触りとか匂いとか、そうした全てをあわせてできるものだと思っている。ことに、美術書とか写真集の類は、物としての価値の比重が高い。だから、表紙を見せて展示するのは正しいやり方だと思うのだ。
もちろん、スペースを食うことなので、すべての本屋でできることだとは思わないけれど。

その先の「趣味・生活」のコーナーには「日本のおまもり」のコーナーが。おまもりだけでなく、P4020437 日本の玩具の紹介本、こけし本も併せて展示されている。
お守りの写真を壁に貼るだけでなく、版元から借りたというセワポロロという木彫りの人形の展示も。ちょっと楽しいコーナーになっている。
ほかにもいろいろ工夫されたコーナーが目に付くのだが、たとえば「ローリーズファーム」のムックの横に、このブランドのシャツを飾ってみたり。
「このビルの上階に『ローリーズファーム』のお店が入っているんですよ。それでタイアップし たんです。ファッションビルならでは、ですね」

だが、一番びっくりしたのは、文芸書の奥のコーナー。「1Q84」の上に、「書店ガール」の大P4020441 きなコーナーが。
うわっ、。「1Q84」より目立っているじゃん。
ありがたいし、嬉しいのだけど、同時にびくびくしてしまう。日頃、自分の本のフェアなどあまり見たことがないので(どころか、1冊も置いてないこともままある)大丈夫だろうか、と思ってしまう小心な作家。

まともにそこを見られなくてささっと前を通り過ぎると、料理本のコーP4020442 ナーでなかしましほさんの新刊が出ているのを見てはしゃいだり、旅行本のコーナーでは栗田さんお薦めの関西の出版社エルマガジン社の作ったガイドブック「Meets」や「ひとりで歩く 京都本」を紹介してもらったり。
このエルマガジンの京都本、こちらの店は「るるぶ」とかより売れている。
関西にも長く住んだ栗田さんが太鼓判を押す内容の充実というのもあるが、やはりこの店には「普通と違う本」を求めるお客さんが多いからなんでしょうね。
たとえガイドブックひとつとっても、こだわりがある。

そんな店内が楽しくて、取材を忘れて一顧客になって楽しみました。
もちろん、「ひとりで歩く京都」はお買い上げ。「palm maison」の表紙の美少女にも惹かれたけP4020448_2 ど、お金が足りなかったので我慢する。銀行に行き忘れたので、財布に千円しか入っていなかったのだ。
でも、それがラッキーだった。もしお金があったら、いろいろ散在してしまっただろう。
自分、ファッションには興味ないのに、壁一面に美しくディスプレイされてたら、そら欲しくなりますがな。
ああ、楽しい。だけど、お金がいくらあっても足りないよ。
そう思いながら、そそくさと退散しました。
ここで好きなだけ散在できる財力と本棚の空間が欲しい。
ここに来るといつも思うことだけど、今回もまた思いました。

ところで、リブロでも老舗ということは、吉祥寺でも大型店としてはここが一番の老舗。
ということは、「書店ガール」に出てくるペガサス書店に一番近い店である、ということにいま、P4020444_2 気づきました。
昔からのいい顧客がついているとか、平日と土日では客層が変わるとか、考えてみれば小説に書いたことと似ている。
そうか、ここがモデルだったのか。
と言っても、あんなダメ書店のモデルと言われても全然、嬉しくないですね。
はい。失礼しました。

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No.126 BOOKS 隆文堂(東京都国分寺市)

西国分寺は私にとって馴染み深い土地である。大学時代の下宿の最寄り駅だったのP4020423_2 だ。当時は電車の本数も少なく(中央線の14時台は4本しかなかった)、駅の周りにはビルのひとつもなく、ひたすら寂しい場所だった。
今の西国分寺と言えば、駅近くに大マンション群があり、大きなスーパーやお洒落な店も出来て、すっかりベッドタウンの駅に姿を変えている。その西国分寺の駅ビルの二階にあるのが、この隆文堂。以前は府中病院の近くに路面店を構えていたそうだが、ここ駅ビルに移ってすでに20数年経つという。

エスカレーターを上ってひと目見た途端、「感じのいい店」だと思った。P4020421
店の横に広い廊下があり、その廊下に面した什器の背が低いので、店内が容易に見渡せる。風通しがいい感じがするし、入りやすい印象を与える。
ワンフロアで150坪くらいなので、全貌が把握しやすく、親しみやすい感じがする。
そういう外的な要因だけでなく、お客の視線を意識した棚作りをしていることを感じる。エレベーターを上って二階に上がってくると、フェアのスペースが目に入る。来店した時は「宇宙兄弟」をやっていた。そのポスターやPOPの向き、貼る高さが、エレベーターを上がってきた人の目につきやすいように計算されている。

店内に入ると、そこここにPOP。面陳が多いのも特徴といえるかもしれない。本屋大賞のP4020416 フェアのコーナーでは、平台でなく、あえて棚で展開をしている。それぞれの候補作の表紙が見やすいし、内容がわかるPOPも多く展示できる。飾られているのが目に近い高さだから、POPの文字も見やすいし。小スP4020417 ペースを逆手にとったうまいやり方だと思う。
飾られているPOPのほとんどは版元の作ったものだが、ふたつだけ手描きPOPを作り、さりげなくお店のオススメもアピールしている。ちなみに、手描きのPOPがつけられているのは三浦しをんさんの「舟を編む」と宮下奈都さんの「誰かが足りない」だった。
これらはさらっと見れば、見逃してしまう。とりたててすごいやり方というわけではない。普通の店よりほんのちょっと工夫し、ほんのちょっと手を掛けている。そうした息遣いが店の隅々に感じられる。そこが、この本屋の「感じのよさ」に繋がっているのではないか、と思う。

文庫担当の上田砂由里さんに話を伺う。P4020413
上田さんはこちらの店で13年勤務しているベテラン書店員。
「『書店ガール』、売れてますよ」
と、文庫新刊台の前に案内してくださる。売り上げベスト10の、なんと四位だ。一位二位 が「1Q84」で、三位が有川浩さんの「三匹のおっさん」、それに続いて四位。
ありえない。「傍聞き」より上なんて。
こちらの店、私の地元ということで営業の方も動いてくださって、上田さんにお願いして私P4020424 の本を優遇してもらった。その成果が出ているのだろう。上田さんとしては、
「身内なんで、やはり書店員の話ということに興味を引かれました。それに、お仕事小説は池井戸潤さん以来、売れる流れがあるし、類書があるとコーナー展開もしやすいですから」
ありがたいことである。仕掛けて動くのは、それだけ本屋と顧客の信頼関係ができているからだろう。さらに、私が地元(正確には隣の小金井市在住)ということもプラス効果なのだろうか。紀伊國屋チェーンでも、一番売れているのは国分寺店だというし、本のたたずまいから地元臭が漂うのかもしれない。
なにげに、地元は強い。こちら、実は東川篤哉さんのお膝元。それで「謎解きはディナーのあとで」が出たとき、「地元作家」と小さく紹介したら、ばかばか売れた。いくら入れてもすぐになくなるほどだったという。
やはり、地元の支持は大事です。

なんて話は置いといて、上田さんに自分で気に入っている書棚を示していただいた。 P4020410
連れて行かれたのは、講談社のコーナー。さながら日明恩さんと高野和明さんのミニフェア状態。ふたりの本を何冊も平にして、手作りPOPを並べている。
「ここはずっとこういう状態です。このふたりの本は単行本で読んで面白かったので、こうして紹介しています」
こうした展開をしているのは、日本でもここだけだろう。高野さんは、もちろん「ジェノサイド」以前からの応援だ。いまや「ジェノサイド」で大ブレークした高野さんだが、それ以前からこうして応援する書店員が全国にいるから、いまの人気に繋がるのだろう、と思う。
ほかにも、上田さんが力を入れているものに、たとえば祥伝社文庫の「幕末 維新の暗 P4020426_2 号」(加治将一著)がある。歴史ミステリが好きで、単行本のときに読んで面白かったと思った本だ。文庫版も出たときから応援していて、いまでも新刊棚のすぐ横に、POPを立てて置いている。
それでいて、今一番売れている「1Q84」の文庫は、とくにPOPはつけていない。個人的にも関心のある本ではないし、P4020425
「私がPOPを書かなくても、これは売れるから」
と思うのだそうだ。そうした本より、版元が力を入れていない、配本も少ない、だけど自分が面白いと思った本、それが上田さんの書店員ごころに火をつけるのだという。
「これだけたくさんの本が出ていると、書店員が気づかないだけで、いい本、仕掛ければ動く本もたくさんあると思うんです。そういう本を少しでも探したいのだけど、時間もお金も限られていて、ほんと申し訳ない」

そんな熱い書店員の上田さん、書店員になってよかった、と思うのは、
「いろんなことを自由裁量でやらせてもらえるのが嬉しいですね。金銭的にはどうかな、とP4020409 思うこともあるし、責任があるから辛いと思うこともあるけど、やり甲斐はあります」
それに、やはりお客様に声を掛けてもらうのが嬉しい。
「あなたにカバーを掛けてもらうときれいだから、レジではいつもあなたの列に並ぶようにしてるのよ、とか、あなたのお薦めはどれも面白いから、買うようにしているのよ、と言われたりすると、ほんとに嬉しいです」
なるほど。地元に根ざした書店だけに、リピーターも多いし、書店員の仕事もよくチェックしている。カバー掛けを褒めてもらった、という話は、これだけ取材していても、あまり聞いたことがない。
「ほかにも、作家が来てくれたり、ツイッターで紹介した本を面白いと言ってもらえたり。やっぱり人に感謝されることが、一番嬉しいじゃないですか。そういうことがあるから、この仕事は楽しいです。好きだから、やっているんです」

その後、同僚の鈴木慎二さんを紹介してもらった。鈴木さんとは、実はツイッター上で会P4020418 話したことがあったので、挨拶したかったのだ。そして、本屋大賞の話から、「舟を編む」が映画化されたときのキャスティングの予想になった。私は堺雅人を挙げたが支持が得られず、その後ほかにもいろんな候補を各自出し合って、最終的にはピースの又吉がいい、ということで落ち着いた。
上田さんにしろ、鈴木さんにしろ、初対面とは思えないノリのよさ。
それはたぶん、この店の人間関係の明るさがなせるわざなのだろう。もしかしたら、店を見て「感じがいい」と思った一番の理由はそこにあるのかもしれない、と思いながら店を後にした。

にしても、ほんとに、どうですかね? ピースの又吉。
原作そのままではないけど、雰囲気はあってるし、話題にもなると思うんですけどね。
って、私が言うことでもないんですけど、いいよ、又吉。

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