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No.126 三省堂 新横浜店 (横浜市港北区)

この店を訪ねたのも、人が目的。こちらの山本恭子さんにお会いするためである。
山本さんは実は拙著「ブックストア・ウオーズ」の取材のために、五年ほど前にお会いしている。その「ブックストア・ウオーズ」を「書店ガール」と改題し、PHP文芸文庫から出ることになったので、その挨拶かたがた訪ねることにしたのだ。

五年前にお会いした時、山本さんは神保町の本店にいらした。当時はまだ珍しかった、一種類の本を大きく積むという展開で文芸の売り上げを伸ばしていらした。その時の、楽しそうに仕事を語る姿が強く印象に残っている。元気で、前向きで、まさに「書店ガール」の、若いヒロイン亜紀のような方だった。
だが、五年ぶりにお会いした山本さんは、印象がずいぶん違った。キャリアを重ねて落ち着いた優秀な書店員という印象だ。
この店がオープンしたのは4年前の3月だが、山本さんはその2ヶ月前からこちらに赴任して、活動を始めた。工事現場の状態から店をチェックし、どの棚に何を入れるかといったことから、アルバイトの採用まで関わっているという。そうした経験が、書店員としての山本さんを大きくしたに違いない。いまや、亜紀よりもベテランの理子のイメージに近い。ああ、それが五年という歳月なのだなあ、と思う。
その五年の間に、私の方は多少の進歩はあったのだろうか、というのはさておいて。

こちらの店、ワンフロアで330坪。だが、広い通路が走っているので、その面積以上の広さを感じる(通路は坪数のなかには入らない)。客層については、新幹線の駅が近いので、平日は出張のサラリーマン、休暇や連休前は帰省する家族層がメイン。さらに、近隣の住宅地のニューファミリーもよく訪れる。
「こちらのお店は、本店のようには文芸は売れません。新幹線に持ち込むには単行本は邪魔ですし、主婦層は堅実なので、売れるのは文庫が中心です。ミステリや雑学のものがよく動きます」
なるほど、この店の壁には大きく文庫の売れ筋コーナーが作られている。壁の展示は目立つし、遠くからでも見えるように、単価の高い単行本を展示する方が一般的だ。そこにあえて文庫を展示することで、この店の文庫の力の入れ具合がわかる。
そして、東野圭吾さんとか宮部みゆきさんとか、どこでも売れる文庫がやっぱりここでも売れている。
だが、不思議とこの店だけで売れるロングセラーがあるという。ミステリでは貫井徳朗さんの「愚考録」。恋愛ものでは、山本文緒さんの「恋愛中毒」。後者は角川の文庫フェアで動きがよかったので単独で積んでみたが、2年間コンスタントに週20冊くらいづつ、3年で千冊くらい売れたという。理由はわからないが、この店の客層になぜか合っていたらしい。
それで気をよくして、漢字四文字の不倫小説が出ると並べることにしたら、それも連鎖的に売れる。エッセイだが、宇野千代の「恋愛作法」も「恋愛中毒」の傍に置いたら売れた。

そうしたセレクションは面白い、と思う。自分の好みだけで平にしていたら、自ずと偏りが出る。それよりも、別の要素、言葉遊びだったり、ジャケットの作りだったり、偶然の要素を取り込むことでバラエティを持たせようとする。そうしたなかから、自ずとお客様の好む本が浮かび上がってくることもあるのだ。
「小説の好みということで言えば、本店で文芸担当になった段階で好きな作家の括りというのは崩壊しました。商売なので、いろいろな本を読まなきゃと思うし、偏って買うことはなくなりました。1回読んだらそれ以上、読まなくなるし、すごく嵌るということはほとんどありません。自分の好みでなくても、版元のオススメで面白そうだと思えば素直に仕掛けるし、『もう見飽きたよ』と文句を言われても、売らなきゃいけないものもありますしね」
そうだろう、と思う。私自身は編集者だったが、仕事であるがゆえに好みと違うものを大量に読む。自分自身の好き嫌いより、読者の好き嫌いの方に関心が行くようになる。ある意味、そうなって初めて一人前だといえるかもしれない。
自分の好きな本を、好きな形で仕掛けられるというのは幸せなことだが、逆に自分の好みを前面に出さない、というのも、またそれはプロの書店員の在り方だと私は思うのだ。
山本さんはそうしたタイプの書店員なのだろう。

ところで、もうひとつ、ここに来てみたかったのは、ここが新横浜だからだ。この書店から歩いて10分も掛からないところに、佐藤信夫コーチのいる新横浜スケートセンターがある。佐藤コーチはかつては荒川静香、中野友加里、村主章枝らを育て、現在では小塚崇彦、浅田真央を指導している。だから、新横浜といえばフィギュアスケートファンにとっては聖地にも等しいのだ。
そんなわけで、フィギュアスケート関係者やファンもここを訪ねることもあるだろうし、世界選手権も近いことだし、できればフィギュアものをプッシュしてください、とちゃっかり自分の「銀盤のトレース」を営業して帰ったのだった。

 

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