No,105 本の王国 野並店
ブログのタイトル、変えました。
これから営業に関係なく、仙台や福島の書店に行ったりするので、タイトルとちょっと合わなくなるかな、と思ったりして。
実は今までも、営業というよりは取材という趣もあったので、ただ訪問とした方が自分的にもしっくり来る感じです。
で、久々に本屋訪問記。
前にもちょっとだけ書いた本の王国野並店。なぜここを再度訪れたかというと、うちの実家の近所にあり、それが縁で私のコーナーを作ってくださっているというありがたい書店様だから。日本中探しても、そういう書店はありません(佐賀は積文館書店伊万里店さんと、広島のウィー東城店さんでも、以前、BOOK・La繋がりで私の本をコーナーで一時期展開してくださっていました。ありがとうございます)。
いつか挨拶に行きたいと思っていたら、こちら、本の王国チェーン(直営店は16、フランチャイズは80店舗ほど)を展開している株式会社新進の書籍販売部の莨谷俊幸さんが私のブログを見てくださり、ご挨拶のメールをくださった。それでメールのやりとりをしているうちに、莨谷さんから「ごいっしょしましょう」と言ってくださったのだった。
いきなりひとりで伺うより、紹介者があった方が絶対にいい。初対面の人にいきなり話しかけるのは、たとえこちらに好意を持ってくださっているらしいとわかっていても、なかなか緊張するものですからね。
そんなわけで、実家の法事に帰るついでに、こちらのお店に寄りました。莨谷さんと、なぜか私の友人の村井和美もいっしょに。和美は高校時代のクラスメートなのだけど、以前の名古屋の営業周りの時にも付き合ってくれた。ドライバー兼マネージャーみたいな存在で、私にとっては心強い味方です。
さて野並店、私が子供の頃にはありませんでした。それどころか、野並には10坪くらいの小さな本屋が一軒あっただけ。それも、10年もたずにつぶれたけど。
これが平成8年頃に出来て、野並にもようやく文化の風が吹いた、と思ったものでした。
さてこの本屋、1,2階あわせて200坪くらいか。ぱっと入った印象は、やはり東京の書店と比べて本棚の高さが低く、通路の幅も広い。真ん中にはベンチも置かれているし、全体にゆったりした印象だ。ジャンルごとの看板も見やすい。
1階の入ってすぐのところに文芸のコーナーと、時節柄震災コーナーが。
莨谷さんによれば、チェーン全体の売り上げでも、耐震や防災についての本はそれほど伸びていないけど、東北大震災の写真集や東北の地図などはよく動いているのだとか。
名古屋でも東北の地図が動くのは不思議に思ったが、
「警察官や消防隊員は、この辺りからでも派遣されるのですよ」
と、莨谷さんが教えてくれた。なるほど、そうした人たちには、地図は必需品なわけだ。東京よりさらに名古屋は震災から遠く、街の雰囲気も震災とは関係ないように見えるが、やっぱり無関係ではないのだな、と思う。
さて、その奥の文芸コーナーでは、本屋大賞受賞作を平積みで展開中。
「今年の本屋大賞は売れましたね。もともと人気があったのですが、受賞のおかげでファン層が広がりました」
と、文芸担当の高畑京子さん。受賞作だけでなく、著者のほかの作品も動いているそうだ。ほかには東野圭吾さん、有川浩さん、海堂尊さん、佐伯泰英さんなどがこの店の売れ筋である。
そうした売れ筋の作家のコーナーや自己啓発書などが大きくとられている中、見つけました、私のコーナー。いや、思ったよりスペースが大きく、いい位置に展開してくださっている。大きなPOPに、私の出身小学校、中学校、高校(ここまでは地元)、と大学名までちゃ
んと書かれている。ちょっと冷や汗が出る思いでしたが(たいした経歴でもないので)、これを見て、親近感を持ってくださる方が、この界隈にはいるでしょう、きっと。売り上げに繋がっているかどうかは、怖くて聞けま
せんでしたが、嬉しいです。
ところで、椅子のある本屋さんというのは最近よくあるが、ベンチのある書店というのは滅多に見ない(ほかには、同じ名古屋のらくだ書店くらい)。こちら、なぜ置かれているのかと尋ねたところ、
「こちらの店はお年寄りのお客様も多いのです。それで、バス停や地下鉄の駅から歩いてくると疲れていらっしゃる方もいるので、休んでいただこうと思って。だけど、お年寄りの方は遠慮されて座らず、若い方の方がむしろ利用されることが多いです」
と、高畑さん。なるほど、お年寄りを大事にされる店なのですね。
「午前中は目的買いの高年齢層の方が多いですね。午後は学生さんが多いです」
実はここ野並、今年の3月までは地下鉄桜通線の終点だった。それでバスターミナルもすぐ目の前にあり、通勤客がついでに立ち寄ることが多かった。しかし、地下鉄が徳重まで伸び、バスターミナルも移転したことから、客層はかなり変わったという。
「それまではサラリーマンやOLが中心で男女比は1対1に近かったのですが、今は7対3くらいで男性が多いです」
そして、その男性比率を上げる要因が、コミック、ライトノベル、カードを専門に扱う2階の売り場だ。私が訪れた日は土曜日で、恒例のゲーム大会が行われていた。これは毎週行われているそうで、この日は人気の「デュエル・マスターズ」の大会で、小中学生が30人近く集まって楽しそうに騒いでいました。
大会のある週末だけでなく、平日でも対戦相手がいれば対戦できる場所を提供してくれるので、毎日のように通っている子どももいるそうです。少子化で同じ趣味の友達を見つけにくい、あるいは同じ学校の人間関係だけでは息苦しいと思う子どもたちの居場所になっているのでしょう。ゲームセンターよりずっと健全だし、親としても書店であれば安心だし。子どもたちの楽しそうな声を聞いていると、こちらもなんだか楽しくなった。リアル書店の強みというのは、こうした場を提供できること。こうした強みを生かした店がもっともっと増えるといい、と思いました。
さて、高畑さんだが、実は書店員歴は長いものの、一時期、CDやゲームショップでも働いていたという。それらと比較して書店はどうか、と尋ねると、
「本屋の方が楽しいです」
とにっこり笑って即答。
「扱うジャンルの幅が広いというのもいいですし、お客さんが店員に話しかけてくれることが多いので、ほっとします」
なるほど、本は点数がべらぼうに多いうえに、ジャンル分けがあいまいな部分がある。そのため客が店員に質問する機会が多いのは事実だ。逆に言えば、それだから書店員の知識が必要とされるし、カリスマ書店員というものが生まれてくる理由でもある。
また、書店員の工夫が生きやすい売り場でもある。高畑さんの経験でも、
「週刊ダイアモンドのバックナンバーを展開したところ、ビジネスマン以外の方も買っていかれました」
棚差しでは固定ファンしか買わない雑誌も、特集によっては固定客以外の興味を引く。それをいかにお客さんに気がつかれるように見せるか、というのは、実は売り場を仕切る書店員次第だったりするのだ。そうした面白さを経験すると、なかなか書店員から足を洗えないものらしい。高畑さんが一時、別の業種に行ったのに、やっぱり戻ってきたのはそれが理由だろう。
さて、今後書店員としてどんなことをやっていきたいか、最後に聞いてみた。
「本に限らず、いろんなものを集めて展開してみたい」
実は高畑さん、文芸以外にもビジネス書や文庫、文具なども担当しており、文房具と本のコラボということをやっている。最近では、手を汚さずにポテトチップスを食べられる「ポテトング」という文具を本の近くに置いたところ、100個近く売るヒットになったという。書店での文具の売り上げとしたら、これは異例のヒットだ。ほかにも、料理本と書見台とかこうしたコラボにはまだまだ可能性がありそうだ。
ところで、訪れた日は台風接近間近の大雨の日。でも、おかげでお客さんも少なく、ゆっくりできると思ったら、高畑さん曰く、
「最近は、晴れていてもこういう日があるんです」
固定客のいる2階はともかく、1階の文芸関係などはやはり地下鉄の延長で打撃を受けている。実は、そのことは地元でも噂になっており、移転するらしいなどとまことしやかな噂が立ったりもしていました。いえ、それはガセで、そんな予定はないそうです。
だけど、やっぱりお客さんが集まってこそ、本屋は成り立つ。だから、地元のみなさん、ぜひこの店で買い物しましょう。野並の文化の牙城を守りましょう。広くて、新しくて、居心地がよく、お年寄りにも子どもにも優しいお店です。
私も、帰省したときには、なるべくここに立ち寄って、買い物をしようと思いました。
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