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No.97 明和書店池袋店(東京都豊島区)

こちらに行こうと思ったのは、とある業界人の呑み会で推薦されたから。早川書房とか国書刊行会の営業の人が、個人的に使う店、好きな店としてことを挙げたのだから、間違いはないだろう。こちらは西葛西の明和書店(このブログの2回目の店)の系列で、幸い、明和書店の社長と親しい大森望さんから紹介してもらえたので、すんなり営業を承諾してくださった。

Img_1533 こちら、西武池袋駅の構内にある駅中店。なので、店に入るには切符を買わなければならない。当然、お客は西武線を利用される方ばかり。店は10坪。思っていたよりさらに小さい。なのに、ここが業界人に評判がいいのはなぜなのか。
店に入ってざっと背表紙を見る。確かに普通の駅中店ではないとすぐわかる。普通ならそういう店に置いてあるのはベストセラーとか有名作家のもの。電車の中で軽く読める本の類だ。こちらにももちImg_1536 ろん「1Q84」とか「夜行観覧車」といった売れ筋も平積みになっている。だが、棚を見ると海外文学とか社会科学系とか、駅中店ではあまり扱わないようなジャンルも結構な充実だ。たとえば海外文学はカレル・チャペック、ギュンター・グラス、マラマッド、ガルシア・マルケス。早川epiブックまである。普通の駅中店では海外文学が置いてあったとしても、ダン・ブラウンとかミステリの類がいいところ。社会科学系でも「フランソワ・ラブレーの作品と中世ルネッサンスの民衆文化」とか「数秘術大全」なんて、ありえない。だいたいこんな本、普通の路面店でも小さいところでは置かないでしょ。
Img_1539 あと、10坪ならではの工夫もあった。文庫棚を2重にして並べているのだ。下に台を入れて奥に並べた本を高くし、タイトルがわかるようになっている。取り出しにくいので本屋ではあまりやれないが、多く置けるのは確かだ。うちでもまねしてみよう。

店長は平塚康司さん。以前は西葛西で店長をされていたそうだ。このブログの2番目に挙げた店だが、あそこもサブカル系が異様に充実した、存在感のある店だったっけ。
こちらの店は、
Img_1544 「一言で言えば、西葛西の縮小版みたいなものです」
いえ、そこをもう少し聞かせてください。
「この規模にしては、人文サブカル系が多いでしょうね。岩波も新刊については入れてもらっています。あとコミック類もよく売れますよ」
場所のよさから、話題の新刊書はよく売れる。「1Q84」は250冊入って、1日で売り切れた。「ワンピース」の新刊も、1500冊売れるという。
「10坪しかないので、新刊はもちろん、棚に置くものもチョイスしないといけません。でも、ベストセラーだけではつまらない。コアな商品、うちのお客様が 好みそうなハードカバーを混ぜておく。お客さまが棚を見て、引っ掛かりを覚えてくれることが大事だと思う。駅中と言っても書店なんでね。私が思う書店は、 そういう店なんです。本好きな客が来てくれる店でないと」
なるほどねえ。たとえばこちらの売れ筋のひとつは光人社NF文Img_1546 庫。光人社NF文庫、不勉強で知りませんでした。戦記物のノンフィクションを集めた文庫だそうです。ほかの駅中店では絶対にないでしょう。
「珍しい本があると口コミで広がりますし。以前、作品社の本で、版元でも品切れになったものを置いていたら『どこにもなくて、ずっと探していたんです』と いうお客様が買いにいらっしゃいました」
たった10坪でこれだもの。評判にもなるはず。この店には、地の利もあって業界関係者の訪問も多い。よく 顔を出すお客さんが『実はこの本の担当編集でして』とか『版元の○○です』カミングアウトされれることも多い。
「それだけ、チェックされているんだな、と気が抜けないですね」
そんな平塚さん、本を選ぶとき、心掛けているのは、
「ネットを参考にしない、ということです。それより自分の好みを優先させる。そうでないと、独自性が出せませんから」
選 ぶ基準の中には、「装丁がきれい」ということもある。青土社の本は自分の好みのデザインなので軽くえこひいきしている。
Img_1536_2 「装丁のインパクトは大事 ですね。陳列するとき、色あいとか考えてレイアウトします。場所をちょっと変えるだけで売れたりすることもありますから」
ちなみに、青土社の人文 科学系には固定ファンが何人かいて、新刊が出ると買っていくのだそうな。
それから、こちらのお店では、いまでもPOSではなく、スリップで対応している。
「POSになると、配本が取り次ぎまかせになるし、対応も遅くなってしまいます。POSではデータの数字があがった後、集計で中一日は最低、掛かってしまう。とくに客注の場合が時間が掛かる。でも、うちの場合は取次ぎの営業さんが毎日周ってくれるので、ファックスで注文を送っておけば、翌日に届けてくれたりもする。10坪ではストックにも限界があるし、すぐそばにあるリブロさんやジュンク堂さんに、品揃えでは絶対、勝てない。あるのは地の利だけ。だから、棚の欠本でお客様に迷惑が掛からないように、スピードでは負けないように、と考えています」
Img_1541 なるほど、売れ筋をきちんと置いたうえで、個性的な棚を作り、こまめにお客に対応する。昔ながらの正しい書店のあり方だ。それが出来るのも、社員3人で担当を分けているからで、店長は書籍と雑誌、ほかに新書と文庫担当、コミック担当がいる。坪から考えるとスタッフが多い。だがそれでも、坪効率が日本一と言われた時もある。地の利はもちろんある。だが、単行本の売り上げも高いから、その数字になるのだろう。
こちらならではのロングセラーはありますか、と尋ねたところ、
「なんだろうな。売れてても、飽きると置くのを止めちゃうから」
という驚きの答え。
「あんまり同じ本ばかり置くと、お客様も新鮮味がないでしょう。狭い店ですし、飽きられないように、品揃えを変えていかなければと思うんです」
そんななかで、長く売っているものは「ガルシア・マルケス全小説」(新潮社)のシリーズ。平塚さん自身も、購入されたそうだ。今も店頭に並んでいるが、確かに見れば欲しくなるような本だ。マルケスだし。
Img_1540 「あと、ジャック・ロンドンの『火を熾す』(スイッチ・パブリッシング)も、かなり売れたので、ずっと面陳していました。サブカル系では彩図社のもの、アフリカとか南米のやばい海外旅行記とかが人気がありますよ」
うーむ、品揃えも渋いが、お客の好みも渋い。本好きの固定客を確実につかんでいるんだな。
ところで、印象に残る営業マンを尋ねると、
「双葉社の大杉さん。体格がよくて、いつも大汗をかきながらうちにいらっしゃいます。まめに連絡をくださいますし、商品紹介もすごく熱意を持ってやられるんです。「告白」の営業も熱心にされていましたし、既刊の掘り起こしも熱心です。
それから、ビジネス書のかんき出版の飯島さん。この方もいらっしゃる頻度がすごく多いです。夜遅く、8時過ぎとかに、『呑んだ帰りです』と言って現れる。いえ、この沿線に住んでいるのではないそうです。とにかく熱心な方です。
あと、講談社の販売局長をされている阿部さん。この方も、夜11時頃にいらして『これ、ちょっとお願い』と営業されていく。今は「永遠の0」の文庫を熱心に営業されています。講談社はこの沿線に住んでいる方も多いので、『POPを2枚だけ持ってきました』とか『POPなかったので置いてきます』とか、よくあるんです。ありがたいことです」
最後にこれからやってみたいことを平塚さんに聞くと、
「いままでの流れで、いい商品を探して並べる、それで独自性を出す。それをこれからも継続していきたい」
とのことだった。

実は私も駅中店には滅多に行かない。面白くないからだ。駅中店が同じような品揃えになるというのは、それだけ家賃が高いので、最大限の坪効果を出すために売れ筋しか置けない、あるいは人件費を節約するために、初心者のアルバイトでもできる棚にしなければならない、という事情があるのだろう。
だが、その常識が常識ではないかもしれない、とこの店を見て思う。もちろん、西武池袋線の出発駅という地の利がある、と言うのは事実。だが、誠実な書店のやり方をすれば、人通りの多い場所ではたとえ10坪でもちゃんと結果を出せるのだ、それは嬉しい驚きであった。
こういう書店が増えれば、また書店のあり方も変わってくるんじゃないか、そんなことを考えた。

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