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No.68 七五書店(名古屋市瑞穂区)

Img_0997 さて、西日本営業の最初は再び名古屋。実はこちら、七五書店のことを知ったのは、ツイッター上で。以前、新瑞橋の泰文堂の記事をブログに上げたところ「うちの近所」と七五書店の方がツイッター上でつぶやいてくださったのだ。
泰文堂に近いということは、うちの実家にも近い。でも、新瑞橋からバスで一駅のところに、本屋があっただろうか。このあたりは、自分の(本屋チェックの)テリトリーだったはずなのに。
それで俄然、興味を覚えて、ツイッターを通じて営業兼取材の申し込みをしてみたのだった。

Img_0998 七五書店で出迎えてくださったのは、熊谷隆章さん。会った直後に、実はこの熊谷さん、桜台高校卒業ということで、自分の後輩でもあることが発覚。地元なんで、ありえないことではないのだが、いきなりなので驚いた。大学の後輩の書店員としてはオリオン書房の白川さんがいるが、高校の後輩に会ったのは初めて。これも縁だな、と思いました。さっそく熊谷さんに売り場を案内してもらうことにする。

Img_0999 七五書店の名前の由来は、店舗の坪数が75坪だから、ということらしい。町の本屋さんとしては、比較的広いので、ゆったりしている。めざしているのは、
「一見普通の本屋だけど、癖がある。中毒性のある棚になっている」
ということだそうだ。その言葉通り、入ってすぐの目立つフェア台のラインナップがまず普通じゃない。林真理子「下流の宴」(毎日新聞社)柳美里Img_1001 「ファミリー・シークレット」(講談社)川上弘美「パスタマシーンの幽霊」(マガジンハウス)が面陳されているのは、まあいいとしよう。それらと並んで「秘密結社の時代」(海野弘・河出ブックス)、「カントの人間学」(ミッシェル・フーコー・新潮社)、「談志最後の根多帳」(悟桐書院)。棚差しだが、「出版の魂」(高橋秀明・牧野出版)「鉄道という文化」(小島英俊・角川選書)「悪魔学入門~デビルマンを解剖する」(南條竹則・講談社)、うーむ、これは、どんなコンセプトなのImg_1003 か。
「うちは新刊がどさっと入ってくる店ではなく、自分で注文して選んでいるので、この並びにはこだわっています。まあ、自分なりの文脈棚というか。ざっくり言って、こっちは文系。裏側がビジネスとか社会科学系」
確かに、棚差しになっているものには、ある種の流れを感じる。面陳の基準は私にはわからないけど。で、角のところにはImg_1004 「1Q84](新潮社)や「天地明察」(角川書店)といった売れ筋が並ぶ。
「心掛けているのは、探しやすい棚。だけど、それだけでは面白くない棚になる。探しやすさと同時に、こんな本があるという発見がもたれるようにしたい」
そうした意図から、文庫本についても、版元別ではなく、作家別のあいうえお順になっている。確かに、ライトノベルのファンをのぞけば、お客はどこの版元かはあまり気にしていない。作家別に並べてもらった方がわかりやImg_1007 すい。それだけでなく、たとえば浅田次郎と芥川龍之介、あいうえお順では浅田さんが前だが、棚の幅の関係でそのとおりに並べると2段にまたいでしまう。なので、あえて順序を入れ替えて、芥川を前に並べる。小さなことだが、お客様に対する気配りだ。それだけでなく、「隣にくる作家の名前も考えて並べる」のだそうな。
そのコンセプトが端的に現れているのは、実は小説ではなく、ノンフィクションの棚。
Img_1006 たとえば小松和彦の「日本妖怪異聞録」(講談社学術文庫)があって、佐野眞一「旅する巨人~宮本常一と渋沢敬三」(文春文庫)、そしてその宮本常一の2冊並んだ横に柳田国男、そして柴田宵曲の「奇談異聞辞典」(ちくま学芸文庫)という流れ。面白いよ。

さらに、文庫棚をよく見ると、隅のところに薄い箱が張り付いていた。中には「東野圭吾文庫作品リスト201004」というフリーペーImg_1013 パーが入っている。内容は、2010年現在、文庫で入手可能な東野作品のリストだ。タイトルだけでなく、それぞれの価格、版元、ISBNコード、発行年月日もついている。もちろん手作り。たぶんエクセルで表を作って、B5の紙にプリントアウトしている。東野さんだけでなく、宮城谷昌光さんや宮部みゆきさん、藤沢周平さんといった人気作家については同じものが作られている。
いいな、こういうの。ほかではまだ見ていない。作るのは、結構、面倒だと思うけど、お客は喜ぶと思う。これがあれば、どれだけその作家の本を読んだかチェックできるし、次に買う目安になる。自分だったら、宮部みゆきさんのをもらって帰って、マーカーで読んだ本に色を塗る。
「どれだけ販促に繋がっているかはわかりませんが、持って行かれる方は多いですね」
そうでしょう。ファンは嬉しいもの。きっと、これを見て買う人もいますよ。

Img_1018 それに、特筆すべきは本屋大賞の棚。受賞作候補作が並んでいるのはもちろんだが、熊谷さん自身が投票した3冊もPOPつきで並んでいる。「ハーモニー」(伊藤計劃・早川書房)、「線」(古処誠二・角川書店)そして「よろこびの歌」(宮下奈都・実業之日本社)。
をを、「よろこびの歌」。宮下奈都さん。これは「銀盤のトレース」の担当編集者である高中さんの仕事。その縁で、宮下さんとは3日後に会うことになっている。やっぱり、繋がりますねえ。いえ、うちの地元だとか、私の後輩といった時点で、こちらとは浅からぬ縁ではないか、と思ってたのですが。
Img_1016 もちろん、熊谷さんはツイッター発の「スコーレNo.4」の秘密結社の運動にも参加している。この時点では、まだ運動が動きだした直後だったが、すでにコーナーを作って展開していた。すばやい動き。おそらく、運動とは関係なく、「スコーレNo.4」を多めに仕入れていたのだろう。「よろこびの歌」を推すくらいだから、宮下さんの文庫にチェックを入れていないわけはない。
ほかにも、ツイッター上で以前、盛り上がった「ネコ本」運動にもこImg_1015 ちらは参加していて、その名残もちらり。POPだけでなく、棚にシールを貼って楽しさを演出しているのがいい。

ほかに、いままで仕掛けて印象に残るものは?と、尋ねると、
「そうですね。どういうきっかけかは覚えていないのですが『クレイジーカンガルーの夏』(諠 阿古・GA文庫)を読んですごく面白くて、ライトノベルですが一般の方にも紹介したいと思いました。本屋大賞にも推薦したところ、『本の雑誌』の増刊号に自分が書いたコメントが掲載されました。するImg_1014 と、それを読んだ版元の営業の方から、夏休みの注文書にそのコメントを使わせてほしいという連絡をもらいました。小さい書店なので、営業の方もあまりいらっしゃらないですし、版元の方とあまり接点がないので、こういうやりとりがあると印象深いです。この文庫については、うちの店頭でもコメントを書いたパネルを作ったりしたので、まずまずの反響でした。うちでは、こうした仕掛けはたまにしかやらないので、やるからにはお客様に響くものを、と思います」

ところで、こちらの客層はどんな感じなのだろう。
「学生から家族連れまで幅広いです。男女比では同じくらい。常連の方は多いと思います。でも、接客するうえでは、常連の方もそうでない方も、区別しないように対応したいと心掛けています」
Img_1008 なるほど。熊谷さん、真面目な方だ。そんな熊谷さん、個人的に好きな書店はどこだろうか。
「ちくさ正文館です。こちら、高校時代に初めて入ってすごいショックを受けました。以来、すごく意識しています」
出た!名古屋の基本、ちくさ正文館。やはり、ここは名古屋の書店員には絶大なレスペクトをされているんだなあ。熊谷さんの本の選びにも、確かにちくさ正文館の匂いは感じたよ。
「それから、往来堂書店の元の店長の安藤さんの『文脈棚』の考え方にも影響を受けました」
なるほど。あの新刊台はそれなのか。
「さらに、サカエ地下のリブレット。こじんまりとした店だけど、リブレットの面白さをぎゅっと凝縮した感じで、面白いです」

Img_1019 ところで、熊谷さん、ツイッターやブログなどで活発に書き込みをされている。その理由は、と尋ねると、
「地元のお客さん以外にも、少しでも認知してほしいと思うので」
とのこと。そうだよね。このあたり、うちの実家の近くでもあるけれど、どちらかといえば下町、庶民的な地区だ。普通で考えれば、わかりやすい有名作家とか、ベストセラーを置こうと思うだろう。だけど、あえて本好きにも楽しめる店作りを、と頑張っているのがわかる。この地区にあるまじきレベルの高さだ。だからこそ、広く本好きの客を集めたいと熊谷さんは思うのかもしれない。
Img_1020 それがうまくいってほしい、と私も思うが、同時にこの地区の子供たちは幸せだ、と思う。
こういう店が近所にあったら、きっと楽しいよ。
ほかの店を知らないから、今はこれが当たり前だと思うだろうけど、いつか子供たちも気がつくと思うよ。町の本屋にはあまりない本が当たり前に並んでいた、それがどれほど幸せなことか。
小さい頃接する本、つまり地元の本屋で見掛けた本が、後にその人の嗜好にも影響するというのは、この年になってますます実感することだから。

こういう本屋が、高校時代にほしかった。
きっと、週に何回も通っていたよ。
地元の本屋を5軒探して、あとは丸善になければ名古屋のどこにもない(30年前の名古屋はそうだった)。そんな貧しい本屋環境で育った身としては「今の子はいいなあ」とうらやましくなると同時に、その店で頑張っているのが高校の後輩という事実に、なにか胸が温かくなる思いだった。
がんばれ、七五書店!
遠くから、エールを送っています。

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