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2010年3月

NO34.宮井平安堂(和歌山県和歌山市)

Img_0624 この日から、私用で関西に行くことになった。そのついでに、書店営業もしてみることにする。
それで行ったのが、和歌山市内で一番大きいといわれる、ここ宮井平安堂書店。和歌山は、郊外に大きなお店があるそうだが、地元の人たちに昔から親しまれているといえば、このお店になるらしい。
200坪はあるかというゆったりとしたスペースで、とくに文庫の棚が充実しています。佐伯泰英さんの「居眠り磐音」シリーズは、巻数を書いた紙といっしょに一Img_0626 巻ごとに袋詰めして平積みにしていたり(長期シリーズなので、どこまで読んだか混乱されないようにという配慮なんでしょうね)、細やかな心配りも見られます。
文芸に関しては、売れ線の本が必ずしも潤沢に入荷されているようではなかったけど、それでも私の「銀盤のトレース」も、前作の「雪白の月」も入荷されていました。嬉しくなって、担当の方に挨拶をしたかったのですが、いらっしゃらなくて残念でした。レジの方に挨拶して、POPを置いて帰りました。

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No.33 有隣堂アトレ恵比寿店(東京都渋谷区)

Img_1624 有隣堂の加藤泉さん。こちらは旭屋名古屋ラシック店の山崎さんのご推薦だ。山崎さんから尊敬する書店員と名前が挙がったからには行かずばなるまい、と思っていたら、こちら、担当編集者の高中さんとミクシィでの友人(マイミク)。というわけで、今回は高中さんといっしょに加藤さんに会うことにする。にもかかわらず、挨拶するや否や、編集者そっちのけで加藤さんと私でパワーImg_1627 ストーン話で盛り上がる。私が腕に嵌めていたラピスラズリのブレスレットを見て、加藤さんも実は石好きだとカミングアウト。加藤さんはアクアマリンのブレスを持っていらした。不思議と嵌り方も似ているというか、お互いスピリチュアル系じゃないのに、突然、石に目覚めた過去があり、満月の晩には石に月光浴をさせる、なんて話で盛り上がってしまいました。編集者は完全に引いていましたけど。

そんなわけで、インタビューもなごやかに始まった。

Img_1621 1.こちらのお店の特徴は?
ファッションビルの中にあるので30代から40代の女性のお客様が中心のお店です。それもきゃぴきゃぴした本は売れない。「明日、王子様に会える」なんて類の本は駄目で、自分のキャリアアップに繋がるような本がよく売れます。向上心の強いお客様が多いです。
Img_1636 それにテレビ局関係の方も多いですし、新しもの好きな方が多いです。だから名前のある方よりも新人作家の方が仕掛けやすい。だから、常にこちらもそういうものを追っかけていないといけないので、それがしんどいといえばしんどいですね。
2.仕掛けてうまくいったと思うのは。
「食堂かたつむり」とか「告白」も早い時期から多面展開をしていました。「告白」の時は、「なぜこの作家をこんなに大きく扱うのか」とずいぶん言われました。「天地明察」も早くから多面で仕掛けていましたし。
それができるのは、ゲラを送ってくださる版元さんが多いからなんですけど。ゲラを事前に書店員に配ることについては賛否両論ありますが、それで発売当初から内容を見極めて仕掛けることができますし、こちらとしては助かっています。
Img_1629 3.仕事で気をつけていることは?
そうですね、ときわ書房の宇田川さんのように熱く語れるようなことは本当になくて、あるとしたら自分が会社員であること、くらいですね。書店員であるより会社員、まず会社の利益、書店の利益を優先させるということです。そうでないと、バイトの人とかを守れないですから。まず売ることだと思っています。
Img_1630 4.接客で気をつけていることは?
いまの対応はまずかったかな、とかつねに反省することばかりです。でも、接客したお客様の一日が幸せなものになるといいな、と思っています。
5.棚の作りなどでこだわっていることはありますか?
平台は置く場所で売れ行きが変わるので、どこに置いたらいいかはいつも考えています。文芸一般文芸のところに置くか、ミステリのところに置くかでも違いますし。
Img_1637 棚については、個人的には男性作家女性作家と分けるのは意味ないんじゃないか、と思ったりもするのですが、うちの場合、注文や在庫管理、棚の仕分けなどをひとりでやっているわけではない。棚に入れるのはアルバイトの人だったりするんです。それも、ひとりの人がやるわけではなく、曜日によって変わったりしますから、みんながわかりやすい棚、仕事をしやすい棚であることがImg_1638 求められるんです。外文の棚を国別にしたい、とか思っても、それはほかの人にわかりにくいと言われますし。だから、難しいですね。
6.加藤さんが書店員になろうと思ったきっかけは?
本が好きだった、というのが一番ですけど、実は辞めようと思ったこともあるんです。当時はアルバイトだったんですけど、辞めてちゃんと就職しなければ、ということがあって。その頃はすごく落ち込んでいたんですが、たまたま読んだよしもとばななさんの「デッドエンドの思い出」(の第2話に収録されImg_1631 た「おかあさーん!」という短編)に、すごく励まされた。また、頑張ろうと思えるようになった。それで、本というのは、必要な人にとっては宝物になれるものなんだな、と思ったんです。その時、励ましてくれた上司もいたし、それで書店員として留まることにしたんです。だから、本によって救われた、と自分では思っています。
7.書店員になってよかったことは?
常に新鮮なものに触れられるということ。それから「この本をみんなで盛り上げよう」という一体感が楽しいですね。
Img_1632 8.印象に残る営業マンは?
「本の雑誌」の杉江さんです。「本屋大賞」の第1回に投票したら、すぐに会いに来てくださいました。それからいろんなイベントにも参加するようになって、人の輪が広がっていきましたから。
あと文春の安達さんかな。ルミネの横浜店に私がいたとき、「対岸の彼女」を仕掛けていたのですが、売り上げがずっと全国2位だったんです。1位は池袋のリブロさんだったんですけど。それで安達さんが「あと何冊で抜けますよ」ということを逐一報告してくださったりして。でも、それで1位になった時は、好きな作品でしたし、嬉しかったですね。
Img_1640 9.このお店ならでは、というような特徴は?
このお店というより、有隣堂全店の有志で1年似1回、「私がおすすめする本たち」という企画をやっています。イヤーベストとオールタイムベストの両方を紹介するもので、今年も200冊くらい紹介して、それを小冊子にまとめています。お客様に評判もよくて、小冊子を持ち帰られる方も多いですよ。書店員はともかく、庶務の人などは自分の言葉で本を紹介する機会がないので、こういう企画は自分たちにとってもいいんじゃないか、と思います。毎年投票があると思うと、本を読もうという気にもなりますしね。

Img_1639 「まず会社員でありたい」その加藤さんの言葉は、とても好感が持てた。実は私自身が編集者だったとき、同じようなことを考えていたからだ。編集者は書店員以上に自分の好みを出すことが可能な職業だ。だけど、それができるのは会社がリスクを負ってくれるからだ。会社をだましても好きな作家を売り出したい(そういう編集者もたまにいる)と思ったことはないし、それは編集者ではない、と思う。会社と好きな作家と両方、さらには読者を満足させてこそ正しい編集者といえるのだ。
Img_1635 書店員にしても同じだろう。リスクを自分でかぶる個人店舗の店主ならともかく、会社員であればまず会社に損をさせないことが基本であるはずだ。だが、会社の利益のためだけに仕事をするのもつまらない。それをやりつつ、自分のやりたいこと、楽しいと思うことをちゃんと仕事に反映できる人が魅力的な仕事人だと私は思う。加藤さんというのは、まさにそういう書店員だと思った。「自分の好きな本を平台に置き続けるのはよくないかもしれない」「あくまで、お客様の求めるものを置くのが大事」という加藤さん。だが、幸いにもこの店のお客様は加藤さんやほかの書店員さんたちの仕掛ける本を面白がる人が多いようだ。新しい作家のものの方が仕掛けやすい、ということがそれを証明しているし、むしろこの店ならではのお奨めをお客様が強く求めているからこそ、ここから大きなヒットも生まれているのではないだろうか。

帰り際、「私がおすすめする本たち(投稿集)」と題された小冊子をいただいた。A5版で160ページもある立派な冊子だ。中身は「イヤーベスト」と「ベリー・ベスト」の2部構成で、それぞれのお奨め本が紹介されている。小説やノンフィクションだけでなく料理本や実用書、漫画までと幅広い。義理とか義務で紹介しているものではなく、好きな本を選んでいることが伝わってくるので、コメントを読んでいて楽しい。それに、写真がついていないことが逆にどんな本か想像を掻き立てる。既成のブックレビューにはない手作りの温かさを感じる冊子で、自分でも「これを読んでみよう」と思う本が何冊も発見できました。いただいてよかった。これも取材の役得ですね。これを、100周年記念のサービスで作ってしまうのだから、有隣堂という会社もたいしたものだ、と思いました。

恵比寿駅のすぐ真上、便利でお洒落で売り場がきらきらしています。書店のお奨めは大きく積まれ、目立つように押し出されていて、活気に満ちています。東京在住なら一度は覗いてみたい素敵な書店です。

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NO32 紀伊國屋書店新宿本店(東京都新宿区)

Img_0620_2 さて、東京営業。一軒目は紀伊國屋書店新宿本店。ここは個人的にもよく利用するお店でもある。新宿で誰かと待ち合わせをするときには、ここを指定することにしているから。便利だし、相手もここならたいてい知っているし。ついでに新刊チェックもできるからだ。ここの品揃えを見れば、今何が売れているかがだいたいわかる。ことに店の前にあるワゴンにはその時の旬の旬が並んでいる。ここに置かれることはステイタスだし、そのために各版元の営業マンも凌ぎを削っているという話だ。
そんなわけで、普通でいえば営業に行くには、ここが東京中でもっとも敷居が高いお店になるだろう。老舗紀伊國屋書店の本丸、八重洲ブックセンターができるまでは日本一の売り場面積を誇り(その後、店内改装をして1位の座を奪回するも、池袋のジュンク堂の進出で王座を明け渡す)、売り上げ的にも全国トップかそれに近い業績を挙げ続けているのは間違いない。だから緊張してもおかしくはないのだが、今回に限って言えばそうでもない。なぜなら編集者経由でちゃんとアポが取れているから。紹介があるということは、ほんとに心強いものですよ。それに、実はここは「辞めない理由」の時に営業に伺ったことがあり、今回、お相手してくださる今井麻夕美さんにもその時、お目に掛かっている。なので、全然気が楽でした。で、その取材のために、今井さんはわざわざ9階の会議室に案内してくださいました。ありがとうございます。

Img_0613_2 1.今井さんが担当されている1階の売り場の特徴は?
こちらは文芸書と新刊書の売り場なんですが、「あそこに来ていただければ売れてる本はある」というようにしたいと心掛けています。
 それから紀伊國屋ビルの1階にあるということで窓口的な役割も果たしており、文芸書に限らず問い合わせがすごく多いです。「紀伊國屋だからあるんじゃないか」と思っていただいているようで、ほんとにいろんな問い合わせがあります。話題のバロメーター的なところがありますよ。去年の9月に発売された「さらば雑司が谷」と言う本の問い合わせが、2月になってから何度もあったので気になって調べると、ラジオで水道橋博士が話題にしていたんですね。問い合わせの多いものは、1階にその本を並べます。そうすると反応はいいですよ。
Img_0615_2 2.今まで仕掛けたなかで、印象に残る作品は?
自分がやったものでは中田永一さんの「百瀬、こっちを向いて。」です。これはあるミステリ作家が別名義で書いたものなんですけど、そういうことを別にしても、すごくクオリティの高い恋愛小説だと思いました。だけどこの本、カバーも真っ白だし、最初は帯も白かったので、お客さまにも取っ掛かりが少ないと思ったんです。それでお客様の背中を押しして差し上げられるように、POPを付けて2面で展開したところ、ほかの店舗が30~40冊くらいのところを260冊くらい売ることができました。こちらの本に対する愛情が透けて見えると、お客様の目につきやすいんですね。嬉しかったです。
3.接客で印象に残ることは?
こちらのお店は新しいものを面白がってくださるお客様が多いんですね。常連の方も多いですし、1日1冊買っていかれる方もいる。作家の方がお客様としていらっしゃることもありImg_0616 ます。桜庭一樹さんも以前は毎日のようにいらしていました。そういう方たちに棚を見られるとなると、それなりの棚でないと、と身の引き締まる思いです。
紀伊國屋ということで恵まれている部分は多いのですが、一方で「紀伊國屋なのに」と言われないように、というプレッシャーもありますね。
4.印象に残る営業マンは?
やはり本の雑誌の杉江さんですね。月に2回くらいいらしていろんな本の話をしてくださいます。それから、新潮社の方とは、他社の本を含め、いろいろお話をさせていただいています。大手の方でも、自社以外のいろんな本も読んでいらっしゃるので、刺激になりますね。だけど、一番、印象に残っているのは、私がサブカルを担当していた時にいらしていた太田出版(現在はメディアファクトリー)の長さんです。サブカルは混沌としているというか、文芸よりも並べ方が難しい。だけど長さんは「この隣にこの本を置くのはすごくいいと思います」とおっしゃってくださいました。まだ書店員歴が浅かったので、営業の方のそういう言葉は自信になりました。
Img_0614_2 5.今井さんが書店員になったきっかけは?
もともと本が好きでもあったのですが、就職を考える頃が書店員ブームの先駆けみたいな時代で、面白そうな仕事だな、と思ったんです。それから、ちょうどその頃、佐藤多佳子さんの「黄色い目の魚」という本がブックレビューで紹介されていたので読んでみたんです。それまで佐藤さんという作家を知らなかったんですが、読んでみると面白い。それで、埋もれている本を発掘することも面白いな、書店員になればそれができるんじゃないか、と思ったこともきっかけになりました。
6.これからやってみたいことは?
新刊書を売るのも大事なのですが、既刊も大事にしていきたい。最近、平凡社のコロナブックスの「作家の酒」と言う本がすごくいい内容だったので、そこに出てくる作家さん、山口瞳とか井伏鱒二、小津安二郎、それに吉田健一さんといった方の既刊を並べてみたら反応があったんです。やっぱり長く残っている、年月に耐えてきた本というのは価値があると思いますし、大事に扱いたい。お客様には出会った時が新刊になるわけですから、そういう本を見つけて売って行きたいと思います。

Img_0617_2 紀伊國屋書店といえば仕入れ力もおそらく日本一。売れている新刊が大量に入荷されるし、それを売る力もある。ことに、紀伊國屋チェーンのアンテナショップ的な役割を担う本店の1階は、ここで日本一売ったという本も少なからずあるはずだ。棚差しの本よりも平台の新刊書の占める割合が圧倒的に高く、売れる作品をどれだけ展開していくか、坪効率をどれだけ高めるかが書店員の使命のはずだ。だが、それだけだと駅のキオスクにあるような書店と大差ないはずだが、それに終わらないのがこの店の面白いところ。ちょうど訪問したときは手帳フェアで店の真ん中のフェア台が占領されていたのだが、いつもはそこでキノベスという紀伊國屋書店員の選ぶベスト本を紹介したり、各書店員の推薦本を置いてみたりと、紀伊國屋ならではの懐の深さを感じられるようなフェアが組まれている。
Img_0618_2 それに、実のところベストセラーを置いている棚を見ても、これは書店員が好きで推しているのか、売れているから置いてあるのかが、なんとなく伝わってくるのだ。それはPOPの付け方もそうだし、本の置き方についても「これは目立たせたいからここに置いているな」ということがわかりやすい。どこの書店でもその傾向はあるが、よく行くからなのか、それとも書 店員の好みと私の好みが重なるせいなのか、この店はそれが顕著な気がする。というか、仕入れに困らないこのお店が、なんでわざわざここにこれを置くの、というところからこちらが深読みしてしまうのかもしれないが。まあ、それが好ましいので、ついこの店に足を向けてしまう。目と鼻の先に日本一の売り場面積のお店ができても、売り上げにさほど影響がなかった、というのは私と似たような思いでここを見ているお客さんも多いということじゃないだろうか。
そういう店の個性は、やっぱり書店員の個性から来るものだろう。そんな大書店の一番売れる場所にいて、今井さんの姿勢はいたってシンプル、かつ謙虚。「新刊が売れるのは仕入れの力ですし、紀伊國屋だから恵まれていると思います」といい、やりたいことは「既刊の掘り起こし」だという。一番印象に残っている仕掛けが「百瀬、こっちを向いて。」という知る人ぞ知る、というべきタイプの本だったのも、正直意外でした。もっと売れ線の本とか、賞を獲ったような本の名前が出てくるのか、と思っていましたから。こういう今井さんやほかの書店員さんの個性が、この売り場をただのベストセラー置き場にしていないんだな、と思いました。
ところで、今井さんが日本一売ったであろう「百瀬、こっちを向いて。」の中田さんは実は私がよく知っている作家だったりする(なにせ、後に奥さんになる女性を引き合わせたのは私ですから)。ミステリ系の作家さんで私が知っているのはほんの数人(4,5人)だけど、その中の一人の名前が出てしまうのが不思議だな。なんか繋がっているな、とここでも思いました。

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No31.ときわ書房本店 千葉県船橋市

Img_0582_2 ときわ書房の宇田川さんは雲の上の上の人、という正文館の清水さんの言葉が、正直プレッシャーになっておりました。お会いしたことはないけど、野性的な人だと清水さんは想像しておられるようで。どちらにしろ、業界で有名な方であるのは確からしい。事前情報はそれだけ。それで、そんな有名人に会いに行くというのも、失礼な話なのだが。

Img_0589 で、店内を一歩入って、素人の私もすぐわかりました。この店のすごいところ。
プッシュしてある本の並べ方のすごいこと。入ってすぐのところに米澤穂伸さんの「ボトルネック」がタワーのように2列になって。いったい何冊積んであるんだろう。70冊?100冊?
一方で面出し。吉田修一さんの「悪人」の上下巻が、それぞれ14面出し(ただしこれは、ほかの新刊が入るまでの暫定的なスペース取りだとあとで説Img_0610 明された)。
高く積み上げるものと、平で見せるもの。この対比の美しさ。こういう書店はちょっと見たことがない。
それに、POPの大きさ。A3とかありそうな巨大なPOPがでかでかと飾ってあったりする。「うちはこれ、押してまっせ」というのがひと目でわかる。それも、スペースにゆとりのある大型書店では決してない。ワンフロア40坪弱の店内でその飾りつけなのだ。
文庫の並べ方もすごい。入ってすぐの壁面全部が文庫なんだけど、これが見事に偏ってい る。手前から国内ミステリ、国内文芸、時代、海外文学いう流れ。あ、最後の方には早川の青背も並んでいました。潔く男臭い品揃えです。
んでもって、天井付近にはまるで有名ラーメン店のように、ずらりと有名作家の色紙が並んでいる。それ見るだけでも、すげーよ。
Img_0587_2 で、本の並びがすごいだけじゃなくて、建物が味があるというか、なんとなく懐かしい雰囲気というか。古い、というだけじゃないんですよ。これは後で宇田川さんに聞いてわかったんですけど、この店の棚とか平台は手作りだったりするんですね。階段の踊り場の展示棚なんて明らかに日曜大工っぽかったり。なので、温かみがある。そんなわけで、空間自体が独自の雰囲気を醸し出しているんですよ。

で、問題の宇田川さんはと言えば、ぜんぜん気さくな方でした。さすが接客業というか、会った途端に打ち解けてお話してくださる。私のブログを読んでいてくださったそうなので、Img_0584_2 親近感を持ってくださっていたのか。よく日に焼けていらっしゃるので、野生的と言えばそうかもしれません>正文館の清水さん。
あ、宇田川さんの話に入る前に、見て欲しいものがこれ。事務所の応接セットの横に張ってあったお言葉。この元ネタはわかります? 海軍っぽいけど違います。福井晴敏さんの小説「終戦のローレライ」から取ったのだそうです。店長が気に入って、若い子に書かせたのだそうで。なんかそういうところも、この店らしいなあ。

Img_0586 1.このお店の特徴は?
この辺で、もっともエンタテインメントに偏ったお店ですね。1階がミステリを中心に、SFや時代小説、サブカル、ビジネス書も少し。2階はコミックとラノベを置いています(ちなみに3階はレンタルビデオ、4階が事務所になっている)。
うちは駅の北口のヨーカドーの中に支店があるので、学習参考書とかはそちらに任せています。
ほかに特徴としては、営業時間が9時から24時までと、遅くまで営業しているということでしょうか。
2.文庫の棚の並びも個性的ですね。
以前は、作家別のあいうえお順に並んでいたんです。でも2002年に茶木則雄が店長になった時、ジャンルで分けてしまおうということで、現在の形になりました。男性向けの品揃えで、恋愛ものなんかは置いてありませんね。
現在はジャンルごとに、作家の50音順に並べていますけれど、たとえば開高健が1冊だけ創元推理文庫で「片隅の迷路」というミステリを出しているんですね。それでミステリの棚に入れてしまったり、「八墓村」の隣に関連書として「津山三十人殺し」を置いたりとかしています。
3.いままで仕掛けたなかで一番印象に残っているものは?
そうですね。いろいろ仕掛けてみようと思うきっかけになった角川文庫の沢木冬吾さんの「償いの椅子」ですね。年間で1200~1300冊売れました。うちとしては爆発的な売れ行きで、手ごたえを感じました。これがきっかけで、年に1回は1000冊越えを狙おうと思うようになつたんです(その目標はその後、毎年達成できているそうだ)。
内容的には車椅子の復讐者が主人公のハードボイルドなんですけど、普段はその手のものを好まない女性のお客様も率先して手を伸ばしてくださった。それが嬉しかったし、励みにもなった。これが売れて自分も嬉しいし、出版社も著者も喜んでくれる。みんないっしょに幸せになれてよかったな、と。
そのときは、柱の前のスペースで8面とか10面とかで展開していました。今もそうですけど、字が苦手なので、エクセルを使ってパネル立てしたり。そうやって「お客様いかがでしょうか」と目立たせるんです。
Img_0594 パネルで心掛けていることは、売れ数を実数で出す、ということですね。2週間で100冊越えたとか、1ヶ月で500冊越えた、というように。ここは駅前の店なので、お客さんもゆっくり選んではいられる方ばかりではない。そうしたお客様にアピールするのに、数に勝るものはない、と思うんです。

高く積んでいるのは、実は広げて見せるスペースが取れなかったからなんです。だったら、思い切り積んでしまえ。それで目立たせよう、と。で、やってみたらいけた。女子高生のお客様が「何これ~」と言ったりしているのを聞くと、やったと思います。
4.一時期に仕掛けている作品はどれくらいありますか。
できれば各社一冊ずつはやりたいんですけど、スペースの関係でそうもいかなくて、そうですね、10冊くらいかな。あまり多いと面数も取りにくいですし。
5.印象に残る営業マンは?
Img_0612 やっぱり「償いの椅子」の時の角川書店(当時)の逸見正和さんですね。これ自体が逸見さんのお手柄だと思うんです。もともと逸見さんとはいろいろ小説の話をしていたのですが、逸見さんの方から「この作家、知っていますか」という話が出たんです。寡作な方ですけど、今度うちから出るので仕掛けませんか、という話になって読んでみたら面白かった。車椅子で復讐者というのがかっこいいと思ったし。それでやってみて、ああいう結果に繋がったんです。
ほかにも新潮社はなぜか毎回新人の女性が配属されるんですが、みなさん熱心ですね。いま新潮社とうちのチェーンがタイアップした「犯罪ノンフィクションフェア」も、新潮社の竹内さんという女性担当の方がいたからできるようになったんです。
6.印象に残るお客様は?
ある年配のご婦人なんですけど、井上靖の「蒼き狼」をお買い上げになった時「いいわね、こんないい作品がこんなに安く読めるんだから」とおっしゃったんです。それを聞いてすごくいいな、と思いました。我々書店員は本好きではあるんだけど、毎日毎日仕事で本に触っていると、本が物に思えてきてしまうんですね。ことに、文庫とか単行本の発売日が重なって、惑星直列的に入荷されると「いい加減にしてくれよ」と思ったりする。だけど、そのご婦人の言葉を聞いて、我々はそういうものを扱っているんだな、ということを思い出しました。
7.宇田川さんが書店員になったきっかけは?
Img_0606 もともと本と映画が同じくらい好きで、どっちかに関わる職業につきたかった。出版社に行かなかったのは、書店の方が多くの本に触れると思ったからですね。発売する本を全部手に取れるわけだから、出版社にいるより見られる量が圧倒的に多い。それで本屋だったら神田の三省堂本店でしか働きたくなかった。だけどそこを最終面接で落とされてしまったんです。それで就職が決まらなくて、当時バイトしていた東宝の劇場の方がそれを知って「だったらうちImg_0607 で働かないか?」と言ってくださったんです。だけど、場所は八戸だという。それでどうしようかと迷っていた時に、ときわ書房の募集を知ったんです。それで、もう一度だけ本屋を受けてみようと思って応募したら、受かってしまった。
8.よく行く書店は?
神田の三省堂はもちろんですけど、吉祥寺に行くと「ブックス・ルーエ」に寄ります。こちら、文芸担当の花本さんこがだわりの棚作りをしていますし、独自のフリーペーパーを発行するなどして独自に頑張っているお店です。
あとはやはり神田の東京堂さんですね。ポップもパネルも一切置かないのに、並んでいるだけで推しているものがわかる。それが光っている。かっこいいな、と思います。
本って、内容とかカバーとかいろんな人たちが考えて考えて作っているものなのに、それが売り場に来たとき、自分たちがヘンに並べて汚しちゃってるんじゃないか。売り場で魅力を損ねているんじゃないか、と思うときがあるんです。万引き犯とか捕まえると、「いいじゃん、本の一冊くらい」なんて開き直られることがあって、本って安く見られているなあ、と思ったりもして。
だけど、東京堂さんは本に威厳があって、尊重されている。その価値のとおりに置かれていると思います。
9.これからやってみたいことは?
Img_0600 短期スパンでやりたいことは、海外小説の面白さをもっと知らせたいということですね。翻訳物の状況を見ていると、このままじゃいかん、と思っています。早急に手を打たねば。
長期スパンとしては、僕の場合、やり続けることがやりたいことですね。売れているものをただ売っても、書店員の印象がない。もっと売れればいいのにというものを売ったり、何か発見がないと書店員の意味はない。この世の流行とは別のところで「こういうものもあるんだ」というのを、どれだけ紹介できるかだ、と思うんです。古い本でも、それを知った時がお客さんにとっては新刊ですから。
今は状況が厳しいので、何かをしようとせずに、その時々で売れているものをただ売っていこうという人も多い。あきらめようとする要因はいくらでもあります。だけど、そうならないようにいろんな書店の人と協力することも大事ですし、書店員以外の出版業界の人たちとも会っていかなければ、と思っています。

Img_0596 宇田川さんのお話が面白いので、ついつい長居して2時間話しこんでしまいました。お忙しいところ、申し訳ありませんでした。最後に宇田川さんの解説つきで店内を見せてもらいました。あらためて展示を見ると、単行本の真ん中に小さな黒板があって、有川浩さんのサインがあったり(「キケン」という本の内容に合わせて、版元経由で有川さん本人にサインしてもらったのだそう)なんて洒落た仕掛けもある。版元との繋がりが深い宇田川さんならでは、だといえるが、版元を乗せるアイデアを提供できたことが大きい。
ふと思い立って宇田川さんに、「このお店と同じようなことは、ほかのお店でもできるんでしょうか」と聞いてみた。船橋という大きな街の駅前店というのは確かに好条件だが、それ以外は特別売り場が広いわけではない(1,2階で80坪弱)。大きなチェーン店というわけでもない。条件だけなら、似たようなお店はほかにもあるだろう。
「できると思いますよ。独自の帯を作って巻くとか、POPを作るとか、そんな手間ではないですし。ジャンルを絞ると、しばらくは必ず売り上げは落ちます。ただ、それをやり続けることですね。やり続ければ、結果もついてくると思います」
でも、これだけの本を集めることが、普通のお店には難しいのではと私が言ったところ、「新刊はともかく、既刊だったらそんなに難しいことではないですよ」と宇田川さん。だけど、普通の書店は、この新刊の配本の多さが、何よりうらやましいのだろうと思う。それがあってこそ、既刊の掘り起こしが生きてくるのもまた事実だ。
だが、この配本数も最初からこうだったわけではない。いろんな努力や成功の積み重ねがあって、この数字なのだ。たとえば宇田川さん、カリスマ書店員としても有名で、いろんな雑誌などにも紹介されることが多い。だが、そうやって顔を出すのは「そちらの方が仕事がやりやすくなるから」だという。名前を覚えてもらうことで、たとえば「これだけ本を入れてください」というようなお願いも聞いてもらいやすくなるのだ、という。なるほどなあ、と思った。大手に比べて仕入れの力に劣る中堅書店だからこそ、書店員自ら宣伝マンの役割を担う必要もある。それもあってのこの平台の充実なのだ。やり続けてきたことの結果がこれなのだ。

カリスマ書店員といわれることは、本人たちにとって決して嬉しいことではない、という事は重々承知している。だが、やっぱり言われるだけのことはある、と宇田川さんと話をして思った。
「こんな時代だから、あきらめようとする要因はいくらでもある」ことがわかっていても、あきらめないその清々しさ。熱意。そして楽しそうな仕事ぶり。
仕事って楽しいものだよね、と宇田川さんと話していて思う。
そう、楽しいから頑張れるし、いろんな工夫ができるし、それが結果へと繋がる。幸せな連鎖。それを作り出せるからこそ、宇田川さんはカリスマ書店員なのだ、と納得した。

行って良かった、ときわ書房本店。取材した私も、元気をもらってこの店を後にした。

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No30.旭屋船橋店(千葉県船橋市)

さて、書店営業を再開。とは言うものの、原稿が終わっておらず、まだ気もそぞろ。それで千葉のこちらからゆるゆると始めることにする。
というのは、こちら、旭屋の安田さんは前作「雪白の月」でも帯に推薦コピーを書いていただいているし、毎年、大森望夫妻が主催する「江東区花火大会観戦&焼肉ツアー」でもごいっしょする。数少ない私の書店員の知り合いなのである。というわけで、こちらは全然気楽なのであった。

Img_0576 船橋旭屋。東武デパートの中にある220坪のお店で、お客さんは多い。レジを見ていたら、平日の昼間なのに、6人レジに立っても行列がしばらく途切れない、ということもありました。安田さんからも、ここ半年で急に忙しくなったという話を伺っていたので、ちょっと申し訳ないと思いつつ、レジを出ていただいて棚の前で立ち話をした。
1.仕事で気をつけていることは?
場所柄、ご年配のお客様が多いので、作家で言えば渡辺淳一さん、五木寛之さん、佐藤愛子さん、曽野綾子さんといった方々のものですとか、健康関係などはよく動きますね。あと歴史ものとか。その辺は切らさないようにしています。以前は、春の進学シーズンにお孫Img_0581 さんのために辞書をお買い上げいただくことも多かったのですけど、電子辞書になってからは動かなくなりました。
2.接客で気をつけていることは?
声を明るく、ということです。明るくはきはき、というのは、声で印象づけられますから。それから、もともとがせっかちなので、ついかちゃかちゃやってしまうので、そうならないようにということですね。
3.印象に残るお客様は?
ご年配の女性の方で、すごく小説をお好きな方がいらっしゃって、文芸担当としてよくお話させていただくようになりました。私のことを気に入ってくださったのか「要らない着物を差しImg_0574 上げたいから、いらっしゃいよ」と言われて、お宅にお邪魔したり。だけど、濃い目のSFをご紹介したら、その後はいらっしゃらなくなってしまって。紹介した本が悪かったのか、それともお体の具合でもお悪いのか、と気になっています。
そうそう、書道雑誌をお買い上げいただいていた伊藤博文のような立派なお髭の方も、最近見ないですね。どうなさっていらっしゃるのかな。ご年配の方が突然、いらっしゃらなくなると、気になります。
4.印象に残る営業マンは?
もうお辞めになった方なのですが、花神社の営業の方ですね。俳句の本を出されている出版社なのですが、他社の本でも「これは売れる」「これは売れない」「この人は来るよ」と、全部教えてくださるんです。自社のものでも「これは動かないから返した方がいい」とまでおっしゃってくれたり。そういう方は信用できますね。
5.よくいく書店は?
丸善の津田沼店は週に1度、純粋にお客として行っています。それから、ときわ書房本店Img_0579 に行って「きー、くやしい」と思って帰ってきたり。こんなに配本がある、とか、サイン本をこんなに並べているとか、ときわさんは見ていると悔しいですよ。
6.書店員になろうと思ったきっかけは?
純粋に本が好き、というのもありますけど、就職の時が氷河期で、ここしか受からなかった。それで始めたら嵌ってしまってずぶずぶと(笑)。
7.書店員になってよかったと思うことは?
新刊に触れるということ。これから出る本がわかるということです。
それに、売るのも純粋に楽しい。多分、私は販売の仕事だったら何をやっていても楽しいんじゃないか、と思うのですけど。お客様とお話するのも楽しいですし。
だけど、書店は奥が深い。手を掛ければいくらでも掛けられるし。本屋の棚には、無限の可能性があると思います。
8.これからやってみたいことは?
うーん、やってみたいことというより、以前と同じような仕事がしたい。とにかく、この半年で急激に忙しさが増して、なかなか棚に手を掛けられないのが悔しいです。

Img_0577 発見したことがひとつ。冲方丁さんの「天地明察」のハードカバーを、SFの平台のど真ん中に発見(時代小説のところにも置いてはありましたが)。普通は一般文芸の方に置いてあるものだが、安田さんはさらりと一言「冲方さんはSFの人ですから」。
うん、さすが安田さんはSF者だ。だったら私は冲方くんはラノベの人だと言っちゃうぞ(冲方丁さんは第1回スニーカー大賞金賞受賞でデビュー)。そんな具合に、こだわりの見え隠れするSFの棚のこととかもっと伺いたかったが、お話を聞いている間にも、「レジ応援、お願いします」というベルの合図がたびたび鳴る。ほんとにこちらはお忙しそうだ。なので、未練を残しつつ、早々に退散しました。まあ、この続きは、お花見の時か、花火大会(8月ですけど)にでも個人的に。

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