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はじめに(続き)

書店営業100軒。
出版業界を知っている人ほど冷ややかな目で見るだろう、と思う。
「いまどきは、書店よりもネット書店の力の方が大きい」
「営業しても、本が売れないんだから、やっても無駄だ」
「なにしろ、取次ぎも書店もパンク状態で、末端まで本が行き渡らないんだから、営業しても仕方ないんじゃないの」
「いまどきは勝ち組と負け組がはっきりしている。売れない本は何をやってもだめ」

私自身が長く出版社に勤めていたから、そういう否定的な意見も想像がつく。
だけど、だから嫌なんだ。
やる前からあきらめている。
ネット書店や宣伝力(資本力)には太刀打ちできない。
はなっから、決めて掛かっている。

でも、本ってそういうものじゃないはずだ。
本なんて、たかだか3000部でもちゃんと売れば利益が出るもので、ヒットしたといっても、10万、20万の単位でしかない。
それって、テレビの視聴率に直せば0.1%0.2%とか、誤差の範囲でしかない。出版なんて商売はマスではないんだよ。出版業界のヒットなんて、よほどのことがないと世間一般の人には知られないんだから。

本を読むという行為自体がすごく個人的な行動で、読み方もひとそれぞれで。だけど、だからこそ読書の楽しみはその人にとって大きな体験となりうる可能性も持っていて。そんな曖昧なものは、マスにはなりようがない。
だからメガヒットなんて狙わなくてもいい。小さい商売をこつこつ重ねていけば利益を生み出す、そういうものだったはずだ。
ほんのちょっとした工夫や努力によって、利益が変わる、そういう商売だったはずだ。

その工夫や努力は、たとえば編集者の発案だったり、営業担当の人の頑張りだったり、宣伝マンの企画性に出てくるかもしれない。だが、それがいくらいいものだったとしても、書店という現場で展開してもらえなければ、形にはならない。それを取り次ぎの人が仲介してくれなければ、身動きが取れない。
いろんな人のちょっとした努力で形になるのが、出版という商売だったはずだ。
人の努力や能力、繋がりが目に見える商売だったはずだ。

私個人は、それを確かめたいと思う。
そのための手段が100軒書店を周ること、というのが正しいのかどうかわからないが、実際に書店を周ってみれば、ネットでただ検索するだけではわからないことが見えてくるのだと思う。版元や取次ぎにお任せしていただけでは気づかない、現場の声が伝わってくると思う。
効率なんて、くそくらえ、だ。

書店営業は作家のやるべきことではない、というのはおそらく正論だ。餅は餅屋。本来はプロの営業に任せるべきだと思う。私自身がプロの営業マンの代わりになれるなんてうぬぼれは持っていない。
だが、私はものを書く立場にある。
ものを書く人間は、積極的にものを見るべきだ。
見て、感じたこと、思ったことを発表していくべきだ。
今、出版業界が大きく変わりつつある。電子書籍元年になるだろうとか、いよいよ出版社が淘汰される時代になったとか言われている。
ネットでも、そういう議論がしきりだ。
だけど、それが嫌だ。みんなただ、憶測だけでものをいい、否定論や旧体制への批判ばかりがまかり通る。

もちろん、私もいままでの出版業界のあり方に悪いところが多々あることは知っている。内部にいたからこそ、一般の人より知っているだろう。だけど、それ以上によいところがあるから、今まで続いてきたのだと信じたい。
そして、それを自分の目で確かめたい。

ばかばかしい、ちっぽけな反骨精神から、そう思っている。
で、書店営業100店舗。
できれば、地方を多く回りたい。営業する対象が、名古屋を舞台にしたスケート小説だし、自分の出身地でもあるから、おそらく名古屋中心の営業になるのは間違いない。
名古屋を拠点に岐阜や金沢、三重も周りたいし、関西方面や広島、最終的には福岡にも足を伸ばしたい。あと、仙台には必ず行こう。
名古屋は地元だから、金沢はいとこが住んでいるから、広島は担当編集の出身地だから、福岡には知り合いの書店員がいるから。仙台はスケートの北の中心地だから。
周る理由はきわめて個人的だ。

さらに、訪れる書店も、規模や売り上げはあまり関係ないものになるだろう。基本的には、紹介を重視したい。だから、版元の実業之日本社の営業さんから紹介があればそれが第一だが、私自身の友達や、取材した書店員さんからの紹介があれば大歓迎だ。あるいは、このブログを読んで、「うちにも来てください」という奇特な書店があれば、可能な限り行こう(旅費と日程の都合もあるので、絶対可能かどうか、かわからないが)
だから、結果的に、
「えっ、京都に行ったのに、あの有名書店員に会わなかったの?」
「広島のあの大書店を外すなんて、論外でしょ」
ということになるかもしれない。
でも、それでいい。この取材に関しては、版元が立ち会わないものは基本的に自腹だ。このブログをまとめて、後々本にしよう、なんてせこいことも考えていない。

だから、自分の気持ち次第で動きたい。
何よりも、縁を大事にしたい。
私が見たいのは、何よりも人、なのだから。
100軒、周り終わったあと、どんなことを感じるか、自分でもわからない。
ただ、徒労だった、と思うかもしれない。
それなら、それもいい。
わからないから、やる価値がある。
営業という口実のもとに、100人以上の書店員さんたちとこれから出会えることを、今はただ楽しみにしている。

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